名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第五章 群雄

第百四十三話 顔合わせ

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 今、俺は多聞山城の大広間に居る。
 この部屋にいるのは、この城の重臣でもある本多様の他には俺と一緒にここまで来た信長配下の丹羽様だけだ。

 幸は、護衛役でいつも一緒にいる丹波君と一緒に別室で控えて貰っている。
 彼女には、松永弾正と会う必要などこれっぽちもないのだ。
 本来なら俺も別室で控え組のはずなのだが、なぜかしらここまで連れてこられた。

 俺は信長との約束で弾正を紹介することになってはいたが、本多様を紹介した段階でその約束は果たせたと思っている。

 なので、ここで俺が丹羽様を弾正に直接紹介することはない。
 その役割はこの部屋に居る本多様がすることになっているからだ。
 それではなぜ俺がここに居るかだが……わからない。
 くそじじいの嫌がらせか。

 そんなことを考えていると、大広間に太刀持ちが入ってきた。
 そのすぐ後に弾正も入ってくる。

 太刀持ちが部屋に入るや否や丹羽様が頭を下げた。
 今、頭を上げているのは俺だけだ。
 俺は慌てて頭を下げたところを弾正に見つかった。

 くそじじいは(松永久秀)は俺の慌てた様子を見て、何をやっているんだといった目を向けたが、一応非公式とはいえ、有力大名家の名代との初の顔合わせであるので、それらしいしきたりに則り会合を進めた。

 全員が顔を上げると、部屋の中央に座る丹羽様を横から見る格好で座っている本多様が声を上げた。

「織田弾正忠が家臣、丹羽長秀様でございます。
 九鬼家との同盟を結び、九鬼家とも親交の深い三蔵の衆が棟梁である空殿より紹介がありましたのでお連れしました。」

「本多様よりご紹介がありました、尾張守護 織田弾正忠の家老を務めております丹羽長秀であります。
 此度、松永様配下の本多様のご配慮により弾正様との面会がかないありがたく存じます。
 我が殿、弾正忠より、できましたならば御家とのよしみを通じたく、よしなにとの言葉を預かっております。
 お取り計らいをお願い申し上げます。」

 ここまで言って、丹羽様は再度頭を下げた。

「これは、遠いところをわざわざお越しいただきかたじけない。
 今の段階での尾張との同盟は、当家にとって旨味もないが、紹介者である三蔵の衆とは昵懇の間柄。
 そこの紹介とあれば、悪いようには出来ないからご安心を。」

「ありがたく存じます。
 そのお言葉しかと我が殿に伝えます。」

「いくら非公式の場だとは言え、挨拶は重要なので、一応の形式をとったが、ここからはまわりくどいことは省いて本題に入ろうか、米五郎左殿。
 織田家の政務を実質取り仕切っておる五郎左殿がお越しいただいたのだ。
 挨拶ばかりではなかろう。
 美濃を落としたばかりと聞く。
 さしずめ、上洛の相談かな。」

 この言葉には、いささか丹羽様が驚いたようだ。
 いきなり核心を突かれたので、やや慌てた様子で答えた。

「いえ、美濃全土を落とした訳ではございません。
 まだ、稲葉山城を落としたばかりです。」

「稲葉山城を落としたことで、南と西はほとんど落ちたも同然だな。
 しかも北と東は山ばかりで旨味も少ないとあれば、残りの美濃の攻略は急がないということで違わないかな。」

「そこまでのお見通し、恐れ入ります。
我が殿の希望を言わせていただけますなら、先ほど弾正殿がおっしゃったとおり上洛までの道をお借りしたい。
 また、できますなら九鬼家同様強い絆を持ちたいと思っております。
 上洛も、絆も、今出たばかりの話ですので急ぎはしませんが、これからは当家よりの使者の往来をお許しください。」

「相分かった。
 当家からも返礼の使者を出そう。
 しかし、上洛までの道を貸せと言われるが、稲葉山城からだとかなり遠回りになるがそのあたりをいかが考えか。」

「道筋からは考えられないくらいの遠回りになりますが、商人や旅の僧ならいざ知らず、軍勢ともなると途中の勢力が我らを通しません。
 無理やりこじ開けての上洛するまでの力は当家にはございませんし、無駄な戦は当家の思うところではありません。
 たとえ時間が掛かろうが、途中の道筋が同盟などの問題なく通れるのならそちらの方が何倍もいいとのことです。」

「となると、お考えの道筋は伊勢街道か裏街道ですかな。
 陸路となるとそれくらいだが、船を使っては考えないのかな。
 前に越後の長尾が船を使って上洛を果たしたと聞いたことがあったのだが、定かでないがな。
 どちらにせよ、一度軍勢はこちらまでお越しいただいて一緒に北上しての上洛がよろしかろう。
 お一人お二人なら十分におもてなしもできますが、軍勢となると大しておもてなしをできませんがそれでよろしかったらの話ですが。」

「まだ先の話で、同盟者である九鬼家とも何にも話していないことですので、これから調整してまいります。
 しかし、船を使っての上洛と言いますと。」

「一般的には堺辺りに上陸して、そのまま京を目指すのだが、軍勢の上陸となると難しい。
 幸い、そこの空は雑賀党ともかなり親しい間柄なので丹羽殿が今回通った道筋なら使えそうだがな。
 まあ、陸路に問題ないので無理して使う手じゃないが。
 どちらにしても軍勢となると、この辺りでは一旦東大寺付近に入ってもらうことになるが、あそこは最近かなり荒れていての。
 そのあたりはお含みくだされ。」

 荒れている東大寺か。
 この時代どこも戦乱で荒れているが、東大寺となるとやはりあれだよな。
 弾正が焼いたというやつだ。
 もっとも最近?の研究では完全な濡れ衣で、だれが焼いたか不明というのが定説だったような。

「荒れている東大寺って?」

 俺が思わず聞いてしまった。

「前に、息子が三好の馬鹿どもにたぶらかされて起こした騒動の時に、どさくさに紛れて筒井の連中が、ここでも騒動を起こしたのだよ。
 その時に、東大寺に火をかけやがった。
 怪しそうな連中を捕まえたが、そいつら全員が筒井の息のかかっている連中だったよ。
 僧なのに、寺に火をかけるとはどういう連中なのだ。
 尤も、筒井側は認めてはいないがな。
 どうでもよいが復興しようにも、どうにも資材の入手が問題でな。
 寺の復興に使えそうな材木が手に入らんのだよ。
 このあたりの山々には使えそうな木々は見つからないし、たとえ見つかってもその場所が問題でな。
 そこらの神社や仏閣の権利がめんどくさく、何より、式年遷宮号の木材を作るため
入山すらできない場所もある。
 それこそ、筒井の連中は協力すらしようとしない。
 まあ、使えないばかりでなく邪魔ばかりするあ奴らはもうつぶしたがな。」

 弾正は、東大寺の復興も考えていたのか。
 なら、俺が探してきてもいいのだが、金になるのなら考えなくもない。
 俺が声をかけようとしたら弾正が思い出したように続けてきた。

「おお、そうだ。
 五郎左殿。
 美濃をいずれは制するのであろう。
 急がないが木曽まで行かずとも美濃ではかなり良い木材を産するときいた。
 弾正忠殿に伝言願えないか。
 わしが寺を復興するために木材を買いたいとな。
 先ほど同盟に旨味を感じないといったが、申し訳なかった。
 木材一つ取っただけでも十分に旨味のあることだ。
 わしも急がんが十分に協議して絆ができる良いな。」

 その後は本多様を交えての雑談となった。
 当たり障りのない話が続いていく。
 そんな雑談の中で本多様が丹羽様に聞いた。

「丹羽殿。
 この後の予定はどうなっているのですかな。」

「本当はすぐにでも戻らないと仕事がとんでもないことになるのですが、殿から一度京の町の様子を見てまいれと命じられておりますので、京に寄ってから帰ることになります。」

「京に上られるのか。
 ならちょうど良い。
 明日、我らもそこにいる空を連れて京に参るで、ご一緒致さぬか。」

 え?
 聞いてないよ。
 ここまでも無理やり連れてこられたのに、京にまで連れて行こうとするのか。
 なんでなんだ。
 俺京になんて知り合い居ないし、用なんてないよ。
 修学旅行で行ったきりの京都なんて、今のところ行く予定もないかな。
 考えもしなかった。 
 あ、でも生八つ橋は食べてみたいかも。

 ひょっとして……無いの。
 そういえばこのあたりの時代では京はかなり荒れていると聞いたことがあったな。
 まあ一度は行かないといけないとは思っていたし、この時代の京に詳しいくそ爺の案内付きだと考えればいいかな。

 でも、なんか嫌な予感しかないけどもね。 

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