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第三章 伊勢の戦国大名
第八十六話 竹中さんの取り込み
しおりを挟むとりあえず松阪周辺の混乱は収束できた。
我々の占領で、霜山城の北畠にとってはさぞ悔しかろうとは思うのだが、まだあちらさんからは何も言ってきていない。
しかし、これで安泰かというとそうではない。
我々の救済策が周辺の村々に伝わったようで、連日各村の代表者が我々の駐屯している松ケ島城にやってくる。
九鬼様の配下の者に話だけは聞くようにしてもらってはいるが、我々からの回答は『救済はできない』ということを伝えて貰っている。
しつこく救済を求めてくる村の代表者については、と言ってもほとんどがそうなのだが、彼らには我々が救済できない理由を分かり易く説明している。
本来領地内の問題の解決はその領地を領している領主の責任で有り、それ以外の者が手出しはできない。
もし領主以外の者が無理やり救済でもしようものならばその領主との戦を覚悟しなければならないことになる。
今回、松阪周辺の救済でも、本来ならば我々には手出しができなかったのだが、松阪周辺で著しく治安が悪くなり、ついには一揆にまで発展していった。
一揆の影響で隣に領地を構えている我々にも著しく悪い影響が出始め、再三にわたり松阪周辺の領主及びこの伊勢一帯の国主と称している北畠具教に対しても速やかなる解決を求めたが、何ら回答がなく、ついには我々に被害が出始めたので、我々としても自分たちの領地を守るために戦覚悟で出張でばる羽目になった。
誰も好き好んでこんな占領は行いたくはなかったが(ホントかよ~)やむをえず占領しての救済となった。
なので、我々が行った救済処置の費用や兵糧を返還されたならば我々は速やかにここから退去することについて丁寧に説明を行った。
その上で、村の救済については領主もしくは国主である北畠具教に訴え出るしかないことも合わせて説明を行って、簡単な食事をとらせて村に帰していった。
帰る村人たちは誰ひとりとして納得はしていなかったが、我々が救済できないことだけは理解していた。
我々が帰っていく村人たちをそのまま素直に帰す訳なく、ここで藤林様のところの忍さんたちの出番である。
帰っていく村人たちに、領主が何もしないで自分たち村人が餓死するようならば、同じ死を待つくらいならば村人自身が領主を追い出せば救済が受けられるかもしれないと吹き込んでもらった。
いま占領している松阪周辺の状況は松阪周辺の小さな村々から餓死者は出ていたが、村人たちは苦しみながら耐えていたのに、松阪の街の人たちが耐えられなくなり街で一揆が起こった。
しかし、これより北の安濃津周辺は、付近の小さな村々の状況は松阪周辺と変わらなかったが、まだ街には松阪に比べて猶予がある。
安濃津はこのあたりではかなり大きな港町で各地との貿易でかなりの収益を上げており、松阪の街よりは余裕があった。
藤林様の予測でも、しばらくはこの不安定な状況は続くと見ている。
俺も同意見だ。
なので、このわずかの時間を無駄にせずに我々の課題の手当に入ることにした。
人材が完全に不足しているという課題だ。
少し前に竹中半兵衛とつながりを持てたので、今度は志摩の大名を代表して調略に掛かりたい。
今度は俺だけでなく、表向きの責任のある人を連れて行き、我々の誠意を見せ、一挙に調略を成功させたい。
問題は誰を連れて行くかだ。
と言っても我々には今上げた条件にあてはまる人は九鬼様と藤林様の二人しかいない。
孫一さんでは無理がある………と言うより、表向きには志摩とは雇われた傭兵の代表者でしかない。
しばらくは今の状況が続くと見ているが、もしもにも備えなければならない。
そのもしもの為に、今ここ松ケ島城には最大限に雑賀党の皆さんには来てもらい不測の事態に備えて詰めてもらっているが、こと求人?については頼れない。
まあ責任あるうちの一人をここから連れて行くため、ここの守りといったことについては頼りになるので、安心できる分まだマシと考えている。
なので、このふたりのうち誰を連れて行くかだ。
ここは純粋に戦という訳にはなりそうになく、どちらかというと謀略関係の仕事が多くなっているので、藤林様はここから離れるわけには行きそうにない。
消去法で九鬼様を連れて行くことになるが、いきなり大名を連れて調略ってありなの。
ここは素直に我々の誠意ということで押し切ろう。
俺は藤林様に、ここの頭(かしら)を任せ、孫一さんに協力をお願いして竹中半兵衛の居城である菩提山城に向かった。
今回の移動はあまりグズグズできないこともあり、九鬼様が乗る馬に俺も同乗させてもらい、馬での移動となった。
余りにも情けない格好なので、俺自身今の絵面を考えないようにして唯々馬に跨またがっていた。
船で三蔵村に移動して観音寺に向かうルートで近江に入り、途中から菩提山城に向かう。
なので、途中にある八風峠で一泊でき、そこで、付近の大名に関する情報を入手して考えることもあるが今は竹中半兵衛の調略が全てであるので、せっかく入手した情報も頭の片隅に覚えておくくらいであまり考えていない。
もしかしたら竹中半兵衛との会談で、情勢分析を交えての調略になるかもしれないのであまりおろそかにはできないが、大して頭の出来も良くない俺のことだ。諦めることにしている。
船を使って馬での移動であったので2日で菩提山の城下に夕方には着いた。
そのまま尋ねるわけにも行かず、以前にお世話になった寺に事情を話し今日のところは泊めてもらった。
翌日、住職が俺のことを覚えてくれていたこともあり、また菩提山城まで付いて来てくれた。
住職を交えて最近のこの付近の民の暮らしぶりなどを話し、俺たちがこれから成そうとしている理想を説明して協力を求めた。
俺と九鬼様がわずかばかりのお供だけを連れての訪問に竹中様は非常に驚いていた。
住職を交えてこの国の未来と今の民の暮らしぶり、それに我々にとってどうしても足りない知恵者の協力の不可欠なことを俺自身の言葉で丁寧に説明して理解を求めた。
最初竹中様は、わずか10歳にしか見えないガキの俺が既に大名となっている九鬼様をさしおいて説明してくるのを訝いぶかしげに見ていたが、さすがにこの時代を代表する知恵者である竹中様は九鬼様の置かれている事情について理解したようだ。
俺の話を静かに一通り聞いた後におもむろに核心について聞いてきた。
現在の我々の組織のあり方について、俺の立ち位置について九鬼様にズバリ聞いてきた。
質問を受けて九鬼様は俺の顔を見て対応を悩んでいるようだった。
俺は、隠し事をするつもりがないので、九鬼様に素直に全てを話してもらうようにお願いをした。
話は九鬼様が北畠の謀略によって一族が討たれ志摩を追い出されたところから始め、浜で細々と再起を図っていた頃に俺たちと出会い一緒になって志摩の地を取り戻したことを説明した。
九鬼様はそれ以降俺について、三蔵の衆の野望について協力をしてもらっている。
長島周辺の一向宗の宗徒の暴走を抑えるためにどうしても伊勢の地の安定が必要であり、そのために俺らが九鬼様を担いでこのあたりを平定することまで余さずに説明した。
俺らは徒手空拳で蜂起したようなものなので、中核になる武士、特に全てを取り仕切れるくらいの知恵者がどうしても必要なのだが、現在誰もいないことも明かした上で素直に竹中様に協力を求めた。
すべてを静かに聞いた竹中様はしばらく押し黙り、じっくり考えていた。
そして、おもむろに俺のほうを向いて、一族を上げて協力をしてくれることを約束してくれた。
ここまで全ての交渉に同席していた村の住職も、我々が頼っている一向宗とは宗派が異なるが自分に出来る範囲で最大限の協力を申し出てくれた。
非常にありがたかった。
竹中様の協力は俺らにとって後戻りできないくらいの死活問題だったので、正直ほっとした感想しか持たなかったのだが、住職の協力の申し出については本当に驚き、そして、それ以上に嬉しかった。
この地獄のようなこの時代で、力ない民について見ていてくれる人が居ることに何故だか俺にはとても嬉しかった。
嬉しさと同時に、このような民たちのささやかな幸せについて悩んでくれる人たちを見つけることができれば、この戦ばかりの日本から徳川が幕府を開くよりも早く戦を無くすことができると俺には思えた。
とにかくやることは、まず俺ら周辺の平和を作るために伊勢志摩を中心に付近を安定させ、できれば紀伊半島南部から戦をなくしていく。
政治的には色々とめんどくさいこともあるが、伊勢志摩を安定させることができれば雑賀党の皆さんも協力してくれているし、三蔵の衆と秘密同盟を結んでいる松永弾正様もいるのだ。
紀伊半島の安定も可能であろう。
とにかく今は、大上段に未来のことについて考えない。
今はできることを全力でやっていくだけだ。
後は走りながら考えていく。
竹中様も合流してくれたのだ。
これからは一緒に考えてくれる人も増えたので、とにかく将来についてではなく、できる限り血を流さずに伊勢を占拠することだけを考えて前に進む。
とにもかくにも我々最大の危機は去った。
まだまだ人材は足りないが、そう、足りないまでになったのだ。
今まで全くいない状態からすると格段の進歩だ。
直ぐに伊勢攻略についてこのまま進める。
一度首脳を集め今後について相談をする必要が出てきた。
なので、無理を言って一度竹中様を明日我々の拠点を置いている松ケ島城にお連れすることになった。
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