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第五章 群雄
第百四十二話 結婚観
しおりを挟む今俺は大湊から雑賀埼に向かう船の上にいる。
そして、俺の隣で嬉しそうにしている幸がいる。
なぜこうなったかと言うと、昨日急に訪ねてきた本多様のせいで、俺は信長様の古くからの家臣であり、今の織田政権の実質NO2である丹羽様と一緒に本多様の主人である松永弾正に会いに行くのだ。
とにかくこの時代に限らないかもしれないがチートと呼ばれる人たちは非常にせっかちの様だ。
少なくとも、俺がこの時代で会ったチートたちは皆せっかちで、話が早いのは良いのだが、今日のようにいきなり連れていかれることがしばしばである。
今回の松永勢と織田勢との交わりは実質初めてであり、本来ならば仰々しく儀式めいたやり取りの後に接見の場がもたれるはずなのだ。
今回のように、本当に行き当たりばったりのような形で接見されるようなものじゃないはず。
でなければ、世の日本史選択の受験生が泣くぞ。
少なくとも、この接見は教科書に載るようなイベントになるはず。
もう、俺が知っている歴史からずれてしまっているので、後の世の教科書の記載内容は分からないが、歴史を変えるターニングポイントになる筈なのだが、なんでこうも無計画なのだ。
無計画は百歩譲ったとしよう。
なぜ、このような場に俺が、子供の俺が立ち会わされるのだ。
高校教科書に俺の事をどのように記載するつもりなのだ。
他人事ながら心配になる。
信長もそうだったが、それ以上にあのくそ親父は俺を公的な場に引きずり出そうとしているのだ。
今回の接見では、何されるか分かったものじゃない。
俺に公的な立場を付けるためなら、何をするかわかったものじゃない。
どうも今回は、先の宴会で本多様が話していたけど、俺に血筋のしっかりとした娘を宛がいそうな気がする。
どうにも、俺の存在が面倒臭いというか、俺の立ち位置が商人なのが気に入らないとかで、何とかして表舞台に上らせたいらしい。
そのためにも血縁関係を作るのだとか。
面倒以外にないが、あのおやじならばやりかねないのが怖い所だ。
そんなことなので、ちょっと危険性を感じたから誰かに付いてきてもらったのだが、あいにく張さんも葵すら忙しくて、唯一空いていた幸を連れてきたのだが、とにかく俺と出かけられるのがうれしいらしく、船に乗ってから本当にニコニコしているのだ。
弾正から、俺の嫁取りの話が出たらどうするつもりか、ちょっと心配にすらなる。
武士の家にでも生まれていれば、結婚そのものが家の戦略道具でしかない。
本人も、結婚は家長の決めた相手との儀式程度しか思っていないことが多く、容姿や性格などは気にしていない。
気に入らなければ、気に入る女性を側室として招けばいいとしか考えていないのが普通の様だ。
農民や町人辺りでは状況が異なるが、それでも恋愛結婚なんてないとは言わないがとても珍しい話だそうだ。
もっとも農民の中には祭りなどの時に野合などでまぐわった相手とのデキ婚なんてのも割と普通にあるとか。
まあこの時代の結婚観なんてどうでもいいのだが、あのおやじがまだ年派のいかない女子を物色?この場合探すといった方がいいのだろうが、本当に物色するように探しているという情報を掴んだのだ。
藤林さんの分析では、弾正が今さら結婚相手を探す理由が見つからないというのだ。
唯一あるとすれば、俺の相手くらいしか思い浮かばないかと。
それが本当ならとんでもない話で、余計なお世話と言うのもだ。
相手くらい自分で探せるよ。
………
………
………
ごめん、見栄を張りました。
でも、そのうちに見つかればいいのかな。
なにせ、うちには葵と幸もいるし、彼女たちは俺との結婚を狙っているというしな。
なぜヘタレの朴念仁である俺に分かったかと言うと、あの二人は事あるたびに俺に言ってくるのだ。
まあ十やそこらの女の子の戯言だろうが、そうあれだよ、「私大きくなったらお父さんのお嫁さんになる」ってやつなんだろう。
でも、今のところ俺にそんなことを言ってくるのはあの二人しかいないので、とりあえずこのまま嫌われなければ候補に入れてもいいかな。
なにせ、俺はまだ子供だし。
令和の世では、多分小学生か中学生辺りなんだよ。
いくらこの時代の平均寿命が短く、結婚適齢期が早いと言っても流石に早いだろう。
それに、俺はあれだよ。
氏素性がはっきりしないんで、良いところのお嬢様なんて見つかる筈はない。
そう藤林さんに言ったんだが、すぐにあっさりと否定された。
俺は大名の血筋になっているそうで、そうなると十分に適齢期に入っているそうだ。
なので氏素性についても、何ら問題はなさそうだというのだ。
なにせ弾正が探しているのが京の公家を中心にあたっており、その公家の暮らしが今はかなり酷いとか。
氏素性なんか、気にしてはいられないと言っていた。
ようは実家を十分に支援できるかどうかの私財があるかということだった。
そうなると、京の下級貴族の娘あたりかと言うと、どうもこれが違うらしい。
今回藤林さんの所の忍びが掴んだところでは、それでもかなり位の上の公家辺りでそれらしい人の目星を付けたと聞いた。
どうも、今回のオヤジとの面会は危ない。
ここまで来ると逃げられないので、腹はくくるが、そうなると幸の存在がありがたい。
いきなり娘とあわされることだけは幸がいる手前、難しくなるはずだ。
まあ、今回は信長と弾正との同盟に向けた会合が主なる目的だ。
丹羽様が居るのに、俺のことを構っている暇も少ない。
少ないはずだよな。
そうであってほしい。
しかし……あのオヤジのやることだしな。
幸の頑張りに期待しよう。
大湊から雑賀崎までは我々の船だと、本当に早く着く。
今回は賢島も寄らずの航海だから、ほとんど半日で付いた。
風も良かったのだろう。
朝も早くから出たので、まだ十分に日も高いうちに雑賀崎に入港できた。
いつもの我々の目印を掲げての入港なので問題無く港に入れた。
尤も我々の船は、このあたりの船からしたら十分に個性的なので目印なくとも雑賀党のみんなには遠くからだって見分けられるのだが、やはり仕来りは重要。
入港の時には雑賀党の人達と取り交わした目印を掲げての入港だ。
我々が港に接岸する頃には雑賀崎の長たちがすぐそばまで出迎えてくれた。
この船の船長が、長たちに今回の訪問の目的を伝えていた。
今から歩いて多聞山城に向かっても日は沈んでいるだろうが、ギリギリ薄明かりのあるうちには着けそうだったのだが、長の勧めもあり、今日はこのままここで宿を借りることにした。
当然、その日は宴会となる。
ここには雑賀党の商い部門の店はないが、それでも倉庫くらいはあるし、何より、ここから堺までは船ではあっという間の距離なのだ。
宴会のための酒などは、夜までに堺の店からしっかり取り寄せてあった。
日頃から、棟梁以下傭兵たちをそのまま武士階級で召抱えたことで、俺に対してかなり感謝しているらしい。
また、商売関係でも紀伊乃屋には非常に大切な取引相手にまでなっている三蔵の衆の頭である俺には、とにかく派手に接待したかったとのことだった。
となるとこれは俺に対する接待のはずなのに、例によって酒と一緒に堺からきちんと綺麗どころまで連れてきている念の入れよう。
絶対に、俺に対する接待が目的じゃない。
俺をだしに使っているだけだ。
俺は、女性たちからかなりの距離をとって酒の肴だけを食べていると、紀伊乃屋の主人が挨拶にやってきた。
紀伊乃屋の主人までもがやって来ているのかよ。
「空様。
お久しぶりです」
「紀伊乃屋さんもお元気そうで何よりです」
「色々とご活躍をお聞きしておりますが、最近はちっとも堺にはいらっしゃりませんでしたね。
賢島の番頭から聞いておりますが、何やらまた新たな儲け話の準備をしているとか。
それにも協力しますから是非ともうちも噛ませてくださいね」
「え、何を聞いたか知りませんが、大したとこはありませんよ。
ただ、うちの主力艦を大きくできないかと研究しているだけです」
「そうですか。
しかし、なにか儲けられそうなら絶対にうちにも声を掛けてくださいね。
博多には負けたくはありません」
流石に賢島に進出してきそうな博多の商人の件は番頭を通して知っていたのか。
堺と目と鼻の先にとは言わないが、すぐそばに進出してくるとなると気が気じゃなさそうだな。
「大丈夫ですよ、今まで同様に、最初に能登屋さんと一緒に声を掛けさせて頂きますから」
「そうですか、それなら今日は精一杯おもてなしをしませんと」 と言って、この場に綺麗どころを呼ぼうとした時に俺の横にいた幸からクレームがついた。
幸も度々張さんたちと一緒に堺に来ているので、紀伊乃屋のご主人とは顔見知りだ。
しかし、見た目小学生の女の子が大店のご主人に気後れせずに文句を言うこの絵面は、なんと表現したら良いのだろう。
二人のやり取りを見ていると、今回がこんなやりとりをするのが初めてじゃ無さそうだ。
張さんたちと一緒に、かなり際どい交渉をしているのだろう。
二人のやり取りを見ていると、確かに幸の言い分はわかる。
結婚もしていない子供に女性でもてなしって、それはないだろうと言うのだ。
俺個人的にはちょっと興味があるが、幸たちにばれると、その後が怖いので絶対にできない。
できないのなら、子供だけ別室での接待にしてくれ。
俺だってあ~~んなことや、こ~~んなことをやってもらいたいよ。
出来そうで出来ないなんて、それこそ拷問のようだ。
幸も、何も今日頑張らなくてもいいのに。
明日以降、弾正の攻撃から守ってほしい。
俺は静かに宴会場の喧騒をよそに、一人で食事をしていた。
何が接待だ~~~~、くそ~~!。
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