名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第五章 群雄

第百三十九話 個人的な憧れの秀長さん

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 翌日になって、俺たちは滝川様を熱田まで送るために船に乗った。
 その船には昨日の打ち合わせ通りに半兵衛さんと藤林様の家老二人も乗り合わせている。

 藤林様は船の中では滝川様と近隣の様子などの意見交換を行っている。
 二人共プロの諜報官だけあり自国に不利なく自分たちが必要としている情報を少しでも多く得ようと世間話を始めている。

 横で聞いていた俺はこの二人のやり取りが、時にはかなり際どい話題に差し掛かっていてもそれまでとは一向に変わらない様子で世間話をしているのに対して空恐ろしくなってきたこともあった。

 そんなこんなでほとんど時間をかけずに熱田に着いた一行は、そのまま熱田の伊勢屋で一休みを取り、その間に空は善吉さんを伴って、お隣?の清須屋さんまで挨拶に伺った。

「こんにちわ」

 空たちを直ぐに見つけた清須屋の手代は挨拶もそこそこに清須屋の店主を呼び出した。

「おや、これは珍しい。
 空様、こんにちは。
 して今日は如何様に」

「清須屋様も既にご存知かとは思っておりますが、弾正忠さまにお祝いをお持ちしたので、ご挨拶に伺おうかと思っております。
 なので、もし清須屋さまも行くならご一緒できればと挨拶に伺いました」

「これはこれは、それにしてもお早いお耳をお持ちのようですね。
 私どもでも今朝聞いたばかりの情報なのですよ。
 すぐには行けませんので、お誘いいただいたのに恐縮ですが、今回は遠慮させていただきます。
 それに、織田様の御用を仰せつかっております手前どもには正式なお知らせを頂いてからでないとなかなか動けないこともあるのです。
 手前どものご挨拶は年始の挨拶と一緒になるかもしれませんね。
 その時にはご一緒させてください」

「そういうものなんですか。
 これは勉強になります。
 ぽっと出の成り上がりの私どもにはわからないことです。
 ま~、成りあがりを隠しても意味もないので、私どもだけで伺うことにします。
 これからも手前どもをよろしくお願いします」

 俺は善吉さんと一緒に頭を下げて清須屋を後にした。

「空さん。
 ご一緒できなくて残念でしたね。
 でも、ある程度予測はしていたのでは」

「ま~~ね。
 一緒に来れそうにないだろうとは思っていたけど、その情報が入ったのが今朝だというのには驚いた。
 ひょっとしたら、滝川様が織田様のところを発ったのは城が落ちる前だったのかもしれないな。
 ほとんど落城が確実になった時点で俺たちに繋ぎを求めさせたのだろう。
 いつものようだが、相変わらずかなりせっかちな性格だな。
 それとも、ほかに急ぐ理由でもあるのかな。
 これが織田様以外ならば、他に理由があることだとほぼ確定なのだが、なにせあの織田様だ、全く読めない。
 ま~、今回はお祝いの挨拶だ。
 それほど不味いことにはなるまい」

「そうですね。
 俺には難しいことはわかりませんが、商売に関しては何ら問題はないとは思います」

「やけに奥歯に物の挟まったような言い方だな。
 何か思うところでもあるのかな」

「いや、なにせ、今回は滝川様がご一緒ですし、藤林様に関しては割と空様と一緒に行動しておりましたが、今回は九鬼の殿様のところのご家老である竹中様までご一緒している所を見ると、御政道の方で何かあるかもとは思いました」

「ほ~、善吉さんもここでの商いにかなり慣れたようですね。
 清須屋さんと比べても遜色ないかも」

「イヤイヤ、清須屋様にはいつまでたっても敵いませんよ。
 ただ、ここ熱田では色々と御政道関係の商いも多く、だいぶ慣れたことは否めませんが」

「善吉さんは、今の生活に苦痛はありませんか。
 私たちと一緒になったばかりに慣れない商いの道に進ませたようで、申し訳ないような」

「何を言っておられるのですか。
 不満も苦痛もありません。
 確かに毎日が勉強のようなものですが、楽しくもあります。
 また内のも言っておりましたが、本当に三蔵村に行けたことが自分らの最大の幸運だと。
 それに私でも商いができるようになるまで、きちんと張さんに教わってたこともありますし、感謝こそすれ不満などありません。
 これからも私で良かったら何でもしますので遠慮なくおっしゃってください。
 空さんのためならどんなことでも頑張らせてもらいます。
 幸代も同じことを、それこそ毎日のように言っておりますので、本当に遠慮なく言ってくださいね」

「そんな時があれば、遠慮なくお願いするよ。
 ………あ、早速だけれど、これから織田様にお祝いを持って行くけど一緒に来てね。
 熱田の主人は善吉さんなのだから、一緒の方が格好が付く」

「わかりました。
 幸代の方はどうしますか」

「一緒のほうがいいかな。
 その方が他国の忍びの目もごまかせそうだしね」

 屋敷に戻った空たちは早速滝川様の案内で井ノ口を目指した。
 井ノ口は稲葉山城の城下町であり、信長が稲葉山城の攻略する際に陣を置いている場所だ。
 信長は井ノ口郊外にある大きめの寺に陣を置いて、そこから指示を出していると滝川様から聞いた。
 尾張領内は信長の尽力もあり、本当に治安がしっかりして、往来に全くの不安がなかった。

 しかし、戦を終えたばかりの美濃ではそうもいかず、落ち武者などが賊に成り下がることも珍しくないとかで、清須を過ぎたあたりから、織田様の配下の護衛がついた。
 足軽が一組が俺たち一行の護衛として付き、その護衛は丹羽様配下の木下組であり、さらにその足軽の組を差配していたのが、あの有名な藤吉郎(後の太閤秀吉)の弟でもある小一郎(後の大和大納言 豊臣秀長)であった。

 俺は個人的趣味で大の秀長ファンであり、一度は会ってみたい人物であったので、やたらとテンションが高かった。

 滝川様は護衛についた足軽の差配を足軽組頭じゃなく、その弟が差配していたことが、俺たちを軽く見た藤吉郎にかなりご立腹のご様子だったのだが、肝心の俺がかなり喜んでいる様子に疑問に思いながらもそのまま小一郎の護衛で信長の所まで向かうことになった。

 この時代のこの辺は、とにかく戦国の有名人で溢れているので、俺は機会があれば会いたい人がたくさんいた。
 その筆頭に大和大納言でもあった豊臣秀長にはぜひ会いたいと思っていたのだから、今回はこれだけでここに来た価値があるとまで思っていたのだ。
 そんなことは知りようもない周りの人達にとっては、たかが足軽組頭のその弟に会ったのがなんでそんなに嬉しかったのかわからないので、しきりに不思議がっていた。

 道中、小一郎殿と話しながら井ノ口に向かった俺は、その小一郎の人柄が伝え聞いていた通りだったことにもとてもうれしかった。
 元々、俺がこの時代に流されたと知った時に一番に仲間にしたかったのが小一郎殿だったが、既に流された永禄7年には藤吉郎の配下となっていたことを知っており、諦めた経緯がある。

 流石に足軽に護衛された一行は襲われることなく美濃領に入り、領内を井ノ口に向かって歩いて行った。
 小牧までは本当によく整備された道を来たのでほとんど問題もなく進むことができたのだが、一旦川を越え美濃に入ると状況は一変した。
 道には雑草やらがそこらじゅうに生え、道もところどころ大きく陥没していたので、進むのに苦労した。

 尾張領内ではそれこそ人力で大八車でも引かせても問題ないくらいだったのに、美濃では大八車など絶対に無理で、馬に載せて運ばせているにも関わらず、それすら苦労する状況だった。

 道三亡き後、このあたりは係争の地であり、道の整備など全くしてこなかったようだ。
 この時代というより近代に入るまで、道は全て砂利道のような感じで、雨でも振れば通れなくなるところがたくさん出るのだ。
 なので、商い等を考えれば道は常にメンテナンスをしていかなければすぐにでも荒れる性質を持っている。

 信長は普請などを通して頻繁に領内の道の整備を行っており、尾張領内は本当に往来が楽なのだ。
 俺自身も道の整備にはかなり前から熱心に行っていたこともあって、最近は楽な道を通ることが多かった。
 なので、荷を運びながらの美濃の道の往来には苦労していた。

 俺は苦労しながら、為政者によってこうも違うのかと思ったのだが、信長の方がこの時代では例外で、一般的には道など通れればいいとくらいにしか考えていない為政者の方が多いのだとか。

 商人である俺には、早く信長がこの辺り一帯を治めてくれればいいと強く思っていた。

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