名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第二章 国取り?

第五十四話 救いようもない忖度君

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 堺での商談も終え、早々に堺でやることがなくなったので、俺らは村に帰ることにした。
 案内役の雑賀衆の人を乗せて一度雑賀崎に寄らないとと考えていたら、「俺は、ここでお別れします」 と言って、船を泊めている港で別れる事になった。

「もう一度来年の春前に雑賀の棟梁の孫一氏とお会いしますので、宜しくお伝えください」 と言って、俺らは彼と別れ、一路伊勢にある三蔵村に船を走らせた。

 帰りは、おおよその地理状況を把握していたので、無寄港で村まで船を走らせることにした。

 夕方に出港させたので、港の周辺の混雑している海域では十分に明るさを確保できて問題はなかったが、日没後に月が出るまでのわずかの時間はちょっと不安があった。
 船速を落として、全員で周りを確認しながら操船していた。

 月が登り、ある程度の明るさを確保できたら、船速を戻しての操船となった。
 周りには充分に気を付けていたが、先ほどのように全員で確認をしながらというわけではなかったので、交代で、休憩を取りながらの船旅となった。

 帰りは風もあり、今度は黒潮の流れも利用できるので、飛ぶような速さで帰ることができた。
 翌朝のまだ早い時間には既に最初に寄った熊野の沖を通り、昼前の明るいうちに敵の城のある田城城の沖を通過した。

 海賊衆が通行料を取るためか我々の船に向かう素振りを見せていたが、我々の船速が早すぎて、簡単に置いて来てしまった。
 一応まだ借りている雑賀衆の船印はマストの一番上に掲げているので、いきなりの攻撃はないだろうと昼にも関わらずにこの海域に突入したが、こうも簡単に振りきれるのならば、行きにあんなに心配することはなかったんだと思いもしたが、無用なリスクは今は避けたかったので、これも経験として良しとしよう。

 まだ日もある夕方前には村に到着した。
 浜では多くの人間がまだ仕事をしていた。

「あ、親方、お帰りなさい」

「あ~、村長だ。おかえり~」

 などと、仕事中の村人が俺らの帰りを確認すると一斉に挨拶をしてきた。

 浜に作った、船着に船を固定して俺は降り立った。
 降りた時点で急に嫌な予感に襲われた。
 そう~だ、おみやげを買うのを忘れていた。
 これはまずい、どうしよう…と思っているところに葵と幸が駆け寄ってきた。
 俺は素直に彼女たちに謝った。

 すると、彼女たちは少し嫌な顔をしたのだが、どうもそれどころではないらしい。

「空さん、三蔵寺に急いできてください。
 ちょっと揉めていますので」 と言ってきた。

 何が起こっているんだと訝しみながら、俺は九鬼様を浜に残して、寺に急いだ。
 寺の境内では与作さんたちと見たこともない学僧たちが何やら揉めていた。

 俺が与作さんたちに駆け寄って話を聞いたら、学僧たちが急に現れ、俺らをここから追い出そうとしたのだそうだ。
 そこで、俺はその学僧に話を聴こうと声を描けたら、

「ガキは黙っていろ。
 ここは寺の境内だ。
 ガキの遊び場所じゃないぞ。
 お前ら全員、ここから出て行け」

 かなり威圧的に言ってきた。

 こいつ等は誰だ、どうしてこんな連中がここにいるのだと考えていると、玄奘様が上人様を連れて境内に入ってきた。

「お前ら、上人様が到着してしまったではないじゃないか。
 目障りだから、さっさと出て行け」 と大声で俺に怒鳴ってきた。

 俺は、上人様が来るのが確認できたので、上人様を待って、直接上人様に聞いてみた。

「上人様、お久しぶりです。
 すみません。
 突然ですが、お聞きしたいことがあります。
 こいつ等はお知り合いですか」

「お~、空、久しぶりだな。
 お前、約束を守らず、なかなか寺には来んで、じゃから様子を見に直接来たんじゃが、どうやら申し訳ないことになっているようだな」 と俺に詫びてきた。

 玄奘様は、そこでいきり立っていた学僧たちを集めて拳骨を食らわせていた。

「お前ら、何をやっている。
 ここをどこだと考えているんだ。
 お前らは何様のつもりだ」 と、かなり怒っていた。

 学僧たちも怒られたのが不満なのか玄奘様に食ってかかった。

「ここがどこだか知っております。
 しかし、こいつらが不正に占拠しているので、排除しようとしていただけです。
 どこに我々の問題がありますか」

 かなり不満な様子であった。

 どうも、上人様に良いところを見せようとしているスーパー忖度君たちのようだ。
 俺は、一発でこいつらとは仲良く出来そうにないと感じてしまった。

「どうも、血の気の多い奴らでな。
 少しでも落ち着かせようと連れてきたのじゃが、裏目になったようだな。
 すまんな空よ」

「いえ、構いませんが、まさか、こいつ等をここにとは言わないでしょうね」

「そう考えてたんじゃが……どうしたもんかな」

「え~~、無理ですよ。
 俺、こいつ等とは上手くする自信がありませんよ」 と俺が上人様と話していると、そこで玄奘様に食ってかかっていた学僧の一人が俺に向かって、

「きさま~、上人様に対してなんて口の利き方をしているんだ~。
 許せん。
 そこに直れ~」

「ばかたれ!。
 許せんのは、きさまらの方だ。
 そこに黙って座っておれ」 と、上人様もかなり怒って、大声で学僧たちを叱った。

 急に、上人様に大声で叱責を受け、スーパー忖度君たちは焦りだした。
 上人様の気持ちを完全に誤って忖度していたことを初めて理解し始めた。
 上人様の気持ちを忖度して、少しでも自分らを良く見せようと頑張っていたんだが、完全に顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまったことで、急におとなしくなった。

 やっと、上人様と話ができそうだ。

「上人様、約束通りにお邪魔できずに済みません。
 俺も色々とあって、忙しくしておりましたので。
 当分、寺にも行けそうにななかったので、ここでお会いできたことを喜んでおります。
 色々と情勢が変わってきておりまして、相談と報告もありますが……
 その前に、こいつ等はなんなのですか」

「お~、そうじゃった。
 先程も詫びたがすまんかったな。
 空が居って良かったよ。
 でないと取り返しの付かんことになっていたようだな」

「俺も、今しがた村に帰ったばかりなんですよ。
 浜についたら、葵たちが急に俺を呼びに来て、着いたばかりです。
 なので、上人様とほとんど一緒に寺に着いたようなものです。
 で、こいつ等はなんなのですか」

 とても胡散臭い連中を見るように学僧たちを見た。

 見られた学僧たちは、ガキの身なりの俺が偉そうに上人様と話をしているのが気に食わないのか、俺のことをほぼ全員が睨にらみ返してきた。
 玄奘様がその様子に呆れ、また、学僧たちを注意していた。

「玄奘よ、そいつ等が騒さわがしいので、どこかに連れていけ」

「どこに連れて行きましょうか」

「それなら、講堂が使えます。
 ほとんど使ってはおりませんが、いつも子供らに掃除をしてもらっておりますので、すぐにでも使えますから、そちらをお使いください」

「空よ、助かる。
 では、遠慮なく使わせていただくとしようか。
 ………
 お前ら、俺に黙って付いて来い」 と言って、玄奘様は不満タラタラの学僧たちを引率して講堂に向かった。

 で、再度俺は上人様に問いただした。
 上人様は、申し訳なさげに説明してくれた。
 ここに来ている学僧たちは、願証寺に修行してる連中でどうにもうだつが上がらないが、そのくせ出世の欲ばかり強い連中だそうだ。

 玄奘様と同じくらいの年の連中も多く、玄奘様が新たに向かう立派な寺の副住職に決まったことを知ったこやつ等は、かなり焦って、無理を通して今回の三蔵寺の訪問についてきた。

 あわよくば、一向宗の他の連中が来る前にこの寺に入り、学僧から次の役職に変わることを望んでいて、少しでも上の受けを良くするために上人様に取り入ろうとしていたそうだった。

 連中の様なスーパー忖度君は、どこにでも、いつの時代でもいるもんだと呆れながら話を聞いた。
 それにしても、スーパー忖度君には、ろくな連中しかいないもんだと改めて感じていた。

「上人様、無理ですからね。
 あんな連中とは仲良くなんかできませんから、絶対に持って帰ってくださいね。
 ひとりでも残したらダメですよ」

「ヤレヤレ、嫌われたもんじゃな連中は。
 でもしょうがないか、この寺の実質の持ち主の村長にここまで嫌われたのなら、連中でも諦めるじゃろう。 
 しかし、どうしたもんかな……」

 上人様が言うには、長島には、こんな連中ばかりが最近多くなってきている。
 こんな連中だから、一度寺に入ると、ほかの受け入れ先がないので、どんどん溜まっていってしまうので、寺の雰囲気がどんどん悪くなってきている。

 上人様を始め良識ある人たちがどうにか願証寺の暴発を抑えているが、それもそろそろ限界になってきている。
 上人様は少しでも不満のガス抜きができればと淡い期待を持って連れてきてはいたが、彼らの素養の悪さから無理だと早々に諦めてもいた。

 少し立ち話も長くなってしまっていたが、俺は、今後について落ち着いて話をしたいので、上人様を本堂にお連れした。



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