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32迷いは続く
しおりを挟むふたりはいつの間にか立ち上がっていた。
ダイニングルームの中で向かい合わせに立ったままだ。
突然セルカークがぐるりと回りこんで手を伸ばす。
ミモザの手を取ろうとしたがミモザは一歩下がって言葉に詰まった。
(どうしたらいいの?
本当の事を話すべき?
私はシルヴィの生まれ変わりだって?
そんな事言ったら彼は私を遠ざけるに決まっている。
何も知らないふりをして一緒にやって行ける?
何もなかったふりをして笑い合えるの?)
答えなんか出なかった。
「しばらく考えさせて下さい」
「ああ、わかった。好きなだけ考えてくれ」
セルカークは伸ばしかけた手をおろした。
「先生。実は私、明日ここを出て行きます。教会で仕事をするつもりなんです」
「どうして?ここでも仕事は出来るじゃないか!やっぱり。そんなに一緒にいるのはいやなのか?」
「そうじゃないんです。離縁出来た事。ここでお世話になった事。先生に助けてもらってすごく感謝してます。でも、このままずるずる一緒にいたら周りはどう思います?私たちは前からそんな関係だったんじゃあって思われるかもしれないんですよ。そんな風に先生を見られたくないから。だから一度きちんとした方がいいと思うんです」
「ああ、ミモザさんの言い分もわかる。でも、俺との事考えてくれるって言うのは確かなのか?」
「ええ、それはもちろん考えるつもりです」
「そうか。良かった」
セルカークはそれを聞いて安堵したらしく、またどさっと椅子に押し掛けた。
「だから私に時間を下さい」
「ああ、わかった。でも、無理はするな。俺はさっきも言った通りひどい男だ。自分でもこんな気持ちになったことが今でも信じられない。でも、やっと一歩前に進みたいって思った。もちろん死ぬまでシルヴィへの罪は消えないと思う。でも、君への想いも大切にしたいと思う。ミモザさんはこんなのおかしいと思うか?」
「いえ、ちっともおかしいとは思いません。誰だって幸せになる権利はあると思います。例え過去に過ちを犯したとしても‥そんな事を言ったら罪人はどうなるんです?罪を犯した人はすべて不幸のままでいなくてはならないって事になりますよ。過去は過去としてそれを受け入れてそして前を向いて行くしかないんじゃありませんか?私だってそうです。あんな夫や義理父にされたことを考えればあなたと一緒にやって行けるとも思えません。でも、あなたはそんな私を好きだと言ってくれた。それって奇跡かも知れませんから」
ミモザは自分で言ってそうだと気づく。
セルカークが私を好きだって。私だって汚されてきれいじゃないのに…
それでもあなたは私が好きだと言うの?
途端に羞恥が身体中に沸き上がる。
「先生。私、やっぱり無理です。私は教会で働くんじゃなく修道女として生きて行こうとたった今決めました。どうか、許してください。私はあなたにふさわしい女ではないんです。先生は優しくて私ったらそんな事すっかり忘れていました。すみません。もう出て行きますね。本当にありがとうございました。お世話になった事一生忘れません」
今度こそセルカークは躊躇なくミモザの手を取った。
「何を言ってるんだ?そんな事を言ったら俺の方こそミモザさんにふさわしくないだろう?そんな事俺は何とも思っちゃいない。そんな野良犬に噛まれたような傷なんか気にする必要がない。もっと自信を持って生きて行けばいい。ミモザさんは何も悪くはないんだ。だからすぐには無理でもしっかり考えてほしい。どうだろうか?」
セルカークの目は真剣でその眼差しは熱を持ちミモザの心を焦がした。
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