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しおりを挟むジャックが声をひそめて言う。
「でも生き返るんでしょう?」
「国王がそんなリスクを冒すと思うのか?」
「言われてみればそうですよね。でも聖女をほっとくわけがないですよ。あの女好きの国王が聖女と聞いて…」
「ジャック、お前余計なことをしてくれたな」
「ですが、隊長。こんなことを隠していたとなったらそれこそ殺されますよ」
「ああ、いずれにしてもわたしも瑠衣と一緒に国王に会いに行く」
瑠衣を死なせてたままるもんか!レオナルドの心中はただ事ではなかった。
「何言ってるんですか。今ここを離れられるわけがないでしょう?騎士隊の隊員は原因不明の腹痛で倒れているし、今攻め込まれたらここは全滅するかもしれないって時に…隊長を行かせるわけにはいきませんから」
ジャックがそんなことう言うのは無理がなかった。このところ原因がわからず腹痛と発熱で苦しむ隊員が急増しているのだ。
食中毒でもないらしく、医師にもわからない病気らしく困っているのだ。
「ああ、そうだったな。とにかく今は残りの者でしっかり見回りを頼む。それから瑠衣の服を調達してくれないか」
「そうですね。街に行く使用人に女性用の服を頼みましょう」
「ああ、服や下着を数枚揃えるように言ってくれ、それと靴もそれから女物の鏡やくしも欲しい」
「ええ、そう言います。でも隊長の部屋に置いておくのはちょっと…」
ジャックは隊の風紀委員もしている手前、そんな風紀を乱すようなことは出来ない。
「ならば瑠衣はわたしの恩人の娘と言うことにしておく。それならば問題ないだろうジャック?」
「仕方ありませんね。でもこれはここだけの話にして下さいよ。国王に知れたら何といわれるか…」ジャックはため息をつく。
「わかった。ジャックも聖女の事は人に話さないようにしてくれると助かるよ」
「わかってますよ隊長…」
ジャックは諦めた。隊長はあの年で恋をしたのが初めてなのかもな。今の隊長は初めて女に夢中になった少年と同じだ。あまり追い詰めると何をするかわからないぞ。ここは隊長の言う通りにした方がよさそうだ。でもそれも2~3日の事だ。国王からきっと迎えが来るに違いないからな。
ジャックはそう思うとそれくらいなら何とかなるだろうと、心の中でほっとした。
レオナルドはジャックが出て行くとすぐに瑠衣のところに戻った。
「瑠衣調子はどうだ?そうだ。何か食べるものを持ってこよう。ちょっと待っていてくれ」
レオナルドは瑠衣の顔色が悪いのを見て、すぐに食事の用意をするように使用人に頼んだ。
「レオナルド…」
「何も心配しなくていい。俺に任せておけば大丈夫だ」
レオナルドはベッドの横になった瑠衣にそっとキスをする。瑠衣の手を優しく握る彼の手はごつごつしていて大きくてそして温かい。
瑠衣はだんだんこれが夢だとは思わなくなっていた。女神さまが言ったことが本当ならわたしはレオナルドと幸せになれるかもって事?
もしそうならどんなにいいだろう…彼の事を思うだけで胸の奥が震える。ああ…わたしはもう彼に恋してしまったみたいだもの…
はぁ…でもわたし一度大失敗してるのよ。修仁の時だって一目で恋に落ちてどうなったか忘れたの?
レオナルドだって最初は優しくても、本当はひどい人かも知れないんだから…
あっ、でもそんなことよりその前に戦いを何とかしなくちゃ…でもレオナルドが殺されるのは死んでも嫌。絶対にそんなことはさせないから…
瑠衣は心の中でかたく誓う。
ドアがノックされるとレオナルドが部屋の外に出て食事を受け取って来た。
「さあ、瑠衣こんなところだからごちそうはないけど」レオナルドがベッドのわきにあるテーブルに食事を置いた。
皿の上にはポタージュスープとハムやチーズの盛り合わせ、茶色いパンが2枚、カップにはハーブティーだろうか。カモミールの香りがした。
「わたしあまりお腹は空いてない」
瑠衣は食欲はなかった。
「ああ、わかるよ。あんな目に遭ったんだ。でも何か食べたほうがいい」
瑠衣は首を横に振った。
「じゃあ、ハーブティーは?」
レオナルドはカップを手に取って瑠衣にすすめた。
瑠衣もベッドに座るとそのカップを受け取った。途端に鼻をつくにおいがしてハーブティーの色が真っ赤に見えた。
「これって本当にハーブティーなの?色が真っ赤じゃない?」
「瑠衣、何言ってるんだ。淡い茶色じゃないか」
「でも…」
瑠衣は驚いていた。今までの自分とは違う何かがわたしの中にある。そんな気がする。
もうどうすればいいのよ女神様…
あっ!そう言えば…前回ここに来た後でラッサチフスにかかったわ。確かお腹が痛くなったのはここでハーブティーを飲んだ後だった…
まさか…この中に毒が入ってるとか?レオナルドがわたしを殺そうとしてるって事?ううん、チフスで死にはしなかった。
もう、どれだけ臆病になってるんだか…まったく…‥
そこにジャックが入って来た。
「隊長、すぐに来てください。隊員の一人がひどく具合が悪くなって…」
「どうしたのレオナルド?」
「ああ、最近腹をこわす隊員が多く出て困っている。医師にも原因がわからず次々に倒れて行って…待ってろジャック、すぐに行く」
レオナルドはすぐに立ちあがり返事をした。
ジャックは返事もしないまま走り去った。
レオナルドは過ぎにジャックの後を追おうとした。
「レオナルド待って、それってラッサチフスかも、わたしも前回来た後、すごくお腹が痛くなって病院に駆け込んだの」
「ラッサチフス?なんだそれは?」
「ラッサチフス菌て言う病原菌が体に入ると、下痢を起こしたり熱を出したりして、最悪死ぬこともあるってお医者様が言ってた」
「でも、そんなものがどうやって?」
「ここの水はどこから?」
「ああ、ここの家には井戸があって生活用水は全部そこから」
「もし井戸に誰かが、病気の原因になる病原菌を入れたらどうなるかしら?」
「そりゃもちろん全員が腹をこわすことに…」
「わたしを井戸に連れて行って」
「どうして?それにその格好じゃあ…ちょっと待って使用人の服を借りてくるから」
レオナルドは騎士隊で働いている使用人の服を借りてきた。瑠衣はリネンのシンプルなワンピースに着替え長いエプロンをつける。そして髪をアップにしてくるりとピンでとめた。どこから見ても使用人に見えた。
「これでどう?」
「ああ、それならだれも不審に思わない。でもどうして井戸に?」
「わたしわかるみたい。さっきのハーブティーの色が赤く見えたのはきっとその病原菌が入っているからよ」
「じゃあ、君にはそれが見えるのか?」
「ええ、きっとそうなんだわ」これも女神の言っていた聖女になったから?自分でも信じられないことが次々に起こって瑠衣は戸惑った。でも今はそんな事を言ってはいられない。
レオナルドは瑠衣を屋敷の外にある井戸に連れて行った。井戸は小さな屋根がかかっていて、井戸には水をくみ上げる桶がひもでつながれてぶら下がっていた。
レオナルドが桶を井戸に落とす。ひもを引っ張って水をくみ上げて行く。
まだ井戸の途中にある桶の中を瑠衣は覗き込んだ。
桶の中の水は毒々しいほど真っ赤な色をしていた。
「やっぱりそうよレオナルド。この井戸には病原菌がいっぱいいるわ。みんなに井戸の水を使うときは煮沸消毒するように言って…あっ…でもハーブティーも沸かしたお湯で入れたのよね?」
わたし間違ってたのかも…もし間違っていたらもうどうしようもない。
「いや、ハーブティーは水から抽出してるんだ。戦場だとそうやって飲むんだ。手間が省けるだろう」
「だからハーブティーが赤かったのね。レオナルド、どんな水も煮沸消毒して使うように言って、口をゆすぐときも、手を洗うときもよ」
「わかった、すぐにみんなに伝える」
レオナルドが走って行こうとした時瑠衣が彼の手をつかんだ。
「わたしを病気の人のところに連れて行って」
「瑠衣?」
「もしかしたらわたしのおまじないで助かるかもしれないでしょう。試しにやってみる価値はあるんじゃない?」
「そうか…傷に効くと言うことは病気にも…ああ、わかった、一緒に来てくれ!」
レオナルドはしっかりと瑠衣を支えるとゆっくり立ち上がらせた。そしてしばらく様子を見て大丈夫とわかってから瑠衣の腕をしっかりと抱いて部屋を出た。
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