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しおりを挟む瑠衣はレオナルドに抱きしめられている腕の中で、さっき起こったことをまた考えていた。
それは瑠衣が手当てを受けてレオナルドの寝室に戻って来た後の事だった。
瑠衣は意識がもうろうとする中、声が聞こえた気がして目を開けた。
すると空中に神々しい光が見えた。そしてその光の中からヴィーナスのような女神が現れた。
瑠衣は驚いて声も出ないままその美しい女神をじっと見つめていた。すると女神が話を始めた。
「瑠衣、よくお聞きなさい。今から350年ほど前のセーラムにひとりの魔女がいました。彼女の名前はヤスミン。彼女はある男と知り合い恋に落ちます。だけど男は女癖が悪く仕事もしないようなとんでもない男でした。それでもヤスミンはじっと耐えていました。でも男に新しい女が出来捨てられそうになります。でも、ヤスミンは別れたくないと言って彼ともめました。すると男はヤスミンが魔女だと教会に密告したのです。あの頃魔女と疑われたらもうどうすることも出来ない世の中でした。結局ヤスミンは火あぶりにされて死んでしまったのです。でも彼女は本当は魔女でした。それを知るものはごくわずかで、その男も本当は知らなかったのですが、きっとそれが彼女の運命だったのでしょう。
神はヤスミンを気の毒に思い、天国で神のそばに置きました。
それから50年ほどたったころ、人間と獣人が争っている国の事を神はひどく嘆いていました。ヤスミンはわたしならきっと役に立てると自ら神の使いとして行くと名乗り出ました。ヤスミンは神の役に立ちたいと思ったのでしょう。神はヤスミンにすべてを託しました。
それである時エレナ山の洞窟に女神が現れます。争いをやめさせるために神の使いを使わすと言ってヤスミンが現れるのです。ヤスミンはこの世界に新たに生まれ変わったのです。その時洞窟には、たまたま怪我の養生をしていた獣人アヒムがいました。アヒムはヤスミンに一目で恋に落ちます。そしてヤスミンの言うことを聞くようになり人間と話し合いをしようとしますが、アヒムは人間に殺されてしまいます。ヤスミンはひどく悲しみました。それでも何とか争いをやめさせるため人間のリーダーをアヒムの遺体のそばに呼び出し、その場で自ら命をひきかえにして争いをやめるように言うのです。アヒムは生きかえりヤスミンは天に召されました。
そして二人はヤスミンの遺志を継いで争いをやめるよう互いの国の王に話をしてやっと争いは収まったのです」
「それとわたしが何の関係があるんです?」
瑠衣は神々しい女神の言うことがどんな意味を持つのか全く分からない。
「あなたはそのヤスミンの魂を受け継いで生まれているのです。きっとヤスミンはあなたの運命を予知したのです。そんな時この世界がまた争いを始めようとしている事も知った彼女の魂は、あなたの力で争いが始まる前に何とか争いを収めて欲しいと思っているのかもしれません。いいえ、あなたならきっとできます。あなたにはヤスミンと同じ不思議な力があるのですから」
「女神様。でもどうやって?わたしにそんな力はありません。それに…それにこの世界はわたしが作った夢の世界なんですよ?」
また、また…そんな事を誰が信じるの?
瑠衣は女神の言うことが信じられなかった。それより女神がいる事さえ信じられるはずがないじゃない。
女神は微笑みながら言う。
「夢の世界なんかではありませんよ。あなたはあちらの世界ではもう亡くなったんです。この世界は存在する別世界なんですよ」
「うそ!そんなのうそです…わたしが死んだなんて…」
確かに大けがをしたと思うけど。でもまさか死ぬなんて…そんなの…
「仕方がありませんね。あなたがそうまで言うなら、これを御覧なさい!」
女神がさっと手を振った。
天井にぱっと映像が現れる。
そこにはよく見知っている自分の部屋があった。わたしは床に倒れていて、修仁が無理やりわたしを後ろから犯そうとしている。そして何やら言っている。
「瑠衣、俺と別れようなんて言うお前が悪いんだ。ほら、可愛がってやるから、腰を上げろよ。くっそ…俺が欲しいんだろう?入れてやったらすぐに嬉しがるくせに…なぁ。おい、何とか言えよ!クッソ!」彼はがつがついつものように腰を叩きつけていたが、急にその動きを止めた。気絶したわたしの頬を叩いて起こそうとしている。
「おい!瑠衣起きろよ。そんな気絶したふりしても無駄だからな。俺は別れてなんかやらないから…まあ、カレンとちょっと仲良くしたのは俺の間違いだった。悪かったと思ってる。なぁ機嫌直せって、俺にはお前だけだから…よー!瑠衣?」
修仁はそれどころではなくなって瑠衣を揺すってみる。瑠衣はピクリとも動かない。瑠衣の胸に耳を当ててみる。修仁の顔が真っ蒼になる。
「瑠衣?おい、しっかりしろ…クッソ!」やっと瑠衣が死んでいると気づいた。
「俺のせいじゃないからな…俺は知らないから…」
修仁は腰を抜かしそうになりながら慌てて部屋を出て行った。
そこにはもう息をしていないわたしが横たわっているだけだった。あまりにもかわいそうな姿であまりにもみじめな最期だった。
瑠衣は泣いていた。こんなのひどすぎる。これがわたしの一生なの?これで終わり?そんなの…あんまりじゃない。
「わかりましたか瑠衣?もうあの世界にあなたに帰るところはないのです。あなたはこの世界に生まれ変わったのです。もしこの世界も嫌というなら天国に行くしかありません」
女神の言葉に意識を取り戻してはっとする。
「でもわたしはずっとこの世界の事を夢で見ていたのよ。これが現実だなんて…」
「いいえ、夢ではありません。これは現実ですよ。ヤスミンはあなたが自分と同じような運命をたどると知って、別の世界での生き方があることを知らせたかったのかもしれませんよ」
「まさか…本当に?」
女神は真面目な顔でうなずいた。
「えっ?じゃあ、レオナルドがわたしを愛するようになるって本当なんですか?」
何をおかしななことを言っているのかと思う。でもレオナルドは出会った時からわたしに優しかった。それは運命だったから…彼は一目で恋に落ちて私たちは愛し合うようになるって事?
そんなばかな…
確かにわたしはレオナルドのような人を求めているのかもしれないわ。でも自分があんなに素直になれたのは夢だと思っていたからで…瑠衣は真っ赤になった。
もう…いやだ。
と思ったのも束の間だった。
「でも…わたしは最後に死ぬんですよね?」思わず声に出していた。
そうだ。幸せは長続きしないのだった。
「それはわかりません。神でさえ想像できないこともあるのです。あの時アヒムが恋に落ちることも、2人が愛し合うようになる事も、ヤスミンが命を絶つことも神が想像したことではありませんでした。すべて自分たちの意志で決めた事です」
「じゃあ、ヤスミンはどうしてまた生まれ変わってこの世界に?」
「あなたはヤスミンの生まれ変わりではありません。彼女の肉体が元に戻ることはありません。魂に残った強い思いがあなたに受け継がれたのです。だから前世と同じことを繰り返すと決まっているわけではありません。あなたにはあなたの人格があり、あなたのやり方があるのですよ。ただ、瑠衣あなたはヤスミンの想いを強く持って生まれたという事は確かでしょう。そしてあなたはもうこの世界にいるじゃないですか。どうするかはあなた次第です」
「でも不思議な力なんて持っていません」
「思い出しなさい。あなたが最初に来た時の事を、あなたはまじないで傷を治したはずです」
「あっ!」瑠衣は叫んだ。
「あなたは清く正しい人。自分を信じるのです瑠衣……未来はあなた次第ですよ…」
その途端神々しい光がすぅっと消えてなくなり女神も消えていた。
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