名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第一章 転移、そして自立

第四十七話 方針転換と大戦略

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 寺に戻った俺たちは本堂でこれからの復興について話し合っていた。

「林の方はほとんど被害は出ておりません。
 途中の道をふさいでいる倒れた木々を取り除くだけで大丈夫です。
 明日からすぐに作業に掛かりますが、多分明日中には作業を終えることができそうです」

「いいな、こっちはほぼ全滅だよ。
 家が数軒残っただけで、また最初からだ。
 俺らだけでの復興は難しそうです。
 泉から引いている水路も作り直さないと使えそうにありません」

 などと、見てきた被害状況を一から確認しあっていると、隣部落の村長が数人を連れて本堂に入ってきた。

「お待ちしておりました。村長殿。
 ちょうどこれからについて話し合っていた所なんです。
 ご一緒して下さい」

 俺が村長に声をかけたが、村長の顔には生気が無かった。
 村長は我々以上の被害にすっかり気を落として元気がなかったが、それでも最後の元気を振り絞り、部落の人たちをまとめここまで連れてきた。

「空殿。
 またご厄介になります」

「村長殿、気にしないでください。
 困ったときにはお互い様です」

「暖かな言葉をかけて頂き、感謝のしようもないくらいだ」

 そこでしばらくの沈黙があり、徐におもむろ村長が語りだした。

「ここまで来るまでに村の連中とも話したのだが、聞いてくれるか」

 元気のなかった村長の声にはなぜだか力がこもっていた。
 覚悟を決めた男が最後に放つ、その迫力のようなものまで感じてしまったくらいの力のこもった声で話をつづけた。

「どう見ても、今回の被害からの復旧は我々では無理だ。
 まだ冬には少しばかりの時間はあるが、直に来る。
 それまでに冬越えの準備までは到底無理がある。
 最悪村の半数が冬越えをできなくなるかもしれない」

「村長殿、待ってください。
 今年の冬越えは我々が責任を持って対処します。
 諦めなければ復旧だって可能です。
 どうか諦めないでください」

「そこまでしてくださる覚悟がおありならば、これから話すことが話しやすくなります。
 空殿、我々の村全てを空殿率いる三蔵村に吸収してはくださらんか」

「へ???
 どういうことです?」

「どういうこともない。
 我々だけではこれからの事が心配だ。
 凄い勢いで力を付けている空殿に我々をも率いてほしいのだ。
 何もさっき考えたことではない。
 今まで我々との取引を通じて、空殿たちの誠実さは理解しておる。
 それに、今のような時代に全くの庇護のない村は、いつ何時襲われるか分からない。
 以前から、どうしていこうかと村の連中とも話し合っていたのだが、今回は良いきっかけとなった。
 どうか我々をも受け入れてはくれんか」

 村長から出てきた言葉は、予想だにしていなかったものだった。
 正直、今まで色々と良くしてくれた隣の部落である。
 それも、のどから手の出るくらい欲しい漁師の部落が我々と合流してくださるというのだ。
 俺には、拒否する選択肢はない。
 しかし、今は合流するのが良いかと言うと少しばかり考えるところがある。
 被害のあった部落に援助と引き換えに吸収する格好になり、後々しこりが残りそうだった。
 唯一それが心配だ。

 俺の心配をすぐに理解したのか張さんが話し出した。

「空さん、良い話ではありませんか。
 そうだわ、村長に今の浜のみんなもご指導して頂いてはどうかしら。
 今までだって、経験のない私たちだけではちょっと心配だったのよね。
 そうよ、そうしましょう、空さん。
 そうすれば、善吉さんだって、門前の行商だけに専念できるしね、その方がいいわよね善吉さん」

「張さん、それは良い考えだ。
 どだい、若造の俺に浜に連中の面倒までは見きれなかったんだ。
 隣の村長が浜を見て貰えるのならばそれに越したことは無い。
 俺からも頼む。
 空さん、ぜひ村長の言う通り浜を村長に任せましょう」

 良かった、ここに集まった三蔵の衆のみんなは性根が真直ぐな人たちだ。
 これなら吸収されることによるしこりは出にくい。
 俺はここまで話を聞いて決心した。

「村長殿。
 村長殿が我々に合流して協力してくださるのならば、これに越したことはない。
 これほど心強い事は無い。
 ありがとうございます。
 では、浜にこれから作り直す村の長をそのまま村長にお願いします。
 そうなると、村長には三蔵の衆の村方もやって貰わないとな」

「村方とは何ですか」

「我々三蔵の衆の頭は私がやっておりますが、なにぶん私が子供なので、大事な村の運営で私が仕出かさないように運営などは村方を選び出して話し合いをして決めております。
 ちょうど今のようにです。
 これからは村長殿にも村方として我々全体の運営にもかかわってもらいます。
 それでよろしいでしょうか」

 村長は俺らの話を聞いて、目を大きく開き非常に驚いていた。

「我々が援助を乞うて仲間にしてくださいと頼んだはずなのだが、そのような大役を私にと申すのか」

「はい、その通りです。
 私は、私たちは、配下や家来、奴隷などは必要とはしておりません。
 私たちの中には立場の弱い物などいないのです。
 我々と同じ立場で、一緒にやっていける仲間を求めております。
 我々と一緒に働いてくれる仲間ならば大歓迎なのです。
 これからはよろしくお願いします、村長殿」

「なれば、私の事も、みなと同じようにこれからは龍造とお呼び下され。
 よろしくお頼みします」

「判りました龍造殿。
 では、明日朝に村人を本堂前に集めてください。
 皆に私から紹介します」

「相分かった。
 では、早速村の連中に話してこよう。
 すまんが、私は中座させてもらいます」 と言って、村長だった龍造さんは本堂から出ていった。

 なので龍造さんと一緒に入ってきた九鬼様が取り残された格好になった。

 俺は、きちんと九鬼様の方に向き直り、九鬼様に話を始めた。

「九鬼様、お聞きになられたとおりになりました。
 なので、九鬼様につきましては、今後は私たち三蔵の衆の客将として遇していきたいと思います」

「なにからなにまで、面倒をかけ申し訳ない。
 私には異論などありようもなく、空殿の良いようにお頼み申す」

「そこで、九鬼様にお聞きしたいことがあります。
 何分、突っ込んだところまでお聞きすることになりますので、お話しできるところまでで良いので、話して頂けるところは正直にお答えいただけると助かります」

「世話になる空殿に嘘などつこうか。で、何を聞きたいと申すのか」

「はい、九鬼様は志摩の水軍の一族とか、先のお家騒動で拠点を失い流浪していると私たちは理解しております」

「まさにその通りだ。
 それにしても良く知っておるな」

「はい、私たちの仲間に伊賀の方も多くおります。
 私たちは情報をとても大切にしており、各地の情報を集めています。
 その時に聞いた話です。
 九鬼と言う名前も珍しく、水軍の棟梁と同じであったのと流浪の身という事からそれしかないと考えておりました。
 そこで、九鬼様にお聞きしたかったのは、この後、九鬼様はどうしたいのかと言うことです。
 失礼を覚悟で単刀直入にお聞きします。
 九鬼様はお家の復興を望んでおられますか」

「世話になる空殿に正直の気持ちを伝えないと失礼に当たるな。
 正直に言うと、兄の仇を取ってお家を復興させたいとは思っておるが、何分にも私にはその力が無い。
 実は情けないことに、今でも私に着いてきてくれる家臣全員の面倒すら見れていない。
 志摩に帰りたいが、先が見えてはいない。
 正直どうすればよいか全くわからないところだ」

「ありがとうございます。
 これから私が一つご提案させて頂きます。
 今すぐには無理ですが、1~2年後までに志摩を取り戻して下さい。
 そのためには私たちにできる協力は全て行います。
 また、今散り散りなっておられるお仲間がおられるのであれば、すぐにでも集めてください。
 皆、九鬼様配下の客将として遇しましょう」

「なぜ、そこまで我々に入れ込んでくれるのか。
 まず、その本質の部分をお聞かせください」

「当然な要求です。
 順を追って説明をさせてください。
 まず、我々には表向き一向宗が後ろ盾となっておりますが、これは願証寺の上人様にだけ世話になっております。
 上人様には話してありますが、我々は一向宗に与しません。
 なので、権力と結びつく勢力の後ろ盾がありません。
 九鬼様には志摩を取り戻した暁には、力を付けて頂き、この伊勢も配下に収めて大名になって欲しいのです。
 我々は九鬼様の後ろ盾で安全に暮らしていきたいのです」

「大名の後ろ盾が欲しければ北畠や神戸に取り入れば簡単ではないか」

「その両家は駄目なのです。
 性根が腐っており、頼みになるどころか害にしかなりません。
 一向宗も同様に良くはありません。
 我々には、時間があまりないのです。
 少なくとも、一向宗が暴発する前にしっかりとした基盤が欲しいのです。
 九鬼様がおられなかったら、途方に暮れていたところですが、九鬼様にその気がお有りだ。
 なので、恐れながらここで恩を売って、我々のために、このあたりの勢力基盤を我々に都合が良いように作り変えてしまおうと思った次第なのです。
 子供が実現しそうもない大言を吐いていると思われても仕方がありませんが、少なくとも私は本気です。
 そのための力を私は銭に求めております。
 ちょうど堺の商人のように、銭を集めればどうにかなると思っており、そのための基盤も少しづつですが整ってきております。
 九鬼様が事を起こすときには、傭兵を雇ってでも協力を惜しみません。
 そのつもりでおりますので、ぜひ我々に九鬼様の御力をお貸しください」

「空殿は、恐ろしいくらいに先を見ておるのだな。 
 我にどこまでできるか分からんが、相分かった。
 ここまで来たら一蓮托生だ。
 何もせずに終わったのなら我のために命を落としていった連中も浮かばれまい。
 できる限りの協力をすることを約束しよう」

「では、お仲間を集めてください。
 まだ、力など全くないのですが、浜に船を作っていきます。
 船ができたら、堺との海上貿易も可能になり、それこそ銭が溜まります。
 私もできるところからやっていきますので、よろしくお願いします」

 今まさに三蔵の衆の大戦略が決まった瞬間であった。
 大名を作り出し取り込んでいくことで基盤を固めていくという大戦略が。 


 
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