名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第五章 群雄

第百七話 九鬼水軍の今後

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「空さん、こちらの豊田さんが水軍のことについて相談したいそうだ。
 俺に色々と相談されていたが、俺が決められないことやわからないことが多くて空さんと直接話すしかないと張さんにも言われていてね、相談に乗って欲しい」

「空さん。
 珊さんの言うとおり、豊田様の言われることの多くが空さんと直接話さないと決められないことばかりなんですよ。
 私からもよろしくお願いします」

「珊さんや張さんに言われたら相談しないわけにはいきませんよ。
 で、豊田様は私と初めてじゃないでしょうが直接お話したことってありましたっけ」

「あ、はい。
 殿から直接お声をかけていただいたのは、田城城攻略の際に簡単な打ち合わせを、その時には親分である九鬼の殿様も一緒でしたが、覚えてはおりませんよね」

「すみません。
 覚えていませんでした。
 で、お話というのは水軍のことについてですよね」

 このあと豊田様と九鬼水軍について現状の説明から方針に始まり細部まで色々と話し合った。
 なにせ志摩攻略後に本拠地を賢島に移すようにお願いを出したあと、俺はほとんど水軍の運用には関わってきていなかった。
 そのくせタクシーがわりに便利に使わせていただいていたのだから、今思うとかなり水軍の方たちに失礼なことをしていた。

 反省をしながら豊田様の相談に乗っていった。
 張さんや珊さんなど色々と現状の問題点をよく知る人たちも一緒になって話しあっていた。
 あ~でもない、こ~でもない、いやいや、それはどうのこうのなどなど。

 現状の九鬼水軍の状況が、この話し合いでよくわかった。
 最大の問題?としては、彼らは世間一般的な水軍活動を全くしていないというのだ。

 この時代に各地に居る水軍衆の仕事は主に海賊行為と水路の治安の確保だ。
 矛盾しているようだが、要は許可なく縄張りに入ってくる船から通行料を強制的に徴収するか、事前に銭を貰い水路の安全を確保するかの2つだが、九鬼水軍の現状はこの縄張り内に入る船から通行料を徴収する所謂海賊行為を全くしていない。
 当然、商人たちから銭を集め彼らの安全も担保していない。

 では何をやっているかというと、ここ伊勢と堺との間の水運だけだ。
 関や小早などの船はあったが、もはやそれらの船はほとんど使っておらず、我々が作ったヨットのような帆船での活動だけになっている。

 元々配下が少なくなっているところに志摩だけでなく伊勢の攻略にまでかかりっきりとなっており、かつての船乗りたちは侍としての仕事が忙しくなってきているのだ。
 そこへ持ってきて、最初の方針としてかつて九鬼様を裏切った人たちを丘に上げて船に乗せていないので、現状船に乗っている人の数が極端に限られていたのだ。

 その極端に少なくなってきている乗り手たちをさらに水運に取られ、かつ、漁業の応援にまで人手を取られている現状では縄張りの管理が難しくなってきている。
 水路の安全管理については、我々の船はこのあたりの野良の海賊達が使っている船では追いつけない位の速度を持っており、且つ火縄銃や大砲で武装しているので襲われても十分に返り討ちにできるので、今まで全く心配もしていなかった。

 最近ではこのあたり周辺まで熊野水軍が出張ってきているとも聞いている。
 しかし熊野の連中は我々のことを十分に理解しており、完全に無視を決め込んでいる。

 時々熊野水軍の方から九鬼様に平和的な接触があるそうだが、こちら側に全く余裕がなく挨拶程度だけで済ませているようだ。
 しかし、そろそろそれだけでは済まなそうになってきているとのことだ。
 今後の政策に直接関係してくる問題なので豊田様では扱いきれずにヘルプの声が上がった。

 当然のように九鬼様から「これは殿の扱う問題」だと俺にお鉢が回ってきた。
 政に関しては九鬼様の範疇だし、水軍の管理に至っては完全に九鬼様が仕切るべきだろうとは思ったが、今更俺が言っても変わりそうにないので、俺は素直にこの問題を受け取った。

「豊田様はどうするべきだと思いますか」

「殿、確かに縄張りが最近になって熊野の連中に侵され始めたことは分かっておりました。
 この縄張りに関しては先代、先々代から色々とやりあった経緯もあり、我々としては黙って見ているわけには行かないと思っております」

「そうだよね」

「しかし、今の我々は先代とは全く状況が異なってきており、正直どうしようか全くわからないのが本音です」

「豊田様。
 ひとつ聞いてもいいですか」

「なんなりと」

「このあたりの水軍衆をまとめてはダメでしょうか」

「は??」

「豊田様は三蔵の衆の全体会議に出ていたよね。
 その時に話したと思うけど紀伊の国も仲間にしたいと思っています。
 雑賀にまとめてもらうつもりなんですけど、その時に熊野も配下に置きたいと思っております」

「雑賀ですか……今では我々は雑賀党と仲良くやっておりますが熊野とも同じようになれますでしょうか」

「やってみなければわかりませんが、九鬼水軍としての活動がなくなり、我々全体の水軍ができますが、九鬼としては抵抗もありますよね。
 大丈夫ですか」

「殿のご命令ならばなんにも問題はありません。
 元々我々は北畠の策略で一度滅んでおりますから。 
 殿が居らねば再起とて無理だったことは全員が分かっております。
 せいぜい今年辺りそこら辺で野垂れ死にが相場だったでしょう。
 それは我々全員が理解しておりますから、それに今更ですよ。
 既に水軍としては全く機能しておりませんでしたから、こうして相談していたわけですし」

「それもそうですね。
 なら話は早いほうがいいでしょう。
 幸、悪いけど孫一さんを探してきてほしい。
 まだ近くにいるはずだからね」

 その後、孫一さんを交えて今後について、特に雑賀党が抱える水軍との合流について話し合った。
 こっちも少しは心配していたのだが、孫一さん自身が我々に合流することになっているので、水軍の合流については問題がないそうだ。
 この時に特に孫一さんから聞かれた……というよりお願いされたのが船の手配についてだ。

 我々が使っているヨットにかなり興味があるそうで、それを使えるなら連中は喜んで合流するだろうとも言われた。
 本当に根っからの船乗りは船の性能について貪欲なのね。

 合流後については、出身によっての差別をするつもりなどないので、より良い船を作って適材適所に配置していくことになる。
 当然、雑賀党はもとより、合流すれば熊野も同じ扱いにすることを今いる全員で確認した。

 そのあとは、商売の話になって、俺一人が責められた。
 作れば売れる、運べば売れるのに運べない。
 そう俺らの商品で重要品目の干物についてだ。

 とにかく干物を扱う部署すべてから、「もっとよこせ」の大合唱だ。
 とにかくこの干物の話が出てきたらひたすら平謝りで、増産することを伝え、とにかく「待ってくれ」と言い続けた。

 当面は伊勢志摩の全域で漁を盛んにしてもらい、魚の手配に重点を置くことにした。
 すぐにはここ桑名周辺からの仕入れについて藤林様に便宜を図ってもらうことで話をつけている。

 結果が出るのが早くてもあと数週間はかかる。
 非常に言いにくいのだが、こればかりは干物になるのが早くとも来月にはなるので、安定しての増産は下手をすると年内は難しいかも知れない。

 ここにいる人たちだけには正直に伝えた。
 伝えてくれたのが俺でなく張さんだったが。
 でも俺はこのような商売の話をしているときのほうが楽しいかも知れないことを発見した。

 確かに現状は納品が厳しい状況が続いてはいるが、売れているのがとにかく嬉しい。
 少なくとも商いは結果が銭という形で見えるので分かり易い。
 これは政にはないシンプルさだ。

 ま~これからは暫くは戦もないだろうから俺が政に駆り出されることも減るだろうと思っている。
 当分は三蔵の衆の扱う商売に力を入れていこうと気合を入れ直しているそばから、竹中様が俺を探してやってきた。

 もう論功などの件は済んでいるはずなのだが、一体何だろう。
 正直勘弁して欲しい。
 尤もこうなったのも俺がいいだしっぺなのだが……しょうがないだろう。
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