12 / 54
11
しおりを挟むその頃瑠衣は携帯電話を取っていた。
「はい」
「瑠衣?俺、今夜は帰れそうにない。友達に誘われたから今から飲みに行くから。じゃあな」
「わかった」
修仁からだった。なに?いつもはこんな電話さえもよこさないのに…突然亜里沙が話していた女の事が思い浮かんだ。でもそんなのわたしには関係ない。
瑠衣はもうほとんど諦めていた。修仁に何を言ったところで何も変わりはしないと…
そんな事よりレオナルドの部屋に入って来たリリアンとか言う女性の方が気になった。彼はあんな風に言ったけど彼くらいになれば結婚相手も引く手あまただろうし…
もうわたしったらばかみたい。これは夢なのよ。彼が現実に存在するわけでもないのに、何考えてるのよ。
瑠衣は苦笑してベッドに入るとすぐに眠りについた。
だが、夜中になってからお腹の具合が悪くなった。今までこんなに苦しい思いをしたことはないというほど腹痛はひどく、お腹も下した。
何か食べたかしら?瑠衣は考えてみるが思い当たることは何もなかった。
翌日痛みに耐えかねて病院を受診する。
「あなた、ラッサチフスにかかっていますよ。最近海外とかに行かれましたか?」
「いえ、この街からさえも出ていません。ラッサチフスって?」
「これは伝染病の一種です。ですからすぐに入院していただきます。これが広がるようなようなことがあれば問題ですから、すぐに保険所に届けなければなりません。1週間ほどは隔離病棟に入院していただきますから」
医者からは厳しい言葉を告げられてそれから1週間瑠衣は隔離病棟に入院した。
だが他には患者が出なかったので幸いだった。でもどこでラッサチフスなんかに感染したのだろう?不思議だが見当もつかなかった。
保険所の人が瑠衣の部屋を調べてチーズからチフス菌が出てきた。それですべての原因が分かったと言われ保険所の人が瑠衣の部屋をくまなく消毒してくれた。
瑠衣は抗生物質と治療で病気は1週間ほどですっかり良くなった。
そして瑠衣が病院から退院して自宅のアパートの帰って来た。
うっ…消毒の匂いが部屋中に立ち込めていた。瑠衣が窓を開けてやっと息をした。
修仁はあれから一度も帰って来なかったのか、家を出た時のまま何も変わっていなかった。
瑠衣は取りあえず片付けをして会社に出勤した。
「皆さん、長い間休んですみませんでした」
「橘さんもう大丈夫なの?」同僚の人から声をかけられて、この会社に入ってよかったと思った。
瑠衣は今まで休んでいた分を取り返すように仕事に励んだ。それから数日が過ぎてやっとハーブティーの発売の準備が整った。
あの説明書きも出来上がり、外箱のデザインや販売元への挨拶から工場への注文、そして何より頭を悩ませたのはハーブの仕入れ先だった。以外なことに地元で生産しているラベンダーやカモミール、ミントなど安全で質のいいハーブが定期的に仕入れられることになって瑠衣は満足した。
これで瑠衣のやるべきことは一通り終わって、やっと帰途についた。
こんな日はレオナルドに会いたかった。彼に腕に抱かれて優しい言葉に酔いしれたい。そして彼と結ばれるのはどんな感じだろう?ふっと体の芯が疼いた。もうわたしったらどうかしてる。
修仁が帰って来なくなって、もう2週間ほどたっていた。
その間何度か瑠衣も連絡を取っては見た。入院が決まった日も退院する日も、そして今週は毎日電話をかけてみた。だが彼は一度も出ることもなく、電話もメールも返信はなかった。
いっそこのまま修仁がいなくなってしまえばいいのに…そんな事よりレオナルドの方が気になるなんてどうかしているのかもしれない。
その夜、瑠衣はいつものように夕食を食べてお風呂に入っていた。
バスタブに浸かっていると、いきなり修仁の声がした。
「おい!瑠衣いるのか?出迎えくらいしろよ。くっそ!」
修仁はかなり酔っているらしく大きな声で瑠衣を呼んだ。
「瑠衣!おい、返事しろって言っただろうが!」
いきなり修仁が風呂場のドアを開けた。
怒っていた顔がいきなりふやけた顔に変わった。
「何だ、お前…泣いてるのか?俺を心配して?」
「泣いてなんかいないから…」
瑠衣はレオナルドの事を考えていたのに、いきなり修仁が帰って来た。
「お前もしかして俺が欲しくて?裸で待ってるなんて瑠衣はやっぱりかわいいよな。他の女とは大違いだ」
修仁は瑠衣が裸なのを見ると途端に機嫌がよくなった。
自分のズボンのチャックを下ろしてズボンを脱ぎにかかる。
瑠衣はさすがに頭に来た。
「なによ修仁!今頃帰って来て。どうせ女のところにでも入り浸ってたんでしょう。その女に追い出されでもしたの?そしてまたわたしのところに帰って来たんでしょ!もう、いい加減にしてよ。わたしもうあなたとなんか別れるから!」
「お前今なんて言った?もう一回言ってみろよ!」
修仁の大きな手が瑠衣の髪の毛を思い切り引っ張った。
「いや!やめてよ。あなたなんか大っ嫌い。もう出て行ってよ!わたしの家から出て行って!」
「出て行けだって?クッソ!カレンもおれをこけにして、お前まで俺をなめるのか」
修仁の顔が怒りで真っ赤になった。瑠衣は裸のままバスタブから引きずり出される。風呂場の冷たいタイルに転がされ、顔や頭を何度も殴られた。そして足でお腹や腕、脚を所かまわず駆られ、髪をつかまれて立たされると風呂場の壁に思いっきり叩きつけられた。
瑠衣は残る力を振り絞り風呂場から這い出た。そして寝室の入り口付近で意識を失ってしまった。
瑠衣は意識を失う寸前レオナルドの顔が浮かんだ。
ああ…レオナルドに会いたかった。
レオナルドが瑠衣を探し始めて2週間が過ぎようとしていた。プリンツ王国の密偵からもいまだそれらしい女性の報告はなく、もしかしたらプリンツ王国の隣のヴァンドル帝国にいるらしい奴隷商人が連れてくる女ではという話も出た。
ヴァンドル帝国より西側には黒髪の女がたくさんいるらしいと聞いているからだ。
何でも奴隷商人が黒髪の女たちを奴隷としてヴァンドル帝国の金持ちや貴族の使用人などとして売るらしい。
そんな噂を聞くと、そういえば瑠衣も主人がどうとか言っていたことを思い出す。
瑠衣はどこかの商人の奴隷なのか?じゃあ、どうやってここに来ている?そんなことはとうてい有り得ないだろう?
それとは別にもう一つアディドラ国とプリンツ王国にまつわる伝承の聖女ではないかという声もあった。
それは300年前国が二つに別れる前の話だ。
もともと一つの国だったリンドラ王国が人間と獣人との間で戦争が起こり何年も戦争が続いた。そしてある時女神があの洞窟に現れたのだ。レオナルドのように傷を負った獣人アヒムが泉で休んでいるとそこに女神が現れ戦争をやめさせるために聖女を使わすと言われた。
獣人の名はアヒム。アヒムは一目で聖女に恋をした。聖女は不思議な力で人々の傷を治したり魔法で壊れた建物を直した。アヒムが人間を殺そうとすると聖女ヤスミンは彼を止めた。やがて二人は愛し合うようになりアヒムはヤスミンに言われて戦いをやめようと人間と話し合いをしようとした。でも不意を突かれてアヒムは命を落としてしまう。
ヤスミンはアヒムを失って悲しみに暮れた。そしてヤスミンはアヒムの祭壇の前に人間のリーダーであるヴァルターを呼び出す。
ヤスミンは自分が神の使いであると告げると空中に浮いて話をした。
「もう誰も失いたくはない。神の使いである私一人が犠牲になればいいことです。この争いをやめるよう約束しなさい」そう言って、ヤスミンはその場で自らの命を落とす。
そしてヤスミンが息絶えると、かわりにアヒムが生き返った。ヤスミンは自らの命を捧げアヒムを生き返らせたのだった。
ヴァルターとアヒムはヤスミンの願いをきいて、戦いをやめるように互いの国の王を説得してやっと戦いが終わり平和が訪れたという話だ。
レオナルドも瑠衣が現れた時、一瞬その話が頭に浮かんだことは確かだ。でもすぐ彼はそんな事は妄想に過ぎないと否定した。あの話はあくまで都合のいいお伽話だと彼は思っていた。
そして瑠衣の居所は依然としてわからないままだった。
レオナルドは瑠衣の事を思うのが辛くて連日遅くまで仕事をしていた。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~
花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。
だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。
エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。
そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。
「やっと、あなたに復讐できる」
歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。
彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。
過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。
※ムーンライトノベルにも掲載しております。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる