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第一章 転移、そして自立
第十五話 助けた二人
しおりを挟む小屋に寝かされた二人は、その晩起きることなく朝まで迎えた。
翌朝少年は起きだしたので、昨晩から準備してあった雑炊を食べさせた。
よっぽど腹を空かせていたようで、おかわり3杯を軽く平らげた。
ようやく一息がついて、やっと少年と話ができる環境が整った。
傷を負っていた男の方は、まだ起きる気配すらない。
これは最悪も考えておくしかないかと覚悟を決め、少年と向き合った。
ポツリポツリと少年は話し始めたが、人気のない林で怪我を負って動けなかった訳あり一行なだけあって、そう簡単には素性を明かしてくれなかった。
かなりぼかしてはいたが、少年は一緒にいた男とこの辺りまで見聞を広める旅をしていたそうだ。
このご時世に旅行などありえないので、なんとなく想像はついた。
かなり注意をしながら話してくれたが、それとなくカマをかけたら、おおよその出身が判明した。
ここより大和の方向へ行った山の中の出身だそうだ。
男の怪我は、以前の知り合いに襲われた時にできたものだそうだ。
人気を避けて林の中に逃げ込んだはいいが、そこで動けなくなってしまったのを俺が見つけ、保護した格好であった。
少年が周った街の様子など、話せる範囲で世間話を色々と聞かせてもらった。
かなり為になる情報も多数あった。
俺の認識は間違っておらず、今のところ俺の知る歴史通りというより、ゲームで得たこの辺りの情勢と同じだった。
これより南の地はこれといった有力者はおらず、バラバラと豪族が支配しているそうだ。
特に注意を引いたのが、南に下ったあたりに勢力を誇っていた水軍の一族で数年前に内乱があり、主家が負けて追い出されたということだった。
これは多分、九鬼嘉隆のことであろう。
永禄3年に本拠地を追い出され、そののち織田信長に拾われたはずだから、もしかしたら、まだこのあたりをうろついているかもしれない。
いつ織田方についたかは、わかっていなかったはずだ。
少なくともウィキペディアには、ぼかされていた。
それにしても、まだ小さな少年なのに、かなりしっかりしていることだ。
多分忍者の一族であろうことは容易に想像つくが、誰かまではわからなかった。
このあとも多分わからないだろうな。
でもそうすると、このあとの対応が問題なのだ。
こちらも脛に傷を持つ身で素直に素性を明かすわけには行かず、彼らを味方につけたらいいかどうか悩みどころだ。
どちらにしても、今横で寝ている御仁が助かればの話だ。
彼が助からなければ、少年だけでも保護しようと考えていた。
そろそろ昼になろうかという時間になると、心配したのか珊さんが小屋まで来てくれ、一緒に残り物の食事を取ることにした。
この頃は2食が常識というより、食料が不足気味のため食事回数が少ないのだが、全く間食を取らないわけではなかった。
少年と柵さんと一緒に半端な時間に食事を摂っていると、横で寝ている男が動いた。
もう少しすると意識が戻りそうだったので、起きたらすぐ食べられるよう水を加えてさらに薄くしたものを用意した。
離乳食というより病院食の重湯より少し濃いものを意識した。
それから1刻ばかり待つと、やっと意識を取り戻した。
まだ一人で起きるのが辛そうだったので、手伝って上半身を起こし、重湯を食べてもらった。
食欲はあるようだ。
これなら、しばらくすれば体力は回復しそうだった。
斬られた足が完治するかどうかは、医者でない俺にはわからない。
食事が済むのを待って、今度はその男の人と話を始めた。
最初に助けてもらったことを感謝されたが、当然のように身元を明かしてくれなかった。
訳有りの為身元の詮索は勘弁して欲しいと、はっきり言われた。
こちらも織り込み済みなだったので快諾し、話せる内容だけでも聞かせてもらった。
しかし先に少年から聞いた内容と大筋でほとんど変わらず、多少の追加情報を得たくらいだった。
お家騒動はやはり九鬼嘉隆のことだった。更に南に下って半島の南端あたりに雑賀衆がおり、近畿地方の戦に鉄砲傭兵集団として参戦しているなど、今起こっている戦乱の一端を聞かせてもらった。
持っている情報が田舎の人のものじゃない。
やはり情報を生業としている人たちなのははっきりした。
どうせ名前を聞いても偽名を教えられるので、あえて聞かなかった。
俺らについても聞かれたので、戦災孤児が集まって川原で炭を焼いて生計を立てているとだけ教えた。
そのため、この小屋には孤児が入れ替わりで出入りしたり、数日空き家になったりすることを、あらかじめ話しておいた。
明日から俺は街に炭を売りに行くので、しばらく小屋を空けると伝えた。
他の者が出入りするかもしれないが、気にせず居たいだけ居てもらってもいいと話してある。
一旦珊さんを連れ、道中警戒しながら寺まで戻った。
寺にはたまたま全員いたので、今までの経緯を話し、小屋の見回りを男衆に頼んだ。
その際、この寺のことは秘密にし、絶対に素性を明かさない様に頼んだ。
尤も彼らが本気で聞いてきたのならば簡単にわかってしまうだろうが、それはしょうがないと諦めた。
どうせ俺との会話で、薄々何かを掴んでいるだろう。
でも、忍者、忍び、草、この当時このあたりでなんと呼ばれているかわからないが、本物を見たことで俺は少し興奮していた。
このあたりに本拠を構えている甲賀や伊賀が最有力だが、織田信長が今川を破って久しいので、武田の三つ者か北条の風魔、上杉の軒猿が織田を調べているかもしれないと思うと、意味もなく嬉しくなってきた。
今の生活に全く関係ないどころか、むしろリスクすらあるのだが、こればかりは趣味の世界なので許して欲しい。
寺で溜まった雑用を片付け、炭の販売の再開を張さんにお願いした。
川原で炭焼きを再開し、合間合間に何度も小屋に泊りに行った。
3日もするとすっかり男も元気になってきており、明日にはここを発つと言われた。
明朝、何度もお礼を言われ、気にするなと返しても中々収まりがつかないようだ。
お互い訳ありな身なので、再会した折に困っていたら助けて欲しいと、反故にされること前提の口約束で場を収めた。
やはり足は完全には治らなかったようで、びっこを引いていたが、それでも元気に小屋を去っていった。
最後まで素性がわからなかったが、俺はすぐに再会しそうな気がしてならない。
この出会いは必然だったような気がするのだ。
玄奘様に出会い、張さん、珊さん、葵、幸に次々と出会ったように、何やら運命のような気がするのはやむを得ないことだろう。
でも、この後の歴史は変えてやる。
このままだと上人様や玄奘様の未来は暗い。
あと数年すると、長島は戦場になる。
3度目の討伐で全滅の憂き目を見る。
長島に一揆を起こさせてはいけない。
それが無理でも、上人様や玄奘様、それに一人でも多くの人を一揆から遠ざけたい。
そんな気持ちにさせられた事件だった。
この事件が何事もなく終わった頃、玄奘様が寺に戻ってこられた。
今回の事件を玄奘様に報告をし、今後について話し合った。
一日おきに勉強会をしていることを聞いた玄奘様が、協力を申し出てくれた。
実質張さん一人に先生をお願いしていたので、これには助かった。
以前に作った50音表に玄奘様は驚いていたが、えらく気に入ったようで、これを使って平仮名だけは全員が読み書きできるようになっていった。
ちなみに張さんはポルトガル語も話せて多少の読み書きも出来、アラビア数字を使った計算の便利さも理解していた。
渡りに船とアラビア数字を共通の数字と決め、全員の習熟に力を注いだ。
これは玄奘様も例外でなく、一緒になって覚えてもらった。
最初はかなり苦労をしていたが、慣れると便利と喜んでおられ、なんだか微笑ましかった。
そんなこんなで多少の事件はあったが、今のところ寺は平穏だ。
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