名もなき民の戦国時代

のらしろ

文字の大きさ
84 / 319
第三章 伊勢の戦国大名

第八十三話 チート武将 二人目の竹中さん

しおりを挟む


 清須を出た俺らは、やはりというか見張りをつけられたようだ。
 俺らの後についてくる人がいた。
 時々人が変わるのでわかりにくいが、そこはそれ蛇の道はというやつだ。
 しっかり一人前になった丹波少年がすぐに気がついた。

 尤も見張りをつけられることが予測できたので俺でも注意すればわかったが、それでも普通はわからないレベルなので、プロの連中のようだ。
 どこに属する忍びかまでは分からないが調査専門の忍びのようでとりあえず放っておいても害はなさそうなので、藪をつつくまでもなくそのままほっておくことにした。

 清須の城下から稲葉山城の城下町までは30kmもないので普通に歩いても1日で着く。
 俺らはロバに荷を持たせているので、順調に歩みを進めることができるので、6時間くらいで稲葉山の城下に着いた。

 ここは斎藤道三が早くから楽市楽座の政策を進めておりかなり栄えているはずだったのだが、同じ楽市楽座の観音寺に比べるまでもなく、下手をすると願証寺の門前よりも寂しい感じだ。

 城下の街道沿いにはかつての栄華の名残を示すかのように豪商店が立ち並んで入るのだが、どこも閑古鳥が鳴いており、本当に寂しい限りだ。
 そうだ、ちょうど地方都市のシャッターストリートの夕方にその場に居たようなあの寂しさがあるのだ。

 俺は近くの店に入り様子を伺った。
 店では暇を持て余していた番頭さんらしき人に丁寧に対応してもらえた。
 俺は、対応してくれた番頭さんにこの寂しさの理由を聞いてみた。

 大きな声では言えないそうだが、ご城主が道三様に変わり義龍様までのころは良かったのだが、龍興様に変わる頃になると、ここ城下の政策も改められ楽市楽座は廃止され、以前のような座が支配する街に変わってしまった。
 それと同時に街を仕切る座は龍興様の腰巾着である龍興様配下のお気に入りの連中にせっせと付け届けをするために理由をつけては金をせびりに来るので商売がやりにくいとこぼしていた。

 それに信長との抗争の煽あおりで城からも税金を掛けられどこの店も苦しくなっており街全体の雰囲気が悪くなっているのだそうだ。
 また、斎藤勢は忍びの侵入の恐れから町に入る人の制限までしており、とにかく人・物・金を動きにくくしていた。

 そんなことをすれば素人でも分かることだが街全体が不景気になるのは自明の理だ。街が不景気になり座の収入が減ると更に街の商人に金をせびりに来るといったまさに負のスパイラルの見本をそのままやっていた。

 本当に魅力のない街になっており、ここでの商いどころではない。
 ここに滞在することもはばかられるので、俺らは斎藤勢に目をつけられる前に早々に稲葉山の城下を脱した。
 稲葉山の城下にほんの一瞬寄っただけで、俺らはそのまま竹中半兵衛が治めている菩提山城に急いだ。

 菩提山城下は当然小領主のご城下で稲葉山や清須のような賑わいのある街ではなくほんの少し大きめの村であった。
 当然村には店を構えるような商人などいるわけもないので、店など一件もなかった。

 でも、寺は大体どこの村にもあるので、宗派に関係もなく村にある寺に入り今晩の宿を借りることにした。
 村にある寺は曹洞宗の寺だったのだが俺らの要請に快く応じてもらえ、軒を貸してもらった。

 小さな村なのでいくつも寺などがない。お分かりかと思うが、ここの寺は竹中氏の菩提寺でもあるので、ご城主の竹中半兵衛とも入魂の間柄だ。
 そこで、俺は、いつもの壺に入った塩をご住職に贈り、ご城主の竹中半兵衛への取次をお願いした。

 本当にあっけないくらいに取次をしてもらえ、紹介者探しに苦労していたのがウソだったかのように簡単に竹中半兵衛に面会できることになった。
 翌朝俺らはご住職に連れられて菩提山城に向かって山道を2kmばかり登っていった。

 本当にどうにかならないのかこの時代の住宅事情は……殆どのお侍さんの家が小高い山の上にあるのだ。
 途中の道は現代のようにいかない。
 藪などには覆われていないが、道といっても舗装はされてなく石段でもあれば上等といったところを歩いて登るのだ。

 確かに城からの見晴らしは良いだろうが訪ねる人のことも考えて欲しい。
 大体この時代の城はお役所を兼ねているのだろう。
 お役人が住民を無視してこんな不便なところにお役所を構えてもいいのか~~~なんて愚痴をこぼしてもしょうがないので、俺は黙ってご住職に着いていった。

 城についたらすぐに竹中半兵衛に面会してもらえた。
 流石に菩提寺のご住職と一緒に来ただけのことはある。
 最も菩提山城が小さく、使用人も少ないし、そもそも肝心のご城主様は蟄居の身なので忙しくもなかったからなのだろうが、ほとんど待たされることなく面会することができた。

 俺は早速、ここまで持ち込んできた干物などの手土産を渡して話に入った。

「わざわざこんな辺鄙なところまで商いに来るとは奇特な商人だな。
 して、そちらの目的はなんじゃ。
 唯の商いではなかろう。」

 いきなり本題に入っていった。
 もっとも俺は腹の探り合いが苦手なので非常にありがたい。
 俺もすぐに本題に入っていった。

「はい、私どもは伊勢の出身で、お隣の観音寺城下で商いを営んでおります伊勢屋の者なのです。
 手土産の物は皆伊勢屋にて商っております品々ばかりなのです。」

「して、その伊勢屋がワシになんのようがあると申すのか。」

「はい、本日は伊勢屋のご用というよりも、私どもがお世話になっております志摩の九鬼様からのご用でお伺いさせて頂きました。」

「志摩の九鬼様というと最近時々耳にするな。
 お家騒動で流浪していたのが、非常に鮮やかなお手並みで志摩に復帰なされ、更にお家騒動の黒幕の北畠様との戦にも完勝されたという九鬼嘉隆様からのご用というのか。」

 流石に情報の感度は北畠具教とは違い鋭い。
 どうせ嘘は通じなさそうだし、力をお借りしたいので、俺は正直にこれまでの九鬼様とのかかわり合いを説明して力を借りたいとお願いを申し出た。
 話しながら竹中半兵衛の為人を観察していった。

 確かに癖のある御仁だが、全体的に静かな人といった印象がある。
 静けさの中に非常に鋭いものを持っているといった感じだ。
 藤林様や九鬼様からの協力を得られただけでも俺にとっては望外な幸運と言えるのだが、ここでこの竹中様の協力を得られればかなり今後の展開に希望が持てそうだという感想を持った。

 なので、ここは真摯しんしに協力を得られるように俺の心配事などを余さず説明して、長島の一揆による被害をできるだけ小さくするために伊勢の攻略に力を貸して欲しいと包み隠さずさらけ出してお願いを申し出た。

 当然いきなり訳のわからない商人にこんなことを言われれば素直に『分かりました』とはならないことは俺でも理解できる。
 竹中様は落ち目で蟄居の身の自分では力にならないと辞退していたのだが、俺は竹中様ご自身のお知恵をお借りしたいので、領主としての力の大きさについてはなんにも期待していないと、ある意味かなり失礼なことまで言っていたのを後になって気づき、これについては本当に心から竹中様にお詫びしておいた。

 ご住職は昼過ぎには山を降りて寺に戻っていったが、俺らはそのまま城に残り、俺らの持つ情報と竹中様のもつ情報の交換などを通して、意見を交わしていった。
 後に竹中様は戦国でも一二を争うくらいの名軍師となるだけのことは有り、彼自身の持つ見識の高さと頭の良さはピカイチであった。

 松永弾正様との対面で感じた緊張とは違った意味の緊張を強いられたが、決して不愉快な類のものではなかった

 室町初期から伊勢の地で続く名家の北畠を滅ぼしていく我々の今までの計略にはかなり関心は示して頂いたのだが、そのまま仲間となって下さるところまではいかなかった。
 2~3日かけて色々と話し合って、またお会いして下さるという言質を頂き、とりあえず一旦はここを去ることにした。

 去り際俺は、次にお伺いさせてもらう時には正式に九鬼様からの御使者としてしかるべき人をお連れすることを伝え、菩提山城を出た。

 帰りに、城下の寺に寄りお世話になったご住職にもまたお伺いする旨を伝え、今回の件でのお力添えについてのお礼を述べてから、観音寺に向けて出発した。
 あの人たらしである秀吉ですら数ヶ月に渡り交渉の後に調略したのだから、それから比べると今回の感触はかなり良かったと思われる。

 とにかく焦らずに通い、仲間に加えるべく頑張っていこう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

処理中です...