14 / 319
第一章 転移、そして自立
第十三話 廃寺での生活
しおりを挟む張さんたちが帰ってきたが、上人様たちとは完全に行き違いとなってしまった。
「あ、お帰りなさい。
で、物はありましたか」
「ただいま。桶を数個と竹箒の小さいのをいくつか買えたわ。
あ~、それと荒縄も買ってきたから、これだけあれば井戸の掃除はできますよね」
「そうですね、縄があれば井戸の中に入れますし、桶と縄を結ぶことで井戸の中の溜まった水を一度汲み出せます。
準備が出来たら掃除しましょう。
あ~そうだった。ちょうど張さんたちと行き違いに上人様と玄奘様が訪ねてきてくれまして、しばらくしたら玄奘様がここを拠点としてくれるようです。
ここも賑やかになりますよ」
「会えなくて残念でしたが、それは楽しみですね。
私たちも覚悟を決めて、ここに根を下ろしましょうかね」
「それは大賛成です。
せっかく仲良くなれたのに別れるのは偲びないです。
是非そうしてください。
私に出来ることでしたらなんでも協力しますから」
「ウフフフ……、そう言ってもらえると嬉しいわね。
その時には、よろしくね」
「空さ~ん、見てみて」 と、庫裡を片付けていた幸が大声を上げてきた。
「なんだなんだ」 と言って、庫裡にいる幸のところまで来た。
幸は庫裡に続いている倉庫の中にいて、長いはしごを見つけたようだった。
「こんなの見つけたよ、これなんだかわかる?」
「これは、はしごだな。
幸ははしごを見たことなかったのか。
それもかなり長いやつだ、多分井戸の掃除の時にはこれを使っていたようだな」
「うん、初めて見た。
これ、使えるかな」
「傷んでいなさそうだし、使えるかもしれないな。
外に出してみよう」
珊さんに協力してもらい、長いはしごを外に出して点検を始めた。
長い間使われていなかったようだが、どこにも傷んだところはなかった。
「きちんと保存しておけば保つものだな。
下手をすると100年は使ってなかったものだぞ。
でも、使えそうだ。
気をつけて使ってみよう」
珊さんにはしごを井戸に下ろしてもらった。
長さがちょうど良く、しっかり底まで届くはしごだった。
「やはり、このはしごは井戸さらい用の物だったんだな。
いいものを見つけた。
デカしたぞ、幸」 と言って、さちの頭を撫でた。
幸はちょっと嬉しそうだったが、
「空さん、私のことを子供扱いしないでください。
年だってあまり変わらないのに」 と文句を言ってきたので、張さんが吹き出した。
その日は井戸の中を点検して終わった。
十分に使えそうだし水もあまりに濁ってなかったが、井戸さらいすることにした。
翌日総出で井戸の水を抜き、井戸さらいを行った。
かなりの重労働だったが、交代で井戸の掃除を終え、その日は終わった。
翌日からまた分かれて、張さんに葵と幸が手伝う格好で寺の中を順番に掃除をしてもらった。
落ち武者や野盗の類が怖かったので、珊さんに彼女たちの警護を兼ねて、寺の外回りの絡まった蔦などの処理をお願いした。
おれは別に急ぐわけでもなかったので、一人で炭を作っていた。
そんな生活をしていたある日、玄奘さんがたくさんの人を引き連れて寺までやってきた。
前に上人様がおっしゃっていた寺男にしては人数が合わない。
玄奘さんは後ろに男女20人くらい連れて寺に入ってきた。
以前に頼んでいた大八車2台に、米俵をいくつか載せていた。
寺に入ると玄奘さんは大声で 「空は居るか」 と怒鳴ってこられてた。
俺は炭を運んで帰る途中で、玄奘さんが怒鳴り声をあげるとほぼ同時に寺に入っていった。
流石にいきなりの人数に驚いたが、人の良い玄奘さんのことだ、きっと困っていた方を保護したのに違いないと思われた。
なにせ連れていた人たちは、17~8才の男の人が1人と同じくらいの女性2人、14~5才位の男の人3人、10歳くらいの女児5人、それ以下の女児6人と同じくらいの男児3人の、ちょうど20人の集まりだった。
「玄奘様、いらっしゃいませ。
この方たちは、俺と同じような方でしょうか」
「ん。ある意味そうだ。
この者は皆同じ部落の出でのう。
先の三河での一揆の影響でな。松平様がしきりに残党を探しておられる。
そこにもやりすぎはおってな、この者の住んでいた部落は一揆とは関係がないばかりか一向宗ではないのに松平衆の乱取りに会い、部落は全滅して親類縁者を亡くした者たちでな。近くの別の宗派の寺が一時的に匿っておったのじゃよ。
上人様がそれを知って願証寺に一時的に保護し、我にここへ連れて行くよう指示を出されたわけじゃ。
上人様が言うには、空がしっかりこの者たちを導いてくれるから安心して連れて行くが良いとな。
そうおっしゃって、急に人数が増えても困るじゃろうからと言って、持ち出せる限りの食料を持たせてくれたわけじゃ。
彼らが落ち着くまで、我も当分はここにおるでな、よろしく頼む」
「それでは玄奘様はここの副住職に御成になられて、ここを拠点になさるわけでは」
「あいにく、それはまだじゃ。
上人様の住職就任が先でないと、他の僧が入り込む危険があるそうじゃ。
それをひどく空が嫌っていることを上人様は良くご存知じゃ。
焦らぬことじゃ。
上人様に任せておけばよい」
「分かりました。
でも、しばらくは居て下さるのですよね。
それならば寺のことについて色々と教えてください。
今全員でこの寺の清掃をしておりますが、本堂や塔など我々で分からないところは手をつけられませんし、5人にこの寺は広すぎました。
連れてこられた方たちにお手伝いをお願いしても大丈夫ですか」
「それは構わん。
むしろ、どんどん指示を出してくれ。
上人様より、ここでは空の言うことに従ってくれと言われてきておるでな。
我も例外ではないぞ。
我も居る間はどんどん使ってくれ」
「流石に玄奘様をお使いする訳には行きませんが、色々とお願いはさせて頂きます。
それで勘弁してください」
「ハハハ……それで空がいいのなら我は構わん。
して、このあとはどうする」
「清掃が比較的済んでおります宿坊に皆さんをご案内します。そこでしばらくお待ち頂けますか」
「夕方には全員が揃います。
揃ったら食事の用意の前に紹介しますので、それまで宿坊で休んでいただき、旅の疲れを取っておいてください。
明日からは寺の清掃をお願いすることになります。
玄奘様がいらっしゃる間に本堂を使える状態までにしておきたいと考えております。
明日は玄奘様に本堂の清掃の音頭をとってもらいたく、お願いできますでしょうか」
「お。早速来たな。
大丈夫だ、任せておいてくれ」
「ではご案内いたします。
玄奘様も付いてきてください。
皆さんが安心致します」
「わかったわ。
お~い、聞いただろ。
宿坊で夕方まで一休みだ。
今日は夕食の用意だけしか仕事はないが、その時は手伝ってくれ」
「「「へ~い」」」
大八車を押しながら、みんなで宿坊までのろのろと移動していった。
「お~い、幸や」
「は~い」
宿坊の入口で幸を呼んで、みんなを清掃の済んでいる部屋に案内してもらった。
はじめはたくさんの人が急に訪問されているのを見て幸は驚いていたが、玄奘さんがいるのを見つけると安心して玄奘さんから順番に案内していった。
幸は玄奘さんに許可をもらって、年長の女性を数人井戸まで案内し、飲み水などの手配をしていた。
もうここは任せても大丈夫と確認し、俺はやりかけの仕事に戻っていった。
22
あなたにおすすめの小説
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
母を訪ねて十万里
サクラ近衛将監
ファンタジー
エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。
この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。
概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。
仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか
サクラ近衛将監
ファンタジー
レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。
昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。
記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。
二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。
男はその未来を変えるべく立ち上がる。
この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。
この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。
投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる