名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第五章 群雄

第百二十六話 堺での接待

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「ごめんなさいよ。
 能登屋さんはいるかね。」

「これは紀伊乃屋さん、いらっしゃいませ。
 後ろにいらっしゃるのは空さんですか。
 なんだか久しぶりですね。」

「ご無沙汰しております、番頭さん。」

「しかし、いきなりの訪問でこの組み合わせですか。
 なんだか儲け話の匂いがしますな。
 すぐに店主を連れてきますからどうぞ奥へ。」 と言った能登屋さんの番頭さんがすぐに店にいた手代を捕まえて、

「おい、おふたりを奥の間にご案内しろ。」 と俺らの案内を手代に任せ自身は店主を捕まえに奥に入っていった。

「いつもの部屋だろ。
 かまわんよ、俺だけでも行けるから仕事を続けてくれ。
 急に訪ねてきたのは俺たちだからな。」

「いや、そうもいきまへん。
 でないと私が番頭に叱られます。
 お客人も満足におもてなしできないのかと。
 店の『鼎の重軽が問われる』とかいつも言わはるんですよ。
あれ?軽重だったかな……
 まあどちらでも同じでっしゃろ、意味はわかりませんがね。
 どうぞこちらへ。」

 俺らは能登屋さんの手代さんに連れられてよくお邪魔する部屋に通された。
 部屋に入ると、店の女中さんがすぐにお茶を立ててくれた。
 この店は先の騒動の後、紀伊乃屋さんと一緒に会合衆にも選出される豪商にまでなっている大店だけあって、店勤めの女中さんにまで客人を接待する茶の湯を手ほどきしているのだから、ものすごい。

 令和では絶滅危惧種になってしまったようだが昭和の時代に生息していたあの有名なお茶くみOLさんとは次元の違うお茶出しだ。
 なにせ織田家とかだと、茶会を開く身分になるには十分な功績がないといけないという決まりがあったくらいなのだから。でも、身分が高いむさくるしい男に入れられた茶よりも美人さんに入れてもらったお茶の方が絶対に美味しいと感じるのが男の性だろうと俺は思う。

 現に今目の前で入れてもらったお茶はとても美味しいしね。
 茶請けに漬物を出してもらったので、こちらもいただこうかと思っていたら、能登屋さんがすごい勢いで部屋に入ってきた。

「聞いたで、紀伊乃屋さん。
 なにやら儲け話でもあるんかいな。」

「なんですか、能登屋さん。
 落ち着いてくださいな。
 空さんがまた新たな儲け話を持ってこられたようですから、一緒に説明を聞きましょうや。
 わてが抜け駆けしたと、後から要らん中傷を受けますから、空さんを連れてきましたんやから。
 空さん、先ほどの話をもう少し詳しくお聞かせくださいな。」

 ふたりの圧力をひしひしと感じながら俺は熱田便の開設について説明を始めた。
 そんなに難しい話じゃなく、既にここと賢島との間ではやり取りがあるので、こちらも正式に定期航路として整備していくことも相談を始めた。
 金銭などの条件については、俺じゃ話にならないので後ほど張さんと詰めてもらうことにして、とりあえず熱田便についての説明だけに絞った。

 二人はすぐに俺の話すビジネスモデルを理解してくれた。
 なにせ、ついでではあったのだが、俺らが持ち込む干物を運び船の帰りの便にお二方の荷を載せて賢島や三蔵村まで運んでいたのだから、それをきちんとした商売とするだけの話だ。

「すると何ですか、空さん。
 熱田までの便にはわしらの荷も運んでくれはるいうんですか。
 人はどうですか。
 荷だけですか。」

「荷も人も運びますよ。
 それも今までといっしょでしょ。」

「違いますよ、空さん。
 今までは港で商いをする分だけを運んでもらいましたから。
 もし空さんの言う通りならば、熱田から清須や井ノ口に簡単に荷を運べますし、もしかすると今川館やら小田原やらとか甲府にまで足を伸ばせるから、商売の幅が一挙に広がりますしね。
 計り知れない儲けにつながりますよ。
 当然わしらもその事業に噛ませてもらえますのやろ。」

「ですから、今回持ってきた三蔵の商いは人と物を運ぶだけですよ。
 そこからの商売についてはそちらさんの範疇ですから、私たちは関わりませんよ。
 でも、今回織田様とつながりも出来ましたし、それに今日は一緒に丹羽様をお連れしましたので、熱田や清須での商売については直接お尋ねください。
 あ、忘れてましたけど、今回丹羽様と一緒に熱田の豪商である清須屋さんもおりますから、後ほどご紹介させていただきます。
 それで、いいですかね。
 詳しいことはあまちゃんの俺が直接交渉することは禁止されているのですよ。
 後の件は一緒に来ていますから張さんと相談してください。」

「あの、張さん、来ているのですか。
 これはまた、きつい商いになりそうですな。」

「今回は協力して張さんと交渉に当たりましょう。
 能登屋さん。」

「もちろんですよ。
 こちらこそよろしく紀伊乃屋さん。」

 こと商売の話になると張さんはラスボス扱いになっているような。
 ま~あの信長さんともやり合うくらいの人だからね。
 本当に俺はいい人と最初に巡りあったもんだよな。
 でないと多分去年あたりに野垂れ死にしていた気がする。
 とりあえず張さんたちに感謝と張さんたちが今いる紀伊乃屋さんの店の方に向かって両手を合わせ拝んでみた。

「あまりお客人を待たすのもあれなんで、能登屋さん。
 これからお時間は取れるかね。」

「構わんが、なんだ。」

「空さんが連れてきたお客人のおもてなしをしないといけないんで、店で準備させているんだが、能登屋さんも来るかね。」

「もちろん参加させてもらうよ。」

「それは私も助かります。
 明日にも能登屋さんの店に行こうとしておりましたが、ご一緒に丹羽様たちをご紹介できるのなら正直助かります。
 店の方には明日お連れしますが、紹介だけでも今日させてください。」

「そうだな、丹羽様に商売のことについても一緒に相談させてもらったほうが先方も助かるだろう。
 空さん、ぜひそうしてください。」

 ということで話がまとまり、来た道を今度は能登屋さんまでお連れして戻っていった。
 丹羽様たちはすでに紀伊乃屋さんの離れに通されており、宴会の準備もほとんど整っているようだ。
 酒が入る前に紹介だけでも済ませないとまずいので、俺は早速丹羽様に紀伊乃屋さんと能登屋さんを紹介して、おふたりがこれから織田様と商いをしていきたい旨を伝えた。

 お二人は丹羽様に色々と話し始めたようであるので、俺はここを離れ、端にいた清須屋さんを連れてもう一度丹羽様のところまで行き、清須屋さんの紹介まで済ませ、やっと俺の仕事を終えた。

 あとは如何にしてこの接待から逃げるかという難問をクリアするかということだ。
 なにせ最近は接待が続くのだが、接待をされる側なはずなのになぜか接待が苦痛となっている。
 大体、どいつもこいつも中学校に上がるか上がらないかの人を捕まえて女性と酒での接待ってなんだよ。
 エロゲーやエロラノベじゃあるまいし。
 必ずだよ、例外はない。
 翌日にあの苦痛とも言える冷たい空気が、ひどい時には4~5日も続くんだよ。

 葵や幸は子供だから感情をコントロールできないのはわかるが張さんまでもがあの冷たい目をして俺のことを見るのだから、俺の豆腐のような神経がガリガリと削られてくるのがわかるんだよね。
 豆腐だから冷奴を食べるようにサクサクと削られるといった表現の方が合うのかな。
 それに清須屋さんの件でまだ彼女たちの機嫌が完全には治っていないのだから、正直今日だけは避けたい。

 その時歴史は動いた……それじゃないが、俺は閃いた。
 俺は丹羽様の前から軽く挨拶をして退き、すぐに張さんの後ろに隠れるようにとなりの席を確保した。
 その後宴会が始まり、予想通り酒と堺の美人さんたちが入ってきたが、今回は俺が張さんの傍から離れなかったので、綺麗どころは俺のところまで来なかった。

 紀伊乃屋さんや能登屋さんは俺をもてなそうとしきりに丹羽様のそばまで来るように合図を送るが俺は見なかったことにして無視を続けた。
 あのふたりは張さんまでは呼びたくはなかったようだ。
 丹羽様もなぜか張さんを意識している。

 さすがに米五郎左と信長に呼ばれるくらいの能臣だけあって苦手の様子は見せていないが、どことなく苦手のようだ。
 ま~あの信長とのやり取りを直接見ていればわかるような気もするが、本当はとても優しい美人さんなんだけれども、一度でも張さんと商談をしたことのある人は、皆同じ反応を示す。
 それだけ商いに関してはスキのないチートな人なのだろう。

 今回は接待攻撃から無事生還を果たした。
 それに、最大成果というかビッグボーナスといっても良い成果もあった。
 俺が片時も張さんの傍から離れずに俺が張さんを接待していたような感じで時間を過ごしていたら、張さんの機嫌がすこぶる良くなったのだ。

 次からはこれだなと思ったのだが、これに葵や幸が加わるとどうなるのだろう。
 難しいことは考えない。
 とにかく、今回の堺訪問では無事に三蔵の主力となる海運の事業が始められた。
 ここ1~2年は戦も考えていないし、巻き込まれる危険性は織田や長島くらいだからそちらだけを注意していれば危険は回避できるだろう。

 しばらくは商売に集中できそうなので、目標は那覇までの定期航路まで開設できれば巨万の富も夢じゃなくなる。
 そういえば、まだ来ないだろうがあのポルトガル船長の件もあるのだし、うまくすればフィリピンのマニラまでも航路が開設できるかもしれない。
 こちらは宝くじの感覚だから、気長に待つしかないが。

 どちらにしても、俺のやることは人の確保と、大型船の開発だな。
 三蔵村には研究都市化の計画も始めたことだし、夢が広がる。

 頑張ろう。

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