名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第五章 群雄

第百二十話 信長との外交結果

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 信長との外交戦の初戦は無事終わった。
 今しがた熱田まで武井様一行を送ってきた半兵衛様が俺のところまで来て外交戦の報告を行っている。
 今回の外交戦を振り返っての総評のようなものを始めたようだ。

「無事に武井様一行を熱田まで送ってきました」

「それはありがとうございます。
 今回はお疲れ様でした。
 これで当分は大丈夫だよね」

「織田勢との外交戦は始まったばかりですので何とも言えませんが、すぐにどうこうとはならないかと思われます。
 して、殿は今回の一連の動きをどう見ますか」

「どう見るも何もないよ。
 だって、俺のところまで信長の使いとして以前から面識のあった滝川様を遣わしてきたのだから、当分は俺たちとは戦いたくないとの意思表示じゃないかな」

「そうですね、武井様だけの訪問ですと、一般的には私たちの勢力が尾張に対して侵攻の意思と能力があるのかの調査と見るべきでしょうが、直接殿にまで使者を遣わしてくるとなると、さらなる意味も出てきますね」

「でも、外交初戦のことだし、顔合わせくらいの意味しかないのではないかな」

「それはどうでしょうかね。
 織田勢は昨年に美濃領内の羽島に出城とも言える砦の構築に成功しておりますから、本格的に美濃攻略を始めると見るべきでしょう。
 となると背後に当たる尾張の心配も出てきます。
 尾張を最近伊勢統一で力をつけてきている我々に襲われたくないので、できれば不可侵の条約だけでも結べればと考えているのではないでしょうかね」

「そう見るのが自然かな。
 で、半兵衛様は今回の外交戦の評価をどう見ますか」

「そうですね、武井様は我々の評価をどう見たかということですかね。
 武井様の話しぶりや顔色から判断しますに、尾張侵攻能力に関しては十分にその力があると判断されたでしょう。
 伊勢の領内を見ればすぐにわかることですが、どこにも戦で疲弊したようなところはありませんから。
 問題は意志の部分でしょうが、こちらは賢島や我々の軍船での送り迎えの件で内情を包み隠さずに晒したことが功を奏したようで、意思は全くないと判断されたようです。
 一連の接待で我々に友好の意思のあることが伝わったかもしれません。
 武井様が戻られたことですし、今頃は小牧山城内で我々の分析でも行っているのではないでしょうか。
 分析終了後にでももう一度何らかの動きが出てくるでしょうね」

「そうですね、私もそう考えます。
 領内の忍び衆からの報告を信長自身も受けているでしょうし、それに滝川様は実際に領内を歩き回っていたでしょうから、我々の伊勢侵攻で領内が荒れていないとは掴んでいたでしょう。
 でなければ今頃相当に驚いて、すぐにでも次の動きも出てきたでしょうから、予想の範囲だったのでしょうね。
 今回何より驚いたのが、信長は空さんと九鬼の殿様の関係をかなり詳しく掴んでいたことです。
 でないとあの席で不可侵の同盟の話など出てこなかったでしょうから、次ある動きとしては弾正様と同様に正式に九鬼勢との同盟に関しての動きでしょうかね」

「藤林様もそう見ますか。
 では、この件は次の動きを待ってからということで。
 あ、そういえば、先ほど話に出てきました羽島の砦の件ですが詳細を掴めましたか」

「先日、空さんに言われ、調査を始めましたが、まだ調査中です。
 今わかっているのは、織田勢もかなり無理をしながら砦の構築に成功したことくらいでしょうかね」

「無理ですか、もう少し具体的にはわかりませんか」

「今までに入ってきた情報ですと、宿老である柴田勝家が動員できる兵力の半分を率いて羽島の川原周辺を占領後、これも宿老である丹羽長秀が配下を総動員して柴田に守られながら半月で砦を構築したと聞いております。
 出来た砦には現在柴田勝家が自身配下すべてを引き連れて詰めていると聞いております。
 あ、それに母衣衆の幾人かも伝令などとして常駐しているそうです」

「そうですか、それで砦を羽島に作ることができたのですね。
 でも、それですと織田勢にかなりの被害が出たのではないでしょうか」

「半兵衛殿、そのようですね。
 これはあくまでも噂の域を出ておりませんが、森可成と佐久間信盛などがかなりの手傷を負って暫くは動けないとか、それに丹羽長秀の部下の中にも手傷を負った武将が多数出ているとか聞いております」

「それでですかね、宿老が自ら前線基地に詰めているのは。
 それなら、さしずめ今頃丹羽殿は兵力の立て直しで東奔西走しているのでは」

「良くご存知で、その宿老の丹羽長秀は動ける配下を使ってあちこちに走らせております。
 堺にも鉄砲や弾薬の購入に来ているとか聞いております」

「そうなりますと、今回の我々との接触には意味も出てきますね。
 満身創痍の状態で我々とも戦はしたくないということでしょう。
 で、殿はどうしますか。
 今なら尾張も取れるかもしれませんよ」

「よしてください、心にもない事を言って。
 滝川様にも約束しましたし、何よりも尾張を取る必要性を全く感じませんよ。
 尾張を取っても面倒が増えるだけですからね。
 しかし、お隣さんがそんな状態でしたら少し恩でも売っておきますか」

「へ?
 何をお考えで」

「熱田と堺の間に定期船でも出しましょうかね。
 この路線を開通させたらかなりの収益が出そうですしね。
 今度滝川様に丹羽様を紹介してもらいましょうかね。
 この路線は丹羽様なら涙を流して喜ぶに違いないでしょうしね」

「信長が認めるでしょうかね。
 自身の配下でない我々の領内での商売を」

「普通の大名なら無理でしょうが、かつてはうつけと言われていても平然としていた御仁だ。
 多分大丈夫だと思いますよ。
 何より我々三蔵の衆と絆を作りたかったのはほかならぬ信長様だからね。
 とにかくダメ元で滝川様につなぎをとってもらえますか」

「ダメ元?なんですか」

「あ~すみません。
 駄目で元々の意味で省略した言葉です。
 駄目と言われても我々には大した損はないでしょ。
 駄目でなかったらそれこそ儲け物といった軽い気持ちでやってみようという意味ですよ」

「分かりました。
 では、長島に商いに行っている連中に紛れ込ませて配下を尾張に回します」

 そんな感じで織田勢との外交戦の初戦の総評を終えた。
 俺はここまで来てくれた半兵衛様を港まで見送りに出た。
 半兵衛様が乗ってきた船が港を出たと同時に堺への定期船が港に入ってきた。
 その船の船長が俺を見つけたようで、港に入るとすぐに俺のところまで来て報告してきた。

「殿、今いいですか」

「構わないけど、何かあったの」

「いえ、大したことじゃないんですが、港に入る直前くらいに我々の船に似た船を見かけたものですから一応報告のために」

「似た船?」

「へい、色は同じで漆を塗ったような感じの船で、大きさだけが我々の船より小さく、ちょうどあの漁船くらいの大きさの船でした。
 かなり汚れてはいましたが、まだそれほど古い船ではありませんでしたね。
 見た感じでは船足はかなり早そうでしたし、ひょっとしたら我々の船よりも船足はあるかもしれませんね。
 心配になったので、とにかく早く報告だけでも入れておきます」

「ありがとうございます。
 気になったことがありましたらまた遠慮なく教えてください」
 でも、似た船で小さめと言ったら以前大砲と交換した一番艦くらいしか思い浮かばないが……まさかね。
 だって、あの時は張さんが船長の尻の毛まで抜く勢いで取引をしていたから、普通の神経なら絶対にここには来ないでしょうからね。
 そうそう、あそこに見えるあの船だったよね、交換した一番艦はってあの船って

「見かけない船が港に入りま~~す」

 港を見張っていた兵士が大声で警報を知らせてきた。
 すぐにそばにいた兵士や村長に近い人たちが港に集まってきた。
 俺のところにも人が来た。

「ここに入るんだろうね。
 俺たちに何か用でもあるのかな」

 港の騒ぎを聞きつけたのか張さんも珊さんと一緒に俺のところまで来ていた。
 葵と幸は今寺で子供たちのお勉強を見てもらっているのでこういったイベントには参加できない。
 絶対に後で俺に不満を言ってくるのだろうな。

 確かにかなり使い込んでいるようだなあの船は、ところどころ漆も剥げているし、整備をしないとまずいよな。
 わざわざ俺のところまで整備しに来たんじゃないよな。
 何をしたのだろう。

 それにしてもあの船長は、よく来る気になったよな、ひょっとしてMだったりして。
 想像するのはやめておこう。
 また張さんにいじめられないようにだけは祈っておこう。
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