名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第四章 群雄の仲間入り

第百十話 村長との面会

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 賢島にある城は以前九鬼様の本家が拠点を置いていた田城城をそのまま移築したもので、規模も大きくはないが十分に大名の城である。
 その城の大広間で俺に面会に来た村長を待つことにした。

 本来ならば上座にはこの城のあるじである九鬼様が座るのだが、あいにくこの場にはいない。
 それに村長は九鬼様でなく俺に会いに来たとのことだ。
 なにせ九鬼様は頻繁にこの島と伊勢との間を行き来しており、何度も領内の村長たちとは会っていた。

 俺は、この島に本拠を移すことを決めてからはほとんどここを訪れてはおらず、領内の村長たちとも会うことはなかった。
 さすがに生存競争の厳しい時代をしたたかに生き抜いてきた村長であり、我々の力関係をほぼ正確に見抜いているようだ。

 俺としては完全にまつりごとから手を引きたいと常に考えているのだが、現実的には最上位者として扱われている。
 そんな俺にきちんと気持ちがこもった面会の申し込みであった。

 俺を含め全員がそのことを理解しているので、これは既に唯の面会にあらず、十分に政の一環である。
 それならばと、本来領民に会うのには使われることのない大広間できちんとした格好で面会を受けることにした。

 豊田様は、「何も領民に会うのに大広間を使うことなどないでしょ」とは言っていたが、九鬼様が関家や長野家を迎えたように行儀よく迎えることにした。
 彼らだってかつてはこの付近の豪族として活躍していたのだが、時勢じせいに乗り遅れたためにただの領民として扱われているのだ。
 もっともそう決めたのが俺なのだが、ここはかつての豪族として村長を迎えてやろう。
 どうせ俺は大名じゃないので、領内の序列など厄介な問題にはならない。

 しかしこの時代は本当にめんどくさい。
 実力世界の戦国時代でも序列やら格式などにはとにかくうるさいのだ。
 俺がちょっと間違えるとすぐに周りから怒られるから、できるだけ政には関わらないようにしてきたのだが、目端めはしく連中にはそんな俺の気持ちなど関係なく自分たちのテリトリーを守るためにはガキの俺にだって簡単に頭を下げてくるのだ。

 それなら相手に驚きを与えたく大げさに迎えることにした。
 決して意趣返しじゃない。
 俺なりの政だ。……ホントかな?

 大広間の上座に俺が座り、次席の位置にここの責任者になってしまった豊田様が座り、その三席には張さんや珊さん、ついでに葵やら幸も加え、俺のそばにいてくれるメンバー全員を揃えた。

 少し離れた位置には見届け役じゃないが本多様までいるのだから、本当にいいのかとは思ったがそれなりに格好がついた形になっている。
 準備が整い豊田様の部下が村長一行を大広間まで案内してきた。

 広間に入った村長は面会の形を見て非常に驚くとともに感激していた。
 なぜだろう?
 ま~~いいか。

「わざわざ忙しい中、ここまで来て頂き申し訳ないです」 と俺から村長に声をかけたら、また驚かれた。

 え~~~い、本当に行儀作法などめんどくさい。
 俺はまだガキなんだ。
 室町の礼儀作法など一切考えるつもりなどないぞ。

 村長も豪族時代でも室町の礼儀作法をすべてきちんとマスターしているわけじゃないが、この時代にあった最低限の常識は知っているので、俺の非常識とも言える態度に驚いてはいるようであった。
 俺は平成の時代で町会長に子供が話しかける程度の常識を持って対応している。
 なので最低限の敬語は使っての面会となっている。

「いえいえ、殿におかれまして、そのようなお声掛けを頂き、私こそ恐縮の限りです」

 あんたもか、あんたも俺のことを殿と呼ぶのか。
 ま~考えたらそうかな。
 殿と認識しているからこそ忙しい中わざわざ俺に会いに来たのだから、しょうがないか。
 先を続けよう。

「私は、行儀や作法には詳しくありません。
 申し訳ありませんが、時世じせい挨拶あいさつなどはぶかせて頂き、本日の面会のご要件をお伺いしたいのですが」

「はい。
 本日は、殿にお礼の言上ごんじょうと幾ばくかの献上品をお持ちしました」

「え?
 お礼って何?」

「は。
 私どもがこの地に移り、生活が成りゆくように色々と便宜を図っていただきありがとうございます。
 特に伊勢の地から、干物作りの方法などを教えて頂くために人まで派遣して頂き、非常に助かりました」

 俺は張さんを見たら笑顔で頷いていた。
 張さんがこの地の漁師にも干物作りをしてもらえるように手配したのだと理解した。

「本日はそのお礼と、私どもだけでやっと売り物になる干物を作ることができ、その干物を献上しに参りました。
 また、昨日ちょうど村の若い衆が山の中で蜂の巣を見つけ収穫することができましたので、蜂蜜と蜜蝋もあわせて献上したくお持ちしました」

「蜂蜜まであるのですか。
 それはそれはありがとうございます。
 喜んで頂きます」

 俺がここまで言ったら、豊田様が献上品を持ってこさせ、俺に見せてくれた。
 蜂蜜は個人的に非常に嬉しかった。
 蜂蜜だけでも十分に楽しめるが色々と使えそうで、俺の少ないレパートリーからお菓子など作ってみようかと思った。
 蜂蜜の横には見慣れた行李に入れられた干物を取り出し見せてくれた。

 本当に十分に売り物になるレベルだ。
 伊勢で作っているのと同じだ。
 これならば俺は納期でとやかく言われることなどなくなりそうで、正直嬉しくなり村長にお願いをした。

「これから、村で自家消費する以外の干物はすべて私たちが引き取ります。
 当然、市価でお金を払いますのでどんどん作ってください」 と俺が喜んでお願いを口に出したら、村長が非常に困った顔をしてきた。

 何やらまずいことを言ったのか。

「殿がどうしてもと言われるのなら先約先にお断りを入れますので、城の方からも一筆いただけないでしょうか」

 え?? 
 この干物には先約があるの?
 どうして、こんな辺鄙へんぴなところで作っているのに先約を取れるの?
 俺が疑問に思ってもう少し詳しく聞いてみた。

 なんでも、このあたりの必要品を商ってもらっているのが、俺らが日頃からお世話になっている紀伊之屋さんと能登屋さんの堺の豪商で、この両家は既にこの城下に店を構えているとか。
 どこでどう話をつけたかわからないが、ここの干物は能登屋さんが扱うことで両家では話がついていたのだ。

 この両家は、このあたりでも干物作りを始めたことを早くから知っており、干物が出来る前から約束を取り付けていたとかで、本当に驚くばかりだ。
 そういえば能登屋さんには干物が増産したあかつきには卸しますと口約束ではあったが約束してあった。
 いっこうに守れそうにないので、能登屋さんの方で先に動いたようであった。
 堺に行ったら真っ先に謝りに行こう。

「先約があるようでしたら、その約束を守ってもらいましょう。
 後から横槍など入れたら信用を無くしますからね。
 無理を言いましたことをお詫びします」

 俺は村長に約束通りに能登屋さんに収めるようにお願いしてその場を収めた。
 クソ~~、俺の糠喜びか。
 伊勢の各地で干物を増産させ価格を暴落させてやる。
 そこまではいかなくとも各地で増産させることを心に強く誓った。
 そんなこんなで無事村長との面会を終え、この場で残った人たちと雑談を始めた。

「それにしても堺の商人は動きが早いですね。
 干物の先約とは驚きました」

「そういえば、私たちが干物作りを教えていた時には能登屋さんも来ていましたね。
 あの時にでも約束をしたのでしょう。
 堺の商人から直に商いの話を持ちかけられたらこのあたりの人では断れませんよ。
 それに条件的にもかなり良いものだとも聞いていますしね。
 私たちとは良い関係を続けたいのでしょうね」

 張さんがここに残って色々とやってくれていた時の話を聞かせてくれた。

「それにしても、城下町に能登屋さんと紀伊之屋さんの両家が既に店を出している方が驚きですよ。
 紀伊之屋さんの方は雑賀党の関係もあるでしょうから義理で店を出すのは分かりますが、能登屋さんまでとは驚きですね。
 となると我々の伊勢屋も店を構えたほうがいいかな」

「そうですね。
 ここに拠点があると堺との繋がりも楽になりますね。
 堺の豪商が2軒も店を出していますからわざわざ堺まででなくともここで済ませられることが多くなりそうですしね。
 それに以前お会いした明国の商人も店を準備しているとも聞いていますしね。
 無理のない範囲で店を出しますか」

「既に我々は無理しかしていないから、無理をしないと何もできないよ。
 豊田様にはご無理をお願いすることになりますが、ここにある水軍の拠点に水運の拠点を置くことは決定事項なのですが、商い組の伊勢屋も店を出しますので面倒を見てください」

 豊田様はかな~~り渋い顔をしていたが、止むを得ないと言った感じで了解してくれた。

「先程の献上品で思い出したのですが、私たちは朝廷や幕府には献上品を出さなくてもいいのですか」

 俺は本多様に素直に聞いた。

「幕府には別に出さなくても問題は無さそうだが、朝廷やその周辺には出しておいたほうがいいかもしれないな」

「銭を出す分には出せますが大した金額は出せそうにもありませんし、物品では干物は無理をすれば出せますが、それもね~~。
 あ、お茶や油なら少し出せそうですが、どうも地味ですね。
 他の方たちはどんなものを献上していますか」

「今時朝廷を気にしている勢力はあまりないな。
 京都を守っている我が殿と他数件くらいしかないから寂れたもんだよ。
 公家や帝などはかなり苦労しているからどんなものでも喜ばれるが、名産の酒などあると喜びそうだな。
 酒は神事に使われるしな」

「酒ですか。
 うちじゃ造っていませんし、伊勢や志摩で造っているのを聞いたこともありませんしね。
 今度酒でも作ってみますかね………あ!」

 いいこと思いついた。
 もらった蜂蜜で酒を作ってみようかね。
 以前、本で読んだことがある。
 転生物の定番の一つにあったミードなら簡単に作れそうだな。
 となると原料の蜂蜜はもらったものがあるからいいけど、商いまでするにはね。
 本格的に養蜂も検討しないといけないか。
 以前テレビで見た番組でやっていたことを試しても罰は当たらないか。

「分かりました。
 酒造りも検討してみますよ。
 すぐには難しいけど献上できるように頑張ります」

「空のことだ、大丈夫だと思うのだが、頑張ってみてくれ。
 献上品はなんでもいいから、酒でなくともいいからな」

 本多様はああいったが既に頭の中ではミード作りを始めていた。
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