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第五章 群雄
第百十四話 伝言
しおりを挟む半兵衛様と賢島で別れてから10日が経った日の昼過ぎに、三蔵寺に半兵衛様がやってきた。
寺の奥の倉庫の中で茶の実から油を取っている作業中に、寺男が俺に面会があると伝えてきたのだ。
山門まで出迎えると、そこには旅装を解いていない半兵衛様がお付の侍を控えさせて待っていた。
さすがに焦りましたよ。
一応半兵衛様はこの辺を領する九鬼家の家老職で、既に三蔵の衆の重鎮になっているはずだ。
何も山門で待たなくともとは思ったが、半兵衛様曰く九鬼家の公務で寺に訪ねたのだから寺のしきたりを守るとのことだった。
アポなし訪問はどの企業でも受付付近で一応に待たされるものだが、この時代にあっても待たされるようだ。
さすがに城では控え室のような場所があるのでそこでお待ちいただくようなのだが、寺にはそのような場所など無いらしい。
そもそもこの時代では山門より中は公権力の及ばない領域となっていることの方が一般的なようだ。
なので、寺に用があれば山門で待たされることも珍しくないのだ。
それでも何も半兵衛様がそこでまたなくとも副住職をしている玄奘様の名前を出せば問題なく寺に入れたものをと言ってみたが、それでは自分に付いてきている侍連中が誤解するとのことで、ここはきちんと筋を通したとのことだった。
俺は寺男にお願いして寺の一室をお借りして、そこに半兵衛様たちをお連れした。
半兵衛さまたちは大和から直接ここを訪ねたとかで、まだ九鬼様には帰還の復命をしていない。
それはまずいでしょうと俺が抗議したところ、弾正様からの伝言を預かったためのことだと言われた。
内容が公にできないことだそうなので、俺はもう一度寺男に別の部屋もお借りして、そこに半兵衛様だけを連れていった。
部屋に入り、二人きりになったところで弾正様からの伝言を待った。
半兵衛様はすぐに俺
内容が内容ですので書面にて残すのは憚られ、伝言をお受けしました。
殿に向かって大変失礼な言い様ですが、弾正様が正確に伝えてくれとのことですので、そのままお伝えします。」
「構いませんよ、あの御仁の言い様には慣れています。
どうせろくな内容じゃないでしょうから気にしないでそのまま教えてください。」
「では、弾正様は殿宛にこのようにおっしゃっておりました。
そのままの言い様でお伝えします。
『空よ、どうせお前は今回の上洛には一緒に来ないだろう。
なので、お前の配下に伝言することにした。
空よ、いつまでも陰に隠れてこそこそとしておらず、いい加減表に出て働けよ。
今回の役職の任命は九鬼の殿様だけで我慢してやるが、次は絶対にお前に役をつけてやるから覚悟しておけ。
さすがに俺も元服前の者に役職の宣下の押し付けはできないが、お前が元服したら絶対に何らかの役職をくれてやる。
せいぜいそれまでの間は子供らしくそこらで遊んでおればいい。
もっとも、それができればの話だがな。』
以上でした。
弾正様は、殿がこの乱世を変えるべく皆を率いてくれることを強く望んでおられる御様子。
なので、先のような言い様になったのでしょう。
しかし、我々も皆同じ思いです。
すぐにとは申しませんがその辺もお考え下さればと思います。」
どうせろくなことじゃないだろうとは予想していたが、予想通りろくな内容じゃなかった。
そもそも朝廷や幕府からの役職の宣下ってそうやたらに出せるものだったのか。
それになんだよ、元服までは遊んでいればいいって、それも『できればな』ってなんだよ。
さも俺が子供らしくできずに裏で暗躍しているような言い分は……ちょっと今までの行動は否定できないかも。
でも、『できれば』ってこの後も絶対に色々と暗躍することを決めつけているような言い分には腹が立つ。
この後はおとなしくしているつもりなのだが、それに半兵衛様を焚きつけないで欲しかった。
伝言を受けた半兵衛様もその気になっているじゃないか。
あのくそじじい、なんだかはらがたってきた。
この後も何かしらこっちにと言うより俺に絶対に無理難題を振ってくるつもりのようだな。
気を付けよう。
とにかく少し落ち着け、俺は出来る子だったはず、そうだ落ち着くんだ。
ふ~~少し落ち着いた。
「半兵衛様。
わざわざ無用な伝言を受けさせてしまったようで済みませんでした。
それにしても、九鬼様に復命前に俺のとこに来て、大丈夫なのですか。
その~、序列だとか作法だとかにはあまり詳しくはないのですが、こういったのは色々とメンツなども関わってくることだし、その~。」
「大丈夫ですよ。
表向きはともかく我々の中での序列は殿が一番ですので、この報告は当たり前なのです。
この後は桑名の陣に戻り九鬼の殿様に報告を入れたらすぐに上洛します。
さすれば暫くはお会いもできませんので、やはり殿への報告もこの時にしかできませんでしたから、伝言もちょうど良かったのかもしれませんね。」 と言って会談を終えた。
その後、半兵衛様はその日のうちに桑名の陣に戻り、陣に詰めていた北伊勢衆や長野や関といった連中を前に大和の松永勢との同盟締結の報告と上洛の件を報告した。
当然俺はその場にはいないが、なぜかしらその場の様子が俺の耳に入ってくる。
本当に我々の仲間はしっかり「報連相」が定着している。
必要な情報のみ取捨選択され、必ず俺のところまで入ってくるのだ。
本当に優秀な忍び衆だこと。
余談が過ぎたが、半兵衛様の報告から3日後には、桑名から上洛組は出発した。
以前から準備していた各勢力からよりすぐられた1000名ばかりの兵たちを連れて九鬼様は霧山城経由で大和を目指した。
伊勢の桑名から上洛するには一般的には鈴鹿峠を越えての昔からある街道を通るか、我々が整備をしている八風街道を通るのが便もいいのだが、商人ならば問題なくとも軍勢を引き連れての移動ともなると途中の六角領の通過が問題となる。
同盟関係でもあればまだしも我々には絶対に通れないルートだ。
他といえば、海上ルートで堺まで行って大和入りするルートが有り、これは割と頻繁に利用されているが、ここも軍勢の移動には不向きだ。
だが、我々には霧山城の横を通るルートがある。
ここは霧山城を抜けると山深い道ではあるがすぐに大和に入れる。
また、移動の中継基地としても霧山城が使えるので軍勢の上洛にはもってこいのルートである。
当然今回の上洛にもこのルートが使われる。
今回の上洛組は大和まで山道を抜けて行くので、6日位は掛かると聞いている。
再びここ伊勢まで戻ってくるのは早くとも1月はかかるそうだ。
何事も順調に行くとは限らない。
九鬼様を始め、我らの家老衆の統一した意見ではあるが1~2ヶ月はこの上洛に費やされるとのことだ。
上洛には筆頭家老である藤林様を始め半兵衛様も同行することになっている。
伊勢に留守番して、警戒に当たるのは同じく家老となった孫一さんが受け持ってくれる。
当然配下の雑賀衆もこの地に残るので安心できる。
なにせ、我々の主力はこの孫一さん率いる雑賀衆なのだから、北伊勢や関や長野といった豪族たちは正直外向けの飾りでしかない。
そんな彼らの親分たちもほとんどが上洛組に入っているから、内乱の心配は少ない。
外からの侵略も今のところ峠越えの六角位しか脅威はない。
お隣の織田勢も、今は美濃に掛かりきりだし、ここ伊勢を攻略するまでの余裕はない。
なので主力不在(外向け)の現状で、一番心配するとなると長島くらいだろう。
俺の知っている歴史では、暴発までは5年以上あるが、今の長島の雰囲気は、上人様も心配するくらいきな臭いそうだ。
それでも暴発ギリギリまでは上人様が頑張ってくれるし、何かありそうでも時間稼ぎはしてくれる。
それだけあれば、上洛組を戻せるから、まず大丈夫だろう。
なので、俺には今から1~2ヶ月は自由にできる時間ができた。
この時間を利用して俺は内政の無双をしていくぞ。
何から始めようかな。
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