151 / 319
第五章 群雄
第百二十話 信長との外交結果
しおりを挟む信長との外交戦の初戦は無事終わった。
今しがた熱田まで武井様一行を送ってきた半兵衛様が俺のところまで来て外交戦の報告を行っている。
今回の外交戦を振り返っての総評のようなものを始めたようだ。
「無事に武井様一行を熱田まで送ってきました」
「それはありがとうございます。
今回はお疲れ様でした。
これで当分は大丈夫だよね」
「織田勢との外交戦は始まったばかりですので何とも言えませんが、すぐにどうこうとはならないかと思われます。
して、殿は今回の一連の動きをどう見ますか」
「どう見るも何もないよ。
だって、俺のところまで信長の使いとして以前から面識のあった滝川様を遣わしてきたのだから、当分は俺たちとは戦いたくないとの意思表示じゃないかな」
「そうですね、武井様だけの訪問ですと、一般的には私たちの勢力が尾張に対して侵攻の意思と能力があるのかの調査と見るべきでしょうが、直接殿にまで使者を遣わしてくるとなると、さらなる意味も出てきますね」
「でも、外交初戦のことだし、顔合わせくらいの意味しかないのではないかな」
「それはどうでしょうかね。
織田勢は昨年に美濃領内の羽島に出城とも言える砦の構築に成功しておりますから、本格的に美濃攻略を始めると見るべきでしょう。
となると背後に当たる尾張の心配も出てきます。
尾張を最近伊勢統一で力をつけてきている我々に襲われたくないので、できれば不可侵の条約だけでも結べればと考えているのではないでしょうかね」
「そう見るのが自然かな。
で、半兵衛様は今回の外交戦の評価をどう見ますか」
「そうですね、武井様は我々の評価をどう見たかということですかね。
武井様の話しぶりや顔色から判断しますに、尾張侵攻能力に関しては十分にその力があると判断されたでしょう。
伊勢の領内を見ればすぐにわかることですが、どこにも戦で疲弊したようなところはありませんから。
問題は意志の部分でしょうが、こちらは賢島や我々の軍船での送り迎えの件で内情を包み隠さずに晒したことが功を奏したようで、意思は全くないと判断されたようです。
一連の接待で我々に友好の意思のあることが伝わったかもしれません。
武井様が戻られたことですし、今頃は小牧山城内で我々の分析でも行っているのではないでしょうか。
分析終了後にでももう一度何らかの動きが出てくるでしょうね」
「そうですね、私もそう考えます。
領内の忍び衆からの報告を信長自身も受けているでしょうし、それに滝川様は実際に領内を歩き回っていたでしょうから、我々の伊勢侵攻で領内が荒れていないとは掴んでいたでしょう。
でなければ今頃相当に驚いて、すぐにでも次の動きも出てきたでしょうから、予想の範囲だったのでしょうね。
今回何より驚いたのが、信長は空さんと九鬼の殿様の関係をかなり詳しく掴んでいたことです。
でないとあの席で不可侵の同盟の話など出てこなかったでしょうから、次ある動きとしては弾正様と同様に正式に九鬼勢との同盟に関しての動きでしょうかね」
「藤林様もそう見ますか。
では、この件は次の動きを待ってからということで。
あ、そういえば、先ほど話に出てきました羽島の砦の件ですが詳細を掴めましたか」
「先日、空さんに言われ、調査を始めましたが、まだ調査中です。
今わかっているのは、織田勢もかなり無理をしながら砦の構築に成功したことくらいでしょうかね」
「無理ですか、もう少し具体的にはわかりませんか」
「今までに入ってきた情報ですと、宿老である柴田勝家が動員できる兵力の半分を率いて羽島の川原周辺を占領後、これも宿老である丹羽長秀が配下を総動員して柴田に守られながら半月で砦を構築したと聞いております。
出来た砦には現在柴田勝家が自身配下すべてを引き連れて詰めていると聞いております。
あ、それに母衣衆の幾人かも伝令などとして常駐しているそうです」
「そうですか、それで砦を羽島に作ることができたのですね。
でも、それですと織田勢にかなりの被害が出たのではないでしょうか」
「半兵衛殿、そのようですね。
これはあくまでも噂の域を出ておりませんが、森可成と佐久間信盛などがかなりの手傷を負って暫くは動けないとか、それに丹羽長秀の部下の中にも手傷を負った武将が多数出ているとか聞いております」
「それでですかね、宿老が自ら前線基地に詰めているのは。
それなら、さしずめ今頃丹羽殿は兵力の立て直しで東奔西走しているのでは」
「良くご存知で、その宿老の丹羽長秀は動ける配下を使ってあちこちに走らせております。
堺にも鉄砲や弾薬の購入に来ているとか聞いております」
「そうなりますと、今回の我々との接触には意味も出てきますね。
満身創痍の状態で我々とも戦はしたくないということでしょう。
で、殿はどうしますか。
今なら尾張も取れるかもしれませんよ」
「よしてください、心にもない事を言って。
滝川様にも約束しましたし、何よりも尾張を取る必要性を全く感じませんよ。
尾張を取っても面倒が増えるだけですからね。
しかし、お隣さんがそんな状態でしたら少し恩でも売っておきますか」
「へ?
何をお考えで」
「熱田と堺の間に定期船でも出しましょうかね。
この路線を開通させたらかなりの収益が出そうですしね。
今度滝川様に丹羽様を紹介してもらいましょうかね。
この路線は丹羽様なら涙を流して喜ぶに違いないでしょうしね」
「信長が認めるでしょうかね。
自身の配下でない我々の領内での商売を」
「普通の大名なら無理でしょうが、かつてはうつけと言われていても平然としていた御仁だ。
多分大丈夫だと思いますよ。
何より我々三蔵の衆と絆を作りたかったのはほかならぬ信長様だからね。
とにかくダメ元で滝川様につなぎをとってもらえますか」
「ダメ元?なんですか」
「あ~すみません。
駄目で元々の意味で省略した言葉です。
駄目と言われても我々には大した損はないでしょ。
駄目でなかったらそれこそ儲け物といった軽い気持ちでやってみようという意味ですよ」
「分かりました。
では、長島に商いに行っている連中に紛れ込ませて配下を尾張に回します」
そんな感じで織田勢との外交戦の初戦の総評を終えた。
俺はここまで来てくれた半兵衛様を港まで見送りに出た。
半兵衛様が乗ってきた船が港を出たと同時に堺への定期船が港に入ってきた。
その船の船長が俺を見つけたようで、港に入るとすぐに俺のところまで来て報告してきた。
「殿、今いいですか」
「構わないけど、何かあったの」
「いえ、大したことじゃないんですが、港に入る直前くらいに我々の船に似た船を見かけたものですから一応報告のために」
「似た船?」
「へい、色は同じで漆を塗ったような感じの船で、大きさだけが我々の船より小さく、ちょうどあの漁船くらいの大きさの船でした。
かなり汚れてはいましたが、まだそれほど古い船ではありませんでしたね。
見た感じでは船足はかなり早そうでしたし、ひょっとしたら我々の船よりも船足はあるかもしれませんね。
心配になったので、とにかく早く報告だけでも入れておきます」
「ありがとうございます。
気になったことがありましたらまた遠慮なく教えてください」
でも、似た船で小さめと言ったら以前大砲と交換した一番艦くらいしか思い浮かばないが……まさかね。
だって、あの時は張さんが船長の尻の毛まで抜く勢いで取引をしていたから、普通の神経なら絶対にここには来ないでしょうからね。
そうそう、あそこに見えるあの船だったよね、交換した一番艦はってあの船って
「見かけない船が港に入りま~~す」
港を見張っていた兵士が大声で警報を知らせてきた。
すぐにそばにいた兵士や村長に近い人たちが港に集まってきた。
俺のところにも人が来た。
「ここに入るんだろうね。
俺たちに何か用でもあるのかな」
港の騒ぎを聞きつけたのか張さんも珊さんと一緒に俺のところまで来ていた。
葵と幸は今寺で子供たちのお勉強を見てもらっているのでこういったイベントには参加できない。
絶対に後で俺に不満を言ってくるのだろうな。
確かにかなり使い込んでいるようだなあの船は、ところどころ漆も剥げているし、整備をしないとまずいよな。
わざわざ俺のところまで整備しに来たんじゃないよな。
何をしたのだろう。
それにしてもあの船長は、よく来る気になったよな、ひょっとしてMだったりして。
想像するのはやめておこう。
また張さんにいじめられないようにだけは祈っておこう。
25
あなたにおすすめの小説
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
母を訪ねて十万里
サクラ近衛将監
ファンタジー
エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。
この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。
概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。
仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか
サクラ近衛将監
ファンタジー
レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。
昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。
記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。
二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。
男はその未来を変えるべく立ち上がる。
この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。
この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。
投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる