盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 13歳編

勘弁してほしい

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 ゲームとして画面越しにカミラを見る分には、いっそ清々しいと思える程に徹底した"悪役"だったので、特にこれといった嫌な印象は、ローナほどでは無かったのだが……。

 二次元ゲーム三次元リアルじゃ受ける印象がまるで違った。
 もっと遠くから、いっそ当事者でなければ面白がれたかもしれないけれど。


 隣で怒りのオーラを放つ兄に苦笑して、そんな事よりも今はもっと気にしなければならない問題があると気持ちを切り替える。

 王家が控える階段上に到着したのは、パンプスの先に段差が当たらなくなったことで気がついた。


「よく来た。リーヴェの至宝の子供たち」
「勿体なきお言葉で御座います、陛下」


 威厳ある中に優しさの滲む声で告げたその人へ、ドレスを摘んで深々と頭を下げる。
 先程までのベーゼヴィヒトへの怒りはどこへやら、兄はいつの間にか外向きの声に切り替えていた。


「このような場に招待いただけました事、妹共々嬉しく思います」
「堅苦しい挨拶は無しだ。私とリーヴェの仲じゃないか。それと……ローナ嬢、久しいな」
「ご無沙汰しております、陛下」


 陛下から話しかけられたのは礼を解いてもいいと言われたのと同義なので、頭を上げ、兄さんも浮かべているだろう外向きの微笑みを携える。


「おお、ますます綺麗になったようだ。いや、なんとも素晴らしい御令嬢になられた。ギュンターが仕切りに自慢するのも理解できる」


 陛下に何話してんだお父様。
 内容が気になるところだが、ここで話題を広げてはこちら側にとって不都合になるだけだ。


 軽い世間話を交えての陛下への大体の挨拶を終えたので、兄は今度は王妃様に標的を変えた。


「妃殿下、先日は母が大変お世話になりました」
「いいのよ。私もクリスティーンとお話しできて良かったわ。またいらしてね、と伝えてくださる?」


 そういえば母も「また会いに行きたい」と言っていた。

 リーヴェ家の面目の為に参加してもらっているお茶会だが、その中で母と王妃様で意気投合して友情を築いたらしい。

 順調に深められていく友情が見え隠れして、最高権力者の一人であるのに二心無い王妃様の様子が可愛らしく思えて笑みが溢れた。


「勿体なきお言葉で御座います。そのように母に伝えましょう」
「よろしくお願いね」


 ……さあ。本番はここからだ。
 心なしか国王夫妻も緊張しているような気がする。


 兄が次に挨拶を交わそうと向いた先はーー当然、王太子殿下である。


「アルブレヒト王太子殿下におかれましてはご健勝の事とお慶び申し上げます」
「ありがとう」


 国王夫妻に対して親しげな態度で話していた兄も、今までの外交で培った経験が功を成して声にこそ変化はないが、言葉遣いがまるで違う。


 久しぶりに聞いた王太子殿下の声は、最後に聞いた声よりも低くなり、男の子らしくなっていた。

 まだまだゲームで聞いていたような身が蕩けるような声ではないが、その片鱗を伺わせる。

 見た目も、記憶にある女の子と見紛う細さではなくなっているのだろうか。
 ちょっとだけ気になる。ちょっとだけ。


「ふふ……そんなに緊張しなくてもいいのに。父上や母上に接するように、僕にも接してくれると嬉しいな。王家とリーヴェ家は切っても切れない仲なのだから」


 隣の兄から「どの口が」と聞こえたような気がした。大丈夫、兄さんは優秀なので口を滑らしたりしない。ただの兄妹特有の以心伝心である。


 王太子殿下の言うように、リーヴェ家はクロイツ王国建国当初から存在する、王家の忠臣として名高い家の一つである。

 だから何もおかしいことは言ってないのだけれど……ね、ほら、リーヴェ家の王太子殿下への認識としては、婚約破棄後も謎にちょっかいかけてくる人だから……。


 ーーなんて、兄ばかり気にしていたのが駄目だったのか。

 王太子殿下が突然、爆弾を投げ込んできたのだ。



「ローナ、久しぶりだね。ずっと会いたかったよ」



 やりやがった!!
 ……おっと、"やりやがった"なんてお下品な言葉遣いは控えなければ。

 でもそう叫びたくもなる。
 婚約破棄してから三年、つまりはその分関係性にも穴が空いたはずなのに。

 それなのにも関わらず、今この人は私のことを「ローナ」と呼んだのだ。


 それが何を意味するのかわからない程鈍感にはなれない。

 聞き耳を立てている会場にいる全員がどよめき始めた。ついでに、カミラの悲鳴も聞こえた。


 しかも「会いたかったよ」の呪いの言葉。
 呪いでいい。呪いでなければ何と言う。

 今までに挨拶を済ませていた他の貴族には形式上の言葉だけを述べていた王太子殿下が、崩れた言葉遣いで、逢瀬を願っていたことを匂わせ……いや直接的に伝えてきた。


 それらから周りが推測する私と王太子殿下の関係とは、『婚約破棄後も"好い仲"の二人』といったところか。


 彼が言った「ずっと」の言葉は恋人同士特有の短いものを誇張する表現で、本当は頻繁に会っていると捉えられてもおかしくない。


 ーー何ということをしてくれたんだ、こんちくしょう。


「殿下、我が妹をファーストネームで呼ぶのは控えていただけませんか。そのように呼ばれてしまいますと、仲を邪推する者が現れますので」


 すかさず兄が遠回しに仲を否定する言葉を紡いだが、王太子殿下はなんて事ないように笑って答えた。


「でもまだローナは誰とも婚約していないんだよね?なら、彼女をファーストネームで呼ぶと怒る"特別な誰か"がいる訳でもないんだから、元婚約者の時の癖で彼女を"ローナ"と呼んだって構わないと思うんだけど」


 誰のせいで"特別な誰か"がいない事になってるんですかねえ~?


 もしも今私の手元に縫い針と糸があったのなら、躊躇いなく白々しいことを吐く口をしっかりと縫い付けてやっていたに違いない。


「……婚約者がいないとはいえ、そういった仲ではない年頃の淑女をファーストネームで呼ぶのはマナーに反する行為です。皆の手本として立つ王族として、次回から気を付けていただきますよう」


 隣に立つ私から不穏な雰囲気を察したのか、兄さんが少し早口で忠告を紡いだ。


「うん、わかった。次から、ね」


 本当に次から気をつけるのかどうかわからない返事を返した王太子殿下に舌を打ちそうになったのを耐えた私は褒められていいと思う。

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