名もなき民の戦国時代

のらしろ

文字の大きさ
105 / 319
第四章 群雄の仲間入り

第百四話 久しぶりの団欒

しおりを挟む

 3日もかけて会議をしたのだから参加者全員が日常の仕事を溜めてしまった。
 そのせいか会議終了後ほぼ全員が逃げるように寺からそれぞれの仕事場に帰っていった。

 今寺に残されたのは、この人たちも忙しいはずの九鬼様、藤林様、それに孫一さんであった。
 当然、寺の主人である上人様や玄奘様、それに二度と離れないぞオーラ全開の葵と幸、彼女たちの暴走を危惧してか張さんと珊さんもそばにいてくれた。

「やっと空と話ができるな」 と上人様が俺に話しかけてきた。

「そうですよ、私たちに仕事を押し付けておいて、自分はどこかに行って音沙汰も無いなんてひどすぎませんか。
 張さんもそう思いますよね。
 上人様、空を叱ってください」

 おいおい、俺は仕事に行っていたのだぞ。
 それに今までは仲間全員に暇などないくらいに綱渡りのようなことをしてきたのだ。
 葵たちが不満を持つのは理解できるが、それを上人様にぶつけるのはどうかと思うぞ。

「そうだな、空よ。
 お前は、もう少し彼女たちの気持ちを考えて行動するべきだと思うぞ。
 もっとも、お前がどれくらい忙しかったかは、ワシは知らんから言えることだけれどもな」

「そうですよ、そうですよ。
 玄奘様も言ってやってください。
 そうでなくとも、私たちを直ぐに無視するんだから」

 葵だけでなく幸まで調子に乗って来たようだ。

「葵と幸よ。
 それくらいにしてやらんか。
 お前たちも、空がどれほど忙しかったかくらいはわかっているだろう」

「「は~~い」」

「して、空よ。
 このあとは如何様に考えているのか」

「まずは私の周りから戦を無くします。
 そのための準備は今回の騒動で整いました」

「ほ~~。
 どういうことかワシにもわかるように説明してもらえるか」

「はい、既に孫一さんには話を聞いてもらっておりますが……」

「え~、俺に話してくれたっけか。
 俺は知らんぞ」

「え~、大和の弾正殿との会見の時に話した内容ですよ」

「あ~あれか……俺に大名になれってやつか」

「それですよ。
 既に、秘密裏に同盟を結ばせてもらっております松永弾正様との話で、この先について相談させてもらいました。
 ここ、紀伊半島から我々の仲間以外の勢力を追い出して、紀伊半島内での戦を無くします。
 私はそれを目指しております」

「戦をなくすとな。
 随分大それた希望だな。
 して、そのための方策はあるのかな」

「はい、既に先の騒動で、ここ伊勢と志摩の2国は我々の勢力下にあります。
 大和のほぼ全てを親しくさせていただいております弾正様が抑えております。
 これだけでも戦の原因になる場所は少なくなっております。
 残りは紀伊の国と伊賀の国の2国だけになりますので、2国を押さえれば他からの侵入がない限りここでの戦は無くなります。
 次の目標はこの2国ですが、直ぐに取り掛かれるわけじゃありませんし、志摩の国作りが始まったばかりで伊勢までも抑えてしまったので、まずは国作りからです。
 なので、これからは当分国作りに協力して商いを広げていきます」

「フム、そういう腹積もりか。
 承知した」

「それよりも上人様にお聞きしたいことがあります」

「何じゃな」

「長島の動向です。
 私だけじゃなく本多様も気にしておりましたが、長島が三河のように一揆に走らないかと心配されておりました。
 以前に上人様も仰っておられましたように跳ねっ返りたちが大人しくして下さるかどうかです。
 願証寺の中は大丈夫なのでしょうか」

 俺の質問を受け、上人様は途端に難しい顔をなされた。
 横に居る玄奘様に至ってはあからさまに顔を背けた。
 これはかなりまずい状況かもしれない。

 しばしの沈黙のあとでおもむろに上人様が答えてくれた。

「正直なところ、時間の問題だな。
 三河も一揆の後でかなり国内が荒れており、かなりの人数が長島に流れてきておる。
 流民ならば食わせれば落ち着くのだが、僧ともなるとそうもいかん。
 日に日に馬鹿どもの数が増えてきておる。
 もう、ワシだけの力じゃ抑えきれまい。
 どうしたものかの……」

「加賀の国を乗っ取っただのと景気のいい話を吹聴しておる輩も一人二人じゃないですしね」

「それが問題を余計に難しくしておる。
 なんでも彼の地では、今度は内部でもめておるそうじゃな。
 既にあちこちでいさかいも発生しており、まさに地獄の再現のようになっているとか聞き及んでおるしな」

「かなり困った状況ですね。
 しかし、私たちにとっては他人事ではありません。
 長島が荒れれば当然ここ伊勢も影響を受けますし、尾張の織田勢が黙ってはおりますまい。
 さすれば大量の流民がこちらに流れてくることでしょう。
 伊勢の国作りの途中での大量の流民は害にこそなれ益には絶対なりません」

「分かっておるから困ってもおるのじゃよ。
 寺の中じゃ、今では穏健派と一揆派の二つに分かれている状況だからな。
 それに今のご住職様も気持ちは加賀のように国ごと取りたいようじゃし……保って5年、いや3年くらいしかもたないかもしれないな。
 今は京の本願寺からの意向もあってご住職様は静観を決めているが、肝心の本願寺内部でも加賀の件で意見が割れているから、いつどうなるかわからないものだ」

「ここに九鬼様もいるので皆様に相談があります。
 長島の件ですが我々の統治から外して考えませんか」

「殿、どういうことなんでしょうか」

「長島は伊勢の国に入りますが、島そのものが願証寺の領地だと考えてもいいでしょう。
 なので我々があえて自分たちの領有を主張せずに一切関わらない。
 その上で、現在長島に集まりつつある流民たちをここ伊勢で引き取り食わせていく方針で臨みませんか。
 先ほども上人様が仰っておられたように、食えなくなって流民になった人たちは食わせれば暴発しないと。
 ならば伊勢の人達とあまり変わりがないじゃないですか。
 とにかく長島が暴発してもあまり大きな力にならないように出来るだけ穏健な人たちを我々の方で引き取れば一揆の発生した時にも彼らを助けることができます」

「殿、ちょっと待ってください。
 伊勢で彼らを引き入れれば、この伊勢で一揆を起こされませんか」

「だから引き入れるのは流民と穏健派の僧だけですよ。
 それならば上人様のお力で抑えることが出来るでしょう」

「なに、もしそれが可能ならばワシなど必要とはされんよ。
 玄奘一人でも楽勝だろう」

「人数的にどれくらいになるかわかりませんが廃棄されている隣村跡を使ってそこに流民を引き取り、村を作らせましょう。
 このあたりを藤林様の領地として藤林様に管理してもらい、また、ここ三蔵寺が彼らを導いてもらえれば願証寺からの影響も排除出来るでしょう。
 上人様、手配を頼めますでしょうか」

「空よ、むしろその申し出はワシにとって非常にありがたいものじゃな。
 承知した。
 すぐに手配しよう」

「それと、九鬼様と孫一さんにもお願いなのですがいいでしょうか」

「俺にか、お願いって、あの大名になれってやつか」

「はい、でもすぐには行きません。
 それに、今まで色々と協力していただいている雑賀の衆の皆さんに報いてやれていませんから、それもあってお願いがあります」

「殿、そのお願いとはなんでしょうか」

「孫一さんには正式に私たちの仲間になってほしい。
 その上で、まず孫一さんには藤林様と同列の家老として形だけでも九鬼様に仕えてもらえないでしょうか。
 その上でこの辺に領地を渡して、今いる雑賀の衆全員を侍として孫一さんが抱えてもらうというのです」

「ほとんど今と変わらないように思えるが。
 強いて上げるのなら、この辺りに領地を貰え、そこに留まるというのじゃな」

「はい、そうです。
 それと形だけとは言え九鬼様に臣従するということになります」

「何、それも構わんよ。
 今とそれほど変わらんしな」

「殿がそうおっしゃるのであれば、それがしには異存はありません。
 このあと行う論功行賞の場にて一気に話を進めましょう。
 話は変わりますが、最も基本的な質問ですが、本拠はここに置くつもりなのでしょうか」

「三蔵の衆としての本拠地はここ三蔵寺だと思っております。
 しかし、伊勢志摩60数万石の本拠地は別に置きたいと思っております」

「あの~~、空さん。
 ひとつ報告があるのですが」

 ここまで静かに話を聞いていた張さんがここになって話に入ってきた。

「張さん?
 なんでしょうか」

「はい、今街づくりを進めている賢島の件ですが、あそこはそろそろ限界になってきております。
 水の手配に無理があり今以上の人は住めないと思います。
 何せ小さな島ですから」

「お~~そうだ。
 殿、城の方はほぼ完成してきているのですが、今張さんのおっしゃったとおり街は大きくは作れそうにありません。
 60万石の本拠地としては無理があります。
 あそこは元々九鬼水軍の本拠地の移転先として整備しておりましたが、大大名の本拠地としてはふさわしくはないかと思います」

「桑名だとここから近いでしょうが、長島に近すぎますし……安濃津か……お~~そうだ。
 大湊に伊勢の本拠地を置きましょう。
 あそこは伊勢神宮の海の玄関口だし、良港もありますしね。
 我々にはちょうど良いかもしれませんね」

「しかし、ここからだとちょっと距離はありませんか」

「大丈夫ですよ。
 ここにも港もありますし、船ではあっという間の距離でしかないですから。
 あ~そうだ。 桑名に我々の商業の拠点も置くことだし、桑名に藤林様のお屋敷も作ってもらい、そこに藤林様の拠点も置いてもらおう。
 で、神戸の居城であった澤城には孫一さんに居てもらおう。
 そうすればこの辺は安心できるしね。
 それでいいかな」

「某は殿の決定に従います。
 で、家老の竹中様はいかがにしましょうか」

「竹中様にも一族を挙げて助けてもらっているしね。
 松ヶ島城に入ってもらおうよ。
 どうせ本人は我々と一緒にいるほうが長いだろうけど、まだ領地があったほうが一族の方には安心感があるしね。
 将来的には領地には代官をおいて侍全員を銭で雇いたいね。
 そのほうが絶対にいいはずだからね」

「俺たち傭兵稼業の連中は銭雇いの方が当たり前だが、古くから侍をしている連中には馴染みもないだろうからいいんじゃないかな」

「某たち水軍連中もどちらでも構いませんが竹中様たちはそのほうがいいでしょう」

「それにあとから臣従してきた連中に舐められないように彼らから領地を取り上げ銭雇いにしていき、家老の3人には1万石程度の領地を持ってもらうということで話をまとめよう。
 この件はあとで竹中様を交えて相談して決めていかないとね」

「空よ、話を戻すが、流民の件はすぐにでも構わないな」

「はい、大丈夫ですよ。
 伊勢の領民と一緒に扱いますから。
 どうせこのあたりは今年の農作物には期待が持てませんから、船を使って食料をかき集めてきますよ。
 それに芋も始めてみたいので、この秋辺りから試してみます。
 それに蕎麦ならば今からでも間に合いますのでこれも試してみますよ」

「それならばワシもゆっくりとはしておれんな。
 玄奘よ、ワシは願証寺に一度戻るからここを頼むぞ」

「はい、わかりました。
 学寮も増やしておきますから、学僧も大丈夫ですのでそちらもよろしくお願いしますす」

 戦らしい戦はしていなかったが、動乱を収めようとするならば戦の準備をしていた時よりも忙しくなるのは当たり前で覚悟はしていた。
 覚悟はしていたがそれでもまだ当分ゆっくりとはできそうにないので気分が落ち込みそうだ。

 唯一の救いは今までバラバラであった張さんたちと今度は一緒にいられそうだということだった。
 葵と幸もそれがわかったのかとても嬉しそうなのが救いといえば救いかな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

処理中です...