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第一章 転移、そして自立
第三十六話 伊賀焼ならぬ三蔵焼き?
しおりを挟む塩や干物の増産に目途がついた。
既にお菊さんには壺の増産をお願いしたし、干物については新たにここの村に加わったご家族のおかみさんであるお良さんにお願いをした。
当分は幸代さんに門前でそれらを商って来て貰う。
商材が増えたので、暫くはというより、増えたご家族にもお願いをしてあと数人を幸代さんに預け門前での商いチームを作った。
商いチームは幸代さんがリーダーで、幸代さんの手伝いと警護担当で旦那の善吉さん、それに新たに増えた家族からお良さんの旦那さんと娘の合計4人だ。
当分は手伝いとして張さんと珊さんについて貰っている。
なので、俺は現在フリーだ。
そこで、壺作りで急に気になりだした釉薬を使っての焼き物作りに挑戦を始めた。
釉薬の作り方など、ほとんど知識などは無いが、草木灰と言われるもので作られているのは知っていた。
『草木灰』と云う位だから其処ら辺で大量に作られる灰を使うのだろうと目星を付けて実験を始めた。
別に金は掛からない、使われるのは俺の時間だけだ。
それに、もしこれに成功すれば新たな産業となりうるので試さない手はない。
灰も重曹くらいしか使い道がないが重曹その物の使い道もほとんどないと来ているのだから、どんどん使って試してみることにした。
最近は俺の秘書かと思うくらいについてくる葵と幸は今回も付いてきていたので手伝ってもらっている。
本来ならば素焼きから始めるのだが、素焼きの済んでいる物ならかなり溜まってきている。
当分使わなくなったものから、壺作りで失敗して使えないものまで使って集めた灰を水で溶いたものを塗りたくり、とりあえず焼いてみた。
………
結論。
今使っている河原の炭焼き用に作った窯では大きすぎるのか十分に窯内の温度が上がっていないようだ。
えらく中途半端なものばかりができる。
新たに窯を作るのも何なので、今使っている窯を改良して、熱ができる限り集中できるように窯の中に仕切を設けその中で作ってみることにした。
………
結論。
俺の考察は正解だったようで、窯の温度が十分に高ければ今の釉薬??でも使える事が判った。
風合い……何それ、焼き物の色だよ。
そう、色……なんと表現してよい物か分からない。
というより、焼くたびに色々と変化するのだから、表現のしようがない。
使っている灰の主成分の違いだろうけれど、それ以上俺にどうしろと、ということで、これを使って壺を焼いてみることにした。
いくつか焼いて、壺だけで売ってみることにして、いくつか準備を始めた。
作っている焼き物の壺だが、これが案外使い勝手が良いのだ。
素焼きの壺でも水を入れて使えるが、素焼きだとどうしても中の水が外に染み出てしまう。
これも、気化熱を奪うので、中の水が冷たくなる。
特に夏にはとても便利に使えるのだが、普通に水物の入れ物としては使い勝手が悪い。
しかし、釉薬を使った焼き物はそれが無いので使い勝手が良く、結構便利に村でも重宝されている。
素焼きの壺の中に水を入れ、中の水を冷やすことを俺がなぜ知っているかと云うと、以前にテレビでイランのバザー風景にそんなサービスがあったのを覚えていたからに他ならない。
俺が気化熱利用など思いつくはずが無いのだ。
一応理系出身だがそんなに気の回る頭を持っていない。
しかし、これはこれで使えるので、今では村のいたるところに置いてみんなで利用している。
結構評判が良いんだよな。
そろそろ熱くなる日が多く、熱中症対策に十分に水分を取ってもらっているが、かなり喜ばれているので、これはこのまま使っていくが、釉薬付きの壺も大きさを色々そろえ村で使う分を作っていった。
なんと、昨日、村人全員(乳飲み子を除く)に食事で使うお椀??を配り終えた。
全員が今では焼き物で食事をしているのだ。
瀬戸物のお茶碗がまだこの世に広まってはおらずとても高価なのでこの村はある意味異常な事であったが、別に工数以外にコストが掛かっていないので、実用試験を兼ねてみんなで使ってみることにした。
使いだすとかなり評判が良く、これは価格に気を付けなければならないが売れそうだというので、商い品目に加えることにした。
壺入りの塩に干物、それに釉薬を使った焼き物の器をある程度の数を揃え、そろそろ大和の本多様を訪ねてみることにした。
焼き物の数を揃えるのに2週間くらいの時間がかかるが慌てずに作っていくことにした。
後忘れずに準備しなければならないのが七輪もどきである。
これは門前だけでなく、部落や寺で色々と使っているのだが、相当に使い勝手が良い。
七輪だからガスが使えないこの時代には画期的なもので当たり前なのだが、いざ自分が使うと本当に便利、ちょっと商いに移動する際には必需品と言えそうだ。
これほど便利なので、多分本多様辺りも欲しがることになりそうだと、その分も合わせて準備をはじめ、結局村を出発したのが八月に入ってからとなり、2か月はご無沙汰している格好だ。
別に大和でこれら商品が捌けなくとも観音寺に寄るのだから、そこですべてを捌けばよいので、今回は荷車3台を連ねて、かなり大ごとのキャラバンとなった。
途中に前回、前々回と同様に甲賀に寄って、いつもお世話になっているお寺に軒を借り、俺は張さん珊さんと一緒に村長の望月様の家に伺った。
藤林様と話がしたかったのだ。
すぐに藤林様と会うことができ、彼にこれからの事について話し、伊賀の協力を仰いだ。
藤林様はすっかり体調が戻っておられたようでかなり元気で、とりあえず今回のキャラバンにご一緒してもらえることになった。
藤林様もいつまでも望月様のところに居候して居る訳にはいかなかったとかで今回の件は快く了解して貰えた。
甲賀の望月様も地元のご住職様の紹介で伺っている俺らのことについてはかなり印象が良かったようで、藤林様たちを送り出すことに快く承諾していただいた。
俺は、お礼にあの焼き物と壺入りの塩を渡したら、これには驚いたようでかなり喜んでおられた。
この喜びようなら、大和でかなりの量が捌けそうだ。
俺らは、ここで新たにキャラバンに加わった藤林様とあの百地丹波少年と、藤林様たちの配下と思われる3家族を率いて大和に向かった。
前回に大和の本多様に伺ったときに再訪問の約束を取り付けていたので、割とすぐに本多様に会うことができた。
持ってきた焼き物や塩、干物の半分をかなりおまけをつけてもらう価格で引き取って貰った。
干物についてはかなり喜んでおられた。
大和の地では、コイなどは食べることができるが、内陸のために海の魚についてはほとんど手に入らず、三河の海育ちの本多様にはそれがかなり寂しい事だったと話しておられた。
なので、今回持ち込んだ干物の全てを自分が引き取るとまでおっしゃっておられたが、この後行く観音寺での売れ筋と価格の調査もあるので、遠慮してもらった。
俺の個人的な感覚だが、肉をあまりというかほとんど食さなかった戦国時代において干物の位置付けが、俺が知っている干物ではなく、多分高級牛、物によっては松阪牛や神戸牛などのブランド牛の肉に匹敵するような感覚だ。
なので、今回の大和での取引の額もかなりの高額になっていた。
忍者の護衛があるので、今回は安心して商いができるのだが、これはかなりラッキーなことだ。
今後これら商品を扱うので、藤林様とも話し合う必要がありそうだ。
そんなこんなで、大和での商いも手分けして価格の手頃な墨の買い付けを持って終了し、観音寺に向かった。
積み荷がほぼ半分になっていたので、藤林様の御付きのご家族の荷物などを載せ、荷車を彼らに預けた。
慣れた道筋なので、今回は前回よりかなりスピードで観音寺に向かうことができた。
時間の短縮はいつの時代にも儲けの増加に繋がる。
今回は初めての商品が多く、どれほど売れるか分からないが、既に大和での収益でほとんど目的を達していた。
それに、今回は相場についても藤林様が先行して調査していただけるとのことで、着いた時には観音寺の標準の価格で商いができた。
悪目立ちせずに済んでよかった。
干物が俺の感覚よりもかなりの高額で、素人作りの焼き物もそこそこ高価なものであった。
最後まで分からなかったのが、壺入りの塩の価格であった。
塩はさほどの金額にはならないことは既に予想していたが、壺の価格が分からないので壺入りの塩の金額がなかなか決まらなかった。
しょうがないので、今回は俺が持ち込んだ焼き物と同じ価格を付けたがこれも快調に売れていった。
大和で仕入れた墨も予定通りに十分な利益を得ることができた。
今回もキャラバンは大成功だった。
今後はしばらくここにも定期的に商いをしていくことになる。
そんな計画を頭の中で描き、藤林様たち一行と連れ立って村に帰っていった。
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