名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第一章 転移、そして自立

第十話 俺の決意

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 夜になって、明日向かう願証寺門前で売る炭の準備を全員で行った。
 葵や幸がここに来てからすぐに寝具用にと作った筵むしろと、自分たちの使っていた筵を利用して炭を入れる俵をこさえた。
 そこに炭を入れ運べるようにできたのは、かなり遅くなってからだった。

 この小屋は囲炉裏があり、そこで薪を焚いていたので、明かりには辛うじて困らなかった。
 転生前の俺が寝る時につけている常夜灯のほうが明るかったように感じたが、今の人たちはこれで十分に作業ができるようだった。
 俺、俺か。俺も頑張ったが、はっきり言って足手まといだったよ。
 でも、作業はしっかり済んだ。

「へ~、結構あるもんだね」

「私も驚きましたよ。
 まさか5俵にもなるなんて。
 筵がなかったからここまでしか作れませんが、もう1俵くらいはできそうでしたね」

「これ、全部運ぶの。
 どうやって?」

「そうですね。珊さん3俵とも背負子に縛り付けて運べますか」

「お、俺、それ…大丈夫。
 俺、運ぶ」

「ありがとうございます。
 残りの内の1俵は、もう一つの背負子に縛って張さんお願いできますか。
 最後は私が何とかします。
 そこにあるロープじゃなくて縄を使って背負うようにします」

「大丈夫?、私はいいから2つ運びましょうか」

「多分大丈夫だと思います。
 それこそ葵と幸に手伝ってもらいながらでも運びます。
 みんなで売りに行きましょう」

「「私たち、空さんのことを手伝う」」

「ありがとう。
 さ~、明日は早くから移動するから、もう寝ましょう。」

 翌朝はよく晴れた穏やかな朝だった。
 よかった、これならば、余計な苦労をせずに運べるな。
 俺らは固まって移動を始めた。
 当然少し遠回りになりそうだったが、最初の印象が悪かった桑名の町は避けて移動した。

 桑名でも売り買いはしないといけないんだろうが、当面は避けたい。
 今は余計なトラブルを避けて、目立たないことが大切だ。
 早く力をつけ、そこいらのごろつき程度ならばどうにかできるようにしないと。まだまだ課題は多い。

 少しの遠回りと幼い?少女の足、それに俺の体力のなさが重なって、昼過ぎにやっと門前の町についた。
 早速、許可をもらっている場所に炭を並べ商売を始めた。

「張さん、ここをお願いできますか」

「なに?、空さんは何するの」

「はい、俵を一つ持って上人様にお願いに行ってきます。
 みんなと一緒に炭を売り切ってください。
 値段は任せます。
 先日の上人さんとの会話で、このあたりの相場は銀1匁半といったところでした。
 今度は長さもそろっておりますので、2匁あたりから適当に下げてでも売り切ってもらえると嬉しいかな。
 帰りにコメを1俵買えればいいんで、お願いします」

「わかったわ、任せて頂戴。
 これでも私商家の娘だから」

「ではお願いします。
 珊さんもよろしくお願いします。
 珊さんがいれば変な連中は寄ってこないと思いますが、何かあれば遠慮なく上人様の名前を出してください。
 葵と幸も手伝ってくれ」

「わかりました、任せてください」

 俺はみんなに炭の販売を任せ、寺の中に入っていった。
 俺のような童がいきなり上人様に普通には会えるはずはなかったが、上人様に近い寺男に面識があるので、まずその寺男を探した。

 すぐに彼を見つけることができ、事情を話し上人様を呼び出してもらった。
 比較的すぐに上人様にお会いできたので、持ってきた炭を俵ごと上人様に渡し、自分たちの作った炭を現物で喜捨(きしゃ)した。

「上人様、早速頂いた大工道具を使って、前回よりはよくできた炭を喜捨させて頂きます」

「ほ~、確かに前回のよりは断然に出来は良いな。
 で、それだけが目的じゃないだろ。
 なんだ、その目的は」

「はい。早速で大変恐縮ですが、前回お会いした時の上人様のお言葉を頼りに、自分たちだけじゃ解決しそうにない件でお知恵を借りに来ました」

「ん、なんじゃ。少しややこしそうだな。
 分かった、わしに付いてこい。
 ここでは人目もあろう」 と言って、上様はご自身の部屋に向かっていったが、急に立ち止まり、すぐそばのお堂に入っていった。

「部屋よりも、こっちの方がよいじゃろ。
 ここの方が誰にも聞かれない。
 で、何だ。そのややこしそうな話とは」

「はい。まず問題のお話をする前に上人様に宣言?というか、私の気持ちから聞いてもらいます」

「なんじゃなんじゃ、えらく雰囲気が以前とは違うな。
 ま~、え~か。
 その気持ちとやらを聞かせてみ」

「はい、色々と玄奘様や上人様に助けて頂いており、私たちは生きながらえております。 
 とても感謝しておりますが、私は一向宗には帰依はしません。
 いえ、どの宗派にも、どの教えにものめりこむような真似はしません。
 お世話になっておりながら、とても失礼な事を言っていることは理解しております。
 そのうえで不躾どころか無礼にも当たるやもしれませんが、上人様や玄奘様を利用させていただきたくお願いに上がりました」

 しばらく、俺も上人様も無言であった。

「ん、続けなさい。
 そのようなことを言ってくる理由くらいは聞かせてくれるんだろうな」

「はい。私はまだ詳しくは話せませんが、今まで受けてきた教育から宗教のあり方について、自分なりの考えがあります。
 うまく表現はできませんので詳しくは話せませんが、先日の本多様との会話や今まで見分してきたことから、少なくとも今の一向宗についていくことの危険を感じております。
 しかし、私たちは非力であり、色々な方の庇護を必要としていることも事実です。
 なので、先日上人様がおっしゃってくれた最大限の協力という言葉を頼りに、できる限りの庇護をここから引き出したいのです。」

「ん~、やはりお主は鳳じゃったか。 
 でも、まだ青いな。
 そんな正直な気持ちなんぞ言わずに、素直に頼ればよいのにな。
 ここでもしワシが気分を害して話を聞かずに立ち去ったら、いや、無礼として空を捕まえさせ門徒どもに引き渡したら、どうするつもりじゃったかな」

「何もしません。
 そうなれば成り行きに従います。
 自分の人を見る目のなかったことを悔やみながら」

「お主は脇が甘いというか、まだまだ青いな。
 そんな甘い考えで、この乱世を皆を守りながら生き抜いていけるのか。
 かっこよく死ぬことよりも、無様でも生き抜く選択をせんか」

 最後はややお叱り気味だったが、俺は言い訳をさせてもらった。

「上人様。俺はかっこよく生きていこうなどとは少しも思っておりません。
 ましてや、かっこよく死んでいこうなどとは、それこそ死んでも考えません。
 俺はただ、信には信でこたえたいのです。
 真っ当に俺のことを扱ってくれる上人様や玄奘様を信じたのです。
 信じたら俺の真心で向き合っていきたいのです。
 それが俺の信じる宗教と言い換えてもいいかもしれません。
 自分を偽って上人様や玄奘様を騙していくことなど考えられません。
 だからと言ってお二方が信じている宗教に帰依もできませんし、したいとも思いません。
 なので、今までのお礼とこれからのお付き合いについて、一度けじめをつける意味で現在自分にできる範囲で喜捨をさせて頂きました。
 俺が先人から教わって、大切にしていることがあります。
 『信用は得るには相当の努力と忍耐が必要だ、しかし失うのは一瞬でできる、ただ裏切ればいい。
 信用の厄介なところは、失った信用を再び得るには新たな信用を得るよりも数百倍の努力と忍耐を要す。
 それでも多くの場合、再び信用を得ることはかなわないだろう』という言葉です。
 俺は、この言葉を大切にしたかったからなのです。
 だから最初に正直に話させてもらいました。
 また、誰にでもこういった態度では望みません。
 相手が信にあたらない奴や、明らかな敵には俺は容赦しません。 
 どんな卑怯な手を使ってでも、また、相手を殺すことも多分躊躇わないでしょう。
 ですから、上人様のご心配には及ばないかと思います。
 保護した人たちは俺のできる範囲で、いや、絶対に守って見せます。
 どんな卑怯な手を使ってでも、それこそ邪鬼に身を預けようとも、守る覚悟はあります。
 俺は、先日の本多様との会話で上人様から教わったことで覚悟を持つことができました。
 ある意味、これが聖人様の教えに繋がっているのではと、勝手に思っております」

 また、二人の間には沈黙が支配した。

「空、お主の覚悟はわかった。
 お主がワシに信で臨むのならばワシも信で臨まなければならないな。
 お主の覚悟は、分かったから、もうよい、そろそろ本題を話せ。
 ワシに何をさせたい。
 何が問題なのじゃ」

「はい、俺は……申し訳ありませんでした。
 力が入り過ぎて上人様に失礼な物言いとなり、自分でも言いたい事が分からなかったようでした。
 私は、上人様にお知恵をお借りしたいのです。
 今私たち5人は、玄奘様の用意してくださった小屋に寝泊まりをしております。
 もともと玄奘様おひとりで住まわれていた場所だったとかで、3人の時でぎりぎりの広さでした。
 5人で住むには狭く、私や葵や幸が少しでも成長したならば、寝起きもままなりません」

「ん~~、帥たちの住処か。
 それは困ったな。
 あいにくワシには、一向宗関連の場所しか思い浮かばないのでな。
 ワシはお主たちをできる限り一向宗の関係する場所から遠ざけておきたいのじゃ。
 いつ何時ここが昨年の三河のようになるともわからないし、隣の織田殿の軍勢がいつ押し寄せてくるかも心配なのじゃ。
 困ったものじゃな」

「いえいえ、上人様。
 今日伺ったのは住む所の無心じゃないんです。
 誤解をさせてすみませんでした」

「ではなんじゃというのだ」

「はい。私たちも困っていたところ、偶然にも今住んでいる場所からさほど遠くない場所に、廃寺を見つけました。
 廃寺というより、一時的に放棄していた寺だったように感じます。
 かなり立派な寺ですので、そこに住まおうかと考えております」

「廃寺か。場合によってはち~とばかり厄介かもしれないな。
 ほかの宗派から文句も付けられるかもしれんしな。
 ん~~」

「上人様。すぐには住める状況ではないので、今回の商いで米などを買って帰り、全員で住めるように整えることをするつもりです。
 で、問題なのが、この廃寺が少しおかしいのです」

「おかしいとな。
 何がおかしいと言うのじゃ」

「はい。この寺は発見した時には草木で覆われ、人の侵入を拒んていたようでした。
 およそ100年くらいは人の出入りはなかったかと思われます。
 なので、ほかの宗派からの文句も今は心配はしておりません。
 我々が心配しているのは、野盗やら土地の権力者やらに見つかった場合です。
 野盗ならば撃退することでどうにかなるやもしれませんが、土地の権力者に見つかった場合に因縁をつけられて追い出されることを恐れております。
 できましたらこの寺を我々で整備しますので、見かけ上一向宗の寺、この願証寺の末寺に見えるようにできないかと相談に伺いました。
 しかし先にも言ったように、一向宗に寺毎加わるつもりは一切ないのです。
 なので、上人様のお知恵をお借りに来たわけです。
 無理でしたら、我々はここを諦めます」

「ン~~、確かに難しそうだな。
 考えさせてくれ」 と言って、上人様は難しそうな顔をして腕を組んでうなり始めた。


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