36 / 319
第一章 転移、そして自立
第三十五話 増産
しおりを挟む実験は大成功だった。
美味しい物は少しでも余裕があれば誰でも欲しがるのだ。
しかし誤算が全く無かったかというとそんな事は無く、誤算だらけだった。
今我々が扱っている商材は炭だけだったのが、今回の実験で、それに塩と干物が加わった格好だ。
炭については今までの活動で充分にノウハウが蓄積されており、完全に村人に任せきることができる。
しかし、それ以外の商材である塩と干物は、これから手探りでノウハウを蓄積していかないといけないので、村人にそのまま任せることができない。
当初の予定では、干物の商材としての価値を門前で確認できたのならば、観音寺での商いの主力として商いを始めるつもりだった。
でも、先の実験での影響で、門前での商いでもこれら商材として扱っていくしかない状態にまでなってしまったのだ。
一番の問題は塩と干物の増産について如何しようかということだ。
塩その物の増産については全く問題にしていない。
今やる作業の量を増やせばよいだけだから、これについては既に一部を村人に任せている。
問題は、塩の販売における容器についてだ。
現在、林の部落で小ぶりの壺の生産を始めているが、何故だかこの小ぶりの壺入り塩が評判になってしまったので、容器入りの塩の増産をしなければならなくなってしまった。
当初どこかの遊園地よろしくポップコーン販売のように容器を売った後に、塩だけを売るビジネスモデルを考えていたので、それについて準備をしていたのだが、壺入りの塩が、こちらで考えている以上に門前での需要があるのだ。
物が無いので売れないということもできなくはないが、これだと悪目立ちをしそうで、考えものだ。
なので、塩については壺の増産と合わせて行っていくことになる。
林の部落組には頑張ってもらうようにお願いをしておいた。
干物についても、需要を喚起してしまい、毎回とはいかないまでも、相当の回数の販売を期待されている。
浜に作った集魚装置は魚を捕ることには成功しているが、量と種類に問題が残り、自家消費にしか使えそうにない。
なので、南にある漁師部落にお願いに行くしかなくなった。
これから定期的に魚の買取を交渉をしに行く事になった。
この時代にはとにかく変化を嫌うというか、変化しないのが当たり前で、商いも同様で、これから行く交渉は、今までの商いのルートを変えてしまうくらいにインパクトがあることだ。
今まで南にある小さな部落の水揚げされた魚の売り先に、新たに我々のためにかなりの量の魚を卸して貰う必要が出てきた。
なので、今日は勉強会を抜け出してもらった張さんと珊さんについてきてもらい、部落に交渉に出かけた。
昼前に部落に着いたのだが、部落は朝の漁を終えたばかりなのか浜は人が出ていた。
近くにいた漁師を捕まえて村長に案内してもらい、事情を話し交渉を始めた。
今まで我々に事あるたびに色々と良くしてくれた部落の村長は快く交渉に応じてくれた。
何でも、最近落ち武者と思しき一団を保護したら彼らは体調が戻ってきた先週あたりから漁に積極的に協力してくれ、水揚げの量も増えてきており、売り先が問題に成りかけていたとかで我々の提案は渡りに船だったとか、今後は増産分を我々に回してもらえる事で話はついた。
何でもこれからは、朝に水揚げした分を浜の部落まで持ってきてもらえるとか、我々にしたら破格の条件まで提示して貰った。
その分買取価格を増やしてほしいそうだが、我々にしたら文句などあるはずが無く、すぐに快諾をして話し合いを終えた。
その後は村長と雑談などをして部落を離れた。
魚は明日から早速運ばれることになった。
なので、浜の部落での受け入れ態勢を整えたらすぐにでも干物の増産に掛かれることになった。
寺に残っている子供たちの内、もうすぐ大人になりそうな女性を浜の作業に回ってもらい、受け入れ態勢を整えた。
それに、作業も分業体制を構築して、家内制手工業のまねごとを始めてみた。
これならば、少数の我々にも増産ができそうだった。
一応の目途を付け、安心して、一息を入れていたのだが、先の漁師部落との話で出てきた落ち武者について気になってきた。
村長の話ではその落ち武者たちはかなり衰弱した状態で、部落の傍で倒れていたのを村長たちが助けたそうだ。
本当にあの部落の人たちはお人よしばかりで我々も助けて貰った口なのであまり偉そうなことは言えないがちょっと心配になってきた。
助けたことでひどい目に合わなければ良いのだが。
それよりも、助けた落ち武者たちだが、落ち着いて話を聞いたそうだが、あまり自分たちのことを話したがらないとのことだったが、それでも判ったのは『若』と呼ばれる一人の青年を助けながら南の方からやってきたとのことだ。
何でもお家騒動で敗れて放浪していて力尽きたそうだったのだ。
この地より南で、かつ、この時代のお家騒動と言えば、やはりあのお家騒動くらいしかないだろう。
だとするとあの一団は九鬼 嘉隆を『若』と呼ぶ者たちの集まりだろう。
まだ織田信長には仕えてはいなかったのだ。
俺の存在がすでに歴史に何らかの影響を与えているはずだし、俺自身の目標が長島の一向一揆の阻止だからバリバリ歴史に介入する気なので今後どうなるのか予想もできないのだが、何となく波乱を呼びそうな気がする。
当面は十分に気を付けていくことにした。
それにしても、商材の増産って簡単な事では無いな。
炭の増産だって、炭だけでは済まなく、炭を運ぶための筵も増産しないとならない。
塩や干物はもっと面倒で、塩については壺の増産に力を入れていくことになる。
そうそう、忘れていたが、干物の増産には竹かごも増やさないとならないことだ。
こちらについても珊さんと話し合い、珊さんのところの若いのを充ててもらい今後のこともあるので多めに竹かごを作って貰った。
まだまだ我々としては生きていくうえで食料の確保を最優先で行っていくのだが、そろそろ自衛のための手段を考えていかないとまずいかもしれない。
そうなると、伊賀の藤林正保さんが一族を連れて我々と合流して貰えないかな、などと都合の良いことを考えてしまう。
そもそも、伊賀の藤林正保と言えば歴史上に名を遺す藤林長門守のはず、そんな人が俺の下に就くはずなど無いのだが、せめて友好的な協力関係だけでも築けたら良いのだが、どちらにしても情報の入手のこともあるので、もう一度きちんと話さないといけないことだけは分かる。
干物と塩の増産体制が整ったら、もう一度大和の本多様のところに行くついでに甲賀に寄って藤林さんを訪ねてみよう。
以前に比べ我々も少しは力を付けてきた。
干物の販売が軌道に乗ればきちんとした格好で藤林さんに仕事としてお願いもできるようになるだろう。
それには今ある人員でのさらなる増産が不可欠だ。
浜の部落は家内制手工業のような形ができそうなので、林の部落も検討していこう。
林の部落も炭と木材だけでは勿体ない。
壺作りで増産のノウハウを蓄積して、焼き物も将来的に商っていけるように準備を進めていくことにする。
そのためにはとにかく塩用の壺の増産体制を早急に構築していくことにする。
壺の蓋くらいは製造に型を使ってみよう。
そういえば葵の大工道具にノミなどがあったはず。
それを使って蓋の型を早速作ってみた。
…………
俺には工作の才能がないことが嫌というほど分かっただけだった。
珊さんに、前衛的なオブジェでも作ったのかという目をされた。
とても恥ずかしかったのだが、俺のやりたいことを説明して珊さんのところの手先の器用な人に代わりに作って貰った。
良く捏ねた粘土を使って型に入れ蓋を作ってみた。
粘土が乾かないと型から外せないし、取り出しに苦労したので、簡単に外せる様に工夫をした型をそれもかなりの数の用意を始めた。
こっちの方がかえって手間をかけているが将来的に大きな力になると自分に言い聞かせ頑張って準備をしていった。
この型作りには、明らかに俺は戦力外なために、別の事を始めた。
そろそろ釉の研究を始めて、ここでの焼き物も売り物にしようと考えている。
どうせ素人が作るのだから品質が悪いのは諦めている。
なので、安く多く提供できるのを作りたいので、素焼きに関しては蓋以外にも型を使えないか試していくことにして、素焼きでない焼き物に挑戦を始めた。
俺のあやふやな知識の中に草木灰での釉があったので、とにかく試すことにしたが、売り物の生産の邪魔だけはできないので、俺は今は使わなくなった河原の炭焼き用に作った窯の前でとにかく色々と試していった。
今では、浜も林もどちらも任せきることができたので、俺は河原で籠って実験を始めていった。
22
あなたにおすすめの小説
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
母を訪ねて十万里
サクラ近衛将監
ファンタジー
エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。
この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。
概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。
仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか
サクラ近衛将監
ファンタジー
レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。
昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。
記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。
二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。
男はその未来を変えるべく立ち上がる。
この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。
この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。
投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる