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第三章 伊勢の戦国大名
第九十一話 臣従
しおりを挟む翌日になって、それもかなり早い時間に九鬼様は到着した。
着くの早すぎない??
九鬼様は廊下をドタドタと早足で俺がいる部屋までやってきた。
「殿~~、殿はいますか。」
「俺のことかな?
俺はここにいるよ。
急に呼び出して申し訳ない。
けれど、確かに呼び出したよ。
呼び出したのは俺だけれど、朝からもう少し静かにやってこられないものかな~
急ぎと言ったが、そこまで慌ててくることはないんじゃないの。」
俺はぼやきながらも、すぐに竹中様と藤林様をここに呼ぶべく近くの侍を探しに廊下に出たら、向こう側から二人共やってきた。
さすがにあんなに騒がしく九鬼様が登場したもんだからすぐに来たのだろう。
ふたりを呼ぶ手間が省けた。
3人が揃ったところで昨日対面した細野藤敦の件について九鬼様に説明を始めた。
九鬼様を呼び出すときに何にも説明を受けていなかったようで説明にいちいち驚いていた。
全く伝令さんは何をやっているんだか。
なんでも俺が『至急ここに来い』と言って伝えたようで本当に不安な一夜を明かし、日の出前に薄明るくなったらすぐに船を出したそうだった。
俺は『俺のせいか?』とは思ったが九鬼様に真摯に詫びた。
今後の対応と言っても細野藤敦の申し出は受ける以外に選択肢はない。
問題は『いつ』彼の地の保護に出るかだけだ。
当然俺らの打ち合わせも『いつ・どのように』と言った内容になってくる。
この城に細野氏を留めおいているので、今朝のあの騒ぎだ、大名の九鬼様がこの城に到着したのはバレているだろう。
3日の猶予を貰ってはいたが今日中にでも面会を求められるだろう。
どうせなら、一挙に片付けるために今度の面会で臣従を受け入れるのと同時に救済計画を示しこの問題を片付けるつもりだ。
藤林様の配下からの報告でも各村の状況は厳しいものなのでさほどの猶予はないと言われている。
俺らは面会までに救済計画を作り上げるべく話し合っていた。
そんな俺らのところに噂をしていた藤林様配下の忍びがある報告を持ってやってきた。
通常はこんなところに、それもこんなまっ昼間にやってくることはない。
緊急事態だ、それも絶対に聞きたくないような内容だろう。
うん、これは政に関することなのだから俺は関係ないよね。
俺は聞かなくてもいいよね……そんなわけないな。
知っていたよ、俺は知っていたけれど理性では分かっていても感情が納得しないこともあるでしょ。
よりにもよってこんな時にややこしい。
今藤林様が報告を聞いている。
で、何がわかったの?……そう、今懸案の細野氏の支配している地域で複数の村が爆発寸前になってきているとのことだった。
我々の支配地域に面しているいくつかの村では明日にでも一揆が起こりそうだったところを異例ではあるがその地域を担当している忍びが『絶対に救済に来るから』と言って数日の猶予をもらったとのことだ。
藤林様は勝手なことをやってと少し怒っていたが俺は対応に当たった忍びを褒めるように藤林様を宥めた。
一揆が起こってからだと平定するのにかなりの労力を費やさないといけない。
それよりも一揆が起こる前ならば炊き出しするだけでかなりその地は安定を見せる。
かの忍びはいい仕事をしたと思う。
竹中様も感心していたくらいだ。
すると今度は別の侍が俺らのところにやってきた。
一体何だというのだ。
急にドタバタとしてきた。
俺のいる部屋までやってきたかの侍は、この城に滞在中の細野藤敦氏が面会を求めてきたそうだ。
それも可及的速やかにとのことだった。
内容は多分かの忍びからもたらされた内容についてだろう。
幸いに九鬼様もここにいるのだから、先ほどの話じゃないが救済は細野藤敦氏と一緒に安濃津に向かい、そこから彼の配下の武将と一緒に救済に向かうという内容で藤敦氏とすぐに面会をしてもらった。
例によって俺は隣室で控え、面会に出るのは九鬼様を筆頭に藤林様と竹中様だ。
昨日面会をした広間で細野藤敦を待った。
彼もかなり焦っているのか、九鬼様の到着した時よりも騒がしく急ぎ足でこの広間までやってきた。
面会の場に着くと藤敦氏は頭を下げ九鬼様に挨拶を始めた。
かなり焦っているようだ。
「これは昨日急なお願いをしたのに、九鬼様にお会いできるよう手配を頂きありがとうございます。
私はこの地に隣接しております長野氏配下の細野藤敦と申します。
それがしは安濃津を領しており、まだ比較的余裕があるのですが、安濃津以外のすべての村々では全く余裕がなく、すでに各地で一揆がいつ起こっても不思議のない状況です。
我々は今すぐにでも九鬼様に臣従しますので、我々の領民を助けて欲しい。」 と外交交渉でありがちな腹の探り合いといっためんどくさいことを一切行わずストレートに救済を求めてきた。
細野藤敦氏は、昨日会った時には外交の鉄則だが焦りは見せていなかった。
しかし、今日は最初からこの部屋にやってくるところから焦りを見せていた。
外交の鉄則なんか構っていられないということか……しかし、昨日と何が違った?
彼のところにも村の状況が伝わったのだろう。
問題は、臣従したといっても彼に俺らの関係を教えるかどうかだ。
本当に臣従するかということだ。
救済だけ受けて裏切られてはたまったものじゃないが、ゆっくり吟味もできない。
こういった場合に人質を取るのが普通なのだが、人質をもらっても人質を匿う場所を我々は持っていない。
何より人質の授受を行う時間すらないのだ。
竹中様のアイデアで、とにかく救済にあたっている間は常に細野藤敦氏と一緒に行動して裏切らせないように心がけ、当面は俺との関係を隠して救済に当たることにした。
俺は張さんと珊さんの後ろに隠れて広間に入り俺らは救済に当たる九鬼様に協力する商人という扱いで会議に出席した。
秋までに必要な分の兵糧はまだ揃わないので、とにかく当面分だけでも救済していくことで話はついた。
また、細野氏の扱いは我々の懐事情じゃないが人材不足のためにそのまま自領を任すことになっている。
その場合に我々の独特のやり方については無条件で従ってもらうことを了承してもらった。
いずれ今育てている子供たちを会計の担当者として送り込むことになるだろう。
細野氏の救済後の初仕事は本家である長野家の調略となっている。
条件は細野氏と同じで、こちらは細野氏に全て任せることになっている。
しかし長野氏だってそんなに余裕があるはずはないのだが、どうなることやら。
途中経過も報告させるが、一揆を抑えきれなくなるようならば細野氏の結果を待たずして我々は救済に動くと細野氏には言ってある。
我々が救済に動くということは、結果長野氏を自身の領地から追い出すことになることは細野氏も理解しているから、早急に動く手はずになっている。
安濃津周辺の村々への救済作も決まり明日我々は細野藤敦氏と一緒に配下を連れて移動することになった。
移動する途中のいくつかの村についてはすぐにその場で炊き出しを始め、兵糧の貸出も始める。
大量の兵糧は賢島にある分を船で安濃津まで運び安濃津を救済基地として機能させる。
そうすることで細野氏の領民に対する心象も良くなるし、我々に臣従したことも領民に見た目で理解させることができる。
また、我々が安濃津に船で入ることで安濃津にいる商人も安心して安濃津で商いができるというものだ。
しかし、打ち合わせの席で我々が協力する一商人として広間に入ると、細野藤敦氏は商人風情が同じ広間まで入るとはと言ってかなり気分を害していた。
また、一緒に広間に入っていった俺を見た藤敦氏がガキの姿をした俺を追い出そうとしてかなり威圧的に振舞ってきたのを本気で九鬼様が怒り出したのには参った。
俺らの関係を隠しておこうと言ったすぐそばからばらそうとするんだもの。
慌てた藤林様と竹中様がとりなしてその場を収めたが、細野藤敦氏からは『こいつら何してんの?』って目で見られた。
竹中様が機転を利かせて兵糧の手配と運送の全てを俺ら三蔵の衆が受け持っており、俺は衆の頭の代理としてこの場にいると説明をして誤魔化した。
竹中様のすごいところは、この説明には全く嘘はなかった。
嘘はないがあえて誤解するように誘導してみせた。
細野氏が本当の仲間となれば正直に説明をするのだが、まだ信用ができない。
いずれ、出来たばかりのテクノクラートを安濃津にも回すのでその時には我々との関係も明らかにされるのだろう。
とにかく政は九鬼様を頂点に任せることになっているのだから俺が出張る必要もないはずなのだが……多分、次あたりの戦ではバレるのだろうな。
神戸家とはこんな感じで争いもなく済むとは思えないし、神戸家は正直取り込みたくもない。
北畠のように完全に排除する方向でいくので、今度は戦になるのだろう。
ま~明日のことより今のことじゃないが、今は細野氏の領地の安定と長野氏の調略に全力を注ぐことになっている。
打ち合わせを終え、俺は兵糧など物資の手配と炊き出しの準備にかかった。
すでに一回以上経験しているので俺の号令で周りは滞りなく動いている。
あすの出発も問題はなさそうだ。
丹波少年に賢島と三蔵村宛に伝言を頼み、あすの出発に備えた。
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