112 / 319
第四章 群雄の仲間入り
第百十一話 紹興酒
しおりを挟む大広間での雑談の後流れ解散のようになった。
豊田様は本多様を連れてこれから宴会を開くのだとか言っていた。
まだ日も残り明るいうちから宴会かよとは思ったがお客様の接待でもあるので黙っていた。
接待で失礼がないようにと張さんも珊さんを連れて一緒に豊田様についていった。
俺か、俺はガキのなりだし公式な酒宴でもないから酒の席には参加しない。
元の世界で成人していたとは言え、元の世界ではコミュ障で宴会など一切参加しなかった。
苦痛でしかなかったのである。
こちらに来てからはコミュ障は発症していないようで、以前感じていたような苦手意識はほとんど感じない。
生きるのに精一杯な環境で贅沢など言えなかったのが良かったのか、はたまた子供の身体に精神も引きずられコミュ障が発症しなかったのかは定かではないが、とりあえずは良かったといえよう。
しかし、まだ日も有り夕食を取るには早い時間だ。
かと言って本多様について宴会にも出る気は全くない。
一度大雑把に島内を回ったが、今度は気ままに散歩にでも出ようと城から出た。
当然のように俺に付いて葵と幸も城から出てきた。
「散歩に行くだけだぞ」
「いいからついて行くもん」
「つまらなくとも文句を言うなよ」
三人が連れ立って島内を散歩していく。
閉鎖された環境のため島内の治安はすこぶる良い。
俺たち子供だけで歩いていても全く問題は出ない。
当然のように藤林様のところの忍び衆が隠れて護衛してはくれている。
トボトボと街を避け海岸縁を歩いていた。
なんとなく歩いていたら造船所に着いてしまった。
造船所ではよく見慣れた我々の主力船でもある船を作っているようだ。
「ここでもあれを造っているんだ」
俺がふと漏らした感想を聞いたのか造船所の棟梁らしき人が俺のそばまでやってきた。
「殿、どうしましたか」
「いや、先程は視察に来たけど、今は散歩のついでだ。
驚いたのは、まだあれを作っているんだね」
「あれですか、そうですね、ここで作られる壱番艦になりますね。
すごいでしょう。
あの色の漆を塗るのは初めてじゃないですかね」
と言って棟梁は作りかけの船に漆を塗る作業をしている方を指さした。
「え!、えらくど派手になりませんかね」
今船に塗ろうとしている漆の色が俺らの保有する船に塗られている黒ではなく赤なのだ。
朱色と言ったらいいのだろうか。
あの漆の器の内側に塗られているような朱色を船の船体に塗ろうとしていた。
「あの色を船に塗るのですか」
「はい、向こうの希望でしたし、顔料はあちらさんの持ち込みですから」
「向こう?
なんのことですか」
「え、聞いていませんか。
あの船は張の姉御の知り合いである商人さんが注文したものだと聞いていますよ」
「え?」
「あれ、おかしいな。
九鬼の殿様も殿には許可を取っているから大丈夫だと言っていたはずなのだがな~」
「そうですよ。
今更船は売れないと言ったらまずくないですかね」 と棟梁の横で俺らの会話を聞いていた職人の一人が言ってきた。
「船を造る時に前祝いだと言ってもらった酒を飲んでしまいましたしね」
「おう、あの酒はうまかったな。
なんて言ったっけか」
「なんでも、あちらの国の酒で……なんだっけかな。
そうそう、しょうこうなんとかといいっていたような」
「もしかして紹興酒ですか」
「そうです。
それそれ。
殿はよく知っておられますね。
もらった酒を既に飲んでいたとか」
「あの時、もらった酒は大きな瓶で10はあったよな」
「そのうち3つは三蔵村に運んだぞ」
「聞いていますよ。
上人様と玄奘様からお礼の手紙を受け取ったと城の連中が喜んでいたからよく覚えていますよ」
え、お坊さん酒飲んで良かったっけ……妻帯も許される宗派なら飲酒くらいは問題ないか。
「俺、聞いていないよね」
俺は葵にこぼした。
「酒の件は聞いていませんが、船の建造の件について私はよく覚えておりますよ。
あの時九鬼様からの伝言を空さんに伝えたのはこの私ですから」
「え、いつのことですか」
「もう数ヶ月前になりますか。
そうそう、あの時一緒に伊勢の寺から借りる兵糧の件での取り決めなどの報告と一緒に書類にして渡し、すぐに空さんに了承の署名をしてもらいましたからよく覚えていますよ。
花押というのですか、こういった書類には必要だとかないとか言いながら空さんはご自身のお名前と一緒に雲の絵を書いていたのをよく覚えていますから。
確か金斗雲とか言いながら書いていたのをよく覚えていますよ」
「あ~~、あの時か。
炊き出し前で色々と忙しかった時か。
それより、その時頂いた酒って、本当に紹興酒なの」
「へい、そうですよ。
1つは初めの宴会で開けてしまい直ぐに空になりました。
でもまだ沢山あったはずですよ」
「そういえば、張さんが今日本多様に飲ませてあげようとか言っていましたね」
「え、ということはまだ残っているの。
というか、あの時の商人さん、なんて言ったっけ」
「白さんですか。
確か白圭さんと仰っておられましたよ」
「さっき雑談でも出てきたけれど白圭さんはこの島にも店を出すとか言っていたよね」
「そのための船だと聞いていますよ。
あの船は足が速いので、大陸との行き来が楽だとか」
「とすると、紹興酒はここで入手できるよね」
「それはどうですかね。
あの時いらした商人さんは、なかなか手に入らない酒だと言っておられましたから。
もらった酒は違うそうですが、物によってはあちらのお偉いさんに献上されるものもあるのだとか。
たまたま手に入ったので、これからの店の発展を願い奮発したとか言っておられましたよ」
「酒はまだ残っているかな。
もし手つかずの酒があったら2つは抑えて欲しい。
幸悪いけどすぐ城に行って2つは抑えておいて。
俺の分だとか言ってね」
「わかったけど空さんたちはこれからどおするの」
「街に行って白圭さんを探すよ」
俺は街に行って白圭さんの店を探した。
しかし白圭さんの店などなかった。
まだあちこち作りかけの家などたくさんあるが、それほど大きな街じゃない。
あれば見落とす事などないのだ。
しょうがなく白圭さんと親しくお付き合いをしていた能登屋さんの店を訪ねた。
こちらは先ほどの話じゃないが既にしっかりとした店構えの店が営業していた。
店に入り番頭さんを捕まえ白圭さんのことを訪ねた。
番頭さんの言うことには白圭さんは仕入れに寧波にいっているのだとか。
戻りは春先になるような事を言っていた。
白圭さんがいないのならしょうがないと、最近の様子など情報を得ようと番頭さんと雑談を始めた。
さすがに堺の豪商の一つに名の上がる能登屋さんだ。
西日本に限ればその情報たるやすごいものだ。
九州の大内や大友の様子や中国地方の毛利などの様子を教えてくれた。
最近では少量ではあるが白圭さんと博多でも商いを始めたとかで特に北九州の動向には気にしているようであった。
そんな感じで時間を潰していたら城に使いに出していた幸が戻ってきた。
「空さん。
探しましたよ」
いきなり文句を言ってきたが、紹興酒は最後の2つを確保したと言ってきた。
かなり危なかったそうで、豊田様達が既に1つを開け2つ目にはいろうかというタイミングだったとか。
豊田様たちには紹興酒の代わりに城にあった灘の酒に変えてもらった。
この島には紀伊之屋と能登屋といった堺の豪商の店が2件も有り、付近の銘酒をいくつか仕入れているとかで、城には常に酒があるのだとか言っていた。
それにしても良かった。
紹興酒を抑えることができたのも、本多様や豊田様に不快な思いをさせることがなかったのも良かった。
これを最初の献上品に加えることができそうだ。
いずれはこのあたりで酒作りをしていきたい。ミード作りにも挑戦していくことは決定条項なのだが、勅使を迎える時までには間に合いそうにない。
地元産品だけでごまかそうかと思っていたが、これならインパクトを持たせることができる。
よく考えれば堺に太いパイプがあるのだから、葡萄酒やラム酒なども入手できたかもしれない。
ま~~今回はこれでいけそうだ。
しかし、大きなツボのままというのは格好がつかないな。
「番頭さん。
お願いがあるのですが、白磁の壺を、大きさはこれくらいの白磁の壺を10ばかり入手できませんかね」
「工芸品となると値も張りますし、すぐには……」
「無理なら、陶器のそれもわりと綺麗な壺を入手してもらえませんか。
献上品を入れたいので」
「献上品ですか。
酒ですか」
「はい、以前に白圭さんから頂いた紹興酒を分けて入れて献上したいと思っております」
「おう、それは良いお考えですね。
あの酒はいいものですよ。
献上品としてですか。
分かりました、直ぐに店主と相談してご用意させていただきます」
それにしても船を製造販売するとか、ちょっとすごいことになっているのかも。
でも、そのおかげで献上品の目処も付いたし、良かったとしよう。
「城に戻って、献上品について張さんと相談しよう。
張さんは酔っ払っていないよね」
「大丈夫ですよ」
俺は日も沈んで夕焼けの明かりで赤く染まった道を城に向かって歩いて行った。
そういえば、まだ油は残っているよね……。
20
あなたにおすすめの小説
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
母を訪ねて十万里
サクラ近衛将監
ファンタジー
エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。
この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。
概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。
仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか
サクラ近衛将監
ファンタジー
レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。
昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。
記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。
二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。
男はその未来を変えるべく立ち上がる。
この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。
この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。
投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる