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しおりを挟む瑠衣はジャミル宰相に案内されて城の中に入った。
ジャミルには頭には三角形の耳がありふさふさのしっぽは歩くたびに揺れている。彼もレオナルドと同じ狼獣人なのかしら…それじゃあ彼も温情ある優しい獣人かもしれないじゃない。
瑠衣は落ち着かない気持ちをそんなことを思って紛らわした。
それにしてもお城の中はもの凄く豪華で…床はきっと大理石だろう。そして円形の大きな柱、見上げるような天井、どこにも絢爛豪華な彫刻が施されていて瑠衣はため息をつく。そっと見上げるとクリスタルの輝かしいシャンデリアがあった。
ついて歩く廊下はアーチ型の天井で、あちらこちらに美しいレリーフが彫りこまれてある。
大きな扉の前に着くと、ジャミル宰相がその扉を開けた。
「聖女様、どうぞ中へ、こちらに国王が参られますので」
ジャミル宰相は扉の前にいた見張り番に耳打ちする。すぐに見張り番が走り去る。
瑠衣は辺りをぐるりと見回し大きく深呼吸をすると、扉をくぐり部屋の中に入った。
大広間には大きなアーチ型の窓がありまばゆいほどの光が差し込んでいる。一瞬目がくらんだがすぐに目が慣れてくると、中央がいちだんたかくなってそこに大きな玉座がある。目の前にはレッドカーペットが敷き詰められてその玉座の前まで伸びている。
瑠衣はジャミル宰相に案内されてそのレッドカーペットの上を歩いて玉座の前まで行った。
玉座は近くで見ると、黄金で背もたれ部分とひざ掛けの部分に宝石がはめ込まれているようだ。
間もなく衣擦れの音がして国王が現れた。
国王は金色のマントをぱっとひるがえしてあっという間に玉座に座ると瑠衣をじろりと見た。
国王は金色の冠を頭に乗せていて、その横にレオナルドとは違う耳の形をした少し先が丸い感じの大きな耳があった。それに髪が鬣のように広がってまるでライオンのような…あっ、この人ライオン獣人?それに年の頃は40歳過ぎくらいかしら?それに今までに見た獣人と違って国王は大きなおなかをしているし、いわゆるデブだわ。
瑠衣はそんな事を思っていた。
国王がいきなり声をかけた。
「あなたが聖女か?」
はぁ?
そうだった。わたしは聖女と言うことでこの世界に来たらしいし‥‥わたしには全くそんな意識はないが、あのまじないに不思議な力があることはもうどうしようもない事実なんだから…
「あの…自分で聖女と言うのもおこがましいのですが、どうもそのようでして…」
瑠衣は小さな声でもごもごと言った。
「なに?聞こえぬぞ!はっきり言ってくれ!」
「はい、そうです。わたしは聖女です」
瑠衣は大きな声を張り上げる。
国王はうなずいて名前を聞いた。
「そうか、名は?」
「橘 瑠衣です」
「瑠衣でいいな。では瑠衣早速だが力を見たい」
「はい、ですがその前に見ていただきたいものがあるんです」
「それは後だ。連れてまいれ」
イエルク国王は瑠衣にもっと近寄るように手招く。その指にはいくつも大きな宝石の指輪がはめられていて、どの指もぶよぶよして気持ちが悪い。
そして琥珀のような瞳で瑠衣の顔をじっと覗き込んだ。瑠衣の大きなグリーンの瞳は特に気になるようで、何度も瞳を覗き込む。
「何と美しい。その瞳はまるでエメラルドのようだ。その肌はシルクのように美しい…」
国王はため息をつく。
そこに近衛兵に連れられたひとりの少年が入って来た。少年は目が不自由らしく近衛兵に手を引かれてゆっくりと近づいてくる。
「国王、連れてまいりました」
「ああ、ひかえよドク」
そう言われると少年が頭を下げた。
「瑠衣、この少年ドクはつい最近馬車にひかれた。その時目をやられて今では目が見えなくなってしまった。この少年の目を治してはくれまいか」
「はい、国王。でもわたしは目の不自由な人を治したことがありませんのでうまくいくかは何ともお答えできませんが、とにかくやってみます」
瑠衣は病気なら治せる自信はあったが目の見えない人を治せるかは、自分でもわからなかった。
瑠衣は目を閉じて深呼吸した。今ここで失敗したら元も子もない。しっかりしなきゃ!瑠衣はふとレオナルドの事を思った。
”瑠衣なら出来る。きっと大丈夫だ。”そんな声が聞こえた気がした。
瑠衣は迷いを取り払い一心にまじないを唱え始めた。
「ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート…」
手のひらを目の前にかざしてパワーを送る。
何度も何度もまじないを唱える。
やがて男の子が声を上げた。
「ああ…見える。見えます国王。目が…目が見えます」
男の子が声を上げて喜ぶ。
「ああ、そうか。良かったなドク」
「はい、国王、聖女様ありがとうございます。おかげで目が見えるようになりました。本当にありがとうございます」
ドクは大喜びしながら近衛兵に連れられて部屋を出て行った。
「瑠衣どうやら力は本物らしいな。子供は嘘をつかんだろうからな」
「ありがとうございます。では国王わたしの話を聞いてくださいますね?」
「約束だからな、聞こう」
「実はわたしはヘッセンにいる騎士隊の隊長に助けていただいたんです。その方がプリンツ王国との争いをやめる策を色々と考えられていて、ここにその案をお持ちしました。是非参考にしていただきたく存じます」
「ああ、そうか。わかった。それはジャミルに渡してくれ。わたしは祭事の事はよくわからないからな。それより瑠衣わたしの妻にならんか?お前を第4王妃として迎えよう。そしてわたしのために力を尽くしてもらいたい。どうだ?」
イエルク国王はジャミルにその書簡を受け取るように合図を送る。ジャミルは前に進み出て瑠衣から書簡を受け取る。
「いえ、わたしはプリンツ王国との争いを収めるためにこの世界に来たのです。国王のお気持ちはうれしく思いますがわたしにはやることがありますので…」
「なに?わたしの頼みを断るのか?」
「いえ、そう言うことではなくて、わたしには仕事がありますので国王の妻になるのは無理だと申し上げているだけです」
「それはわたしの妻になっても出来るではないか。いいか瑠衣わたしの妻になる事を命令する。これは命令だ」
「いやです。国王の妻になんかなれません。わたしは…」と言いかけて国王に腕を引っ張られた。
国王の分厚い唇が瑠衣の唇をふさいだ。
ぬちゅりと湿った唇が瑠衣の唇に触れて、そしてぬるついた舌が瑠衣の口の中に入り込もうとする。瑠衣の唇をこじ開けようと執拗に唇をつつく。
”いや、いや、いや!もう、気持ち悪い”
瑠衣は思わず顔をそむけた。
そして思わず言ってしまった。
「国王わたしは人妻です。わたしはレオナルド・ヴェルデックの妻なんです」
「な、何を証拠に?」
「これです。ここに証拠があります」
瑠衣は後ろを向いて肩口の噛み後を見せつける。
「ほほう…これは狼獣人の番の印…おいジャミルすぐにレオナルド・ヴェルデックなるものを逮捕しろ!」
「何をおっしゃいます。彼は何も悪いことはしていません」
「いや、そいつは我が妻を横取りした。死罪にしてやる。片割れがいなくなればそんな番の印などなんでもない。そうなればお前はもう誰のものでもなくなる」
国王は瑠衣をじろりと見る。まるで獲物を見据えたライオンのように思えて瑠衣はぞっとして後ずさりした。
「おい誰か。この聖女をおもてなししろ、ただし部屋から出すんじゃない」
近衛兵がすぐに来て瑠衣の腕を両方からつかんだ。
「待ってください。こんなの…こんなのひどすぎる。いや!放してよ」
瑠衣は抵抗したが、男の力にかなうはずもなかった。
あっという間の出来事で瑠衣はどうすることも出来なかった。
近衛兵に連れられて豪華な部屋に連れていかれた。
部屋は折り上げ天井に豪華なシャンデリア、天蓋付きのベッドに見たこともないような美しい家具や調度品が所狭しと飾ってあった。ドアを開ければバスルームやトイレも完備されていて、何不自由なく過ごせそうだった。
だが部屋の外は厳重に見張りが立っていたし、窓には鉄格子がはめ込んであった。多分外敵の侵入を防ぐためなのだろうが、こうなっては豪華な牢獄と言っても良かった。
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