名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第五章 群雄

第百三十六話 工夫大好き技術屋集団

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 緊急の仕事は無い。
 明日のでも賢島に行くとしよう。

「空さん、明日お出かけですか。」

 張さんが俺に聞いてきた。

「はい、やっと実験ができるようになったのですが、一人では難しく、賢島の工夫大好き人間たちにでも手伝ってもらおうかと思って、行こうと思っております。」

「そうですか、それでは私もご一緒しようかな。
 ちょうどあっちに用があったものですから。」

「例の大店出店の件ですか。」

「いえ、伊勢屋の出店の方です。」

「それじゃ~、幸を連れて行ってもらえますか。
 そろそろあいつにも仕事をきちんと覚えて貰いたいと思っていますから。」

「あら、そうなんですか。
 私は葵を連れて行こうかと思っていたのですが、それじゃ二人を連れていくとしましょうか。」

「え、葵ですか。
 あいつ大丈夫ですか。
 熱田との繋ぎを任せていたはずなのですが。」

「大丈夫ですよ。
 その件もあり、こういった案件を経験させて交渉ごとに強くなってもらおうと思っています。」

「そうなんですか、それでは、二人をお任せしますので、きちんと仕上げの教育をお願いします。」

「はい、判りました。
 任せてください。
 それでは、私は二人に明日の件を伝えてきますね。」

 そう言うと張さんはこの場から去っていった。
 俺は、明日に向けて今までで出来上がった液状のセルロースナノファイバーを樽に詰め、賢島に運ぶ準備を始めた。

 すぐに暗礁に乗り上げる。
 この樽詰めの作業なのだが、とにかくきつい。
 子供の身長と体力しか無いのが、ある程度の重さのある液体を樽詰めって何、拷問かよと言いたくなってきたが、割とこの時代では当たり前に子供の仕事だったりするんだよな。
 俺の護衛兼連絡役で常に傍にいる百地君が見るに見かねて協力を申し出てくれた。

 さすがにこの場所での護衛もないので問題無いが、本来護衛がほかの作業に集中することは許される事じゃない。
 俺も許してはいけない案件なのだが、情けないメンタルがあっさりお願いしていた。

「百地君、悪い代わってくれるか。」

「はい、これで、樽にこの訳の分からない物を入れればいいのですね。」

 子供でも二人もいれば作業も終わる。
 本来この時代の俺くらいの子供仕事だ。
 俺が情けないだけだったのだ。
 樽詰めしたセルロースを最近色々と活躍している大八車に乗せ、港まで百地君と一緒に運んだ。

 港で作業をしていた村の大人たちが俺らを見つけると、「空さん、こんな重いのを運んできたのか、言って下さればワシらが運んだものに。」

 そうなんだ、そうなら早くいってよ、重かったんだから。
 港で、明日賢島に向かう船に乗せるように頼んでこの場を離れた。
 翌朝、張さん達と一緒に港まで行くと、既に昨日頼んだ樽は船に乗せられ、俺らを待つだけ迄出港の準備は整っていた。
 港にいる人たちに遅くなったことを詫びながら俺らは船に乗った。

 朝も割と早い時間での出港なので、昼前には賢島に着いた。
 普通なら途中大湊辺りに寄るのだが、この日はそういった要件は無く直接賢島に向かえたので、案外早く着くことができた。

 それにしても最近、いや、この船を準備してからか、堺だか大湊だかにやたらにいくようになった気がする。
 令和の時代でもこれほど頻繁に移動する人間はそう多くは無いだろうが、永禄の時代では忍者位しかここまで移動しないだろう。
 本当に早めに船による移動手段の確立ができたことの幸運に感謝しよう。
 俺らの最大の強みとなっている。

 多くの荷を一度に運べることもあるが、この船による移動はいち早く安全に情報を伝達できることだ。
 これは電話など無い時代にとってかなりのアドバンテージになっている。
 その上、ここ紀伊半島の地勢上陸上交通の不便さがあるのだが、海上交通にとっては天然の良港に適した地も多く、俺らにとっては助かっている。

 俺の知る歴史ではこの交通の不便さと急峻の地形のためなかなかまとまらなかった土地なのだが、今では俺らの移動が頻繁であった為に俺らにまとまろうとする機運も高まってきている。

 熊野水軍が合流すれば殆ど紀伊半島半分を領することもできそうだ。
 あとは古くからある宗教勢力の俗世間への影響力をいかに落とすか。
 元々農地に適した土地が少なく、大して広くない場所を押さえているだけなので、これ以上外に出てこなければ無視していても問題はない。

 要は、これから我々が開発していく沿海部に金の臭いに連れられてしゃしゃり出てこなければいいだけだ。
 そのあたりについては半兵衛さん達が考えていることだろう。

 おれは、趣味の実験をしていけばいい。
 成功すれば、甲冑において革命となる。
 火縄銃の通用しない甲冑なんてこの時代の他の大名からすると悪夢以外にないだろう。
 いや、その火縄銃ですら、その地位を確立していなかった。
 でも、軽くて槍や矢、それに銃すら通用しない甲冑なんてそれこそ革命だろう。

 俺らは、賢島にある俺の屋敷で昼食をとった後、張さん達と分かれて工夫大好き人間の集団のところに向かった。

「こんにちわ。」

 俺が彼らに声を掛けると彼らの頭が作業の手を止めこちらを向いた。

「殿、お久しぶりです。」

「本当に久しぶりになってしまい、申し訳ありません。
 その後どうですか。」

「恥ずかしい話なんですが、あまりこれと言って良い成果は出ておりません。
 今では、例の弾を細々と作っているようなものです。
 あれ以上の命中精度は上がりませんし、これと言って良い考えも浮かびませんからね。」

「それなら、ここで新しいことしませんか。」

「え、何か別の案件でもあるのですか。」

「え~、ちょっとこれを見て貰えますか。」 と言って、この間実弾試験を行ったタイル状のセルロースナノファイバーを見せた。

「なんですか、この歪んだ板は。」

「これは、詳しく説明するのはちょっと難しいのですが、紙を非常に硬くしたものなんです。
 これで甲冑を作れば、今作っている鉄砲の弾ですら跳ね返せる甲冑を作ることができそうなので、協力をお願いしに来ました。」

「え、紙ですか。
 そういえば、我らの甲冑は紙でできていると聞いたことがありますが、あれですか。」

「いや、確かに今ある奴は紙で作っていますが、弓矢程度なら辛うじて防げるような代物なんです。
 尤も他で作っている甲冑も同様だと聞いていますが。
 これは、それよりもはるかに丈夫な代物なんです。
 お願いできますか。」

「我ら鍛冶職人なのだが…」

 などとぐずり始めた。
 俺は、一生懸命にセルロースナノファイバーについて説明して、また彼ら自身を発明家集団として考えていることを言葉を色々使い説明しながら説得していった。
 結局、彼らに対して工夫大好き技術者集団と説明したところでやっと納得して貰えた。
 いっそのこと「工夫方」との名称できちんと九鬼様に召し抱えて貰うことにしよう。
 いつの時代でもそうなのだが、常識と言う名の凝り固まった考えを正し柔軟性を持たせることは難しく手間に掛かることだとしみじみ思った。

 手間と時間を使っても一度身に付いた考えを変えることができないこともあるのだが、幸いなことに彼ら全員の賛同を得ることができ、早速工夫について検討を始めた。
 それにしても今回は色々と考えさせられる。
 今回は説得できたが、固まった考えはなかなか変わらない。

 それなら、固まる前に柔軟性と知識を持たせてしまえばいいだけで、今、三蔵村に作っている学校などはそのためにある。
 しかし、造船でもそうだが、三蔵村とここ賢島の二つの拠点が図らずもできてしまった。
 賢島は情報漏洩の危険性と言った面では非常に優れた場所だ。
 他からの侵入が難しい場所にある。
 そういう意味では彼らが活躍するに申し分ない環境ともいえるが、二つの拠点でそれぞれ人材を育てるとなると効率的によろしくない。

 いっそのこと彼らも三蔵村に連れていくかも考えたが、彼らの研究の事を考えると、動かしたくはない。
 すぐにどうこうすることじゃないので、現状のまましばらく放置だが、いずれ手を入れないといけない問題であることには変わらない。

 悩ましい物だ。
 そんなことを考えながら空は彼らを連れて港まで例の樽を取りに向かった。
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