いきなり騎士隊長の前にアナザーダイブなんて…これって病んでるの?もしかして運命とか言わないですよね?

はなまる

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 ジャミル宰相は、瑠衣が連れて行かれるのをじっと見守っていた。

 瑠衣がジャミル宰相に助けを求めるような目を向けていたが、見て見ぬふりだった。

 瑠衣がイエルク国王の前から近衛兵に連れられて行くと、イエルクは退屈そうにさっさと謁見の間を出て行こうとした。

 ジャミル宰相は、待っていたように国王に声をかけた。

 「イエルク国王、ちょっとお待ちください。お話があります」

 「なんだ!ジャミル、もう用はすんだぞ!」

 「イエルク国王には、ぜひプリンツ王国との話し合いに出ていただきたいのです。もはや私や他の大臣たちだけでは対応出来る事では済まされないのです」

 「なぜだ?すべての権限をお前に与えているだろう?わたしには事後報告してくれればいいではないか?今までお前たちの決めたことにわたしが不服をもうしたことがあるか?」

 「いいえ、ですが国王、今年の天候不順でプリンツ王国は、すでに飢えて困っていると聞きます。プリンツ王国から再三援助の要請を受けていますが、国王がおっしゃっている今まで通りの取り決めでは、プリンツ王国の要求にこたえることは出来ません。わたし達の一存で自国の蓄えをプリンツ王国に供与することなども出来ませんし、ここは国王自らプリンツ王国との話し合いにご出席いただきお互いの国に有意義な策を話し合っていただきたく思います」


 「ジャミル、お前はわが国のたいせつな備蓄食料をプリンツ王国に与えよと申すのか?」

 イエルクの眉が片方上がった。ジャミルを見る目つきがぎょろりと鋭くなる。

 だが、ジャミルはそれでも話を続ける。

 「ただでとは申しません。プリンツ王国にはたくさんの資源や我が国に必要な機械や原料があります。それと引き換えにプリンツ王国に食料を供与すれば、わが国の国の為にもなります。それにプリンツ王国の中には未だに獣人は野蛮で知能も低いなどと思っている人間たちにもいると聞きます。獣人が人間と同じように紳士的で良心的だと理解を深めてもらえるチャンスではと、これをきっかけにお互いの国が友好的に付き合えるようになれば、いいことではありませんか」


 イエルク国王は呆れたような顔をする。

 「ジャミル!お前は我らが人間より下だと言っているのか?いい加減にしろ。どうして人間を助けたがる?あいつらはわたしたちを散々いいように使って馬鹿にして来たんだ。それをちょっと困ったくらいで、泣きつかれたからと言って助けてやる必要はない!今まで通りの取引をすればよい。わかったかジャミル!」

 イエルクはぴしゃりと言葉をはき捨てた。


 ジャミル宰相はそれでもあきらめない。

 「ですが、イエルク国王。プリンツ王国の国王トラブロス・アーベン国王からはお体の具合が悪いとかで、何とか良い返事をいただきたいと何度も書簡を頂いています。このまま知らぬふりをしたのでは、他の国への影響もあります。何とか温情ある采配をして頂きたく存じます」

 「ああ…トラブロスは病気か?それは大変であろう。見舞いの品を送っておいてくれジャミル。これで我が国の義理は果たせただろう?もう良い。わたしは忙しい」

 「わかりました。では国王、私たちで備蓄食料をプリンツ王国に供与することを決めていいのですね?」

 「何を聞いておる!備蓄食料はわが国民のものだ。断じてプリンツ王国に供与することはならん!それに今日は忙しいと分かっておるだろう?」

 「何のことでしょう?」

 「今宵、聖女を我が物にする」

 「いけません国王。聖女には番の印があったじゃないですか!いくら国王でもそんなことをしたとあっては国民に示しが付きません」

 「ジャミルわしに意見する気か?」

 「国民の大半はまだ番の印を大切に思っています。これは国王のためです」

 「…では早くその番の相手を何とかしろ!」

 イエルク国王は、もう振り返らなかった。

 ジャミルはその場で国王を見送るしかできなかった。

 困った国王だ。これでは国政などやってはいけん。トラブロス国王が伏せっておられる今、あの国は国王の弟と国王の息子との跡継ぎ争いでいつ内乱が起こるやもしれんのに…そうなればアディドラ国に軍隊で攻め込んでくるかもしれんのに、わが国王は女の心配か…こうしてはいられない、すぐに何か策を考えねば‥‥

 ジャミルはさらに頭を抱えた。

 まだ聖女の夫となったレオナルドの件があったか‥‥レオナルドも気の毒なことに‥‥あのような美しい女をイエルク国王が放っておくはずがないだろう。

 国王の言いつけにそむけばこっちもとばっちりをこうむることになる。わたしは今この地位を失うわけにはいかない。仕方があるまい。レオナルドには死んでもらうしかないだろう。

 いや、待てよ。レオナルドが聖女を番にしたというなら、それを利用しない手はない!

 ジャミルは手を叩いて自分の執務室に戻った。



 ジャミルは執務室に戻ると、また近衛隊のロンダを呼びつけた。

 ロンダは、着替えたのかマントは外して上着も脱いでいた。近衛隊のシャツとズボンの隊服を着ていた。

 「ロンダ今帰ったばかりで疲れているであろうが、どうしても頼みたいことがある」

 「疲れてなどいません。聖女の護衛は何事もなく終わりましたし、何でも言いつけてください」

 「悪いが、もう一度ヘッセンに行ってくれ」

 「はい、それでどんな案件でしょうか?」

 「ヘッセンに派遣されている騎士隊の隊長レオナルド・ヴェルデックをエルドラに連行して来てくれ」

 「連行って?レオナルドをですか?彼が何をしたんです?」

 ロンダはいつになく理由を問いただした。


 それと言うのもロンダとレオナルドは、子供のころから家族ぐるみの付き合いをしていたし同じ騎士隊の学校でも一緒だった。

 それに親同士が妹のイアスとレオナルドを早くから結婚させようと決めていたので、特に仲が良かったわけでもなかったが彼には一目置いていた。

 だが、イアスとなかなか結婚する気配がないレオナルドにだんだん苛立つようになってきた。イアスがどれほどレオナルドが好きかを知っていたロンダはレオナルドの煮え切らない態度に何度かレオナルドに結婚を早くするように頼んだものだ。だがイアスが病気になり可哀想にイアスは自分から婚約を断ったのだ。それが1年ほど前だった。

 そんなことがあってからは彼とは距離を置くようになっていた。


 だが、仕事であればそんなことは関係なかった。だから今回もヘッセンに行って来た。でもジャミル宰相の話には何か裏がありそうだ……

 「イエルク国王が聖女を妻にするとおっしゃった。だが、聖女には狼獣人の番の印があった。レオナルドのものだ」

 「あいつがですか?レオナルドの奴、今まで女に興味はないのかと思っていたのに、よりによって聖女様に?」クッソ!イアスには散々待たせておきながら…ロンダは頭に血が上った。


 だが、待てよ。普通番の印が付いている女はもう手が出せない証だろう?いくらレオナルドが気に入らないからと言っても、決まりは決まりで…

 「ですが宰相、番の印を付けてあると言うことは、彼が妻として迎えたと言うことで、いくら国王でもそれを無視することは出来ないんじゃ?」

 「ロンダ、国王に無理なことは何もない。だからレオナルドを連行してきてくれと言っている」

 「それはひどくないですか?レオナルドは覚悟して番の印をつけたはず…それに聖女はここに来ることを断りもしなかった。レオナルドも嫌な顔もせずに見送ってくれた。なのに宰相…」

 いつの間にかロンダは国王に腹を立てていた。

 ジャミルはロンダをなだめるように言う。

 「イエルク国王にそんな話は通用しない。悪いがレオナルドには、気づかれないようにエルドラに連行してくれ…そうだ。この書簡について説明をするように国王が言われているからとでも…」

 「彼を騙すつもりですか?エルドラに来れば彼は牢獄行きなんでしょう?」

 「だが、それを国王はお望みだ。いいからもう行ってくれ、とにかく頼んだぞロンダ!」

 「はい、ご命令とあれば…行ってまいります」

 ロンダは嫌な気分のまま、執務室を出て行った。




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