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第一章 転移、そして自立
第四話 初めての炭作り
しおりを挟む食事のあと、と言っても焼き魚を1匹食べただけだが、まだ日もあったので、俺は作りかけの窯を作りに川原に向かった。
なんと今度は張さんと珊さんが一緒に付いてきて、窯作りを手伝ってくれることになった。
人情のありがたさをひしひしと感じた。
そういえば食事の時に珊さんは、魚を4匹捕まえてきて俺に1匹を分けてくれ、自分用に2匹を食べていた。
前の食事の時は1匹しか食べてなかったので、本当に自分のための分を惜しげもなく俺に分けてくれたのだった。
お二人には本当に感謝しています。
是が非でも窯作りを成功させ、生活を安定させることを心に決した。
「お、お、俺、どう、何を、する、いい」
「あ~、珊さん。俺がなかに入りますから上から順番に石を積んでいってください」
「私に、手伝えることありますか」
「張さん、ありがとうございます。
汚れ仕事で良かったら手伝って欲しいのですが、泥で汚れますよ」
「私は構いませんよ、で、何をしましょうか」
「ありがとうございます。
では、あそこにたくさんある泥を、こうして丸めて、たくさん持ってきてください。
中から泥で石を固定します」
「分かりました、こんな感じかしら」
「そうです。十分です。
それをできるだけ沢山持ってきてくれますか」
などと言いながら、周りが暗くなるまでみんなで楽しく窯を作っていった。
なんと、今日中におおよその形は出来ていた。
明日は外側から泥を塗たぐり、乾くまで待てば一応の完成だ。
周りが乾くまでの間、と言っても今の陽気ならば2~3日くらいだろう。
それまでの間できるだけ林の中を探して、炭になりそうな木を集めていった。
ついでに炭を作るのに必要な燃料となる枯れ木も探していった。
二日後には窯は完成していた。
燃料も炭の原木?も集まっていたが、まだまだ釜の中には空間がたくさんあった。
このまま炭を作っても良かったが、なんとなく空いた空間が気になり、ついでだと言って窯を作った泥を使って素焼き用のツボをいくつか作った。
泥を乾かして、窯に火を入れたのがそれから三日後だった。
ツボが乾くのを待っていたので、遅くなってしまった。
これなら空いた状態で、さっさと最初の炭焼きをして、様子を見れば良かった。
窯から出てくる煙の色が変化するまで、焚口に火をくべていくしかない。
これも舐めてかかっていました。
とにかく煙の色がなかなか変化しない。
用意していた燃料も心細くなっていく。
慌てて付近を探し、火を消さないようにして朝から日の沈むまで頑張った。
日も沈み用意した燃料もなくなったので、煙の色を確認しないで焚口を粘土で塞ぎ、とりあえずその日は寝た。
明朝、窯が冷えてから中に入り、確認を始めた。
手前に置いた素焼きの壷は半分が割れ、残りの半分は一部が生焼けだったが、とりあえず自分たちが使う分には使えそうなので取り出して使うことにしてみた。
で、肝心の炭だが、最初の試みは半分成功で半分失敗だった。
炭用に用意した材料のうち、きちんと炭らしくなったのが1/4だけだった。
残りは灰になったのや炭とは呼べない代物だった。
とりあえず出来た炭を取り出して、まず、自分たちで使ってみることにした。
使ってみてわかったことは、一応炭として使えそうだが、売るには品質が良くない。
俺は、つくづくこの時代を舐めてかかっていた。
現代知識について絶対的な自信があったが、この時代に本当に必要なのは知識に裏打ちされた技能だということを嫌というほど味わった。
知識と技能を比べたら、今の段階では技能に軍配を上げざるを得なかった。
でも今回の結果から、一応の光明を見た。
何度も作っていって技能を上げていけば、炭の商いの目が見えてくることがわかった。
あとは、飽きずに何度もトライすることだ。
当面はこの出来損ないの炭を自分たちの燃料として使うことにした。
でも、自分たちで炭を作ることができたことを張さんと珊さんは殊のほか喜んだ。
生活の糧を初めて持つことができたとのことだった。
しかしながら、売りものにするには、我々には必要とされる技能が著しく足りなかった。
この足りない技能を補うには、とにかく作り続けていくしかなかったのだ。
しかし、何度も炭を作るためには、材料の木の確保も問題だった。
折れたり枯れたりした木を探すのが、思いのほか手間が掛かった。
そのために必要な道具類が著しく足りなかった、いや、全くなかったのだ。
本当に物のない時代に、貧しい環境と来ていれば、道具を揃えるのが一苦労だ。
このため林の中を何度も探し回り、足で足りない技能と道具を補うしかなかった。
食料の確保については珊さんが受け持ってくれたので、俺は炭作りに専念できたのが救いだった。
なかなか材料の木が集まらなかったが、燃料については出来損ないが大量にあるのでそれを使えばよく、作れば作る程条件的には楽になっていく。
当然ノウハウも溜まり技能も上がっていくし、このまま今のことの繰り返しだ。
相変わらず壺作りも継続させているが、こちらについてもあまり状況は変わらなかった。
所詮ついで仕事である。
いずれは焼き物にも挑戦していきたいが、今はこのままついで仕事を続けていく。
出来そこないだが、つくる壺にも使い道があるのだ。
もう少し余裕が出来てきたら海水で塩を作りたかったので、塩を作るために壺が欲しかったのだ。
知識のチートがあっても、実生活に役立てるには本当の意味での智慧が必要になると、この時ばかりは痛烈に感じている。
とにかく地道に行くしかない。
炭作りも2週間が経つ頃には、どうにか売れる炭も貯まり出してきた。
今度は出来た炭を如何にして金に変えるかという問題に直面した。
商人の知り合いはいない。
ラノベでのお馴染みの万能のギルドはあるはずもなく、むしろギルドの日本語訳である『座』が問題になってくる。
閉鎖的環境で、新参のもの俺達が商売ができないのだ。
この時代ならば観音寺や清洲あたりが有名な楽市楽座の政策をとっているはずなので、そこまで行ければ商売ができそうだった。
いやちょっと待て。清洲はまだ楽市楽座の政策は取っていなかったのでは。
それでは観音寺まで行かなければ商いはできないことになる。
それはまずい、観音寺はここからでは遠すぎる。
高額の商品ならば行く価値もあるだろうが、品質面で妥協せざるを得ない木炭では赤字になってしまうので、観音寺での商いについては諦めるしかなかった。
何とかして別の方策を考えなくてはならない。
そんなこんなで、色々試行錯誤を繰り返しているうちに時間ばかりが過ぎていく。
そんな時にひょっこり玄奘さんが現れた。
我々の様子を見に来てくれたのだった。
「どうにかなっているんだな。
その後になにか変わりはないか」
「あ、玄奘様、いらっしゃいませ。
はい、皆元気に暮らしてますよ」
「何か、困ったことなどあるかな。
できることは限られているが、できるだけ力になるぞ」
「あ、玄奘様、いらしていたのですね」
「お~~、空か。
元気そうだな」
「おかげさまで、元気に暮らさせて頂いております。
あの~~、玄奘様に見てもらいたい物があるのですが」
「何かな」
「これです」 と言って、部屋の隅に積んである木炭を見せた。
「何かな、炭ではないか。
これが何かな」
「はい、これは自分たちが作った炭です。
玄奘様に相談というのは、この炭についてなのですが」
「この炭がなんだというのだ」
「はい、自分たちは、この炭を売って生活の足しにしたいのですが、その売り先についての知識を全く持ち合わせてはおりません。
この炭をお寺で買い上げてもらう訳にはいかないでしょうか。
近隣の相場の半分の価格でもいいのですが」
「何、相場の半分とな」
「はい、つきましては、その際に条件としてお寺の門前市にてこの炭の商いも許してもらいたいのです」
「ん~~~~、我だけではなんとも言えぬな。
僧堂長の霊仙師匠にでも聞いてみるか」
「ありがとございます。
玄奘様のご師匠さまにお聞き下さるのでしたら、この炭を幾ばくかお持ちしますので、現物を見ていただいて判断してもらいたいのですが」
「それは良いな。
炭を持って寺に行くとするか」
「炭、お、俺、持っていく」
「珊さん、ありがとうございます。
俺も一緒に行きますので、背負子1つ分の炭を持っていきましょう」
「それなら私も行きます。
まだ、珊さんの言葉が怪しくなることがありますゆえ。
みんなで玄奘様の修行しているお寺まで行きましょう」
「そうだな、今から行けば、今日中には、ここに戻って来れそうだしな、すぐにでも出発しよう」
背負子に炭をいっぱいに積み込んで、玄奘様について願証寺にみんなで向かった。
林を出るのは玄奘さんに助けられて以来で、本当に久しぶりのことであった。
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