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第三章 伊勢の戦国大名
第七十一話 作戦会議
しおりを挟む予定通りに北畠からの使者を怒らせて、帰らせることができた。
これにより事実上北畠とは戦闘状態に入ることになった。
「それにしても、あんな奴を正使にして大丈夫か。
敵だからいいけど、人ごとながら心配になるよ、彼らの領民たちが。
本当に程度が低かったね。」
「あんなものでしょう。
多かれ少なかれ、どこもあんなものですよ。
特に古くから続く家は、家柄だけで偉くなりますから、どうしても人の質といったものがね~。」 とかなり辛辣なコメントを藤林様から頂いた。
忍者として近隣の大名家と接した経験からくるコメントなのだろう。
でもね~、そうだから、不幸になる領民がそこかしこに溢れているんだよね。
俺のする方向が間違っていないことが、ひょんなことから確認された。
とにかく、民の安全安心を目指す方向に変わりがない。
そのために嫌いな戦を吹っかけてもいるのだから、この戦には是が非でも勝たなくてはならない。
「それじゃ~、我々は、これから全力を以って戦の準備をしましょう。
すみませんが、孫一氏を呼び出してもらえますか。
作戦を作っていきます。」
3日とかからず、ここ取手山砦に孫一氏が配下数人を連れてやってきた。
「わざわざお呼び出ししてすみません。
さすがに、ここを全員で離れるわけには行かなくなりまして、この砦で北畠との戦の準備を差配することになりましたので、ここでしか打ち合わせができなくなりました。」
「いや~、何、どこでも変わらんよ。
ここも、賢島も、港から直ぐだから大して変わらんよ。
むしろ、前の田城城の方が不便だったかな。
なにせ、船を降りてからしばらくかかったからね。
で、いよいよ始まるとか聞いたぞ。」
「ハイ、先日、かねてからの計画通りに北畠の使者を怒らせて帰しましたから、北畠の殿様はすぐにでも攻めたくて、今急いで戦支度をしているところじゃないですかね。」
「うちの手の者からの知らせからも、今、城下に動員令がかかったようです。
しかし、今ちょうど田植え前なので、なかなか集まらないと聞いております。
今の状況からは、どんなに急いでも彼らの出陣は皐月(5月)になってからになるでしょう。
下手をすると水無月(6月)になるかもしれません」 と、相変わらずそつなく情報を集めてくれる藤林様が今の敵の状況を教えてくれた。
「それまで、こちらの方は準備をしましょう。
で、今日、わざわざ集まってもらったのは、戦の作戦を立てておきたかったからなのです。」
集まった全員の表情が少しだけ険しくなってきた。
そりゃそ~だ、なにせ命が掛かっている戦の作戦だから、いやがおうにも真剣にならざるを得ない。
「では、お聞きします。
どなたか、北畠が霧山城からここまで、どこを通ってくるかわかりますか。」
すると、藤林様は、付近の略図を記してある絵図を広げて説明を始めた。
「まず間違いなく、伊勢街道で向かってくるものと思われます。
ただ、途中櫛田川を超えるあたりで、そのまま伊勢街道で来るか、和歌山道で来るのか予測がつきかねます。」 と言って、シワシワになっている和紙に書かれている絵図で説明してくれた。
ありがたかった。
とにかく地図が欲しかった。
たとえ縮尺や配置など多少の間違えがあろうとも位置関係が分かるだけありがたい。
で、確認すると、敵の居城である霧山城からここまでは、ほぼ真東に進む経路となる。
道も今(令和の世)でさえ山深く、あまり選択肢がない所で、時代が戦国の世となっては、限られてくる。
霧山城からは伊勢街道一択なのだが、山を抜けたあたりからいくつかルートが考えられた。
この時代の情報収集のプロである忍者の藤林様が言うのには、途中に櫛田川があり、川越する必要があるのだそうだ。
一般的にはそのまま伊勢街道を通って川を越えてここまで来るが、ちょうどその辺には和歌山街道の別道である和歌山別街道と呼ばれている道があるそうで、そこも利用ができるのだそうだ。
おおよそのルートが見えてくると、作戦が立てやすくなってくる。
俺は知らなかったが、北畠の居城って、なんであんな山奥にあるのだ。
今の津市、この時代では大湊と呼ばれていたそうだが、あのあたりにあるものかと思っていたのだが、絵図で確認したところ、何もないところのイメージしかないが。
あのあたりに何かあったかな。
(付近にお住まいの方、この地域に愛着などおありの多数の方にお詫びします。
これはあくまで筆者の個人の感想で、決してこの辺りに他意はございません。
なにせ土地勘のない筆者がウィキペディアやグーグルマップだけを使って書いているための無知によるものとしてお笑いください。)
なにせ、このあたりに全然土地勘がなかったのだが。
俺が大学に入って研究室に通い始めた頃に研究室の親睦を兼ねて車数台で伊勢参りに行った時に、帰りに誰が言いだしたのか知らないが、『ここまで来たのならば大阪で粉物を食べて帰ろう』ってなって、どんどん奥に入って山の中を延々と車で走った記憶しかない。
あの時はひどい目にあったな~。
今の方が酷い状況なのだが、あの時の感じだと、あのあたり山しかないイメージしかないのだ。
あの時ですら山深い地域なのだから、この時代でもそうなのだろう。
「あの~、藤林様。
この辺は、かなり山深いと思われるのですが、戦支度を整えた軍勢が通るのに問題はないのですか。」
「空さん、よくご存知ですね。
ほとんど林の中を通る道となっております。
昼でも薄暗いところのほうが多くて、多分彼らは通るのに苦労はすると思いますよ。」
俺は、この話を聞いて、ある作戦が思い浮かんだ。
まともに相手する必要はないのだ。
となると、小をもって大を打ち破るのにもってこいの作戦がある。
それに付近の地理的状況ももってこいとなれば、それしかない。
そう、ゲリラ作戦だ。
俺は思わずニタ~~って顔をしていたそうだ。
あとで、張さんから、『空さん、あの時ものすごく悪人の顔をしていましたよ』って言われたくらいなのだから、かなりひどい顔をしていたのだろう。
「で、今の説明を聞いてある作戦が思い浮かびました。
聞いてくれますか。」 と言って、思いついた作戦を説明した。
何も、敵を待つ必要がないのだから、霧山城のそばから、ゲリラ戦を仕掛け敵の戦力を削って行くという極めてシンプルな作戦だ。
山の中に潜んだ鉄砲隊を使って、軍勢の後から付いてくるはずの輜重隊を標的に足軽だけを狙う作戦だ。
それも、命を狙わずに怪我だけを負わせるようにお願いをした。
「殿、色々とお聞きしたいのですが、まず、なぜ命を取らないのですか。
生かしておけば、怪我が治ればまた襲ってきますよ。」
「別に慈悲の心で命を取らないわけじゃないのです。
むしろ、これは悪魔の作戦とでもいいますか。」
「悪魔???」
「すみません、悪鬼の作戦です。
軍勢から一人を殺せば、その分だけ兵士は減りますよね。
一人を殺しても一人しか減らないんです。
でも、その一人が、もし大怪我だったのならばどうなると思いますか。」
「大怪我でも変わりはないのでしょう。
一人は怪我で戦えないのですから。」
「そうです、一人は怪我して戦えない。
怪我をした一人は、戦えないから軍勢から抜けますが、一人では帰れませんよね。
なにせ大怪我なのですから。
ましてこの戦乱の時代には武者狩りなんかもあちこちであるのでしょう。
弱った兵士を一人で帰すわけにはいかないでしょう。
となると、彼を帰すために最低でも二人は必要になり、彼らも軍勢から抜けなければなりませんよね。
一人が死ねば、そのままで済みますから、軍勢からは一人分しか戦力が減らなかったところが、一人の大怪我では最低でもけが人を含め3人は戦力が減ることになります。
敵が怪我をすれば最低でもその3倍の戦力が減るわけなのですよ。
だから、怪我をして歩けなくすることが重要になってくるのです。
それに、輜重兵が怪我をすれば、代わりに戦うはずの足軽が荷を運びますよね。
戦場についた頃には疲れて戦えませんよ、彼らは。」
「殿、それならば、いっそのこと大将を狙った方が早く方がつきませんか。」
「確かに大将などの侍首を取った方がこの戦は早く終わるかもしれませんが、その後がめんどくさくなります。
なにせ、弔い合戦になるのですから、敵もそれこそ全力で我々を潰してきます。
だからなのです、侍を狙わないのは。
できれば傷ひとつ負わせずに彼らにはお帰り頂く。
そうなると、帰った後が彼らには地獄が待っているのですよ。
そう、足軽だけが大怪我を負って、負け戦となれば、帰った後がどうなるか。
侍たちは、足軽を弾除けに使って逃げ帰ったと言われるのですよ。
そう、藤林様の所の配下の皆さんがきちんと噂してくれますよね。
城下でそんな噂が広まれば、統治なんかできるわけがない。
領民にとって恨まれた領主は、邪魔な存在なのです。
もし、領主を変えることが出来るのならば、早く善政を敷く新たな領主に代わってほしいと思われるのですよね。
領主と領民の関係が最悪になった頃に我々が解放軍として乗り込めば少ない戦力でも簡単に占領ができるようになります。
今回の戦はそのためにもあるのです。」
「分かりましたが、戦わない輜重兵は気の毒ですな。」
「そんな訳はありませんよ。
彼らも戦に来ているのですよ。
たとえ戦の時に戦わなくとも我々が負けた時には、このあたりの強奪に加わる連中ですよ。
領地が攻められた時の防衛戦ならばともかく、彼らは全員がこの地の人や富を強奪に来る連中なのですよ。
それも、力の弱い女や子供を平気で殺し回る連中なのですよ。
そんな奴らに同情なんかしませんよ、私は。
それに、謀略を持ってこの地を落とし、九鬼様の兄を始めご家来衆を殺していった連中に、奴らの戦に合わせる必要などありません。
卑怯などと罵られるかもしれませんが、もともと卑怯で怠惰な連中の戯言など気にしません。九鬼様はお気に召しませんか。」
「いや、わしらも、侍というより海賊なのだから、陸の戦いに関してはあまり気にはしませんが…」
「この作戦の良いところは、こちらの被害が抑えられるところにあります。
藤林様や雑賀党の皆様の実力から想像しますに、被害を限りなく少なくすことも可能です。
いや、戦死者を一人も出さずに終わらせたいのです。
ぜひ協力してくれませんか。」
「何、我らは構わんよ。
どうせわしらは傭兵だ。
雇い主の作戦通りに動くだけだ。
それにな~、わしもあの『や~、や~、我こそは……』ってやつは好きになれないのだよ。
そもそも矢戦ならぬ鉄砲での戦ではありえないからな。
確かに林に隠れて、鉄砲でそれも輜重兵を狙っていけばこちらには被害が出そうにないしな。
面白い、我ら一同協力させてもらう。」 と孫一氏が力強く賛同してくれた。
もともとゲリラ戦は忍者と相性がよく藤林様も快諾してくれ、まだ少し、納得がいかないものもあるようだが最終的には、九鬼様も了解してくれた。
もっとも、作戦が当たれば九鬼様たちは戦うことなくこの戦は終わるはずだ。
我々は、もう少し詳細に計画を練っていった。
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