名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第五章 群雄

第百二十七話 怒られた

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 翌日、昨夜の宴会の成果は今日も充分に出ており、張さんの機嫌がすこぶるいい。
 これでやっとあの地獄から解放された気分だ。

 昨夜は皆紀伊乃屋さんのご好意で泊めてもらい、朝になって活動開始だ。
 俺は丹羽様一行を連れて能登屋さんの店まで案内してきた。
 店先では番頭さんをはじめ店主まで出迎えて歓迎してくれる。

 一通り皆を紹介して今回の俺のミッションは終わりだ。
 あまりここで時間を取ると帰りが遅くなるので、適当なところで帰ることにした。
 帰りの船には丹羽様とその護衛の方しか乗らないそうだ。
 残りはここに残って早速商談を始めるとか言っていた。

 帰りの船には能登屋さんのところの賢島店の番頭さんも乗船している。
 途中賢島に寄って番頭さんとその積荷を降ろしてから熱田に向かうことになている。
 定期航路とは言っているが、運行表通りというのではなく臨機応変に対応していくことになる。

 もっとも、経由地だけは、雑賀崎、賢島、大湊、安濃津、三蔵村、桑名の固定だ。
 そのうちどれに寄るかはその時の積荷や人の関係で変わることになるだろう。
 現に今回は賢島に寄ることになった。

 どうせ織田の家中には俺の素性など既にバレているのだろうが、そこは一応節度を持ってということで、俺は目立たないようにしている。九鬼様の方でも織田との外交で考えていることもあるだろうから邪魔しない意味で気をつけるようにしないとな。
 夕方になってしまったのだが、無事に熱田まで丹羽様をお連れすることができた。

「世話になったな、空殿」

「いえ、私どもの商いをお許しくださったお礼ですので、気にしないでください」

「まあ、今後も色々とあるだろうから、その節はよろしく頼む」

「こちらこそ、今後もよろしくお願い申し上げます」

 丹羽様と分かれて俺らを乗せた船は三蔵村に戻っていった。
 かろうじて日没前までに港に入ることができた。
 港に着くと、今回の成果を玄奘様にでも報告に行こうと寺に向かった。
 寺に着くと、そこには今回の件であろうか九鬼様と竹中様の兄弟が待っていた。

「え?なんで九鬼様がいるのですか」

 すると半兵衛さまが九鬼さまに代わり答えてきた。

「何でじゃありませんよ。
 殿、何かするときには私たちにも連絡ください。
 何ですか、勝手に信長に会いに行ったというじゃないですか。
 その説明を聞きに参りました」

「あ、あれね。
 別に信長様に会いに行ったわけじゃないよ。
 三蔵の衆の新たな商売として、同時に織田勢に大きな貸しを作るために熱田まで丹羽様を訪ねて行っただけだよ。
 そしたら、信長様も出てきて、正直俺も驚いてた」

「で、どうなんですか、今回の首尾は」

 その後俺から今までのことを包み隠さずに報告した。
 途中何度も半兵衛様から鋭い質問を受けたが、言い訳をしながらどうにか答えていった。
 説明を追え、半兵衛様が納得したようなので、俺の方から今後の外交政策について質問をした。

 大名家の九鬼家は政策のほとんどが半兵衛様か藤林様のどちらかが、もしくはその両者の合議の上で草案を出し、九鬼様が意思決定をするという形ができている。
 その草案作りの過程と意思決定する前に何故だか俺の判断する余地が残っているのが非常に気になるのだが、今までの流れがあるのである意味しょうがないと半ば諦めの気持ちが入る。

 今回もそのパターンに近い。
 武井様が九鬼様を訪ねてきたところから織田勢との本格的な外交が始まっていると皆考えている。
 そこで、現状では織田勢とは争うつもりはないが攻めて来るようなら十分に対応できるというメッセージを誰でもわかるような形で示してきた。
 賢島を武井様に見せたのも、軍船で熱田まで送ったのもその表れだ。

 俺が先程までとってきた態度もその流れに沿っている………はずだと思う。
 俺ら側(三蔵の衆と九鬼家)から織田に対して大きな貸しとなることをしてきた。
 と同時に俺らはそのために大きな利益も得ることも信長は理解しているだろう。
 そこまで分かっていても俺らからの支援を受けたということだった。

 なればこちらとしては今後どうするかということだが、半兵衛様も藤林様も同様に、織田とは決してことを構えないということでは意見が一致している。
 不可侵条約までは簡単に結べるが、その後については意見が割れている。
 積極的に同盟関係を構築して、できるだけ速やかに周辺の安寧を求めるか、それともかねてから模索していた紀伊半島の安寧を今のまま進めるかということで意見が割れている。
 二人共俺にどうするかと判断を求めてくるが、正直わからない。

 しばらくは様子見だろうが、どうなるかだな。
 今回の件で俺らの持つ力は格段に大きくなるだろう。
 九鬼家や松永家だけでなく織田の物流のかなりの部分を俺らが握ることになる。
 信長はこの状況をどう考えるかということ次第で、今後の展開は変わってくる。
 物流を他の勢力に握られていることで気持ち悪いと感じるか、合理的だと考え積極的に利用していくかだ。
 確かに効率的ではあるだろうが、同時に気持ちのいいものじゃない。
 俺らもそうだが信長がどこまで俺らのことを信じられるかによるだろ。

 俺からそんな話をしたら、織田勢に対して今後の方針としては、不信を抱かれないようにある程度の距離感を持って接していくことでまとまった。
 信長からの同盟等の提案に対しては前向きに考慮していくが、こちら側からは同盟に関する話はしていかない。
 あくまでも敵対していない隣国として節度を持って接する。

 まあ、信長から次のアクションが来るのは稲葉山城を落としてからだというのが俺らの共通する見解だ。
 イレギュラーがあるとすれば長島の願証寺からだろうと言うのも認識を同じにしている。

 どちらが早いかは正直わからない。
 史実だと、稲葉山城の方が早かったし、現状は史実よりもやや早めに推移しているようにも感じてはいるが、同時に長島の方も相当にきな臭くなっている。
 不謹慎な話になるかもしれないが長島の方は上人様がどこまで頑張れるかだという一点に絞られている。

 長島の方は暴発する前に上人様が避難民を連れてこちらに逃げてくるだろうから、それからでも対応ができるようにはしておく。
 そんな話で今回の打ち合わせは終わった。

 夕食は久しぶりに九鬼様を交えてみんなで食べた。
 夕食の時に葵と幸に会った
 ちょっと、俺は今回はやましいことはしていないのだ。
 それに、それはまずくないか。
 おねだりしている相手は、今やこの日の本有数の大大名だぞ。

 そう思っていると、二人のオネダリはどんどん増していき、しまいには、あることないことを言いつけていた。
 それはひどくね~~、と反論していたが、藤林様に止められた。

「二人共寂しかったんですよ。
 ここは男の甲斐性を見せないとね」
 などと言われた。

 それを周りで聞いていた人たちは一斉に笑い出していた。
 張さんや珊さんは俺と一緒に四六時中見ていたでしょ。
 俺はかなり理不尽さを感じていたが、本当に俺以外は和やかな夕食だった。

 翌日は流石に忙しい身分の九鬼様たちは船で大湊まで戻っていった。
 俺は浜に行き、2本マストの船作りの件での研究を続けた。
 それと、今回の件で、小型艇の必要性が出てきたので、以前持っていたような小型艇の建造の準備も始めた。

 しばらく見ないうちに村の子供たちもたくましく大きくなってきており、少なくない人数がこの造船所でも働き始めていた。
 人足の数は足りている。
 今の2本マストの船の研究を続けながら小型艇の建造は十分に可能だ。

 しかし、以前作った船でも問題はないのだが、それだと俺が面白くない。
 子供たちを中心に練習がてら以前作った1号艦を今までの経験をいれ改良しながら作ってもらうこととして、俺はさらに小型の船をFRPならぬ俺が研究してきたセルロースナノファイバーを使って作ってみることにした。

 早速方針が決まると、俺は以前無理を言って作ってもらった水車小屋まで行き、用意してある回転式石臼に和紙の原料をいれ、肝心のセルロースナノファイバーを作ることから始めた。
 もうこうなると楽しくてしょうがない。
 俺は浜と水車小屋の間だけを行ったり来たりして、時間を過ごしていたら、5日目には葵と幸に怒られた。

「研究以外の仕事もしろ。」とな。

 俺はまだ子供だ。
 遊びたいさかりなのだと言いたかったのだが、怒ってきた葵たちも十分に子供なのに今ではそこらの大人以上に働いている。
 これ以上彼女たちの機嫌が悪くなるのだけは避けたいので、素直に彼女たちの言い分に従った。

 一杯仕事が溜まっていた。
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