名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第三章 伊勢の戦国大名

第八十二話 行商の準備

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 行商の形で竹中半兵衛に会いに行くことにしたので、早速行商の準備を始めた。
 三蔵村は全体では既にかなりの豪商と言えるくらいの商いをしておりその商材の多くをここで生産しているので俺の周りにはいくらでも商材がある……あるのだが……俺が急に行商に行くから商材を準備しようとしたら、これが大変だった。

 何が大変かというと、たくさんあるはずの商材はその多くが既に行き先が決まっており、俺の分を準備しようとしても分けてもらえないのだ。
 俺が生産現場まで行ってほとんど土下座のように拝み倒して商材を分けてもらった。

 塩と焼き物はどうにかなったのだが、干物は苦労した。行李(こおり)1つ分だけでもかなり粘り、最後には俺が作ると言いだしたら向こうも折れて1つ分だけを分けてもらった。

「次はないですからね。
 いいですね。」 というありがたいお言葉と一緒に。

 そうそう炭も苦労して分けてもらった。
 そろそろ暑くなる日が多くなりだしたのでかろうじて分けてもらえたのだが、これが冬だったら干物以上に分けてもらえなかっただろう。

 俺はかなり舐めていたのだが、ここで作る炭は顧客が固まってきており、ほぼ毎日完売しているのだそうだ。
 炭だけは長島の門前市にしか売っていないはずなのにかなりの量が捌さばけていた。
 あとで判明したのだが、ここで作っている炭は門前で売っていたのを仲買が仕入れ、そのまま清須の織田様の所に卸していたのだ。

 ま~苦労はしたがそれなりに行商らしい品揃えが済み、張さんと珊さん、葵に幸それに丹波少年を連れての行商に出かけた。

 八風峠から妊娠しなかったロバを一頭連れ出して荷物を載せて行商に出かけた。
 行商に出かけるメンバーが女子供に比重が偏っているのが気にはなったが、既に丹波少年はそこそこの使い手となっているし、珊さんも海賊出身だけありかなりの戦闘力を持っているので普通の行商の連中に比べても戦力はある。
 見た目から侮られて襲われる危険はあるが人通りの多い時間に移動するなりリスクを抑えた移動を心がけていく。

 今回のルートは以前に観音寺から尾張の清洲経由で帰ってきた道を逆に辿たどるので迷子になる危険は少ない。
 もっとも途中途中で藤林様の配下との接触もあるのでそういった心配は全くしていなかった。

 なので、ここを発ったら久しぶりに長島の願証寺に寄り、上人様に挨拶をした後、清洲城下も見て回り、稲葉山城下で少し商いを行って、竹中半兵衛の所領のある菩提山城によって商いにかこつけて竹中半兵衛に面会しよう。

 とりあえず北畠との関係は彼の領地が荒れるまで様子見なので、当面は放っておいても大丈夫だし、賢島の開発も俺が口を出すこともない。
 それに三蔵村の商いについてもこれは完全に俺の手を離れ、かえって商材を分けてもらうのに苦労しているので、時間はある。

 ゆっくり回ることにした。

 三蔵村を出て直ぐに長島の門前につき仲間の幸代さんが頭をしている売り場に寄った。
 珍しく幸代さんの旦那の善吉さんも一緒だった。
 浜の頭をお願いしていたのだが、龍造さんたちと一緒になったことで浜の村長を龍造さんがしてくれるので今では以前のように幸代さんと行商に出ているそうなのだ。
 ふたりが本当に幸せそうに商売をしているので、見ているだけで暖かな気持ちになっていく。

 行商の様子を聞きに二人のそばに寄り話し始めた。
 そこで炭の行き先を聞いたのだが、見ると既に炭は完売していた。
 織田家の出入り商人が全て買っていったというのだ。
 何も他家の所領で買わずともと言いたいのだが、多分諜報活動の一環なのだろう。
 それにしても戦国一のチートだけある。

 まだ、美濃攻略の最中でそれも攻略の目処すらついていないはずなのだが。それに今の居城は小牧山にあり、ここからはちょっと距離もあるのに今やっている仕事の次に備えての準備には頭が下がる思いだ。
 絶対に俺ではできない。
 今やる仕事だけでも精いっぱいの俺とは頭の出来が違いすぎる。

 歴史に名を残すチートたちはチートと言われるだけのことはあるということだな。

 最近の村での様子なども聞けたので、俺らはそのまま願証寺の中に入り上人様と面会をした。
 寺の中は以前にもまして空気が悪くなっているようだ。
 以前三蔵寺に来ていたあの嫌な感じの修行僧もいたので、見つかるとめんどくさくなりそうなことから隠れるように上人様のところに向かった。
 いつものように寺男を探したのだが今日は見つけることができなかったので、上人様の部屋のある建物の前にいた修行僧に上人様の面会の許可を求めた。
 訝いぶかしそうな顔をされたのだが、俺らのことは聞かされていたのか直ぐに上人様に取り次いでもらえた。

 上人様はいつものように部屋におり忙しそうに何やら書物をしたためておられた。

「お久しぶりです、上人様。」

「「こんにちわ」」

 俺らが声をかけたら、直ぐに作業を中断して頂き、俺らに話しかけてきた。

「本当に久しぶりだな。
 ここで空とあうのはいつ以来かな。
 最近ではわしの方が村に行って会うくらいしか出来ていなかったからな。」

「すみません。
 いい訳ではありませんが、本当に忙しくなってきております。
 それに、今までと違い、活動場所がなんだか急に広がって、今ではちょくちょく堺や賢島、それに観音寺まで行っておりますので、村すら居ることが少なくなっております。
 なので、上人様との約束である1ヶ月ごとの面会は守れそうにありません。
 本当にすみません。
 お詫びというわけじゃありませんが、今日は二人も一緒に来ておりますから、それで勘弁願います。」

「お~~お~~、葵と幸か。
 久しぶりだな。
 元気にしておったか。」

「「はい」」

「村で元気にしております。
 最近ではこうして空さんにも色々と連れて行ってもらえるようになり、堺にも行きました。」

「それは良かったな。
 張さんや珊さんも元気そうだな。」

「はい、皆様には良くしていただいております。
 特に寺の玄奘様にはいつも良くして頂いております。
 ありがとうございます。」

「それは何よりだ。」 といった感じで俺らは上人様としばらく世間話を始めた。

 近隣の状況もこれといって目新しい情報はなく、織田信長が美濃攻めで苦労していることくらいしか得られなかった。
 織田勢が美濃に入り手痛い敗北を喫したとか木曽川の墨俣あたりでの小競り合いが何度かあったといった情報があるが、近隣の勢力バランス的には変化もなく、平和なのかそうじゃないのかわからないような気持ち悪い状況が続いているそうだ。

 その影響からか、日増しに寺の空気が悪くなっている。
 過激な思想を持つ者が前にもまして増えており、いつ暴発するかわからないとも言っておられた。
 俺の感じでは俺の知っている歴史よりも長島の一揆が早まるかも知れない。
 俺からは堺あたりの情報を伝え、寺を後にした。

 ここから清須まではすぐだ。
 今日は清須で宿を取るつもりだ。

 清洲城下は以前来た時のように賑やかだった。
 すでに織田様は居城を小牧山に移していたはずだが、配下の家族は移動をさせておらず、以前の賑わいを保ったままだった。
 以前来た時のように寺に軒を借りて一泊して城下町を散策していた。

 丹波少年によると他国の忍びなどのような怪しげな人はいなかったそうだ。
 もっとも埋伏された忍びは分からないとも言っていたので、忍びがいるのかいないのかはわからない。
 信長が居城を移しているので、戦略的な価値はかなり下がっているのが原因かも知れない。

 なので俺らは安心してゆっくり散策をしていたら、向こうからお武家様の一行がやってきた。

 あ、まずいかも知れない。
 目が合ってしまった。
 お武家様の一行の中で一番偉そうな人と目が合ってしまった。
 そう、あの人は俺が以前浜であっている人だ。
『滝川一益』だ。
 めんどくさくなる前に来た道を引き返そうとしたら、声をかけられた。

「お~、坊主。
 だいぶ雰囲気が変わって分からなかったが、以前伊勢の浜であったことがあるよな。」

 たった一回しか合わなかったのに覚えていたか。
 やはり歴史に名を残す人は頭の出来が違うな。

「はい、一度浜でお話をさせて頂きました三蔵村の空と申します、滝川様。」

「ほ~、坊主もわしの名を覚えていたか。
 これは光栄だな、ワハハハハ。
 して、坊主は何しておるのだ。
 まさか伊勢の間者じゃあるまいて。」

「間者……そんなわけあるはずがありませんよ。
 私は村の特産品を売りに歩いているだけです。」

「その割には商品が見当たらないのだが、どうした?」

 やば、不信感を持たれたかな。
 ま~今回は行商だから正直に話しても問題ないし、こういった人は簡単に嘘を見抜くしな。

「はい、村の特産品は海に関係したものが多く、ここで売ってもたいして利益にならないのです。
 もっと内陸に入った海から遠くで売らないと儲からないのです。
 それに私どもは清須で商いの許可をもらっていませんし。
 私どもは、多くの商品を楽市をしております観音寺のご城下に持っていきそこで商いをしておりますが、清須や稲葉山といったこの辺りの栄えている街の様子を見て回りながら、できれば稲葉山あたりで商いができればと考えております。
 なので、今日は仕入れがてら街の様子見です。」

「三蔵村、聞かぬ名だな。
 最近手広く商売をしている三蔵の衆の村か。」

「手広く商売しているつもりはありませんが、最近は比較的商いがうまくいっており、売上もそれに連れて増えておりますので、もしかしたらそういった噂があるのかもしれませんね。」

「最近は伊勢には行けずになかなか情報が入りづらくなってきているので、そうかもしれぬな。
 坊主はまだあの浜の辺りにおるのだろう?
 近いうちに近隣の様子でも聞きにまいるで、その時にでもゆっくり話を聞かせてもらうとしよう
 邪魔したな。」 と言って滝川様は配下を連れて去っていった。

 これで目をつけられたな。
 このあと俺らに忍びが付けられるだろう。
 俺らの動きがバレても信長は今なら伊勢にはちょっかいをかけられないだろうが、伊勢を狙っているのには変わりがないから攻略を急いだほうが良さそうだな。

 これからは織田信長に俺らの目的がバレていることを前提で動くしかない。
 ま~焦ってもしょうがないし、今は織田勢の動向見守るだけでこちらからは何もしない。

 俺は予定通りに稲葉山に向けて清須を離れた。

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