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第三章 伊勢の戦国大名
第七十二話 戦支度
しおりを挟む俺は、北畠の今の様子をもう少し詳しく知りたかったので、藤林様に今掴んでいる北畠の様子を教えてもらった。
まだ、戦評定前の武将の動員をかけた段階だそうだ。
伊勢の各地に散らばっている北畠の家臣たちは、今がもしかしたら最も忙しい時期なのかもしれない。
この時代の春はとても忙しい。
なにせ、田や畑はこの時期に十分に整備をしないと秋の収穫が大きく異なり、下手をすると飢饉にでもなって、一族が滅んでしまうかもしれないのだ。
かなり大げさに説明してくれたが、田植え前の時期で、冬の間休ませていた田んぼを田植え前にきちんと耕す必要があるために、この時期は一族総出で田んぼにかかりきりになる。
北畠の家臣とて例外でない。
なので、普通、戦は田植えが終わって比較的農村が暇になる夏か、収穫後の冬に起こるのだ。
田植え前に、たとえ重臣だけとは言え呼び出されては、呼び出される重臣はたまったものではない。
そんな事情があるのだろう。
動員をかけてもなかなか集まりが悪いのだそうだ。
でも、こちらが北畠の血筋をかなり酷い言葉で馬鹿にしたことが各地に広まると、徐々にではあるが集まりだしたそうだ。
藤林様の見立てでは戦評定ができるようになるまでにはあと1週間はかかるだろうということだ。
なんにしてものんびりとした時代だ。
敵の動向に注意さえしておけば、攻め込まれる前に攻め込むこともできそうなくらいにのんびりとしか物事が動いていない。
でも、今回ばかりは幸いする。
我々に十分準備する時間が取れるのだから。
そのあとの手順がどうなっているかを藤林様に確認したところ、
1.戦評定で戦の詳細を決める
2.城に兵士を集める
3.出陣式を執り行って出陣
となるようだ。
ということは、あの不便で狭い霧山城にわざわざ兵士全員を集める訳だそうだ。
俺だったら、そんな無駄は絶対にしない。
絵図面を見るまでもなく、霧山城からよりも安濃津(今の三重県津市)からの方がはるかにここまでの行軍がし易い。
距離的にもほとんど変わらないし、何より海岸沿いに進めるので、かなり行軍が楽になるはずだ。
それに途中には松阪もあり、軍を休めるにも都合がいい。
というか、いっそのこと松阪集合の方がはるかに合理的なのだが、そんな真似は絶対にしないそうだ。
何よりバカバカしいのは、大湊に領地を持っている武将や、松阪に領地を持っている武将までも霧山城に兵士を連れて呼び出されるそうだ。
そこまで話を聞いて、ゲリラ戦を仕掛けるのは、どのタイミングが一番都合がいいかを考えた。
場所は既に決まっている。
霧山城を出てすぐの山深い林の中だ。
なにもここまで彼らを待つことはしない。
こっちから出向いてゆっくり足軽たちに対して攻撃をかけていく。
となると、狙えるタイミングとしては霧山城に集合する時と、霧山城から出陣してくるときの二択だ。
どちらもメリットとデメリットがある。
最初の集合する時にだが、この時は、ばらばらに集まってくるため、敵を各個撃破が容易にできる。
しかし、集まるルートも多数あるので、ルートの狙いがつきにくく、打ち漏らす可能性も捨てきれない。
出陣後だが、これは、反撃のおそれがあるのがデメリットだが、あらかじめ調べておけば敵を打ち漏らす危険性はなくなる。
しかも、戦のための輜重も多くなり、これを襲えば敵に多大な損害を与えられるのだ。
もともと矢戦には向かない林の中のゲリラ戦だ。
鉄砲の数が我々の方が断然多く、敵の反撃も簡単にかわせる見通しなので、俺ら全員の意見が一致して、出陣後を襲うことにした。
基本戦略が、ゲリラ戦で足軽しか狙わない作戦なので、敵が霧山城に集まってから我々は行動をすることにして、情報収集に全力を注ぐことになった。
その後も作戦の詳細を詰めていった。
とにかく徹底的に足軽などいわゆる雑兵を虐め抜く作戦なので、進軍ルートの林の中では、いたるところに罠を仕掛けることになった。
それも、敵を殲滅する罠だけじゃなく、嫌がらせのたぐいの罠を多数設けることになる。
実例を上げるのならば、進軍ルートに当たる街道の狭い場所に大きな木を切り倒して道をふさぎ、木をどけにやってくる足軽たちを落とし穴で怪我を負わせるなど、これでもかという感じの嫌がらせをすることになる。
作業時間が、松阪方面からの武将が霧山城に向かったあとにしか時間が取れないので、三蔵の衆が全力を挙げて罠を仕掛けることにした。
なので、一向宗の寺で現場に近いところを上人様に紹介していただき、たくさんの奉納物を持ってその時まで、その寺で潜ませてもらうことにした。
事実上の前線司令部をその寺に置かせてもらう。
早速、方針が決まると、俺は久しぶりに葵と幸を連れて願証寺に向かった。
今回は、船で寺のすぐそばまで向かった。
なにせ願証寺はこのあたりでは一番大きな寺で、門前の市も盛んだ。
当然港も整備されており、かなりの船が出入りしていた。
多くは大湊や熱田、遠くは三河の各地から来ていたようだ。
そんな多くの船に混じって俺らも港に船を進めた。
これはかなりの時間が短縮された。
これならば、頻繁にここまでこれそうだ。
俺らは、船に珊さんだけを残し、寺に向かった。
直ぐに上人様に合うことができ、俺は今までの経緯を説明して、俺らがいよいよ伊勢の地の攻略に入ったことを話した。
ここ願証寺が、もし暴発した時の、受け入れ先として伊勢の地を用意していることは既に上人様には説明してある。
この願証寺の暴発も歴史的にはあと5年後にあるはずだ。
暴発が防げるならばそれに越したことはないのだが、本願寺の指示もあるだろうから望み薄だ。
俺らも、暴発後の受け入れは、するつもりは無い。
暴発する連中はどこに行っても暴発するので、せっかく生き延びても、彼らのせいで、善良な領民が犠牲になることは避けたいのだ。
なので、暴発する前に、できるだけ穏健な思想の持ち主を伊勢に引き取り、願証寺の戦力を削って一揆を防ぐ構想だ。
なので、是が非でも1~2年後までには伊勢の地を押さえておきたい。
そのための一歩なのだ。
俺の考えは上人様には包み隠さずに説明してあるし、上人様も理解を示してくれている。
抑えるべき寺の一つでもある松阪近くの寺を紹介してもらった。
寺には、戦災で流民となった俺らが願証寺から安住の地を探して松阪周辺の未開の地を調べていることにしてもらった。
しばらく、寺の軒を借りて、寺のそばに小屋を建てさせてもらい、そこに詰めることにした。
寺のそばの小屋が今回の戦における前線司令部となる。
俺らは、上人様から紹介状をもらい、三蔵寺に寄り、玄奘様を連れ出して、松阪に向かった。
今回の松阪には、いつものメンバーの他に与作さんたちにも同行してもらっている。
彼らは今回の戦における罠作りには欠かせないメンバーだ。
土地勘を養ってもらうこともあり、戦終了まで、司令部に詰めてもらう。
というより、与作さんに司令部の小屋を作ってもらうつもりだ。
流石に敵地であのモルタルの集合建売住宅のような小屋は作れない。
昔ながらのほったて小屋をつくってもらうのだ。
松阪の寺との交渉は玄奘様が行ってくれた。
玄奘様と寺のご住職とは顔見知りで、上人様のお弟子さんの一人だったそうだ。
なので、上人様の紹介状があったので、交渉らしい交渉はいらなかったそうだ。
俺らは軒を借りて直ぐに小屋作りにかかった。
小屋はすぐに作ることができた。
作業慣れした与作さんたちが、使い慣れた工具を使い、人足も十分にいたので、本当に直ぐに小屋はできた。
早速出来た小屋には藤林様の配下数人に詰めてもらい、付近の情報収集にかかってもらった。
何より注意が必要なのが、ここ松阪を領有している北畠の配下の武将の動向だ。
直接の動きもさることながら、武将の人となりも調べてもらった。
もしかしたら、既に信長配下の滝川様との接触があるかもしれないのだ。
北畠を裏切る可能性が有るようならば、そこも利用していきたい。
とにかく情報が重要だ。
で、俺らは、玄奘様と別れ、藤林様とここから霧山城に向かうルートを下見に行った。
罠を仕掛ける場所や、襲撃出来そうな場所、それに何より重要なのは、襲撃後の避難ルートの確保だ。
するつもりはないが、一応、決戦の場所の候補も決めておきたい。
そんな感じで、今回は、女性陣を小屋に置いてきて、俺と藤林様とその配下数人、それに与作さんたちにも一緒に来てもらった。
2~3日かけて周辺の調査を終えて、俺は絵図面を作ってみた。
我ながら下手な絵図面だが、わかればいい。
決戦の場所は、櫛田川の川原に決めた。
敵の渡河が始まるところを大砲と鉄砲で打ち取る作戦だ。
この段階になると、戦略的には失敗となる、敵の武将のみを狙わざるを得ない。
でも、この戦は勝てるだろう。
なので、作戦目標は敵にここまでこさせないことだとみんなに徹底させた。
後は、大砲や鉄砲の弾薬を用意するだけでいいはずだ。
俺は一旦賢島に戻ることにした。
~~~~~~~~~~~~~~
今の配置状況
●取手山砦 九鬼様とその配下
●松阪の寺 藤林様とその配下、与作さんたち
●賢島 俺と張さん、珊さん、他
●三蔵村 玄奘様たち多数
敵 北畠の状況
戦評定のための動員中
1週間くらいかかりそう
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