名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第三章 伊勢の戦国大名

第八十一話 紙具足の実力

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 本当に紙漉かみすきの準備が2週間でできた。
 もっとも、作業小屋として準備したのが炭焼きの増産のための倉庫として作っていたのがあったためそこを急遽改造したのでほとんど時間がかからなかったのと、子供達と一緒に与作さんたちが頑張ってくれたのが大きかった。

 材料の三椏(みつまた)はこのあたりに結構生えていたので、子供たちが総出で集めてくれ、それも問題なく環境が整った後、すぐに紙漉きに入った。

 具足の胴に当たる部分の型には隣で作っている焼き物で作ってもらったので、既に準備が出来ていた。
 早速俺らは紙漉きに入り、漉いたそばから膠を使って型に沿って紙を張っていった。
 何重にも紙を貼りそこそこの厚みになるまで膠を使って紙を貼っていき、ある程度厚みができたところで乾燥に入った。
 いきなり直射日光に当てての乾燥では歪みやヒビが入りそうだったので風通しの良い日陰で乾かしていった。

 それでも1週間とかからずに乾燥が終わり確認してみたところかなりいい塩梅(あんばい)の胴となっていった。
 硬さもちょっと見たところ十分そうなので、とりあえずこのまま仕上げに入ることにした。

 周りのデコボコを均ならしてその上から漆うるしを塗って化粧を施すと見た目では立派な具足の胴ができた。
 頭の部分も作ることになったので、俺が粘土を使って型を作ったらまわりに奇異な目を向けられた。

 頭を守るのならばやっぱりヘルメットでしょうとばかりに工事現場で使われるようなヘルメットの型を作り、胴と同じ要領で作ってみた。
 できたヘルメットを見て周りがこれを使うのかって感じで俺のことを見つめてきた。

 俺は以前足軽装束でよく見かけるあの三角錐すいの傘を城のイベントでかぶらせてもらったことがあるのだが、激しく動くとずれて使いにくかったので、それならばというので量産型のヘルメットを作ってみた。

 緑色の十字と『安全第一』とでも書こうかとも考えたのだが、漆を使っての化粧のために地の色が黒なのと緑色の塗料が見当たらなかったのでとりあえず無地で作ってみた。
 なんだか暴走族の装束(しょうぞく)のように見えたが、とりあえず見なかったことにして見本を持って賢島に向かった。

 賢島には軍の装束についての評価のために九鬼様だけでなく取手山砦に詰めている藤林様にも賢島まできてもらい一緒に評価をすることになった。
 胴については見た目もそんなに違和感がなく、漆で化粧をしているためにかなり立派に見えたので、見た感じでの評価は上々なのだが、ヘルメットについては本当に奇異の目を向けられた。

 早速、性能評価となり、練兵で使っている広場にて藁わらで作った柱に胴とヘルメットをつけて矢を射ってもらったり槍攻撃をしてもらった。
 当然漆は直ぐに傷がつくが具足としての性能は最後まで維持できた。
 見た目がかなりボロくなったのだが九鬼様に具足をつけてもらい動いてみたりの実際の使い勝手を評価してもらった。

 戻ってくるなりかなり興奮した口調で使った感想を言っていた。
 軽くて動きやすいと評価してくれた。 
 ヘルメットについても首を激しく動かしても視界が遮られることがなくこれも評価してくれた。

 最後に九鬼様が刀で具足を切りつけたら具足は刀を胴に受けてくい込んだがかろうじて中の藁を切られることはなかった。
 出回っている当世具足ではどうなるのかわからないのだが、俺の作った具足では最初の刀は受けきれそうだ。
 だが、囲まれて二度三度刀を受ければ持ちそうにないことは九鬼様の1刀で露見した。

 しかし、最終の評価は全員一致で採用となった。
 刀については大丈夫なのかと聞いたら、戦場では刀を受けることはほとんどないとのことだ。
 まず戦場で切られることはほとんどありえないというのだ。

 刺される切られるのような鋭利な刃物による攻撃は矢を射られるくらいしかなく槍での攻撃は切られるよりも殴られるといったような感じだとかでそれさえ防げれば問題がないのだとか。

 日本号やトンボ切りなどの有名な槍はあれ自体が非常に優れた刃物となっており、槍の切れ味が名刀にも匹敵するくらいなので有名になるのだが、一般の足軽がもっているような槍は先端に刃物がついているのだがまともに整備されていることが少なくほとんど戦場では切られることがないのだとか。

 一般の足軽たちは鋭い先端で敵を突くか重たい金属部分で敵を殴り倒していたのだとか言っていた。
 先端が鋭く尖っているので刺されることはあるがこの具足はそれも防げそうなので問題がないとの評価だ。

 何より軽くて動きやすいのが評価されていた。
 ヘルメットも同様の評価で我々の足軽用の具足はこれで統一していくことで話がついた。

 この具足は作るのに多少の手間はかかるのだが職人が作るわけじゃなく量産が出来、かつ、費用面でも今出回っている具足に比べて非常に安くなっているので、戦の度に傷の具合を確認して原則攻撃を受けた具足は廃棄して新品に取り替えていくというかなり贅沢な運用をしていくことになった。

 早速俺は三蔵村に戻り他の細々したものまで含み量産にかかるようにお願いをした。
 量産にあたっては型となる胴殻さえあればいくらでも量産できそうなので型も数を揃えてもらった。

 この辺は炭や焼き物それに木材といった今まで生産していたものに加えて具足の量産まで受け持つようになっていった。
 具足の材料が一応和紙なので、具足作りが落ち着いたら和紙の生産でも力を入れて各地に売りさばけるなと俺は密かに喜んでいた。

 将来的には和紙の原料を使ってセルロースナノファイバーで具足が作れれば今出回っている火縄銃くらいならば十分過ぎる防弾性能を持たせることが期待できるのでそちらについても研究をしていきたいのだが、あいにくそんな余裕は我々全員にあるはずがない。

 当然セルロースナノファイバーをよく知る俺にあるはずもなく、いずれということでこちらについては保留だ。

 火縄銃が戦場の主役になるにはもうしばらくの時間がかかりそうなので、それまでには完成させたいが今は伊勢の攻略と志摩の領地経営に全力を注がなくてはいけない時期だ。
 何より急がなければならないのが人材の補強だ。
 あと5年もすれば今一生懸命勉強してもらっている子供たちが戦力にもなろうがその5年が持たないのだ。

 さしずめ心当たりがあるのが竹中半兵衛くらいしか思いつかない。
 後この時代で、野に埋もれていた戦国のチート武将については全くと言っていいほど思い出せない。
 チートでなくとも内政面で活躍出来そうな武将についても同様に心当たりがない。
 山本勘助のように流浪の武将で名将になりうるような人材を見つけられればいいのだが、こればかりは運に頼るしかなさそうだ。

 とりあえず京や観音寺など人の集まるところで一人でも多くの武将とコンタクトを取り為人ひととなりを見定めて勧誘していく方針を固めた。

 俺はとりあえず当面の課題は終わらせることができた。 
 具足の内製化ができたので、予算面でも余裕が持てたことが大きい。
 でなければ今頃は堺あたりを彷徨うろついて少しでも安く足軽たちの具足の手配に走り回っていたことだろう。
 当然費用面でも苦しい立場になることが予想できたが、逆に内製化で製紙の技術を三蔵村に持たせることができたので、新たな商材としての稼ぎも期待が持てる。

 あの具足だけは売ることはしないが、それでもおつりが出るくらいの奇跡だ。
 本当に良かった、大学で研究以外に関連技術の歴史と内容を学んでおいて、まさかこんな場面を予想していたわけじゃないのだが、『芸は身を助く』じゃないけれども自分のものとした学問は自分を助けてくれる。

 今寺で学んでいる子供たちにも勉強していることがいつどんな形になるかはわからないが絶対に自分たちを助けるようになると伝えていこう。
 たまに時間ができると直ぐに思考が脱線する。

 時間があるのならば商いがてら竹中半兵衛を見に行ってみるか。
 紹介状がないので話ができるかどうかわからないが、この新たな具足を持って行けば少しは興味を持って接してもらえるかも知れない。

 思い立ったら吉日じゃないが、直ぐに行動に移ることにした。
 俺は丹波少年に、商いで竹中半兵衛に接してみることを藤林様へ伝言してもらい、行商の準備にかかった。
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