名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第五章 群雄

第百九話 賢島の視察

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 本多様と秘密裏?の打ち合わせを行った翌日。
 伊勢志摩60数万石を有する九鬼嘉隆は幕府からの使者をここ桑名の寺にある境内でお迎えした。
 時に永禄8年秋のことであった。

 幕府から上使を迎えるにあたっての相談としての使者であり、上使ではないために出迎えも簡略化してはあるが、それでも初めて幕府からの使者を迎えるにあたって境内に集まった人たちには一様に緊張感が漂っていた。

 本多様が宿泊されている寺からこの寺までの間は北伊勢四十八家から人を出して、不測の事態に備えて警戒をしてもらっている。
 その様子を桑名市民が幕府からの使者をひと目見ようと街道沿いに集まってきており、その群衆の整理にかなり苦労をしているようであった。

 本当はここまでする必要など全くないのだが、これは所謂政治パフォーマンスというやつで、群衆も藤林様配下の忍び衆を使って集めたサクラも多数混じっている。
 なんでもこの時代においては幕府からの使者を迎えることはかなり栄誉なことだそうで、北畠のような京にコネクションのある一部を除き北部四十八家のように地方豪族にとっては一大事なことだそうだ。

 この演出も昨夜遅くまで本多様と竹中様が打ち合わせをしていたので、この後の統治において重要な意味を持つと今朝聞かされた。
 出迎える山門では藤林様と雑賀党の棟梁でこの度新たに家老についた孫一さんの両名が控えていた。
 二人に案内されるように本多様は寺の中に入って行って、桑名の街は落ち着きを取り戻していった。


 俺はどうしていたかって、こんな茶番に付き合う必要の全くない俺は明日の出発に備え、浜に戻り、ありったけの干物を掻き集めた。
 堺に手ぶらで行けるほど俺の心臓は強くない。
 干物作りを任せているお良さんには呆れられ、門前での販売用を横取りされた格好になった幸代さんには最後まで文句を言われ続けたが、俺には耳がない……聞こえないよ~~~。

 昼過ぎにはどうにか言い訳程度までの量を揃えることができたので、申し訳程度に午後は干物作りを手伝った。
 ある意味最近には珍しいくらいにひどく平和な時間を過ごせたようであった。

 夕方になり俺は一度桑名に戻り、本多様と合流した。
 そこでは九鬼様を始め家老のみんなと酒盛りをしていた。
 今日の政治パフォーマンスの成功をお祝いしていたようであった。
 唯の打ち合わせは昨日に終わっており、今日は完全に形式美を求めただけであって、今日の式典?に感動をしながら参加していた後からの合流組が少し哀れに感じた。

 だからといって、彼らにこの伊勢の政を任せるつもりは全くない。
 俺は、今後も関わらせるつもりもない。
 だって彼らに任せて良いことなど一つもない。
 彼らによって今日まで領民は、苦しめられてきたのだから。

 追々我々のやり方を学んだ彼らの子供世代に期待して、彼らは飼い殺しの状態でいてもらうことになっている。
 もっとも、今後の彼らの活用はすべて九鬼様たちに任せているので俺が口出しするつもりもない。

 要はここに暮らす民百姓たちの安寧さえ守ってもらえればいいのだ。
 九鬼様を始め、まつりごとつかさどる人たちに頑張ってもらいましょう。

 俺が酒を飲む訳にも行かないがこのうたげには最後まで付き合った。
 翌朝、桑名から船で賢島に本多様一行を連れて向かった。
 少し早めに桑名を発ったからか、昼前には賢島に入港した。
 ちょっと早くね~~?

 俺は何とはなしに操船の様子を伺っていたが、九鬼水軍の皆さんの手際がいいこといいこと。
 俺は驚いた。
 ちょくちょく利用はしていたが、改めて見てみると志摩を攻めた頃から比べて断然船足が上がっている。
 さすがに毎日の様にこの航路に船を走らせているだけはある。

 感心して今回船に同乗している水軍の頭である豊田様に話したら、なんだか苦笑いをされて答えが返ってきた。
 なんでも毎回堺便では堺衆に脅されているようでとにかく急ぎ船を走らせていた結果だそうだ。

 何だ、俺のせいか…でもそれでも技術が上がるのは良いことだよね……
 深く考えない。
 どんなに堺便を増やそうにも肝心の干物ができなければしょうがない。
 そんなことを考えながらの賢島訪問であった。

 かなり久しぶりなのだが、張さんの言われるようにかなり変わっていた。
 それも良い方向にだ。
 城は完成してよく見える所に建っており、街に溶け込んでいる。
 城下町もほぼ完成の域まで出来ていた。

 ここ本拠でもよくね~。

「ダメですよ。
 ここはこれ以上の発展はできませんからね。
 前にも話したように飲料水が足りません。
 それに、家を建てようにも適した場所も少ないですしね」

 何だ何だ、俺の考えでも読めるのか。

「でも、良くこの短時間でここまでできましたね。
 すごいですよ。
 張さんや珊さんが頑張ってくれたおかげですかね」

「いえ、皆さんが頑張ったからですよ。
 あ~そうそう、ここの近くの村でも干物を作り始めたようですので、もうじきすればあの騒動も落ち着くかもしれませんね」

「近くの漁村でも干物を作ってくれてますか。
 でも、誰の指示で?」

「私が九鬼様にお願いしたら二つ返事で近隣にお触れを出されたようで、浜から先月までお良さんたちも応援で来てくれていたようですしね。
 すぐに浜と同じ量がここでも出来ますよ。
 まだ慣れていないのでそれほどでもありませんが、すぐですよ。
 浜だってすぐに量産していきましたからね」

 俺と張さんが話し込んでいると豊田様が「いつまでも立ち話では。
 本多様を城にご案内しましょう」

「お~~、そうだった。
 すみませんね、本多様。
 私もここはかなり久しぶりなもんで、驚いておりましたから」

「俺は、前のここを知らないが、ここは良い街だな。
 志摩の拠点として何ら不足はない。
 ないが、伊勢志摩の拠点としては先程の張さんの言ではないが 空の見込み通り大湊という選択は素晴らしいと思うぞ。
 ここ以上の街を作るのだろう。
 期待しているぞ」

「そう言われますと、恐縮します。
 みんなで、いい街を……ここもそうですが、民の暮らしやすい街を作っていきますよ。
 それよりも城に行きましょう。
 正直私も初めてなんですよ、この城に行くのは」

 俺等は連れ立って城に向かった。
 城に入ると、本来ならば大広間あたりで本田様を出迎えるのだが、どうやらここでは俺がホスト役みたいだから、そのまま落ち着きのあるこじんまりとした和室に案内した。
 なんでも俺の部屋らしい。
 なんで俺の部屋が城の一番良い場所にあるのかわからないが、俺の部屋と言われてここに案内されたものだから、みんなも連れてきた。

「すみません本多様。
 この賢島の視察もあるので、今日はここで宿泊します」

「何構わんよ。
 ここで一泊しても歩いて帰るよりは早く帰れるしな。
 で、俺も視察に同行してもいいか」

「え、構いませんが。
 どうせ本多様には隠し事はするつもりもありませんし、どうせここでの様子は弾正様も知っているでしょうからね」

「ハハハハ、それはどうかな」

「昼をここで頂いてからみんなで島を見て回りましょう。
 それでいいですよね」

「私は構いませんが、豊田様は?」

「へ?
 私は殿の仰せの通りに致します」

 食事のあとに大名行列と言うより「○○教授の総回診」という感じで島内を見て回った。

 ほぼ街はできており、今では浜に造船所を作っていた。
 既に2機のキャプスタン(巻上機)を稼働できるまでに出来ていた。
 俺が指示を出せば今からでも造船を始められるまでに整備されていた。

「す、すごい。
 ここまで出来ているんですね」

「はい、いつでも御用命頂ければ船を作りますよ」

「ハハハ、この後どうしようか考えていませんでした。
 ごめんなさい」

「殿、どうか頭を上げてください。
 何も責めているわけではないのです」 と横で解説をしてくれている豊田様がかしこまってお詫びしていると、その場に伝令が現れた。

「殿、港に向かいの村から村長が面会を求めております」

「え。
 何があったの。
 緊急事態?」

 俺が緊張して聞いてみると、どうもそうではなく、俺が本当に久しぶりに島に来たことを知った志摩の対岸にある漁村の村長が、ここぞとばかりに献上品を持って面会に来たとのことだった。

「え、そんな。
 わざわざそこまでしてくれることないのに。
 城で会った方がいいかな」

「それなれば、そうですな。
 城できちんと面会しましょうか」

「わかりました。
 ではここまでとしましょうか。
 城に戻りましょう。
 本多様はいかがしますか。
 もう少し案内させますが」

「いや、十分だ。
 一緒に戻ろう」

 みんなで仲良く城に戻っていった。
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