盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

文字の大きさ
45 / 84
ローナ 13歳編

悪役令嬢

しおりを挟む


 私たちの入場後に公爵家が続き、今夜の来賓が全員揃った。
 ザワザワとにわかに騒がしくなってきた会場は、主催者である王家の登場を今か今かと待ち侘びているからだろう。

 しばらくこちらに向いていた関心の全てが入場口に注がれるようになったのは有り難いが、そこから現れる人々にはため息が出そうになる。


 いっそ、あちらの方が体調不良とかで欠席だったら良かったのに。
 残念ながら、そのような知らせは受けていない。


「いいか、ローナ。何か仕掛けられる前に挨拶は簡単にすませてさっさと立ち去る、だ。陛下もこちらの意を汲んでくださるだろう」


 いつになく緊張しているのか、兄さんが固い声でそう囁いたのにすかさず返事を返す。

 仕事の都合で何度か国王陛下にはお会いしている筈だけれど、やっぱり最高主導者相手は慣れなくて緊張するのかしら。


「……陛下にお会いするよりも緊張するとは。今から将来が楽しみなお方だ」


 そっち殿下かい。


 あっちでヒソヒソ、こっちでソワソワしていた会場が、水を打ったように突然静まり返った。

 それによって音の厳選ができるようになった私の耳に、入場口付近で忙しなく働く足音が聞こえる。


 いよいよ来る、ということらしい。


 心なしか固まった自分の体をほぐすのに深呼吸をして、従者が高らかに王家の登場を告げたのを腹を括って聞き届けたのだった。



    *      *      *



 令嬢たちの王太子殿下に向ける黄色い声援を背後に、私と兄さんは王家が座る上座のすぐ側に控えていた。


「グレンツェント公爵家が今行った。次だ」
「はい」


 身分の高い順に王家への挨拶に伺うのだが、同じ爵位を賜る中でも、暗黙の了解で上下関係がある。


 我々リーヴェ家は"侯爵位の中で"最も優位な立場にある……らしい。


 基本的に引きこもりの私には実感の無い話だがーー貴族院会議の際の席は公爵家の次だし、武功によるものではない勲章を承ったりしている。

 あとは私が王太子殿下の婚約者という立場におさまっていたのも、その立場所以だったのだとか。


 そんな訳で、公爵家の後に挨拶に向かおうとすぐそばで控えているのである。
 そうでもなければこんな所近づかない。怖い。


 グレンツェント公爵らしき声の主が締めに入ったのが聞こえる。
 ジワリと手のひらに滲んだ冷や汗を握りしめてから、兄さんが差し出してくれた手に自分の手を重ねた。


 ドレスの影に隠れて足元に出っ張りが無いかと探りながらゆっくりと歩く私に合わせて、兄さんもゆっくりと歩いてくれる。


「そろそろ階段だ。気をつけなさい」


 兄さんの報告をもとに足の先が出っ張りに当たったら膝を曲げようと、今まで以上に集中して階段らしきものを探る。

 ツンと歩きやすさ重視のヒールの低い黄色のパンプスの先に、障壁のようなものが当たった。
 どうやら階段に着いたらしい。


 よしと意気込み、高さを見誤って力加減を間違えないように慎重に膝を曲げようとしてーードンッと後ろから突き飛ばすように何かがぶつかってきた。


「ローナッ」


 慌てて兄が腰に手を回して支えてくれたので大事にはならなかったが、あわや大勢の前で盛大に転んで恥を晒すところであった。

 王家が座す上座付近でウロウロと歩き回る者などいるはずがないので、ここが人混みだからぶつかったわけではない。


 つまり今のは、わざと・・・だ。


 このような公衆の面前で、しかも私だけでなく兄さんの邪魔さえしたのだ。
 私個人に対して喧嘩を売るならともかく、兄さんをも巻き込んだということはリーヴェ家に対する失礼にあたる。


 ……すごーく、嫌な予感がする。
 こういう事をしそうな人に、心当たりがある。

 私に対して敵意剥き出しな感じが、"まさに"といったところだろうか。


 腰を支えてくれていた事に礼を言って、バランスを整えた私は改めて兄の手をとる。

 兄はぶつかってきた相手が誰だったのかを確認したのだろう。珍しいことに、怒りを滲ませた声で私だけに届くようにその名を呟いた。



「ベーゼヴィヒト……!」



 ああ、やっぱりか。
 嫌な予感的中に、ついにため息が漏れ出た。



 ベーゼヴィヒト。


 その家は、なぜかリーヴェ家に敵対してくる同爵位の貴族の名家でありーー『シンデレラの恋 ~真実の愛を求めて~』の"悪役令嬢"の家名である。


 『シンデレラの恋 ~真実の愛を求めて~』には"ラスボス令嬢"であるローナの他に、目が見えないテイのローナの代わりに表立ってヒロインを虐め抜く"悪役令嬢"がいた。


 彼女の名は、カミラ・ベーゼヴィヒト。


 燃え盛るように赤いドリル巻きされた髪に、強い自我を反映したかのような星屑を鏤めた灰色の釣り上がった瞳の、派手な色合いに負けない派手な顔立ちをした、まさに悪役顔の美少女。

 悪人面ではなく、"悪役"顔である。犯罪を犯してそうな顔立ちではなく、意地が悪そうな顔立ちである。


 そして何よりも重要なのはーーカミラはシナリオにおいてローナの婚約破棄後に、王太子殿下の婚約者のお鉢が回ってきた令嬢である。

 なぜカミラが選ばれたのかというと、彼女の母親の強い推薦というのも理由の一つだったが、何よりもカミラ自身が王太子殿下に心底惚れていたからだ。


 最有力とされていたリーヴェ家に引かざるを得ない事情が出来て、教養も立場も文句なしの彼女が婚約者の立場にねじ込めたのは当然だった。


 そう、"だった"。


 本来ならば今の段階で彼女は王太子殿下の婚約者のはずだった。

 かの人が「ローナ以外と~」の発言さえしなければ。


 彼女が私にぶつかってきた理由ーーそれは「親の敵であるリーヴェ家」と、「好きな人と婚約するのに邪魔な女」だからであろう。
 ……胃が痛い。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。 お嬢様の悩みは…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴッドハンドで世界を変えますよ? ********************** 転生侍女シリーズ第三弾。 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』 の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

悪役令嬢に転生したようですが、前世の記憶が戻り意識がはっきりしたのでセオリー通りに行こうと思います

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したのでとりあえずセオリー通り悪役ルートは回避する方向で。あとはなるようになれ、なお話。 ご都合主義の書きたいところだけ書き殴ったやつ。 小説家になろう様にも投稿しています。

悪役令嬢に転生したけど、知らぬ間にバッドエンド回避してました

神村結美
恋愛
クローデット・アルトー公爵令嬢は、お菓子が大好きで、他の令嬢達のように宝石やドレスに興味はない。 5歳の第一王子の婚約者選定のお茶会に参加した時も目的は王子ではなく、お菓子だった。そんな彼女は肌荒れや体型から人々に醜いと思われていた。 お茶会後に、第一王子の婚約者が侯爵令嬢が決まり、クローデットは幼馴染のエルネスト・ジュリオ公爵子息との婚約が決まる。 その後、クローデットは体調を崩して寝込み、目覚めた時には前世の記憶を思い出し、前世でハマった乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生している事に気づく。 でも、クローデットは第一王子の婚約者ではない。 すでにゲームの設定とは違う状況である。それならゲームの事は気にしなくても大丈夫……? 悪役令嬢が気付かない内にバッドエンドを回避していたお話しです。 ※溺れるような描写がありますので、苦手な方はご注意ください。 ※少し設定が緩いところがあるかもしれません。

悪役令嬢はヒロイン(♂)に攻略されてます

みおな
恋愛
 略奪系ゲーム『花盗人の夜』に転生してしまった。  しかも、ヒロインに婚約者を奪われ断罪される悪役令嬢役。  これは円満な婚約解消を目指すしかない!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

処理中です...