名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第三章 伊勢の戦国大名

第七十三話 ゲリラ戦

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 俺はいつものメンバーを連れて一旦賢島に戻った。
 戻ってすぐに、雑賀党から出向してきている鍛冶師のもとに行った。

 俺は驚いたよ。
 若いが優秀とは聞いていたが、ここに来ていた鍛冶師の4人は全員がとても優秀で、大砲用に開発している笥弾は、一戦(ひといくさ)分は優に生産されていた。
 それに、彼ら本来の目的である火縄銃の命中精度を上げる弾の研究も笥弾を縮小する改造を行い、一定の目処はついていた。

 今は、その先の研究で、弾の空洞部分に火薬を詰めることで早合に使えないかの研究中だとか。
 こちらも、ほとんど目処を付け、量産のための研究中だとか。

 俺はすぐに鍛冶師を集めて打ち合わせに入った。
 大砲の弾の量産は、既に一戦分は生産されていたので、今の段階で中断させた。
 その分、火縄銃版の笥弾の研究を急がせた。
 今度のゲリラ戦で使いたい。

 念の為に、量産性が悪いが一定の効果が出ている今の弾を研究と同時進行で作らせた。
 同時に、作っているその弾を使って、うちの火縄銃部隊に訓練をしてもらうことにした。

 訓練では、火薬の消費が激しくなるので、俺は、定期的に堺に行っている連中に手紙を持たせ、紀伊乃屋さんと能登屋さんに火薬の仕入れを頼んだ。
 堺の大店二つに繋がりが持てるようになって、こういった場合にいちいち俺が出向かなくても大丈夫になったので大変に助かっている。

 今は時間との勝負となる。

 それにしても、俺が頼んだ大店は両方ともに優秀で、手紙を持たせた船の帰りには火薬を10樽も運んできた。
 一戦するには十分すぎる量だ。
 これだけあれば、伊勢の侵攻が終わるまで持ちそうだ。
 俺はすぐにお礼の手紙を次の船に持たせた。

 北畠の情報の収集はここにいても次々に報告が上がってくる。
 俺にいつも付いてきてくれる丹波少年経由で藤林様がまとめた情報を渡してもらった。
 一番の懸念事項である松阪の地を領しているのが、大川内城にいる大川内氏と海に面した松ケ島城にいる日置大善だ。

 特に松ケ島城主の日置大善だが、彼の兄が大川内城で、家老に当たる筆頭の家臣であり、兄弟でこの松阪にかなりの勢力を誇っているようなのだ。
 彼を篭絡できれば後々楽なのだが、流石にこの段階では時間が無さ過ぎる。
 今後の課題として覚えておこう。

 大河内と日置の二つの勢力が霧山城に動いたら、すぐにでも活動ができるので、この二つの勢力の動向を注意深く探ってもらった。
 当然、彼らの城には留守居役は置くだろうが、城を攻めるわけじゃないので、別段城の内部の調査まではしなかった。

 最初の報告からほとんど時間を置かずに、霧山城で戦評定が行われたとの連絡を受けた。
 評定そのものは、直ぐに俺らを殲滅できる勢力を持って攻め込むことで話がまとまったそうだ。

 俺らのことを完全に舐めきっており、ここあたりの田植えが始まる前に志摩を占領するつもりだとか。
 そうすれば、今年の秋にはこの志摩からの年貢も十分に取れるとの計算が働いたらしい。

 評定で北畠具教が田植えを終えてからの侵攻ではこの地が荒れて今年の収穫は望めないが、田植え前の今ならば、攻め込んだあとで田植えをさせれば秋の収穫も期待できる。
 侵攻は我らの力を持ってすれば行き帰りの時間だけで済むとまで言い切ったそうだ。

 それを聞いた配下の武将たちは、楽に自分たちの取り分が増えるとの下衆な考えで一も二もなく賛成したそうだ。
 それに、戦の支度も、身一つあればいいとまで言い切ったそうだ。
 食料などは、我々から略奪すれば済むし、たいして抵抗もできないから、矢も準備の必要もない、必要なのは今すぐに侵攻することだとまで言い切ったと報告では言ってきている。

 本当に、ここまで我々を舐めきってくれていると、楽に勝てそうだが、彼らを舐めていると自分たちがド壷にはまるので、ここは慎重に準備をしていく。
 彼らの侵攻が早まったことがわかったので、我々の準備も急がせた。

 幸い、大砲も火縄銃も玉薬の準備は間に合っており、ここから、取手山砦に移すだけだ。
 早速船を用意させ、資材の移動を命じた。

 俺らが、再び取手山砦に到着する頃に、大河内と日置の軍勢が霧山城に向けて移動し始めたと報告を受けた。
 また、霧山城で情報の収集に当たっている忍びからは、1~2週間後に出陣式がありそのまま攻め込むとの報告ももらっていた。

 俺らの戦は始まったのだ。
 大河内と日置の軍勢の殿しんがり(最後尾)の後から、距離を取って付いて行き、林に入ったら、罠を設置していく。
 すぐに与作さんたちを連れて、藤林様の手引きで移動を始めた。

 俺はというと、やはり戦場には行くことができないらしい。
 なので、前線司令部を置いてある寺のそばの小屋で待機となった。
 ここは、前線に近いことから、次々に情報が集まってくる。
 初めは1~2週間と予想していたが、4日後に出陣式が執り行われるとの報告がもたらされた。

 かなり予想より早い出陣だなと、訝しがったが、彼らは、すぐにでも領地が取れるとかなり張り切っているのだそうだ。
 戦に参加する領民たちも久しぶりの乱取りを期待して、こちらもやや暴走気味だとかが聞こえてきた。

 本当に下衆な連中だ。
 でも、この時代ではどこもかしこも当たり前の光景なんだとか。
 それも楽勝が期待されている戦前ではしょうがないとも言っていた。

 しかし、戦国の戦の常識を変えてやる。
 俺が小を以て大を破ってやると意気込んで見たが、ふと思い出した。
 そういえば、南北朝時代の楠木正成の戦法もある意味ゲリラ戦に近いよな。
 そもそも、敵の意表をつくのは戦法の常識だとも言える。

 遠く中国の兵法書にさんざん書かれていることだし、あの有名な孫子には『虚をもって実に当たり、実をもって虚を攻める』なんていうのもあったような。
 何も俺が天才的なヒラメキでこれまでない戦術を駆使するわけじゃないことが思い出されたので、かなり入れ込んでいたのが落ち着いてきた。

 そもそも、敵が俺たちのことを調べていないのが不思議なくらいだ。
 それこそ100戦して1勝もならずってやつだよな。
 ま~俺たちはやることをやるだけだ。

 完全に軍勢が林の中に入ったのを確認し、九鬼様に計画通り決戦場の川原に陣を敷いてもらった。

 大砲も、賢島から連れてきた牛に引かせて、5門も陣に据付、牛を前線司令部のある小屋まで戻してきた。
 で、俺の仕事はこれから、戦が終わるまで、この牛の世話となる。
 ちょっと情けなくもあるが、誰かが世話をしないと牛だって生き物なので死んでしまう。

 それに戦において、この場には俺以上の暇な奴は存在しない。
 なので、俺が牛の当番だ。
 ここにいても戦の状況は次々に入ってくる。
 ほとんど計画していた場所に罠の設定を終えて、与作さんたちは引き上げてきた。
 それとほぼ同時に、霧山城では出陣式がかなり派手に執り行われたらしい。
 敵の軍勢はそのまま出陣して、早速林に先頭集団が入っていったと報告を受けた。

 俺らの計画は最後尾を狙うので、まだ戦端が開かれていないが、それもすぐに戦闘が始まる。
 夜になって、藤林様と雑賀の孫一氏が小屋に戻ってきた。

 戦果を聞いたら、敵は霧山城を2000の兵で出陣し、我々は、林の中の7箇所で足軽や輜重を担当していた農民など約100名に怪我を負わせた。
 討ち取ったのは今のところ確認は出来ていなかったのだが、中には重症を負ったのもいて、生きて戻れたかは不明だそうだ。

「空殿の予測したように、怪我を負った人を数人がかりで運ぶのが確認できました。
 敵が2000で出陣してきましたが、今日だけで500近くは戦列を離れたようです。
 明日も計画通りに行けば敵総数は半分以下となることが予測できます。」

「明日の昼ころには敵が決戦場に着きますよね。
 数を見てみないとわかりませんが、敵が川を渡る前には侍首(さむらいくび)は狙わないでください。」

「わかっていますよ。
 今日だけで、かなり怪しい空気が流れていましたから。
 なんでも楽勝だというからついてきたのだと言っている感じで、侍たちを恨んでいるように感じられました。」

「それじゃ~、計画通りにうまくいっているようですね。
 敵が見えたら、侍に当てないように後方の足軽たちを狙って大砲でも打ち込みましょう。
 今まで聞いたこともないような音が出ますから、たとえ外れても士気は大幅に下がるでしょう。
 派手にどんどん撃ってもいいですから、敵に川を渡ろうという気を起こさせないでください。
 で、雑賀党の皆さんには、川向こうで、足軽を狙って、今までのようにどんどん打ち込んでください。」

 戦初日が終わって、戦果と被害を確認したら、計画よりもうまくいっているようで、敵勢力から500近い数を戦列から奪ったが、被害は0であった。
 このまま侍たちが無傷でこの戦を終わらせたら、もしかしたら今年中には北畠を落とせるかも知れない。

 とにかくこれからもこちらの被害は最小限の戦いをしていかないと我々の方が詰んでしまう。
 慎重に気をつけながら戦を続けていくことで話を終えた。
 引き続き忍者の方たちには、夜の間、足軽たちを狙っての夜襲をかけていくことになっている。

 侍たちは、特に大将などは夜襲を警戒しているだろうが、一般の足軽たちの警戒など無きに等しい。
 なので、陣から一番遠いところに屯している足軽達を狙ってもらう。

 寝ずの仕事となるでブラックのようなようではあるが頑張ってください。
 戦が終わったら休暇を出しますから、今のブラックは許してください。
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