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第五章 群雄
第百十五話 俺らのMKS単位系
しおりを挟むあれから3日後に九鬼様は配下1000人を引き連れて桑名を出発した。
桑名で出陣式のようなことをやっていたので、俺も群衆にまぎれて九鬼様の出陣を見送った。
時間ができた……今まで本当に忙しかったので、急に時間ができたことに戸惑っている自分がいた。
どうしようかな、やらなければならないことはたくさんある。
やりたいこともたくさんあるのだが、何からやればいいかわからない。
しばしその場でぼ~~としていた。
出陣の折に、わずかばかりではあったが桑名の市民にふるまい酒を振舞っていたようで、桑名の大人たちが騒いでいるのを俺は冷めた目で見ていた。
そうだ、酒を作ろうとしていたんだっけ。
蜂蜜を使った酒、あれはミードとか言っていたよな。
作り方も簡単だと以前に調べたことがある。
なにせ俺の大好物であるラノベの定番になっているような酒だ。
主人公やその他登場人物たちが美味しそうに飲んでいたのを記憶していた。
そういえばある作品の中ではミードを日本で高く売っていたような気がする。
俺がここでミードを作れれば大儲けが出来る予感だ。
材料はある。
この前賢島のそばの村からもらった蜂蜜がある。
いくら簡単だといっても、ど素人の俺がすぐに売り物のレベルの酒ができるはずはないので、とりあえず色々と実験からだな。
俺は早速寺に戻りはちみつを取り出した。
どれ、この時代の蜂蜜の味はどんな感じだ。
俺は蜂蜜を入れてある小さめの壺に箸を突っ込んで蜂蜜を取り出した。
ペロリ……う~~~む、美味しい。
そういえば俺がこの時代に流されてきてから1年以上経つが、その間、甘いものを口に入れていない。
この時代に来てから初めての甘味だ。
どれ、もう少し詳しく味を調べないと実験もできないぞ。
もう一度箸を入れ、今度はたくさん掬えるように壺の中で箸をぐるぐる回して取り出した。
大きく口を開けペロ………、あ、目があった。
俺の様子をじっと見ていた葵と幸だ。
次の瞬間、ふたりは大声で「あ~~~~空さん、何食べているの。」
「ずる~~い、空さんだけなの。」
ふたりは大声で俺のことを攻めて来る。
俺はヤレヤレといった表情で説明を始めた。
蜂蜜で酒を作るのに、味を調べていたんだと。
当然ふたりは信じてはくれない。
しょうがないので「一口だけだぞ」と言って、二人に蜂蜜を舐めさせた。
ふたりの表情が劇的に変わった。
この世の春と表現すればいいのか、ここは極楽だと表現すればいいのかといった感じで、本当に幸せそうに蜂蜜を味わっていた。
この時代には甘味は貴重で高価であることを改めて認識したのだ。
そこに張さんと珊さんが戻ってきた。
「張さん、この蜂蜜、とても甘くて美味しいよ。」
ここまで来ると張さん達にもお裾分けしないといけない。
それでなくとも、この時代に来た初めての食事を、少ない中から分けてもらった恩もあるふたりだ
葵に皿を取ってこさせ、二人に蜂蜜を分けた。
二人共、最初はそんな高価な品物をと言っていたが、葵や幸に急かされ、蜂蜜を味わった。
本当に美味しそうに味わっていた。
「私たちだけ頂いたのではなんだか申し訳ないですね。」 と張さんが言い始めた。
ちょうど俺らの騒ぎを聞きつけた子供たちが集まり始めた。
ここまで来ると、寺にいる子供たちだけでも蜂蜜を分けないといけないような雰囲気になってくる。
今寺にいる子供たちを全員ここに集め、本当に少しづつだが蜂蜜を振舞った。
大人たちには何かと酒を振舞っているので今回は無しといことで。
子供たちは、一人の例外なく本当に幸せそうな顔をしながらはちみつを味わっていた。
その様子を見ていたら、心の中からなんだか暖かなものがこみ上げてくる。
一人でも多くの子供たちに甘いものを食べさせてあげたいな。
今の俺の正直な気持ちだった。
「みんな幸せそうですね。」
張さんが俺の気持ちを代弁してくれた。
「そうですね。
今回だけでなく、こんな感じで食べさせられればいいですね。」
「そうですね、でも甘いものは高価ですから、本当にここが豊かにならないと実現できそうにありませんね。
けれども、私たちはそれを目指してもいいかもしれませんね。」
本当に穏やかな時間が過ぎ、お開きとなって俺は非常に後悔を始めた。
蜂蜜が残っていない。
壺の中に、ほんの少ししか残っていないのだ。
まだ、頂いた物に蜜蝋が残っているが、こんなんで酒などできないだろう。
正直俺の味見などいらなかったのに、俺が誘惑に負けたのがいけない。
どうすっぺかな………。
無いものを嘆いていてもしょうがない。
なければまた手に入れればいい。
蜂蜜の採取は難しく、それがために高価であるが、俺は知っている。
養蜂というものがあるのだと.
尤も俺は専門家じゃないが、養蜂の始め方を知っている。
なぜなら、俺が転生前によく見ていたTV番組の一つに某アイドルが農作業などを通して村や島の開拓をしていく番組に養蜂が取り上げられていた。
おかげで今でも俺は養蜂のやり方を覚えている。
とにかく、まずは巣作りだ。
あの番組のように大きめの木を刳り貫いたやつを作ろう。
業者が行っているような四角い巣箱に10枚くらいの巣を作らせるやつじゃなく、番組で使っていたようなものを作ってみよう。
将来的には、やはり現代養蜂のようなものにしてかいないといけないだろうが、とにかくとっかかりは知っている方法でということだ。
俺は寺を出て、与作さんを探した。
彼はこの辺りの木材作りの責任者でもある。
村の人がせっかく切り倒した木のうち中心あたりが腐っていてとても木材として使えそうにない木を貰い、手先の器用な人に、あの番組のような巣箱を説明して作ってもらった。
全部で巣箱を20ばかり用意してもらい、この辺に適当に10個を設置して、残りを賢島に運んでもらった。
以前、蜂蜜を頂いた村まで行って、養蜂を説明し、蜂の巣を見つけた場所のそばに例の箱を設置してもらった。
分蜂が始まるのは、春先なので、この後は春まで待たなければならない。
失敗を前提での実験のために、とにかく手間をかけないことを心がけたので、今回は設置には手間をかけたが後はほったらかしだ。
成功事例を一つでも見つけ、最終的には事業化を目指す。
養蜂にはハイテクなどいらないのだから、この時代でもできるはずだ。
経験がないだけで苦労はするが、その経験は絶対に役に立つ。
そう、この経験には巣箱作りも含まれている。
俺は、巣箱を作ってもらうのに説明をしていく上で、重要な事実を知ってしまった。
この時代には規格が定まっていない。
といより、規格そのものがない。
大きさを説明するのに、数字で説明できない。
尺貫法などあるはずなのだが、普通に生活をしている人間にはあまり馴染みの少ないもので、また、国ごとにバラバラというおまけまで付いている。
俺ら三蔵の衆は出身がバラバラなもんで当然のように大きさが正確に伝わらない。
今回は巣箱作りなので、出来上がる巣箱の大きさがバラバラでも、さして問題は出なかったが、今後この問題を放置すれば絶対に大きな問題となるのは自明の理だ。
それにしても、よくこんな状態で船なんかを造れたものだと感心した。
正直今回の件で気が付いて良かったと思っている。
しかしこの先の事を考えると、この機会にきちんと長さと重さは取り決めていくことにした。
どうせこの後もしばらく時間的に余裕があるので、真剣にこの度量衡の制定に取り組むことにした。
ここまできて俺はふと考えた。
度量衡等の取り決めは時の権力者の権限の範疇だ。
俺などが勝手に決めていいものじゃない。
しかしこの時代では大名などが必要に迫られきちんと取り決めている者もいる。
北条や今川などは割ときちんとしていたと聞いているが、日本中で統一されるのが豊臣秀吉の太閤検地のあたりであったとも聞いている。
ここ伊勢志摩だけとは言っても、俺が勝手に決めていいものじゃない。
ならば三蔵の衆だけの特別ということで俺が決めることにした。
どうせ使っている数字もここではアラビア数字を使っていて、今更な感もあるが、ここだけ色々とずれていることは認識している。
なので、俺が勝手にここだけのルールを決めても他への影響は少ない。
ならば中途半端に尺貫法をいじるよりも俺が慣れ親しんだメートル法で行こうかと思う。
子午線の何万分の1かは知らないが、俺が1mを定義するにもその手段がない。
そこで俺が次にとった手段が、勝手に決めてしまおうという乱暴な手段だ。
俺は寺の中を歩き回り、探して回った。
俺の目に付いたのが、最初の頃に炭を作るときにさんざんお世話になった鋸だ。
これは葵の遠縁にあたる抱介さんという方の遺品だ。
腕の良かった宮大工と聞いている。
彼の使っていた鋸の歯の厚みが大体1mmくらいであった。
さすがにこの時代の製品だ。
厚みも均一ではなく、あちこちで厚みも違っているので、一番先の厚みを基準として原器を作ることにした。
これから苦労したよ。
まず、竹で薄板をたくさん作ってもらい、その竹に鋸の歯を当て、傷をつけるといった要領で1mmを竹の薄板に刻んでいった。
傷を10集め、1cmとし30cmの竹の定規を作った。
とにかく均一になるように寸法を刻むのだから何度も失敗をしながらやっと納得いく定規を作ることができた。
昔の小学生が必ず使っていたあの竹でできた物差しだ。
年配の方にはおなじみであろうが、今の人にはわからないだろうな。
当然この時代の人にもわからなかったよ…当たり前か。
次にこれを使って1mの定規を作った。
この時もかなり失敗を繰り返しながらであって、完成までにゆうに1月はかかった。
この1m定規と抱介の鋸、ついでに30cmの定規を原器として寺に大切に保管してもらった。
次に、寺にいる子供で手先の器用な子供を集め、1mの定規の複製を作ってもらった。
出来上がりを原器に当て、寸法の狂いがないかを確認して、準原器として、今度はこれを元にできるだけ沢山の定規を作ってもらった。
この実際に使われる定規作りは寺の子供たちに任せ、今度は重さの定義だ。
こっちは先の定規を使って内寸が10cm四方の升を作ってもらい、これを基準として1kgを定義した。
このます杯分の水の重さを1kgとしたのだ。
これで俺らのMKS単位系の完成だ。
最も時間は今回定義していないし、MKSのMは1mのMではなく1mmのMだが、それでも一応の単位系として俺らの中では統一していくことにした。
疲れた、ここまでやっていたら時間切れで九鬼様たちが2ヶ月ぶりに桑名まで戻ってきた。
この2ヶ月、俺は何をしていたんだろう……考えると虚しくなってきた。
あのくそじじいの言葉が俺に襲いかかってくる「できるものなら」と、くそ~~~。
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