46 / 54
45
しおりを挟む翌朝、眩しい光が窓から注ぎ込んでレオナルドは目を覚ました。瑠衣はきっと疲れたのだろう、まだぐっすり眠っていた。
レオナルドは瑠衣の唇にそっと口づけると、静かに起き上がった。
シャワーを浴びると昨日の服を着た。アディドラ国では毎日着替えるという習慣はない。シャワーを浴びるのでさえ一般庶民にとったら夢のような話だ。上着は着ないでシャツとズボンだけはくと廊下に出た。
近衛兵が立っていたのでジャミルがどこにいるかを聞く。そして食事を持ってきてほしいと頼んだ。
何しろ昨日はほとんど食事が出来なかったのでレオナルドは腹が減っていた。
近衛兵はすぐに走り去った。
しばらくして使用人がリビングに食事を運んできた。
「あはようございます。国王殿下。わたしは王宮の使用人係のマハルです。どうぞよろしくお願いします。他に何か御用は?」深々とお辞儀をされる。
レオナルドは椅子に座っていたが、使用人の態度にひっくり返りそうになる。
「いや、マハルよろしく頼む。でも国王陛下は言い過ぎだ。せめて…」
「では陛下とお呼びしますので…後で王妃のお着替えも持って参りましょうか?」
はっ?
レオナルドは何も言えなくなって話を続ける。
「ああ。そうだな。しばらく旅に出る事になる。ふたりの支度を頼む」
「はい、わかりました。もちろん馬車ですよね?」
「ああ、そうだな」とうなずくとマハルはお辞儀をして部屋を出て行った。
レオナルドは背中がくすぐったい気がしたが、国王となった以上そういうことにもなれなくては…はぁ…何だかとんでもない間違いをした気もしたが、もう後に引くことは出来ないからな…‥
レオナルドはこうもしてはいられないと瑠衣を起こすことにした。
「瑠衣?起きれそうか」
瑠衣は昨日のごたごたと激しい運動ですっかり疲れていたが、何やら熱い視線を感じて目を開いた。目の前にレオナルドの見惚れるような顔に覗きこまれているではないか。バシバシ瞬きをするとぱっちり目が覚めた。
いきなり心臓バクバク状態に陥った。
「おはようございますレオナルド…あの、わたし…もうやだ。そんなに見ないでよ」
「どうして?君は美しいのに…」
レオナルドの手が伸びてきて瑠衣の乱れた黒髪をそっと撫ぜ耳の後ろに押しやる。
「そうだ。わたし、シャワーを…」
こんなの…やだ。わたしまだ裸じゃない。気づいてまた慌てる。
「もう、レオナルド見ないで…」
「もうすべてを知ってるじゃないか。とってもきれいだよ瑠衣…また欲しくなりそうだ」
「…‥」瑠衣は足早にバスルームに駆け込む。
瑠衣はすっかり正気に戻った。熱めのシャワーを浴びながら彼とプリンツ王国に行くことを考えた。彼と一緒に過ごせるんだ。
そう思うとまた体の芯が疼いてきた。
やだ!
でも…もし何かあってまじないをかけるようなことがあったらどうしよう…聖女じゃないってばれたら?もうレオナルドはわたしを必要としなくなるかもしれない。
体を伝うお湯は熱いのに、ぶるっと震えがくる。
彼はこの国の国王になったのに…わたしはふさわしくないって言われたら?
もしイアスがいいって言ったら…でも彼女なら立派な王妃になれるかも…
レオナルドに拒絶されたらわたしは身を引くしかないじゃない。
どうしてわたしって、こんなに自分に自信が持てないのかしら…だってレオナルドはすごくイケメンで国王でこれからは欲しいものは何でも手に入るのよ。聖女じゃなくなったわたしなんか、何の価値もないかも知れない。
でも、お腹の子供は絶対に渡さないから…
レオナルドはテーブルのお茶を飲んでいるとドアがノックされた。
「レオナルド国王陛下おはようございます」ジャミルが入って来た。
「おはようございますジャミル宰相。わたしの事はもっと簡素に呼んでくっれないか?」
「はい。では陛下と、昨日はゆっくり休んでいただけましたか?今日から忙しくなりますので、朝食もしっかりお召し上がりください」
「ああ、それで、どのような手はずで?」
「はい、書簡は昨夜早馬で送りましたので、今朝議会の招集をしまして早速イエルク国王の退任とレオナルド・ヴェルデックを国王と認めることを閣議で承認しました。よって陛下が国の代表と言うことで付き添いの警護と一緒に馬でプリンツ王国に行っていただきたく思います」
「いきなりか?」
「もちろんです陛下。きちんとした手はずと整えて国王として行っていただくのが筋というものです。プリンツ王国も国王自らおこしとあれば話し合いもスムーズにいくはずです」
「そうだなジャミル。それで、瑠衣は?わたしは一緒に行こうと思っていたのだが」
「聖女様は女性です。馬で2日、それもかなりのスピードですので…馬車で行かれた方が楽なのではと思いますが…」
「ジャミル、昨日わたしが瑠衣と一緒に行くと言った時反対しなかったじゃないか。また、わたしを騙すつもりじゃないのか?」
「とんでもありません。昨日はあなたが国王にならないと言われたから仕方なく…もう国王になられた以上あなた様を騙すようなことは絶対にありません」
「では瑠衣が先に出発するのを見送る。瑠衣には絶対に安心できる手練れを付けてくれるんだろうな?」
「もちろんです。レオナルド国王も失うわけにはいきませんし、聖女様も同じです。おふたりとも我が国にとってはなくてはならない人なんですから」
「では、瑠衣が出発してからわたしは出発するからな。それで手はずは?」
ジャミルは食料の備蓄の寮やどれくらいプリンツ王国に援助できるかなどをいろいろ考えていた。それにアディドラ国に必要な石炭量や鉄鉱石、布を織る機会もあれば助かるし、その技術者にも来てもらいたい。などなど、色々助け合えることがあった。
これだけあればお互いの国の行き来も頻繁になるだろう。そのためにも獣人と人間との間の格差がないようにしなければ、レオナルドは獣人が人間と同じ扱いを受けるように話をしようと決めていた。そうなれば互いの国で働けるようにもなる。アディドラの獣人もプリンツ王国に働きに行くこともできるようになる。農業が出来ない冬の間はプリンツ王国に出稼ぎに行くことだってできるようになる。プリンツ王国も獣人を使えば力仕事がはかどることにもなる。
「ではジャミル宰相、1時間後に出発でいいですか?わたしは瑠衣を見送った後、すぐに馬でプリンツ王国に向かう事にする」
「はい、すぐに準備にかかります。陛下。警護は5人ほど付ける予定ですがもっと多い方がいいでしょうか?」
「そんなに多くてはプリンツ王国に警戒される。3人だ。それ以上はいらん。但し瑠衣には6人以上は付けてくれ」
「はい、もちろんです。ロンダ近衛兵隊長をお供に付けます」
「ロンダか、いいだろう」
レオナルドはロンダの腕を知っている。彼なら冷静で安心できるだろう。
瑠衣がシャワーから出てくると、昨日の着ていたドレスが置かれていた。それを着るとリビングに行った。
ドレス姿の瑠衣を見たとたんレオナルドの顔が、とろっと甘い顔に乱れる。イケメンのとろけた顔を見て瑠衣はまた体が火照った。
もう嫌だ…レオナルドったら…なによ。尻尾をぶんぶん振って…
「瑠衣、すごくきれいだ。体の調子はどう?」
レオナルドは瑠衣を抱きかかえるように腰を抱く。唇は耳元を行ったり来たりしながらわたしに吐息を吹きかけてくる。
「ええ、もうすっかり元に戻ったから」
「こんな姿を見去られたら我慢できなくなるじゃないか…瑠衣…ちゅっ!」
突然唇に吸い付く彼はもう爆発しそうな勢いで…
「もう、レオナルドったら、誰か入って来たらどうするのよ…」
突然我に返ったレオナルド。耳をしゅんと折り曲げ大人しく椅子に座る。
「それで赤ちゃんはどうだ?」
「うふっ、レオナルドったら、気が早すぎ。だって本当なら妊娠に気づくのは2か月くらい先だもの。まだ、何も変化はないから大丈夫よ」
「そうか、でも気を付けないとな。今は無理しないように…それでジャミルが瑠衣は馬車で行く方がいいと言ったんだ…‥でもきっと無理だよな。俺もそう思うんだから‥‥瑠衣は後から馬車でゆっくりプリンツ王国に来てくれ。護衛にはロンダ隊長を頼んだから安心だろう」
「そうなの、あなたと一緒じゃないのね…」瑠衣はがっかりした。
「瑠衣、さみしい?」
「もちろんよ。でもあなたは国王になったからそんな事言えないわよね」
レオナルドはたまらずまた唇を奪う。猛りを瑠衣のドレスにこすりつけ激しい絡み合いがしばらく続いた。
「レオナルドったら…」
瑠衣の唇ははれぼったくなって明らかに‥‥
「構うもんか!俺はいつでも瑠衣といたいんだから…プリンツ王国から帰ったらもうずっと一緒だからな」
一緒か…瑠衣はまた気が重くなる。
「ねぇ、レオナルド…もしわたしが…」
レオナルドの瞳はどこまでも優しく、ああ‥‥彼のすべてが愛しいのに…
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる