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第二章 国取り?
第五十三話 初めての堺
しおりを挟む俺たちは、雑賀党の協力を取り付けたので、今回の目的は、およそ考え得る中で最良の結果を出しており、積荷をここで下ろして村に帰っても良かった。
今回訪問の目的が傭兵の招聘(しょうへい)であり、今回招聘できた傭兵がこの時代では、最強との評判である雑賀党であった。
もうこれ以上にない成果を上げたのだ。
なので、これ以降はあまり重要ではない。
敢えて言うならば、この後のことは余儀(よぎ)、出張終えての観光とでも言って良い。
なので無理して堺に入る必要が無くなったのだが、孫一氏の勧めもあり、ここまで来たのならばと、堺を目指した。
孫一氏は、友好の証として配下の一人を堺の案内につけてくれ、堺の港に問題なく入れるようにと雑賀党の証である船用の目印まで貸してくれた。
この目印を目立つところに掲げていると、ほとんど問題なく堺の港に入れるそうだ。
ここまでの優遇をしてくださるには当然雑賀党の意図があるわけで、堺では色々と面倒をみてやるが、その代わりに八風峠を通る仲間の優遇をよろしくということだろう。
俺らは知らずに既に雑賀党と繋がりを持っていたようだった。
なので、ここまで来なくとも峠で彼らの仲間を捕まえれば話は済んでいたかもしれないのだが、孫一氏とは一度きちんと話し合わなければならなかったので、一度で済んで良かったということか。
え、知らなかったのは俺だけ、藤林様は雑賀党の往来を把握していたと、なんだ教えてくれれば良かったのに……党首の孫一氏との会談が目的かと思っただと、それで、少し前に寄った港で雑賀党とスムーズに話がついたんだ。
どうりでうまくいきすぎだと思った。
せっかく貸していただいた船印をマストの一番上に掲げて雑賀崎の港を出航した。
ここから堺までは本当にすぐで、1時間もしないで堺の港に入った。
船を岸近くまで持っていったが、さすがに接岸はできなかった。
港内をちょろちょろと行き来している船に乗せてもらい、堺に上陸した。
堺の港は本当に活気にあふれていた。
現代人の知識のある俺でも、この活気に押されていた。
大井埠頭や横浜の港を見たことがあるが、ほとんど機械(ガントリークレーン)での作業の為に活気というには乏しかった印象がある。
そういう意味では、ここ堺は本当にすごい。
乱暴なまでに、人や荷を乗せた車がそこかしこを行き来しており、ぼうっとしていたら危ないくらいだ。
あえて例えるには……そうだ、渋谷のセンター街を歩いている感じに近かった。
そこ行く人たちも、渋谷のように外国人も多くいた。
日本人の他に中国人やポルトガル人などが歩いていた。
俺らは案内を買って出てくれた雑賀党の人について、雑賀党が堺で世話になっている商家まで歩いて行った。
訪ねたのは、そこそこ大きな商人で『紀伊乃屋』といい、納屋貸十人衆には入らないが、後の36人衆に入るかはいらないかというくらいの勢力を堺で保っている商家である。
この商家はほとんどが雑賀党の人間であり、いわば堺の雑賀党の支店のような存在だそうで、孫一氏からの紹介もあったおかげで店主自ら店に上げて頂いた。
ここで、持ってきた干物や陶器、茶や椿油など全てをかなり良い値段で買い上げて頂いた。
干物は、遠洋航海に出る船向けに高値で取引がされており、継続的な商いを向こうから希望してきた。
こちらには異存はない。
既に浜の村では地引網の漁が始まっており、その収穫が以前とは比べ物にならないくらいの水揚げがあり、干物の増産も始まってきている。
その増産分の取引だけでも良いとおっしゃってくれたので、定期的に取引を行うことで合意した。
商談の後、俺は、羊やロバ、ヤギなどの家畜の仕入れができないかと聞いてみたが、あいにくそれら家畜に関する取引についての情報を全く持ち合わせていなかった。
その後、付近の政治情勢などを含めて世間話をした後、店を後にした。
家畜については、直接琉球あたりまで出向かないと無理かと考えながら堺の街をみんなで散策していると、通りを挟んだ向かい側で人が集まっている。
何やら中国人らしき人とお侍さんとが揉めているようだった。
さすがに治外法権の堺だけあってお侍さんが絶対ではなく、この街ではむしろ商人の方が力を持っているので、揉めていても危なげがない。
お侍さんが刀を抜こう物なら、その時点で町衆に取り押さえられ身柄を拘束されるからだ。
でも、揉めている両者ともに話が合わずに困っているようだ。
あれは、言葉が通じてないためのトラブルだな。
通訳の一人がいればすぐにでも片付きそうだ。
俺は張さんを見ると、彼女は優しく微笑んで、「助けましょうか」 と言ってくれたので、すぐにお願いをした。
若狭武田家の役人が硝石の購入を巡って堺の商人を通さずに直接取引をしようとしていた様だった。
生憎この中国商人は硝石を扱っていないことを通訳してあげたら早々に引き上げていった。
言葉も通じないのに直接海外の商人との取引なんて無謀以外にないのだが、高価な消耗品のためか少しでも価格を抑えるために無理をしているのだろう。
案外無理なことばかりを言って堺の商人から相手にされなくなったので直接取引に及んだのかも知れない。
案外そういう者も多いのだそうだ。
堺の商人に相手にされないために直接取引をしようとしているのが、そのほとんどが騙されるか、相手にされないかで成功はしていないと案内役の雑賀党の人は言っていた。
で、絡まれていた中国商人はまだ若い駆け出しの商人だった。
それに、驚いたことに彼は張さんのことを知っていた。
まだ張さんが幼い頃に琉球にいた時に、彼女の父のところで奉公人をしていたそうで、5年前に許しを得て独立したばかりだそうだった。
なので、その後の張さん一家の辿った悲劇を知らなかったのだった。
込み入った話なので立ち話もなんだと、彼がここで世話になっている堺の豪商『能登屋』のところまで案内してくれた。
俺らは彼について能登屋に入ると奥の部屋に通された。
能登屋の主人を交えて今までの経緯などを話していた。
能登屋の主人も張さんのお父さんを知っており、わずかばかりではあったが取引もあった様だった。
中国商人は張さんの話を聞くと、自分が張さんを引き取り面倒を見るとまでおっしゃってくれたが、張さんが俺と一緒にいることを彼に伝えた。
彼は俺のことを一瞬睨んだ様だったが、すぐに俺に向かって頭を下げ、御恩ある方の娘さんを自分に代わってお願いしますと言ってくれた。
張さん美人だもんね、案外惚れていたのかもしれないなと勘ぐってみたものの、顔には出さなかったよ。
話は済んだので、俺はダメもとで家畜のことを聞いてみた。
すると彼は自分には宛あてがあるが、儲けにならないような家畜の取引で本当にいいかと聞いてきた。
価格の大半が輸送費になるので、割高になるのだが良いかということだった。
構わないので、俺は、先ほど『紀伊乃屋』で高値で買ってもらった銭を全て渡し、これで買える分だけの取引をお願いをした。
俺達の取引について両者の間に能登屋さんが入ってくれたので、能登屋さんが証文を発行してくれた。
彼が言うには釜山に行けば希望の家畜は手に入るので、次に釜山に行って仕入れてくれるそうだ。
でも時間はかかりそうで、来年の春までは猶予を欲しいと言ってきた。
俺は問題ないので、入手できたら、『紀伊乃屋』さんまで連絡を欲しいと伝えておいた。
雑賀党の紀伊乃屋さんは頻繁に八風峠を利用しているそうで、紀伊乃屋さんまで伝わればすぐにでも俺らに伝わるようになった。
早速俺はこの情報ルートを活用することにした。
来年の春か…志摩の件が片付いていると良いのだがな。
だんだんと仕掛けていることが大きくなってきたことに若干の不安を覚えたが、自分のできることをやるだけだと気持ちを切り替え、俺らは堺を後にした。
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