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第一章 転移、そして自立
第一話 出会い
しおりを挟む天下泰平の令和もそろそろ怪しくなってきたが、このお話は、昔々のお話です。
昔々、世の中が天下泰平と呼ばれた元禄の時代よりさらに昔、元禄からもざっと100年ばかりの昔、後の世に戦国時代と言われた頃のお話です。
時は応仁の乱より始まった、世に言う戦国時代もそろそろ終盤に差し掛かった頃の永禄7年の春、場所はというと、伊勢の国、今の三重県桑名市の郊外あたりの浜に一人の少年が倒れていた。
身なりがボロボロで、全身ずぶ濡れの状態、遠目から見たら土左衛門(打ち上げられた水死体)に間違われてもやむを得ない。
そのためか遠くに居る漁師などはかかわり合いを避けてか、見なかった、気づかなかったように振舞っていた。
まだ生きてはいるのだが、もし、このままずっとほって置かれたら、本当に死んでいたのかもしれなかった。
そこに、托鉢(たくはつ)の帰りか、一人の修行僧が浜を長島の方へ向かって歩いていた。
修行僧は、お坊さんの卵、さすがに死体かも知れない少年を放っては置けずに、少年に近づき、声を掛けた。
「もし、そこの坊、大丈夫か」
声を掛けられたが、まだ、少年は動かずにいたので、修行僧は少年をよく観察した。
その少年は息をしており、微かに胸のあたりを上下させていた。
「良かった、まだ、この坊は生きておる」
と独り言を放ち、今度は少年を優しく揺らしながら、
「そこの坊、起きられるか。大丈夫か」
優しく揺らされた少年は、意識を戻し、ゆっくり目を開けた。
「ん、ん、う~ん、へ??
ここはどこだ」
今度はゆっくり起き上がり、そばにいた修行僧を見つけた。
先程まで、揺らしながら、俺のことを助けていてくれたようだった。
それに気づくと、まずお礼を言わないとと思い、
「あの~、なんだが助けていただけたようで、ありがとうございました。
で、失礼とは思いますが、あなたはどなたでしょうか?」
「その方、何やら面白い話し方をするな。
わしは玄奘(げんじょう)と申す、近くにある願証寺で修業中の僧だ。
何、わしはそなたを揺すって起こしただけで、助けたというような大げさなことはしておらん。
気にするな」
「それは、それは、なんといっていいやら。
失礼ついでに、いくつかお教え願えないでしょうか?」
「その方、本当に面白い話し方をするな。
このあたりの出ではあるまい。
で、何を聞きたいのじゃ」
「ありがとうございます。
ここは、どこなんでしょうか。
全く見覚えがないのですが」
「これは、また、不思議なことを聞いてくる。
ほれ、先程も言っただろ。ここは伊勢長島にある願証寺の近くの浜だ。
長島というより桑名の港のそばと言ったほうが分かりが良いかな」
「伊勢長島、桑名……
それじゃ~、ここは三重県にある長島sランドの傍そばなんですね」
「なんじゃ、何をわけのわからん事を言っておる。
何なんじゃそのスパなんたらというのは、そんなもの、このあたりにはないわ。
その方、どこぞと勘違いをしておるんじゃな」
「え、え、あの有名なsランドを知らないの、東京に居た俺でも知っているんだから、絶対に地元じゃダントツ有名スポットのはずなのにな~」
「何をわけのわからんことをさっきから言っておる。
それより、その方の名はなんという」
「あ、これは大変失礼しました。
私は、東京のM大学に通っております孫空(まご ひろし)と申します。」
と言って立ち上がり、玄奘に向かって頭を下げ、そして頭を上げた。
そして気がついた。玄奘さんはとても巨人だった。
身長172cm中肉中背の俺が対面し、玄奘さんの胸よりやや下に目線があった。
どう考えても玄奘さんは2mは優に超えた巨人と思われた。
が、なんだかおかしいことにも気がついた。
次の瞬間に俺は大声を上げて驚いていたのだった。
「なんで、何なんだ、なんで俺が縮んでいるんだ。
まるで少年じゃないか。
これではまるで、名探偵?ナンじゃないか。
俺、薬なんか飲んではいないし、おまけに取引現場なんか見ていないよ。
一番重要なことは、なんとか蘭という美少女に知り合いなんかいないよ。
なんかずるくない?」
「オイオイ、坊、空といったか、ちょっと落ち着け。
何訳も分からずに騒いでおるのだ」
玄奘さんになだめられ少し落ち着くと、やっと周りが見えてきた。
そして、また驚いた。ここ絶対に三重県じゃない。
地理の教科書で習った時には、このそばにあるはずの工業地帯が全く見えず、目の前には本当に綺麗な海が広がっていて、遠くにありえないくらいボロい漁船らしき船が網を引いているのが見えた。
気持ちを少し落ち着かせて、再び玄奘さんに聞いた。
「何度もすみませんが、一体今はいつなんですか。
日付を聞きたいのですが」
「卯月の10日あたりかの。
弥生よりも前の季節だったら、あの状態でずぶ濡れで倒れていたなら、とっくに死んでおったぞ」
「イヤイヤ、そうじゃなくてですね。
今は何年なのですか」
「え~、また、随分変なことを聞いてくるものだな。
そちは、どこか良い所の出か、さもなくば拙僧と同じ寺の関係者か。
ま~良い、今は永禄7年だ」
「え、え、え、永禄ですか。
そうですか、なんとなくわかってきました。
え~、そうですか、そうですよね。
え~、え~、なんとなく思い出してきましたよ。
これは夢ですか、夢ならどこから夢なんだろう。
トラックに跳ねられた辺りからなのかな」
「夢なんかじゃないだろう、それよりそちは何者なのだ。
話しぶりがこの地の者とは違うし、話の様子からどこぞで十分に教育を受けていたように見受けられる。
それに先程大学と言っておったな。
中国の古典にも詳しいのか」
永禄年間と言ったら、確か戦国も終盤あたりだったか、おれの大好きな戦国の英雄たちの活躍した時代だよな。
今、玄奘さんが中国の古典といったが、……そうだ、確か四書五経の一つに大学があったな。
あの有名な論語なんかも四書の一つだったような。
そもそも、この時代に大学と名のつく学校はなかったよな。
日本で一番古い学校が足利学校だったようなことを習った気がするぞ。
俺、理系なもんで。自分の好きなこと以外には地理や歴史はちょっと苦手かも。
復唱すると、この時代には学校はあっても大学はないのだな。
夢かもしれないが、もし、もしだよ、本当にラノベ展開だったら、間違えると大変だよな。
ちょっと気をつけて話をしよう。
まず、現実の問題として考えよう。
助けて頂いた玄奘さんに今、出自を聞かれているんだが、どうしたものか……。
すると、玄奘さんが、
「何やら訳ありか、訳ありならばあえて問うまい。
それより、これからのあてがあるのか。
見たところ何らかの災難にあったようだが、どうするね」
玄奘さんって良い人だわ。
もし俺が女だったら惚れてしまいそう。
よく見ると、もげてしまえと言えそうなくらいのイケメンだわ。
でも、この時代のお坊さんは一部を除いて戒律で結婚できなかったのでは。
まて、長島と言ったら一向宗だったな。
あそこは結婚しても良かったんじゃなかったか、やっぱりもげてしまえ。
「玄奘様、大変申し訳ありません。
私自身、まだ頭の中に靄がかかったようで色々混乱しており、今は詳しく話せません。
最悪の場合には助けて頂いた玄奘さまに多大なご迷惑をお掛けするやもしれません。
今しばらく落ち着きましたら、お話しさせていただきます。
このような状態で、詳しく私のことをお話ししないうちに大変不躾なお願いで申し訳ありませんが、私自身、先ほど玄奘様のご指摘のように身一つで打ち上げられていたようで、このあたりに知り合いがおりません。
どこかにとりあえず身を寄せるところなど、ご紹介頂けましたら幸いです」
「ほ~、やはり訳ありの身なのだな。
それでは身を寄せる所はないものも当然だな。
ある意味ちょうど良かったのかもしれない。
拙僧が、とりあえず身の寄せるところに案内しよう」
「ありがたいです。
でも、俺のように怪しいものが行っても大丈夫ですか。
玄奘様にご迷惑をおかけしませんか」
「大丈夫だ、先ほどある意味ちょうど良かったとも言ったであろう」
「ちょうど良かった??」
もしかしたら、ちょっとやばいかも、この時代の日本にも奴隷はあったよな、それも海外に売り飛ばされる危険もあったような。あんなに人の良さそうな顔をして案外悪人かも。
やっぱりもげろだ。
「何やら、その方、勘違いしてそうだから、そこに向かう途中に説明しようかの」
「ありがとうございます。
何分、全く不慣れなもので、よろしくお願いします」
「何が不慣れだ。10歳くらいの子供の喋り方ではないぞ、ある意味その方の方が不気味だが、ま~良い。
追々身の振り方を決めて行けば良い。
我も、お師匠様に救われた口だからな。
で、さきほど言っていたちょうど良かった話だが、先日つい10日ばかり前に同じように浜で訳ありの御仁を保護したのじゃ。
何やら訳ありというか海賊衆から逃げているようだったのでな、我がこの地についた時に住んでいたあばら家にとりあえず保護をしたのじゃが、どうやら日の本の人じゃないようなのだ。
それで、この地の人とうまく交われずに困っておったのでな。
少なくとも坊は日の本の出身だろ。
彼女たちの力になってやってくれまいか」
え、外国の方。
俺英語は苦手なんだけれど、……そうだこの時代には英語はまだいらないんだ。
ん~~~と、中国語とポルトガル語だったか、それならば、……英語よりダメだわ、どうするよ。
「何に心配しておるのだ。
大丈夫だ、張さんは西国の訛りはあるが流暢にこの日の本の言葉を話せるし、珊さんは張さんに教わってか、挨拶程度は話せるから、とりあえず言葉は通じる。
心配なのは、彼女たちが日の本の暮らしに慣れていないことだ。
西国からここまで間にもかなりの苦労をしたようで、この地の者にもなかなか馴染んではおらぬ。
今後生きていく上で心配になってな。
その方は頭も良さそうだし、悪い人が近づかないように、この地の者と上手く交われるように彼女たちを我の代わりに助けてやって欲しい。
もちろん、我も助けるようにしているが、我は最初に説明したように修行僧の身、なかなか自由にならないことが多く、彼女たちを助けるまでに至ってないんでな。
その方に頼みたいのだ。
だから、ちょうど良いといったのだが、理解してもらえたかな」
「玄奘様、わかりました。
彼女たちに会ってみなければわかりませんが、私も助けてもらう身なので、できる限り玄奘様のご要望に添いたいと思います。
しばらく、よろしくお願いします。」
玄奘様としばらく海岸から離れ、林の中に入っていった。
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