盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 13歳編

侯爵位のさが

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 なかなか諦めないで兄さんに詰め寄っていた子息の一人が、ついに背中に隠れていた私を見つけて声を上げた。

 ……そりゃあね。兄さんの方が私よりずっと背が高くて大きくても、ドレスを含めるとそうはいかないので。


「挨拶が遅れまして、申し訳ございません。皆様ご存知の通りこのような場は初めてですので、少し疲れてしまって。兄の優しさに甘えて休んでおりました」


 兄さんもさすがに隠しきれないと観念して私を囲っていた腕を放したので、誤魔化しの言葉と共にすぐに登場して、外向きの笑みを浮かべた。


 私が姿を現した途端に、ポップコーンが弾んで飛ぶように、さらに大きく勢いを増した声が彼方此方から向けらて、対処が追いつかない。
 誰も彼もが好き勝手に話して、収集がつかなくなりそうだ。


「聞こえていたかもしれませんが、改めて、私はアインファッハのリヒトと申します!」
「はじめまして。リーヴェ家のローナと申します」
「ローナ嬢、貴方の素晴らしい踊りに感銘を受けまして、是非私とも……」
「いいや、次はどうか自分と踊っていただけないでしょうか!」
「ええっと……」


 断りの言葉を述べる前に、他の人が相手の話を遮ってしまって一向に事が進まない。
 同伴者が親である子息はまだ話が通じるかと思いきや、その親が率先して周りを牽制し始めるのだから救いがない。


 優雅ではない行いだが、一種の騒動として悪目立ちしはじめているこれを収める為には、私が動かねばなるまい。兄の話を聞く気はないようだし。

 久方ぶりの喉の使い方に声が裏返ったりしないかと不安はあるが、私は息を吸って、有象無象と化している子息たちに聞こえ渡るような声を発した。


「申し訳ないのですが!私、兄以外とは踊れません。兄のリードあってこその先程の舞踏ですから、皆様が褒めてくださるのは兄あってこそなのです」


 よかった、とりあえず変な声になったりはしなかった。
 それに子息たちも黙って此方を注視しているようだ。視線が嫌と言うほど私に刺さる。

 大声は口を大きく開けねば発せないので、それは下品に映る行為である。
 なので子息がこちらに集中している以上、大声を続ける必要はないと判断し、これから先は普通の音量で諭す様に話を続ける。


「私のような者にも積極的にお声をかけてくださる皆様の心意気を、大変嬉しく思います。ですから……私が兄の手を借りなくても良いようになったら、その時は、また誘っていただければ幸いで御座います」


 適当になして「ごめんなさい」と謝るだけでも良かったが、少し下手に出て相手を持ち上げて、未来の可能性の話をする事で、「今断ったのは貴方が嫌だったからじゃないのよ」を間接的に伝える。

 ざっと聞き分けてみただけでもリーヴェ以上の家柄の子息はいないようだが、それらの家と角が立たないのならば、それだけ良い。


 まあ、実際は兄さんとセシル、それとお父様以外の異性の手を取る事なんかそうそう無いと思いますけれど!


「そ、そういうことなら……仕方ありませんね」
「ローナ嬢が、そう仰るなら……」


 ポソポソと呟かれる諦めの言葉に怒りが混じった者は無く、どうやら私の作戦は成功したようだ。

 私たちの前にあった人波は干潮を迎え、圧迫感のあった空気が無くなった。


 ーーそういえば私自身すっかり忘れていたが、『ローナ・リーヴェ』は美人だった。
 10歳と16歳とは違い、13歳のローナがどのような見た目なのかは判断材料立ち絵・スチルが無いので確かなことは言えないが、例に漏れず美少女なのだろう。

 そんな美少女が王太子殿下の覚えめでたい上に婚約を済ませていないのだから、周りとしては媚を売って付き合いを持っておく、あわよくば婚約しておけば利益になると考えるのは当然のことで。

 ダンスの申し込みなどある訳がないと思っていた私は、考えが浅かったということだ。


 そんな思惑の中でこの場を穏便に済ませたのは、我ながら良くやったと言っていいだろう。
 
 どうです兄さん、私はやりましたよ!と得意げになって兄さんの方を向いて顔を上げたのだが。


「……釣書が……もっと増える…………セシルが……見てる……」
「?」


 なぜか片言のくぐもった声で何事か呟いていて、私に反応を返してくれることはなかった。



    *      *      *



 ダンスの申し込みにやってくる子息はいなくなったが、場を弁えずに媚売りに精を出す貴族までもが来なくなった訳ではない。

 そういう輩は大抵、私に対して一応程度の挨拶だけをしてから後は兄におべっかを使うのに忙しくなるので、隣で微笑みを携えていればいいから、ある意味では楽な時間だ。
 相手しなければならない兄さんは気の毒だけれど。


「いやあ、美しく聡明と噂のリーヴェ侯爵家の御二方とお会いできた今夜は、何と素晴らしい日で御座いましょう!招待してくださった王家にますますの忠誠を誓わねばなりますまい」


 この人もまたその一人である。

 キンディッシュ子爵と名乗ったこの人は、息子と共に私たちのもとへ現れた。

 息子の同伴者として母親ではなく父親が付いてきている時点で今夜の目的が窺い知れるし、先程の"招待してくださった"の言葉からも、息子を差し置いて自分こそがと言いたげな御仁だ。


 ここまであからさまに品が無い人と関わると碌なことがない。
 一人で勝手な振る舞いをする分にはどうだっていいが、関わりを持ってはリーヴェの品位を損ねかねないので。

 同じことを考えただろう兄さんの態度は素っ気ないもので、言外に近づくなと伝えている。


 しかし子爵は諦めが悪いらしく、どう見ても「どっか行け」オーラを出しているだろう私たちに食い下がってきた。


「いやはや、何ともお綺麗なお嬢さんだ。どうでしょう、ウチの領地では肌に良いとよく売れる果物を栽培しているのですが。ご興味はおありですかな?」


 値踏みする様な視線は見えずとも感じ取れる。
 ゾワリと背筋に走った不快感に鳥肌が立つ。

 私が思わず腕をさすったからだろう。隣に立つ兄さんが私を子爵の視線から守るように自分に引き寄せた。


「結構だ」
「そう仰いますな。ね、お嬢さん。どうでしょう?」
「…………」


 いくらなんでもしつこ過ぎる。
 いっそ、会場内を巡回しているだろう警備兵に報告してつまみ出してもらおうか。

 靴底を鳴らす音と共に聞こえる、腰に下げた剣と金具とがぶつかる音を鳴らしている警備兵らしい人が近くにいるようなので、兄さんから少し離れて呼んでこよう。

 そう思って、腰に置かれた兄さんの手を離そうとしたその時ーー。



「なっ……!」
「おいっ!!」



 兄さんが驚きの声を上げたと同時に私の体を抱きしめ、子爵が荒々しい声でがなった。

 な、何事?

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