名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第一章 転移、そして自立

第十一話 玄奘様を廃寺に

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 俺は門前で炭を売っていた仲間と合流し、上人様の計らいで以前に泊めていただいた宿坊に再度泊めていただいた。
 上人様にお願いしたことは、すぐに結果が出るものでなし。
 どうにかなったら「ラッキー」くらいの気持ちだったので、翌朝には俺らの小屋に帰っていった。

 門前で張さんたちが頑張ってくれたようで、炭は全部売れ、そのお金で米2俵と副食材として干物、それに塩を買うことができた。
 それらを来たとき同様に全員で手分けして持ち、今度は堂々と桑名の街を通って帰った。

 小屋に着き荷物を降ろし、 「当面は買った食料があるので、全員で見つけた寺を住めるようにしていきたい。
 明日からは前のように全員で寺まで行って、手分けして作業をしていこう」

「早く住めるようになるといいですね」

「住めるようになっても、一度玄奘様にその寺を見てもらわないと引越しはできないよ。
 もっとも、そう簡単には住めるようにはならないと思うけれど、できることを一つ一つ地道にやっていくしかないし」

「それもそうね、頑張りましょう。
 でも、なんだか楽しくなってきたわ。
 なぜなんでしょうね」

 気持ちみんなの表情は明るくなってきている。
 衣食住のうち、当面の課題である食住の二つに目処がつきそうなのが希望を与えているのだろう。

 翌朝食事をとってみんなで寺まで行き、最初に住めるように宿坊から掃除を始めた。
 珊さんは宿坊の外回りを担当してもらい、建家に張り付いている蔦などの植物を取り除いてもらった。
 張さんは葵と幸を連れて、まず厨周りを使えるまでにしてもらった。
 俺は境内に入り、宿坊までの雑草を処理しながら寺の他の施設を観察していった。

 当然1日で作業が終わるわけはなく、なんとか住めるかなというレベルになるのに3日は要した。
 寺の作業に掛かり始めて4日目の朝に、玄奘さんが小屋を訪ねてきた。

 良かった。行き違いになるところだったが、玄奘さんが朝の早いうちに訪ねてきてくれたので合流できた。
 なんでも玄奘さんは昨日の昼過ぎも訪ねてきてくれたのだが、当然全員が出払っていて行き違いだったので、今朝は早くにここに来てくれたそうだった。
 玄奘さんを案内して寺まで来た。

「玄奘様。俺たちはここの宿坊跡にしばらく住もうかと思います。
 今全員で住めるように周りを片付けていることろです」

「かなり古いようだが立派な寺だな。
 こんなところにこんな寺があったなんて、俺は知らなかったよ」

「はい。俺らが見つけたのは全くの偶然でした。
 ほとんど周りを草が覆い、建物を見分けることはできない状態でした」

「では、どうやって見つけたのだ。
 この寺がここにあるのを知っていたわけではあるまい。
 こんな状態では、探さない限り見つけるのは困難だ」

「全くの偶然でした。
 炭の材料となる木を探して林の中に別け入ったところ、偶然にもそこの塔の先端部分を見つけ、中に入れる場所を探して寺を見つけた次第です」

「仏様のお導きか…」

「そうだ、玄奘様。玄奘様がこの寺のご住職となるわけには行きませんか。
 我々だけでここを占拠している訳には行きますまい。
 この辺りの豪族連中にでも見つかれば厄介なことになりそうなので、先日も上人様にご相談してきたばかりなんです。
 玄奘様がご住職としてこの寺におられれば、一向宗の寺として豪族から扱われるかもしれません。
 もしそうなれば、予想される厄介事の多くが解消されることでしょう。
 考えて貰う訳には行きませんか」

「それは無理だ。
 俺は修業中の身だ。
 仮に上人様のご推挙があっても、この寺は立派すぎだ。
 俺とは格が合わない。
 それより、この寺のことは上人様もご存知なのだな」

「はい。先日炭の商いに門前に伺った折にお会いして、ご相談させて頂きました」

「して、なんと」

「すぐには判断できないとおっしゃられてました」

「別の格のある僧を手配するにしても、この場所を直接見てもらわなければ格が合わないことになるぞ」

「その件で上人様にお願いしておりましたが、ここには別の僧の方は来て欲しくはありません。
 できる限り一向宗徒とは関わりたくはないのです」

「それはどう言うことだ」

「はい。上人様や玄奘様には助けて頂いた御恩は忘れませんし、感謝しております。
 しかし、今の一向宗の方たちには、ある意味危険を感じております。
 先日の本田様とのお話でもありましたように、いつなんどき暴発されるか判りませんし、それを抑える手立てもありません。
 私たちはこの乱世を生き抜くためにも、少しでも危険は避けたいのです」

「しかし、それでは……」

「もし長島でも三河の時のように暴発されますと、被害は三河の時とは比べ物にはならないくらいのものになります。
 暴発される時期にもよりますが、尾張の殿様が乗り出してくるとなったら、数万人が殺されることになるでしょう。
 織田の殿様は苛烈の方と聞き及んでおります。
 長島から一向宗徒がいなくなるまで殺戮を繰り返すかもしれません。
 そうなると、この寺も暴発に巻き込まれ、いの一番に潰されます」

「しかし、それでは…」

「私の理想としては周囲には一向宗の寺として写り、もし長島の一向宗が暴発することがあれば、時の権力者にすぐに明け渡し、こちらは暴発の意思のないことを示して粛清からは避けたいのです。
 それによってここを追い出されたとしても、命までは取られないと考えております。
 しかし、ほかの方がここに入り一向宗の寺として機能していたのならば、長島の暴発の折にはここも一揆の拠点になることでしょう。
 三河での一揆がそのようだったと聞き及んでおります。
 それだけは絶対に避けたいのです」

「空の気持ちは良く判った。
 寺に戻り上人様と相談しよう。
 この寺を実際に見ておるし、格の問題もあるし、よくよく考えてもらうことにしよう。
 それで良いか」

「十分です。ありがとうございます、玄奘様。
 私の言っていることは、上人様や玄奘様の一向宗関係者にとって失礼で受け入れがたいことは重々承知しております。
 それでもあえて御恩ある玄奘様に無理を言っていることは、私自身心苦しく申し訳ない気持ちでいっぱいです。
 しかし、この乱世をみんなで生き抜くために私はあがきます。
 たとえ恩を仇で返すことになるとしても。
 でも後々切羽詰まった時になって、玄奘様を裏切るようなことはできません。
 なので、初めから気持ちを伝えておきたかったのです。
 申し訳なくはありますが、よろしくお願いします。
 仮にもうこれ以上協力ができないとなっても、恨むようなことは致しません。」

「空よ、そこまで重く考えずとも良い。
 我も一向宗の本山の意向はよう知らない。
 それに本山の意向に何が何でも従おうとは考えておらん。
 本山の意向が間違えているようならば、我は従わん。
 三河の一揆については本山の意向がどこまであったかはわからんが、少なくとも止めるようなことはなかったように思われる。
 今は長島がそうならないように、上人様や我がどこまで出来るかわからんが頑張っている最中だでな。
 どちらにしてもこの件は上人様と相談して見るから、しばらくは待っていてくれ」

「玄奘様。ありがとうございます」

 そう言って、玄奘さんは願証寺に帰っていった。
 俺はまた、今までやっていた作業の続きを始めた。
 明日からは、ここに引っ越してくることになる。

 もう少し頑張ろう。


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