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第二章 国取り?
第五十一話 1番艦の完成
しおりを挟む前に竹で作った実験船は全長が5m以下の今でいうディンギーサイズであった。
なので、乗員として乗り込めるのはどう考えても最大で5人であり、実験船としては使い勝手が良いが戦船としては使えない。
漁業用としても、すべてが人力のこの時代においてはやはり物足りなさを感じる。
三角帆の扱いに慣れるまでの教育用として割り切って使ってもらっているが、これから竹ではなく頑丈な木材を使って作る1番艦としては、サイズを大きくする必要がある。
できれば最低でも小早船と同サイズの全長で11mくらいの船は作りたかったが、技術が全く確立されていない現状ではいたずらに失敗ばかりを重ねることが容易に想像できたので、サイズを気持ち小さくして、実験船の1.5倍に当たる全長7.5mの船を作ることにした。
キールのある構造の船をこの時代の日本人は誰も作ったことはない。
辛うじて堺や博多など南蛮人と取引のある港でその船影を見かけることができるくらいだが、それも大多数の日本人は見ていない。
いくら船の修理や造船に長けた九鬼一党でも容易に俺の説明からでは作れない。
当然のように失敗を重ねたが、ここにきてやっと船体部分だけが完成した。
FRP製の船でもかなりの重さになるが、それを木材を使って作ったのだから、その重量たるや相当なものになった。
浜の村人総出で出来た船を浮かべてみたら、案の定の水漏れでこのままではとても使用に耐えない。
しかし、俺はあまり気にしてはいなかった。
これは、加工技術の不足からくる板と板との間の隙間が原因だと直ぐに判った。
船体の強度は十分にあるのだから、その隙間さえ塞げば十分に使えるのだ。
なので、俺は、隙間を埋めるべくシール材の開発に掛かった。
この時代でも木材用の接着剤はある。
膠にかわの利用は広く一般にまで使われているので、割と簡単にそれも量も充分に手に入る。
なので、膠を充分に入手し、それを木材加工で出たオガクズを集めて練り合わせシール材を作った。
船を十分に乾かした後に、もう一度村人総出で今度は船をひっくり返した。
その状態にした後に板と板との隙間全てに手作りのシール材で埋めていった。
シール材が乾けば当然かなりの凸凹ができる。
それを丁寧に手斧ちょうななどで削っていった。
もう一度、船を浮かべて水漏れを確認したら、今度は目論見通り全くの水漏れは確認できなかった。
長かった試行錯誤の連続だったが、大きなヤマは越えたと感じた。
このままでも使えそうだが、俺は、あるアイデアが浮かんできた。
表面をものすごく滑らかにしたら船速が上がるだろうと。
水漏れの対策も兼ねて、もう一度船を浜に上げて、その表面に漆うるしを塗ってコーティングを始めた。
漆ならば林の中に入ればそこら中に自生しているので、かぶれにさえ気を付ければいくらでも手に入る。
船の外側を漆で黒くコーティングしていった。
見た目にかなりかっこよくなってきたと自負している。
周りの人たちは、何無駄なことをしているのだといった顔をしながら俺の作業を見守っていた。
次に船の内装に掛かる。
今の形は公園などで見かける手漕ぎボートのようになっている。
なので、甲板に当たる部分を作り、中央付近にマストを設け、キャビンまで作ってみた。
これで見た目はそこそこのレジャーヨットのようになった。
中はそのままむき出しの木材が見えるが、これ以上手を加えるつもりはない。
甲板の下にも荷物や人が狭いが入れるようになっている。
なので、この船は戦の折には10人は載せられそうだ。
操船は慣れれば2~3人あれば大丈夫なので、十分にこれでもこの時代の小早船以上の働きはできそうだ。
もっとも、櫓ろを使った船主体の戦からはその戦法も変わらざるを得ないので、新たな戦法もこれから考えていかなければならないのだが、これならば志摩の奪取に使えそうだという目途がついた。
早速できたばかりのヨットを九鬼様たちに試してもらい、改良点などを見つける作業に入る。
次に作る2番艦以降は、もう少し大きく作り、大型のヨットのような物を作っていくことになるだろう。
多分、この後作る奴が九鬼水軍の主力艦となりそうだ。
出来上がった1番艦もこれから作る2番艦以降の船も、見た目はヨットなのだから俺には違和感など無いが、この時代の日本人からしてみれば、明らかに異様な形の船だ。
もっとも、この時代でも強力な海軍を要するヨーロッパ諸国などではスループ艦と称し、連絡艦などで使用していたので、あながちオーパーツ扱いのようなものではないが、まだ日本ではなじみがない物であることには変わらない。
見た目によるインパクトも戦において有利に働くことを期待しよう。
とにかく、進水式などのような改まった行事は行わないで、明日から九鬼様一党にこの船を使って訓練と改良点を洗い出してもらう。
で、残りの手すきの者を使って、今度は主力艦になりうる全長12m以上の船を作っていくことにする。
そのためには、まだまだ大量に角材や板材が必要になるために与作さん達には頑張ってもらう事に成る。
しかし、俺は、すぐに次の艦の製作には取り掛からなかった。
大型の船を作るには、人力だけではそろそろ限界にきていることを今回の1番艦造船で嫌と言うほどに味わった。
なので、九鬼様一党が色々と注文を出し切るまでは、造船技術の向上に工夫をしていくことにした。
まずは、地引網を始めていることもあるので、大きな力で縄を巻き上げることができる巻き上げ機を浜に作ることにした。
作った船を浜に上げるのにも使えるからだ。
そう、キャプスタインと呼ばれるような物を丈夫な木材を使って作ってみた。
最初に地引の網を巻き上げるのに使ってみたら、浜の村人にかなり評判が良く、これは地引用として、造船には別のをもう一台作ることになった。
大きな力で縄を巻き上げることができるようになると、今度はクレーンのようなものが欲しくなる。
これも、丈夫な木材を使って櫓を組んで簡易版のクレーンを作ってみた。
俺が今造っている物も、これから作ろうとしている物も、縄と言うか丈夫なロープを大量に使用することになる。
なので、緊急クエストが発生した。
そう、縄の材料がそれも大量に必要になる。
幸い三河が近くにあるために綿花の入手が比較的容易だ。
張さんにお願いをして、商い組に綿花の大量購入を目立たないように、また、無理の出ないようにお願いを出した。
これから冬を迎えるにあたり、大量に食料の備蓄も必要になってくる。
そちらの購入もしていかなければならないので、綿の購入は安い時に市場にある分だけの購入をしていくことにした。
買ってきた綿は村の女衆で、手すきの者に時間の許す限り結って縄にして貰っている。
これから迎える冬には外作業に出れないことも多くなるが、その際の仕事になっていくことだろう。
それらの下準備で優にひと月が費やされた。
俺が造船で最後に取り掛かったのが、船台を作ることだ。
最初に船の形状に合わせるように木組みで台を作り、それに合わせて、基礎となるキールや横に渡す木などを置いて船を作っていく事にした。
こうすることで、3番艦以降同じ形状の船は最初に作ったよりも簡単に作れるようになる。
そろそろ11月に成ろうとしているこの時期に、九鬼一党の旗艦となる2番艦の製作に取り掛かった。
既に船の製造の主力は九鬼様の所の船大工が取り仕切っており、俺は時折監督に来るくらいまでには任せられるようになっていた。
縄や帆の調達がまだ心もとない状況だが、こればかりは張さん達に任せるほかない。
俺は、そろそろ操船に慣れてきた九鬼様を連れて堺まで1番艦で向かう検討を始めた。
資金面で少々心もとないが堺で傭兵の調達も考えている。
最悪、この一番艦を売ってでも傭兵を雇って、来年の春までには志摩国奪取の体制を作らないといけない。
秋に大きく被害を出して一時的に商いができなくなった時期があるが幸いその後も商いは順調で、売り上げを確実に伸ばしていっている。
資金的にはかなりぎりぎりだが、九鬼様一党を追い出した者たちはそれほどの力がある訳じゃない。
お家騒動だって、俺らのいる伊勢の北畠具教の力を借りての出来事だったので、北畠具教が出張るまでの最短で奪取すればできないことはない。
この冬には戦略、兵装、傭兵などすべての面で検討を重ねていこう。
当然藤林様の協力を全面的に仰いでだが。
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