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しおりを挟むその日も遅くまで仕事をしてやっと自分の寝室に戻った。ドアを開けて絶句した。
あちこちあざだらけの瑠衣が寝室の床に倒れていた。
「瑠衣!瑠衣どうした?何があった?おいしっかりしろ!」
瑠衣は意識を失ってそれも大けがをしていた。
「誰か‥誰か来てくれ」レオナルドは構わず大声で人を呼んだ。
瑠衣はひどいけがで体中あざだらけだった。顔は何度も殴られたのか片方の目が腫れていて頬にはあざが出来ている。体のあちこちに痛々しいほどあざがあり、腫れている。
「だ、誰がこんなひどい事を…許さん。絶対に犯人を見つけて八つ裂きにしてやる!」
レオナルドは大きなバスタオルに瑠衣をくるむと、瑠衣を抱き上げて医務室に運んだ。
騎士隊の医務室には最新の設備が整っていた。
傷を縫合する手術室もある。薬も十分にそろっていた。
騎士隊の医師が呼ばれてすぐに瑠衣の診察をした。
「ひどい暴行を受けています、きっと男でしょう。こんなあざになるには相当の力で殴られたに違いありません。幸い骨折はあばらだけの様ですので、骨折をきつく包帯を巻いておけば大丈夫でしょう、あとの怪我は日にちが薬でしょう」
医師はひどい打ち身に炭を練った湿布剤を患部に貼った。腫れた瞼を広げて瞳孔などを調べた。
「目の腫れがひどいがどうだろう?それに暴行を受けた形跡は?」
「確かに目の周りがひどくはれていますが幸い目に異常は見られませんから、それからお気の毒ですが…」医師は喉を詰まらせた。レオナルドには医師の言いたいことがすぐに分かった。
「そうか…」
彼の耳はしおれた花のようにくたりを垂れて、尻尾もだらんと下がっている。
こんなに気持ちが落ち込んだことはないほどレオナルドのショックは大きい。
「これは痛み止めの薬草です。日に何度か飲ませて下さい」
「ああ、わかった。ご苦労。ありがとう」
それでもレオナルドは、背筋を伸ばして顔を引き締めた。今の自分がどんなに弱々しい顔をしているかと思い、すぐに気を取り直して医師に礼を言う。そして薬をもらうと医師に言った。
「先生、この事は内密にしておいて下さい。いくら人間とは言えこんな怪我をしているんだ。今はとにかく休ませてやりたい」
「ええ、もちろん誰にも口外はしません」医師もレオナルドに賛成した。
レオナルドは怒りややりきれない気持ちだったが、今はとにかく瑠衣の事を考えようと、自分の寝室に瑠衣を連れ帰った。
寝室のカーテンもまだ引いてなかった。窓を見るともう空が薄っすらと白み始めていた。
瑠衣はそっとベッドに寝かせるだけで苦しそうにうめき声を上げた。それでも裸のままにしておくわけにもいかない。
そっと彼女の体を横にすると、瑠衣の体にはあちこちに殴られた跡があった。背中にも、腰のあたりにも、脚にも…レオナルドはそのあざに触れないように気を付けながらシャツを着せる。
「ああ…瑠衣。誰がこんな目に…どんなにか辛いだろう?わたしが変わってやりたい」
レオナルドは泣きながらそっと瑠衣の乱れた髪をなおし、一つずつシャツのボタンをはめてやる。
そしてそっと唯一傷のない額にキスを落とした拍子に涙の雫がぽとりと落ちる。
瑠衣は苦しそうだったが、医師にもらった薬を飲むとやっと眠りについた。
レオナルドは心配でずっと瑠衣のそばに付き添っていた。彼女が時々痛みでうめき声をあげるの聞くのがつらかった。
もう二度と彼女を失いたくない。でもどうすればいいのかさっぱりわからない。
何とか彼女をここにとどめておくことは出来ないのか…レオナルドの苦悩は深くなるばかりだった。
翌朝早くにジャックが血相を変えて執務室に入って来た。
「隊長。どこです?女が現れたって本当なんですか?」
彼の声は大きかった。
レオナルドは瑠衣の事を思うと胸が痛んだ。だが、自分はこの騎士隊の隊長と言うことを忘れてはならない。
しっかりするんだ!
レオナルドは大きく息を吸い込むと、姿勢を正して背筋を伸ばした。さっきまで心配でくにゃりと折れていた耳もピンと立ち上がった。
シャツはしわくちゃだったし髭も伸びたままだった。瞳は落ち込んではいたが、赤い瞳は鋭く光った。
「ああ、ジャック声が大きいぞ」
レオナルドはしわくちゃのままのシャツの上に上着を羽織るとジャックをたしなめるように執務室に入って行った。
「すみません。それでその人は人間なんですよね?」
「ああ、俺の部屋で休ませている。ひどいけがをしている」
「でも、隊長の部屋に置いておくわけには…」
「いいんだ。今は瑠衣を動かすわけにはいかない。あんなひどいけがを負っているんだぞ!」
「取りあえず私にも会わせてください。そして何とかこの場を誤魔化しましょう」
「まあ、仕方がないか…あんなけがを見たらお前も何も言えなくなるだろう」
レオナルドは渋々ジャックを隣の部屋の寝室に連れて行った。
瑠衣は起き上がっていた。
そして一心に何やらまじないを唱えている。
「ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート」彼女はけがをしている部分に自分の手のひらをかざして、おまじないの言葉を何度も唱えている。
ふたりは驚いた。
彼女がかざした手のあたりのあざがどんどん薄くなっていく。赤くはれた腕も目の周りも、脚の関節の腫れもなくなっていった。
そして瑠衣は力尽きたようにぐったりと体を横たえた。
「瑠衣、大丈夫か?」
レオナルドはジャックの事も忘れて彼女に駆け寄る。
「レオナルド?いつからいたの?わたし全然気づかなかった」
「やっぱり君は傷を治せるんだね。あの時俺を直してくれたのは偶然なんかじゃなかった」
「わたしも驚いてるわ。気が付いたらここがあなたの寝室だってわかった。それでわたし……あんまりにも痛くておまじないをやってみようって思たのよ。そして…わたしだって驚いたわ。ここでは夢の世界で何でも願いが叶うのかしら?」
そんなことを言っていると角のある獣人が目の前に来て口を開いた。
「もしかして…あなたは聖女様なんじゃないんですか?…いや!きっとそうに違いない。隊長も人が悪いですよ。隊長言いましたよね?泉に現れたって、わたしは隊長から傷が治せる女性がいると聞いたときからそうじゃないかと思ってたんですよ。さっきの見ましたよね?傷を治せるなんて聖女様に違いないじゃないですか。それならそうと言ってくれれば良かったのに、すぐに国王に報告を…」
ジャックは興奮気味に一人でしゃべるとすぐに出て行った。
「いや、それは待ってほし…」
レオナルドの声など耳に入らないようでジャックは走り去っていた。
「瑠衣、痛みは?」レオナルドが声をかけた。
「ええ、おかげで痛みはほとんどなくなったわ。驚かせてごめんなさい」
「それにこの薬草はウィッチヘーゼルね。これは打ち身にも聞く薬草よね。レオナルドがこれを?」
「いや、医師が用意してくれた。それにしてもいったい何があったんだ?」
瑠衣はこうなる前の事を話した。
「わたし修仁と暮らしていたの。最近はそうあなたのところに来た後からずっと2週間も帰って来なかったの。わたしもう別れるつもりだったの。それで昨日の夜いきなり帰って来て…修仁はすごく機嫌が悪くてわたしはお風呂に入っていたけど…わたしはっきり別れたいって言ったの。そしたらいきなり殴られて、お風呂場から引っ張り出されて…でもわたし抵抗したの。それで何度もぼこぼこに殴られた。それで気を失ったみたいで、気づいたらここに来ていたの」
瑠衣はあの恐ろいことを思い出すと涙がぼろぼろこぼれ始めた。
「ああ。瑠衣、可哀想に…もう帰らなくていい。ずっとここにいて欲しい」
「ええ、わたしもそうしたい。もうあんな世界はいや!ずっとレオナルドのそばにいたい…でもわたしずっと夢だと思ってた…」
瑠衣は赤くなって顔を下に向ける。
あれは夢だと思ってたからわたしはレオナルドにされるままあんな事してたなんて…もう考えたら恥ずかしい…どんな顔をすればいいかもわからなくなる。レオナルドはこんなふうに言ってはくれるけど、本当はわたしの事をどう思ってるのだろう?
「これが夢なもんか。現に俺はここにいるじゃないか!ほら、触ってごらん?これが夢と思うか?」
瑠衣はレオナルドの顔に指を這わせる。彼の濃い眉毛も、高い鼻も、柔らかな唇もすべてが実感できる。肌は温かいし、額は少し湿った感じさえする。
ああ…レオナルド。レオナルド。あなたの名前を何度も呼びたい。だってわたしはあなたが大好きだから…
「ええ、レオナルド。夢じゃないって思うわ」
「ああ、瑠衣良かった」
レオナルドに思いきり抱き締められてわたしはやっぱり夢の世界に迷い込んだのではと思い始めた。
わたしは本当に病気だ。
そうよ。きっとわたしは病気なんだ。おまじないが効いたり、女神が現れて空恐ろしい事を言ったこともすべて夢に違いない。
瑠衣はすごーく大きなため息をついた。
もういやだ……これなら絶対夢の方がいいじゃない。
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