名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第五章 群雄

第百三十八話 信長からの伝言

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 俺たちが許可を出す前に、滝川様の訪問を告げた兵士の後から足音がこの部屋に近づいてくる。
 オイオイ、誰がここまでの侵入を許したんだよ。
 さすがに大名の本拠地だからセキュリティーは最低限確保されているはずでしょ。

「え?
 張さん。
 なんで?」

 足音の主は三蔵村に居るはずの張さんだった。
 その張さんに連れられるような形で滝川様が付いてきていたのだ。

「空さん。
 こちらの滝川様が至急の御用だということなのでお連れしました。
 行き違いになるといけないと思い、こちらに案内してからお呼びしようかと思っておりましたが、やはりこちらに来ていたのですね」

 そうだよな。
 織田家からの使者が来たのなら、途中で忍び衆に見つかるし、そうなれば連絡の一つもはいろうかと言うものだな。
 ましてや滝川様はほとんど俺担当だし、そうなると呼び出しは必至だ。

「た、滝川様。
 お久しぶりです」

「これは、失礼したようだ。
 こちらのご婦人に連れられてここまで来たのだが、ちょっとまずかったようだな」

「いえ、大丈夫ですよ。
 我々も近々織田様に連絡を取ろうかと話していたところですので。
 稲葉山の件ですよね、滝川様の至急の御用って」

「さすがにもう知っておりましたか。
 が、その前にいくら非公式とは言え、ご紹介願えますかな」

 そういえばそうだよな、これは余りにも非常識だよな。
 大名にいきなりの面会だし、それも、奥の間に乗り込んでのことだから。
 忍者ならば、これは暗殺か誘拐くらいしかこのような場面はありえないことだし、とにかく落ち着いて話のできる環境を整えますか。

 それにしても今回の件は張さんの勇み足だったよな。
 滝川様は、俺や張さんにとっては割と頻繁に会っている親しい関係になるのだが、大名である九鬼様や半兵衛さんとは面識がないことになっている。

 これは俺にも責任があるのだが、村では効率のために打ち合わせ中でも来客は通してもらっている。
 アポ無しでも、その判断は周りに任せているために、今回も張さんが気をきかせたようだ。
 至急案件だと言うことで、いきなりの訪問となった。

 しかし、今回は流石にまずかった。
 一歩間違えば大事になるところだったが、俺の存在が非常識なので、ここでの集まりは公的には無かったことになっているから、とりあえず驚いた以外に実害は出ないだろう。
 このあたりの件については一度きちんとしておくとして、今回はとりあえず座らせて、紹介しておくことにした。

 藤林様については、既に面識もあるので紹介を省いたが、それ以外についてはきちんとこの時代の習慣にできるだけ則って紹介していった。
 ま~大名の九鬼様は、元々はこの辺の海賊の出なので、礼にはうるさくなくて良かった。
 半兵衛様だけが難しい顔をしていたが、そこは俺の顔を立てて我慢してもらった。

「で、滝川様の訪問って、稲葉山城の落城に関係しているのですか」

「流石に優秀な忍びを抱えているだけはありますな、空殿は」

「ちょっと、滝川様。
 何か悪いモノでも食べましたか。
 何ですか、その気持ちわるい言い方は。
 いつものように頼みますよ」

「え、しかし、空殿…いや空…あなたの立ち位置がつかめなく、伊勢屋の店主と言う位置づけで話していたが、この集まりを見ると、我が殿の言うとおりかなりの高位にあるようだし、流石にいつものようにとは」

「そう言うことなら、俺は張さんと後ろで話を聞いているから、面識のある藤林様にでも話を進めてね。
 それでいいよね」

「え、藤林殿」

 話を振られた藤林さんも困りながら、滝川様と話がしやすいように体の向きを変えた。

「イヤイヤ、うちの殿も大概なのですが、御宅おたくもどうして」

「いや、なんといって良いか、言葉も出ませんが、空殿がそう言うことなら、私が話をお聞きしましょう。
 して、滝川殿。
 私も忍びの出なので、まわりくどい挨拶は無しで、要件をお聞きしたい」

「助かりました。
 しかれば、我が殿よりの言伝ことづてをお伝えします。
 既にご存知のように、我らは昨日稲葉山城を攻め落しました。
 まだ美濃全土を抑えたわけではございませんが、しばらくは美濃方面での戦はこれでなくなります。
 そこで、今後についてそちらとの話し合いをしたく、御使者の往来をさせたく思います。
 よしなに図られたし」

「それは、こちらとしても異存はございません。
 ちょうどその件で、伊勢屋にお祝いを持たせ、弾正忠殿に接触を図ろうと相談していたところです。
 しかし、わからないですな。
 そういうことならなぜ、御使者が武井殿ではなく滝川殿が来られたのですか」

「それは、なんといって良いか。
 正直のお答えしますと、我が殿は回りくどいことを嫌う性格で、すぐにでも話し合いたいのに使者を通してだと、話し合いが始まるまでに数回の往来が必定。
 それを嫌って、私に下命がありました。
 伊勢屋を通せばすぐにでも九鬼家の首脳と話ができるはずだから、あの空に話を通せとおっしゃっておりましたので、担当の私が参った次第です。
 両国間で何かしらの取り決めがなされるようなら、その時にはきちんと礼に則り使者を遣わします。
 決してあなた方を見下しているわけではございません。
 私も、このような席に案内されるなどと思いもしませんでしたから、この件だけはお詫び申します」

 これは滝川様に悪いことをしたかな。
 俺が話を聞いて、藤林様か半兵衛さんあたりを連れて挨拶に伺えば済んだ話だ。
 ややこしくなる前に話を済ませることにしたい。

「話はわかりました。
 こちらとしても織田様のご要望を無下にはできませんので、すぐにでも対応しましょう。
 滝川殿におかれましては今しばらく別室にてご休憩されたし。
 案内させます」 と言って、側用人としている武士の一人に滝川様を応接用の部屋に案内させた。

 すると、今まで一緒にいた張さんも思うところがあったようで、「私が饗応します」と言って出ていった。

「聞いての通りですが、どうしますか」

「どうするも何もないよ。
 先ほどの話通りに俺が挨拶に向かうよ。
 でも、政治向きの話がしたいようだから、半兵衛さんも付いて来てくれるかな。
 出来れば藤林様にも同行願いたいけど、でも、そうなるとこっちは大丈夫?」

「殿、こちらの心配は無用にて。
 こちらとしても備えだけはしておきますが、戦は避けたいですから」

「しかし、何を持たせましょうか。
 まさか手ぶらというわけには行きますまい」

「賢島で探すよ。
 伊勢屋からのお祝いとして伺う形にしておくから、大層なものは出せなくとも向こうは納得するしかないよね。
 そうなると焼き物の類と酒くらいか。
 しかし、弾正忠殿は酒をあまり飲まないと聞いているしな」

「それならば問題ないかと。
 戦祝いの席には酒は必需品。
 いくら弾正忠殿が飲まなくとも織田家では必要ですし、商人からの祝いの品など、その類のものですしね。
 こういっては失礼ですが、伊勢屋はそれほど大店というわけでもありませんから大丈夫かと思います」

「すぐに賢島に伝令を出して用意させてくれるかな。
 同行者は藤林様と半兵衛さんのお二人でいいよね」

「はい、問題ありません」

「すぐにでも出れる?」

「問題はありませんが、どうしてですか」

「向こうもかなりの早さを持っての対応だったし、やられっぱなしってのも気に入らないから、いっそのこと滝川様に案内させようかと思っているよ」

「「え?」」

「だから、滝川様を熱田に船で送る時に、我々も一緒に行こうかと思っているんだよ。
 賢島で用意させるものが着きしだい出発しよう。
 少なくとも酒なら、またあの商人から紹興酒を少しもらっているしね。
 それだけでもいいかな、それと干物を壱籠も持っていければ俺の身上なら上出来かな」

「すぐに船を出します」

「あ、その船に俺も乗るよ。
 ちょっと見て回りたいしね。
 なので、もどるまでここで滝川様の足止めをお願いね」

 俺は、乗ってきた船に乗って賢島に戻っていった。
 港では大店が2件に外国商人が1件店を出している。
 ここでの直販を狙ってではないがそれでもそこそこの品数と量はあった。

 酒は既に持っている紹興酒に能登屋で扱っていた灘の酒を買い入れ、紀伊乃屋で焼き物を数点買い取ってこれで済ませようかと思っていたら紀伊乃屋さんからビロードの生地を頂いた。
 ぜひ今度織田様を紹介して欲しいというお言葉と一緒に。

 本当に逞しい人たちだ。

 とんぼ返りのように大湊に戻っていったが、流石に今日船を出して熱田に行くには遅すぎる時間になっていた。
 饗応中の滝川様と合流して、明日熱田まで船で送るということで、今日はここに泊まってもらった。

 翌日、船上で藤林様と半兵衛さんを同行して挨拶に行くので案内して欲しいと滝川様に言ったら、今度は滝川様が非常に驚いていた。
 ここまで早い対応は予想していなかったようだ。
 ま~昼前には熱田に着くので、どこに行くかはわからないが滝川様の案内に任せて移動していった。
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