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第二章 国取り?
第六十話 永禄8年 正月
しおりを挟む時は過ぎる。
何もしなくとも時は過ぎていく。
時が過ぎれば季節も変わる。
そう、俺が、訳も解らずに、この世界に来たのが卯月、昨年の4月だ。
平成の世でも4月はまだ肌寒い事もあるのだが、この戦国時代は平成よりも平均気温で数度も低かったそうで、そんな中ずぶ濡れで浜に打ち上げられていた俺ってな~に、最悪風邪ひいて肺炎にでもなっていたかもしれないよ。
よくあの環境で生きていけたと我ながら自分をほめてあげたい。
今は正月、あの最初に案内されていた小屋では、あのぼろさでは、とても正月を祝おうという気分にはなれなかっただろう。
と言うか、生きていくのに汲々としてそんな余裕すらできなかったかもしれない。
張さんと珊さんの二人がいたからどうにかなったのだ。
それに、玄奘様や上人様の援助も忘れられない。
それらがあったから、今があるのだろう。
正月を立派な寺を借り切って村人全員で祝うことができている今の状況に感謝している。
境内では、村の子供たちが、この寺に最近やってきた学僧たちと一緒に餅つきをしているのだ。
なんとほほえましい事だろう。
最初にやってきたあの威張り散らした学僧とは段違いなので助かっている。
本堂で宴会はさすがにできないので(玄奘様や学僧たちが居なかったらやっていたが……)、あまり使われていなかった講堂を使って村人の大人を集めて新年を祝う宴会をしている。
境内で子供たちが学僧とついている餅は、出来上がり次第順次こちらで作ってある汁の中に入れて味噌味の雑煮にして、みんなにふるまわれている。
最初にこの時代に来たばかりの頃を考えれば何と贅沢な事だろう。
最初の酷さからは想像もできないくらいに幸せな気分で村人たちと正月を祝っていた。
考えてみればこの時代に来てから4半期の3期分が過ぎ、企業ならば今期最後の四半期に向けて一層の頑張りを見せる時期になっている。
我々三蔵の衆も今期最後の大商談戦争が待っている。
今期中とは4月までに懸案である志摩の奪取を計画している。
今の調子でいけば大丈夫、志摩を落とせそうだ。
そもそも、我々三蔵の衆も、最初の3人からは考えられないくらいに成長を続け村人やほかの拠点にいる人間を合わせるといったい何人になっているんだ。
200人くらいまでは認識していたのだが、あれからも、たびたび戦災孤児などを中心に引き取ってきており、隣の部落を吸収したあたりから急激に勢力と言うか、人間の数が増えている。
藤林様の所の伊賀衆からもかなりの人間と合流を果たし、なんといっても九鬼様の一族の合流が大きい。
いまだに九鬼様を頼って一族が合流してくるのだ。
俺の感じからは既に500は越えてきているのだろうと考えている。
その内半数近くが武士(もののふ)、水軍と忍者で占めているようなややバランスを欠いた構成になっているのだ。
それも、考えられないくらいに順調に発展して、志摩1国を落とせば、今のバランスの悪い人口構成も修正されることだろう。
伊勢まで落とせれば、確実だ。
立派な戦国大名の誕生だ。
大名は九鬼様がなることだろうか。
それとも藤林様がなるのかな?
どちらにしてもその辺は伊勢を落とすまでにはっきりさせるが、今は全力を挙げて準備をする。
明日には雑賀埼から孫一氏もここに来て下さるそうだ。
一緒に正月を祝いながら春の準備をすることになっている。
なので、今日は難しいことは考えない。
ここに上人様がいらっしゃればよかったのだが、流石に願証寺の重鎮でもあるので、正月の忙しい時には寺を抜け出せないのだそうだ。
なので、あとで、張さん達を連れて挨拶に伺おう。
昼前には一旦ここを抜け明日の夕方には戻ってこられるので、他の村方たちに場持ちを頼んで、寺を出ることにした。
俺と張さん、珊さん、葵に幸の5人だけで長島の願証寺に向かった。
寺には昼過ぎに着き、寺も、正月の儀式などは終えており、付近の信者の参賀を受けていた。
なので、寺の重役である上人様の時間が取れ、俺らは上人様の私室で新年の挨拶を行っていた。
「ご無沙汰しております。
まず、新年の挨拶を、
あけましておめでとうございます。
………
今年もよろしくお願いします。」 と俺の挨拶から始まり、全員で上人様に新年の挨拶を行った。
近況などを楽しく話した後に、当然だが、村の課題である春の志摩攻めについて話題が及んだ。
新年早々の話題としては相応しくないのだろうが、こればかりはしょうがない。
準備の状況から、戦後の懸念事項なども話された。
戦の方は、雑賀党の合流もあり、ほぼ間違えないところまで来ているのだが、それ以降として北畠からの横やりが気になっていた。
多分夏には一度ぶつかることになる。
山がちの志摩でこちらには大砲まで20門もあるのだから、準備さえしっかりしておけば大丈夫だとは思うが、他が絡んでくるとまずいし、俺ら三蔵の衆との繋がりを気取られてもまずい。
俺らの方は一向宗徒として、三蔵寺はここ願証寺の末寺として、不戦を貫くつもりだ。
多分あちらも強くは出てこないだろうと、上人様もいっておられた。
一つの懸念としては、夏の戦に我々が駆り出されないかと言うことと、村から徴発と言う名目の乱取が行われないかが心配だ。
そんな話をしたら、上人様が寺にいる学僧に武器を持たせ寺を守って下さることを約束してくれた。
彼らはいるだけで十分な抑止力となる。
彼らの姿を見たら北畠の雑兵たちは手を出さないだろう。
直接の戦闘は起こらないというのが上人様の見立てだ。
俺の懸念事項の一つが上人様に相談して簡単に片付いた。
バーター取引じゃないのだが、冬を越せそうにない流民がちょっとばかり寺に集まってきているので、例によって引き取らされた。
この流民も大人になったばかりの数人に率いられての大半が子供や女衆であった。
今までと状況は全く変わっていない。
相変わらず世の中は酷い状況が続いているのだとか。
俺の率いる三蔵の衆はこれらからすれば正に極楽だとか……勘弁してほしいのだが、これも今の世相じゃしょうがない。
彼らと一緒に寺に戻っていった。
寺に着いてから、彼ら流民を玄奘様に紹介してとりあえずの世話をお願いした。
本堂にて落ち着かせ、正月用に用意した食べ物を食べて貰ったら、安心したのか、ほとんど全員が本堂で倒れるように眠ってしまった。
本堂を温かくして一晩をそのままで過ごしてもらい、明日以降に空いている宿坊に部屋を割り振って貰った。
で、俺はと言うと、この寺を訪ねてくれた孫一氏との軍議に入った。
正月用の御馳走で雑賀党の皆さんをもてなし、俺らは、門前にある藤林様の御屋敷で軍議に入った。
メンバーは前回の軍議のメンバーに雑賀党の重鎮が加わった格好だ。
そう~、張さんはともかく葵と幸まで付いてきた。
なので、彼女たちには料理などの面倒を見て貰った。
前回同様シリアスな雰囲気には全くならずに会議は進んだ。
「で、敵の戦力だが、前回より詳細に判ってきた。
安宅は2だ、関も5、小早は15がやっとだな。
城詰はそれらを出した後だと80くらいと言ったところだ。
女なども入れると120はいくだろうが、戦力としては全く影響は出ない。」
「空さん、こちらの準備はどんな感じですか。」
「今は3番艦4番艦の2艘が艤装まで終わっており、大砲の試射をできるが、敵にばれるとまずいので、堺の周辺でやってもらうことになる。
2月末までには残りの3艘も艤装を終えることはできそうだ。
なので、計画通りに船戦はこれら5艘でやってもらう。」
「では、そろそろ陣構えなども決めていこう。
で、今回の総大将は誰になるかな。
俺らはだれの指示に従うことになるんだ。」
「総大将は当然空殿では。」 と何の疑問も挟まずに九鬼様は言ってきた。
「「だめ~~~!」」 と葵と幸が急に声を上げてきた。
張さんまでが、「戦に子供が出るものではありません。」 とこれもかなりきつい調子で言ってきた。
軍議に加わっている男衆は女衆の強力な反対意見に押されてタジタジになっていた。
すると藤林様が、 「それもそうだな。
それに今回の戦は、九鬼殿の弔い合戦であり、失地の奪取のための戦でもあるし、どうだろう九鬼殿に大将をやってもらうのは。
空殿がこればかりは決めてくれ。」
「そうですね。
俺もあまり血なまぐさいのは駄目な方なので、戦は避けたいかな~。
九鬼様、お願いできますか。」
「空殿に言われれば、是非もない。
私にやらせてください。」
「では、今回の戦は田城城の奪取が主目的となります。
なので、九鬼様は、大将として船団を率いて最初にあちらの船を落としてください。
腹心の方に孫一氏と一緒に城攻めをお願いします。
城攻めには伊賀衆も一緒で、すみませんが藤林様の所から城攻めの頭を出して貰えますか。」
「なればワシが出よう。
孫一殿、よろしく頼みます。」
「こちらこそよろしく頼みます。」
「連絡役に一人空殿のところに置いておきます。
初陣にはまだ早いので戦場には連れていけない百地(ももち)を置いておきます。
何かあれば彼に言ってもらえれば私に連絡が取れるようにしておきますので安心しておいてください。」
「百地?
あ~、もしかして丹波たんば少年の事ですか、あの時一緒にいた少年ですね。
よろしくとお伝えください。」
その後も細々とした事が話し合われ、軍議は終了した。
一旦雑賀党の方たちは雑賀埼に戻られるがすぐにこちらに来て下さるとかで、こっちも受け入れの準備をすることになった。
寺も本格的に機能し始めてきたので、いつまでも村の都合で寺で宴会とはいかないので良い機会だからと、門前に村の集会場を作ることにした。
幸いにこの辺りにはほとんど雪は降らず、冬のこの時期でも工事はできたので、手隙の村人全員で集会場の建築に掛かった。
正月にこっちに流れ着いた人たちも、この工事が一緒の作業となりある意味村に馴染むきっかけとなろう。
雑賀党の方たちがもう一度こちらに来たら、戦はもう直じきだ。
徐々にではあるが緊張している自分に気が付いた。
俺が初めて人の死に関する命令を出したのだ。
ヘタレの俺だ、どこまでもつかな俺のメンタルが……
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