名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第二章 国取り?

第五十六話 大量物資の輸送手段

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 とにかくとんでもない事になりそうだったのだが、今回のところは、あの出来の悪い学僧たちは上人様と玄奘様とが連れて帰ってくれた。
 最後まで、この寺の事に関して俺が色々と言うのが気に入らなかったのか、文句を言っていた。

「この寺は、一向宗の物だ。
 訳も解らないようなガキに色々と言われる筋はない。
 出ていかなければならないのは、お前の方だ。」 とか、最後の方はお前らそれでも坊主かと言わんばかりの罵詈雑言の限りを吐いていたが、あんなのが学僧としてやっていける一向宗は大丈夫なのかと心配になる。

 今度、玄奘様が連れてくる学僧たちに期待しよう。
 だめならば、本格的に一向宗とは決別を考えなくてはならないな。

 やっと、村の中が静かになってきたので、雪の降る前に来年の戦のための準備に入ることにした。
 まずは情報の収集からだ。
 こちらの面では何ら心配はしていない。
 なにせ、情報収集に関しては専門家を擁しているのだから、彼らに任せれば事は足りる。
 なので、藤林様に完全にお任せで情報の収集を頼んだ。
 出来うるならば工作も構わないと、忍び戦術を丸投げして頼んでおいた。

 しばらくしたら関係者を集め進捗の確認位はしないとまずいだろうけれど、当分は俺の手を離れている。
 なので、俺はハード面の準備に精を出した。
 2番艦の製造は浜の造船所で順調に進んでおり、もうじき進水だと聞いている。
 この時代の基準では大型の小早船クラスになる船である。

 今回は船を水に浸ける前にオガクズと膠を使って作った防水材を塗り、その上に漆まで塗った状態での進水を準備していた。
 順調にいけば進水後に手直しの必要が無く、すぐにでも実用に耐え得るはずだ。
 簡単な検査をした後に、操船の習熟を兼ねて、この船で、堺に商いに向かうつもりだ。

 紀伊之屋さんとの約定により、干物を卸すことになっている。
 干物については、順調に量産されてきており、門前や観音寺での需要の増加分を差し引いてもかなりの量が余ってきている。
 それらすべてを堺に持ち込んで卸すことになる。
 できれば帰りに青銅製で構わないので、大筒を仕入れたい。

 船の方は予想通りに出来上がり、造船所では3番艦に取り掛かっていた。
 すぐに堺に出発するかと言うと、問題が発生していた。
 発生した問題を片付けないと堺には向かえない。
 で、どんな問題が発生したかと言うと、干物の大量輸送についての問題だ。

 大航海時代よりこの時代までの食料の輸送保管方法としては、塩着け肉を樽に入れた状態で輸送や保管するのが一般的であったが、干物ではこれができない。
 では、どうやって大量の干物を運ぶかという問題が発生したのだった。

 発生と言うより、唯俺が気づかなかっただけなのだが……熱海や伊豆辺りで売っている干物の仕入れはどうしているかと考えてみたが、段ボール箱にビニール袋に個別包装されている物を運んでいるので参考にならない。

 いや、待て、段ボールは無理でも箱詰めはどうにかなりそうだ。
 観音寺に運んでいるように竹製の行李(こうり)に入れれば積み上げもできるので大量に運べる。
 そこで、今も竹細工をしている人に大量の行李を作らせ、その中に干物を入れて運ぶことにした。

 いや~、久しぶりにこの時代を舐めていた。
 物を運ぶのにもすぐに課題に直面する。
 とにかく大変なのだ。
 特に大量にモノを運ぶのが、これと言って決定打が無い。
 これから戦を始めようとしている我々にとっては、干物だけでなく色々なものを大量に素早く運べる工夫をしていかないと簡単に干上がることが判明したのだ。

 戦はとにかく大量消費の塊だ。
 武具だけでなく、食料や、馬などの飼葉、飲料水、上げていったらきりがないくらいに物を大量に消費していく。
 なので、大量に物を仕入れ、運ぶといったことが重要になってくる。
 当分は船を使った輸送が中心になって沿海部での戦がほとんどであろうが、伊勢の国をターゲットにしてる以上、内陸部への輸送も考えないといけない。

 俺は、将来を見越して使用する箱を規格化して平素より大量に作っていくことにした。
 当分は、干物の取引で使われる行李の大量生産を始めた。
 当然大きさは統一されて、今後は堺だけでなく観音寺に運ぶものもこの行李を使っていくことにした。
 幸いにも材料の竹ならばそこら中に沢山あるので困らない。
 問題があるとすれば、造り手の不足だが、これも俺には打開策の用意がある。
 『家内制手工業』がそれだ。
 行李の製造工程を細かく分けて、簡単にできる部分を村の子供たちにやらせ、難しいところだけを今の職人?にやってもらい、効率よく大量に作ることにした。

 幸いなことにこの試みはすぐに成功した。
 流石に日本の義務教育だ。
 理系だった俺でもわかる歴史的事実で多分大きな障害になるであろう課題も簡単に回避できた。

 村に戻ってきて2週間で再度の堺行きの準備ができた。
 今度はさすがに葵と幸は置いていけず連れていくことにした。
 幸い船も大きくなっており、九鬼一党もそれなりに連れていけるので、総勢20名での出発となった。
 今回は物流の課題の検出と操船の習熟を兼ねているので、ほとんどとんぼ返りでの日程だが、それもしょうがない。

 なので、俺らは村を出たら、どこにも寄港せずに堺を目指した。
 船印には雑賀からお借りしている物をマストに掲げての移動である。
 朝一番に出港したので、当然敵の本拠地である田城城付近には昼前の明るいうちに通過となる。敵さんには俺らの姿を確認できただろうが、船速が違いすぎて追いつけないので、そのまま無視して危険海域を脱した。

 敵さんにつかまるようならばきちんと通行料を払うつもりなのだが、彼らが徴収してこないので、しょうがない……わかってやっているので払うつもりなど無いが、風上に逃げれば簡単に振り切れるので、昼にこの海域を通過したのだ。
 なので当然、風のない日には船を出さない。
 風任せなので櫓を使った推進力には、無風では勝てないからだ。
 しかし、冬のこの時期は季節風がほとんど毎日吹いているので、今のところは問題が無い。

 それに船印にはあの雑賀党の物を使っているのだ。
 彼らが文句を言ってくるのは俺らじゃない、雑賀党にだ。
 しかも、当代最強の呼び声高い雑賀党に正面から文句を言うやつなどそうはいない。
 弱小集団と言っても良いくらいの我らの敵は当然文句なんか言うはずはない。

 俺らはそこまで計算に入れて行動している。
 怒った彼らが他の水軍衆との連携を図らないとも言えなくもないが、そんなことをすれば間違いなく彼らは引き込んだ水軍衆に取り込まれる。
 奴らは対等な同盟を結べる状況にはないことも解っているので、その危険性はないと考えている。
 少しでも同盟の可能性があれば俺はこんな挑発じみた行動はとらない。
 同盟でもされたら敵が強くなってしまうが、今の状況だと、同盟を模索すればするほど彼らの弱小化につながるので、実は挑発も兼ねての昼の通過となっている。

 もっとも、これを提案したのが俺ではなく藤林様だったのだ。
 少しづつ彼らを挑発して春までに精神的な負担を与え続けておけば、いざ行動の時には彼らはすぐには対応が取れなくなるというのだ。

 ま~、春までの堺との商いは頻繁に行うのでちょうど良い。
 俺らの操船の訓練にもなるのだから。
 もし奴らにつかまっても俺らの所属は雑賀党の貿易部門だ。
 いきなり殺されることはないはずだ。
 もしそうなれば雑賀党との戦争に繋がるから、銭を取って解放となると藤林様が言っていたのだから、多分そうなのだろう。
 もっとも、風上に逃げられるのだから、船の位置にさえ気を付けていればそんなことも起こりようが無いのだ。

 とにかく、九鬼一党の全員がこの船の操船に慣れることが先決だ。
 メンバーを変えて堺への商いには頻繁に出かけることになっている。

 最初は俺らも堺について商いを行うが、そのうちに堺での商いは九鬼一党に任せることになる。
 堺で価格の交渉事もなくただ荷を運び代金を受け取るだけなのだから、それこそ操船さえできれば誰でもできるのだ。

 で、俺らは、せっかくの堺での繋がりを持てたのだから、人脈を広げていくことに力を注ぐことになっている。

 最初に言っていたことだが、できれば大筒を仕入れたい。
 頼みの中国商人は既にここを去っているので、別口を探している。
 その合間にしっかり葵と幸に色々と買わされた。

 じっとその様子を見ているが何も言わない張さんにもきれいな髪飾りを買ってあげたらとても喜んでいた。
 良かった、張さんでも、やはり堺でのお土産を欲しかったのだろう。
 傷口が大きくなる前に修正できたことを喜ぼう。

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