名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第四章 群雄の仲間入り

第百六話 伊勢の仕置

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「なんだか安心しました」

「何がですか」

「村の様子がです。
 人の数が増え、活気がありますね。
 さすがに浜の喧騒はどうにかしないといけませんが、とにかく人々に笑顔があります。
 これだけでも、頑張った甲斐があります。
 それに、確かに村そのものは大きくはなっておりますが、村そのものは俺の知っている村のままです。
 驚く程の変化はしていないので、なんとなく安心できました」

「そうですね。
 わずか半年しかたっておりませんから、あれからはそれほど変わってはいないかもしれませんね。
 ここは私たちがここに来てから、空さんが忙しく出歩くまでに大きく変わりましたから、その時までに一応の形ができていたのでしょう。
 なので印象を変えるほどの変化を感じられないのかもしれませんね。
 そういう意味では、最近印象を大きく変える場所と言ったら賢島かもしれませんね。
 私も島を出てからひと月が経ちますが、あそこは大きく変わってきておりますよ。
 なにせ何もない場所だったのに今では城下町ができておりますから。
 最も今以上には人は増やせそうにないとも聞いておりますが」

「それって、前に張さんが言っていた飲み水の件ですか」

「はい、あそこはそれほど大きな島じゃないので、どうしても水の問題は避けられません。
 今までは湧水などを利用してしのいでおりますが、浜と同じで支えられる人に限りがあります。
 それでも、空さんが島を離れてから想像もできないくらいに変わっておりますよ」

「そんなに変わりましたか。
 色々とお願いをして、島を出てから島を見ていませんでしたね。
 一回見に行くとしますか。
 張さん、仕事に都合がつけば一緒に付いてきてもらえますか」

「ええ、大丈夫ですよ。
 炊き出しや救済の仕事は終わりましたから、いつでも都合はつけられますからね」

「あ~~、またどこかに行くつもりなんだ。
 今度は私たちも付いて行くからね」

 俺たちの話を横で聞いていた幸がすかさずわがままを言ってきた。

「あ~、分かった分かった。
 今度は一緒に連れて行くからね。
 どうせ行くなら船で行くから、そんなに問題もないだろう」

「それはどうかしらね」 と今度は葵がすました顔で俺に言ってきた。

「どういうことだ」

「だって、すぐには行けないと思いますよ」

「? なぜそう言えるのか」

「だって、先ほど久作様が空さんのことを探しておりましたから、なにか仕事が入るのではないかしらね」
 あ~、それからあそこから珊さんがこちらに早足で向かってきていますから、これは絶対に仕事ですね。
 でも私は仕事が入っても空さんのそばにいますからね」

「あ~、そうだね。
 珊さんの後ろに九鬼様のところの人もいるしね。
 これは仕事だ。
 ま~しょうがないか。
 どちらにしても近いうちに賢島には行くとしようか。
 その時にはみんな一緒で出かけよう。
 もう戦にはならないとは思うからね」

 張さんや葵や幸との和やかな時間も終わりを告げ、珊さんが連れてきた九鬼様のところの大番頭役である豊田五郎左衛門様という人だった。
 九鬼様が大名としてあまりに忙しくしているので、今では九鬼水軍を彼がまとめているのだった。

 もっとも今の九鬼水軍はここあたりと堺を結ぶ水運の仕事がほとんどで、珊さんに見てもらっていた部分で一緒に仕事をしていたようなのだ。
 なので、今も一緒に俺のことを探しに来ていたのだ。

 豊田さんの方では、これからの水軍のあり方について少し話がありそうだったのだが、今の要件は九鬼様以下まつりごとつかさどる人たちが伊勢の政について詳細に取り決めを行いたく話がしたいと竹中様からの伝言を持ってきたのだ。

 なんでも桑名に構えた陣にてお待ちしているとかで、俺の都合も聞かずに有無を言わさず連れて行かれた。
 一緒にいた張さんたちも桑名には付いてきた。

 桑名に着くとさすがに女子供は陣には入れずに近くの寺に挨拶に行くようだった。
 なにせこのあたりの寺からは一つの例外もなく兵糧を供出してもらっているのだ。
 借りた兵糧についての返済等の説明の仕事が残っているようなのだ。
 すべてを張さんに任せているので、俺は何も言わずに豊田さんにされるがままに陣に入っていった。

 少し広めの陣の中では細野や長野、それに関といった付近の有力武将の部下たちが忙しく仕事をしているそばを通り抜け、九鬼様が控えている部屋に入っていった。
 部屋の中では九鬼様が竹中様ご兄弟のお二人と難しそうな顔をしながら話していた。
 俺が部屋に入るとほぼ同時に藤林様も丹波少年を連れて入ってきた。

「やっと揃いましたか。
 早いうちに領地の確定をしておかないと地侍たちが騒ぎ出しそうなので」 と言いながら藤林様が俺を話し合いの場所に連れて行った。

 俺が席に着くと同時に半兵衛様が現状の報告を俺にしてきた。
 内容は北伊勢48家の人たちが揃って臣従してきた件で、どう扱うかということと長野や関の領地の扱いについてだった。

 関については半知没収で話していたのでそのまま半知没収で領地を決めてもらい、問題はないのだが、長野については少々厄介だ。
 なにせ調略は領地安堵で話し合いを始めていたのだ。
 我々が幕府の命令と朝廷からのお墨付きをもらったら条件も決めずに我々に臣従してきたのだ。

 タイミング的には微妙だが臣従してくるのが遅いだろう。
 幕府の命令前ならば臣従することに意味は出てくるのだが、そのあとならば別の意味も出てくる。

 九鬼様にきちんと話してもらわないといけないだろうが、ここは関と同様に扱い、半知没収で残りは代官として領地経営を任せてみてはどうだろうか。
 我々は侍衆の扱いを基本銭雇としているのだ。
 将来的には領地を持つ者たちも領地を召し上げ代わりに銭で雇う形にしていくことで話を付けている。

 細野氏についても条件を詰めていなかったが安濃津を領しているのでそのままとはいかず、彼も領地を没収して代わりに銭で雇う形にしてもらう。
 しかし安濃津の政治については当面そのまま細野氏に代官として今まで同様に仕事をしてもらうつもりだ。
 条件として今回救済に使った費用等は全て我々持ちにして彼には借金のない状態で銭雇にしてもらう。
 扱いは侍大将格で関や長野と言った有力者と同格にしてバランスを取る。

 ここまでは九鬼様や竹中様との考えと同じなのでスムーズに決まったが、非常に厄介なのが最後に落とした北伊勢の連中だ。
 彼らの扱いを降伏とするか臣従とするかだ。

 彼らがあまりにもあっさりと我々についたものだから、どちらとも言えない状態であるそうだ。
 それ以上に厄介なのが彼らのうちで少なからず今回の伊勢の平定において手柄を主張しているとか聞いたときには本当に呆れたものだが、やれやれどうしたものか。

 俺は、どうしたものかと考えていた時にふと感じた。
 なんで俺が全部決めているのだ。
 確かに俺は歴史を知っているというアドバンテージがある。
 このアドバンテージはかなり大きいものだがそれでもこの時代のチートには敵わない自覚はあるのだ。

 そのチートのひとりである半兵衛様もいるのだから彼に決めてもらえばいいのではとも思ったが、九鬼様をはじめここにいる面々は俺のことを殿と呼び、俺が決めるものだと信じて疑わないのだ。

 先日の3日かけての打ち合わせはなんだったのだ。
 政部門の責任者を決めたはずなのにとも思ったが、政の根幹に関わることなのでと言われるがままに決めていった。

 竹中兄弟の二人共が降伏と扱い領地を没収するべきといえば九鬼様は臣従と扱い現状維持を唱えていた。
 さすがに現状のままとはいかないが、我々に統治能力が欠けていることもあり、当面彼らに任せるしか手もないのが現状だ。

 彼らが納得するかどうかは別だが俺は一つのアイデアを出した。
 先ほどの細野氏と同様に彼らの領地を没収して銭で雇い、彼らが住んでいる村だけはそのまま彼らに任せそれ以外については代官として見てもらうというのだ。
 当然彼らの住んでいる村も含め我々の監査は受けてもらうという条件でだ。

 俺の感じでは将来的には彼らのうちの半数も残らず没落していくだろうけれど、我々の要求するレベルで成長してもらえばこれからも領地の発展に寄与してもらえそうだ。
 当然我々の方からも要求レベルについては何度も説明していく。

 要は領民たちをいかなる時にも飢えさせない政をしてもらえるかどうかだ。
 現状では明らかに落第だ。
 どこの村も一度の飢饉で領民たちを簡単に飢えさせてしまった。
 山間部については飢饉もほとんどなかったが、山間部は元々が貧しいという現実がある。

 どこも満足に領民たちを食わせていないのだった。
 俺の考えを聞いていた全員から賛同を得て、九鬼様がそのまま彼らに伝え伊勢平定の件に決着をつけることになった。

 俺は九鬼様に幕府から伊勢平定の功績で伊勢志摩の守護就任の内定をもらっていることを発表してもらい、彼らの不満を抑えるようにお願いをした。
 彼らが嫌がったらそのまま領地に帰して後に我々が伊勢の平安のために討伐する旨を合わせて伝えてもらった。

 彼らが馬鹿な要求で周りの調和を乱すようならばそのような連中には用はない。
 この時代において一応の法的根拠も得ているのだから遠慮なく討伐できる。
 それにこれならば個別に討伐していけるので危険も少ない。

 仮に今北伊勢48家がまとまったとしても我々ならば簡単に討伐できるのだ。
 なにせ彼らには兵糧がない。
 周りからの応援も表立っては出来ない。

 当然彼らだってそれくらいはわかるだろう。
 わかるよね、そこまで馬鹿じゃないから、さすがにわかってもらえるよね。
 不満は残るだろうけれども。
 なので、藤林さまにお願いが増えるが、彼らの監視も仕事に入る。

 もっともこれからは領民に我々が直接支援をしていき、領民の民意を我々の方で得ていくという作戦もあわせて実施していくので、騒乱や一揆の心配は少ないだろうと考えている。
 藤林様や竹中様も同様に考えているようなので、この先は任せても大丈夫だ。

「あとは任せてもいいよね」

「はい、お任せ下さい」

「年に4回くらいはまた集まってみんなで話し合いをしていくつもりなので、緊急性のない場合にはその時に話し合いましょう」

 すると、今まで待っていたのか何か言いたそうにしていた豊田さんが俺に言ってきた。

「殿、私も少し相談したいことが…」

 やれやれ、なかなか楽にならないな。

「個別案件ならばその都度行いましょう。
 まずは水軍や水運についてですね」

 このあと豊田さんと珊さん、それに久しぶりに加わった九鬼様も入り、九鬼水軍についての話し合いを始めた。
 竹中兄弟や藤林様は忙しそうに次の仕事へと部屋を出て行った。
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