名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第六章 上洛

第百五十三話 商館

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 伯さんと紅梅屋を下がらせると、直ぐに我々は車座に座り直した。
 俺は先ほど貰った博多の年行事からの書面をそっと半兵衛さんの方に押しやると、それを見ていた張さんが微笑みながら、俺の悪あがきを潰してきた。

「それで、空さん。
 この書面にあります博多とのお付き合いは如何しますか」

「え、この件は政の範疇でしょ。
 それなら……」

「いえ、空殿に方針を示していただかないといけませんね」

「え、俺がやり残していた伯さんの義父のお店の件はさっきの話で片付いたよね。
 だったら俺の関わることじゃ」

「いえ、殿の仕事です。
 書面を受け取ったのも殿ですし、そうだ、ちょうど良かった。
 前に相談しておりました領内の商人管理について一緒にまとめましょう」

「え、その話をここで出てくるの」

「商人管理については、とりあえず置いておくとしても、この件は少々厄介かと」

 藤林さんが懸念を示してきた。
 そんな話でも政については俺にとって皆厄介ごとだが、今まで藤林さんから懸念を示されたことが無い。
 俺は不安になって、すかさず聞き返した。

「どういうことなの」

「はい、博多に優遇ともとられかねないことをしますと、堺がどういう反応を示すか。
 今のところは、以前にちょっかいをかけてきた納屋衆の重鎮をうちが潰しましたので、堺からは今のところ直接こちらには接触がありませんが、こちらの商いの規模が大きくなりますとあちらも黙ってはいられないでしょう。
 それでなくても、自分たちの縄張りに近いこの場所で、博多にいいように動き回れては良い気持ちにはならないでしょう。
 多分、そろそろ紀伊之屋さんか能登屋さんを通して何か言ってくるかもしれませんね」

「それはそれで厄介だね。
 でも、それって俺が……」

「とにかく、博多の件だけでも相談しましょうよ」

 俺の未練たらしく責任転嫁を笑うかのように張さんが仕切りなおした。

「空殿。
 とにかく、この件だけでもすぐに結論出さなければいけませんね」

「向こうから船を出してもらうだけでも、厄介な問題が出るのに、こちらからは船を出すことはできないぞ。
 いっそのこと、博多の船は堺で止めて、堺からはうちの定期便て言う訳にはいかないよね。
 それが可能なら、今と全く変わらないのに」

「流石にそうはいきませんよ。
 およそ商人は無駄を嫌うものです。
 堺を経由させずに、直接ここに来た方が儲けは大きくなりますしね」

「紅梅屋さんだけなら、どうにかなりそうだけど、年行事が絡むと、博多を代表して船が来ることになりそうだしね。
 今後の事を考えると、ここらあたりできちんとした方がいいのはわかるけど、どうしよう」

「空さん。
 いつものように何か思い浮かばないのですか」

「殿のお考えを教えてください」

「毎回毎回、そう簡単にアイデアなんか出ないよ」

「なんですか、そのアイ何とかって」

「あ、気にしないで。
 そうだな、無いわけじゃないけど、この時代と言うか今の日本で大丈夫かな。
 そういえば、ヨーロッパでは既にあったはずだよね。
 マカオやマニラあたりには作られているんじゃないかな」

「何やら色々と判りませんが、どういうことなんですか」

「ここに貿易センタービルを作ろうかなと。
 そこで、ここに来る商人や商材を集めて管理しようかなと」

「空さん。
 その貿易何とかって何ですか」

「あ、ごめん。
 商館を作って、博多から来る商人やあちこちから運んでくる商材をその商館に集めてそこで商いをさせる。
 ここで商いをする商人には、そうだな、売り買いの金額に応じて、運上金って言うのかな、税を取ってそれ以外は一切自由に商売させるのはどうかな。
 あ、そうだ、それならいっそのこと、領内の決まりもこれに合わせて商人の管理を一元化したらどうかな。
 これで俺の宿題も終わるしね」

「殿、言っている事が良く判りませんが。
 まずは、なぜうちからは船を出すことができないのですか。
 今、堺まで出している船を博多に向かわせれば、やりくりはできそうですが」

「だめでしょう。
 うちの船では瀬戸内を抜けられないでしょ。
 途中の村上が許してはくれないでしょう。
 これから交渉しても、かなり無理な条件を出されることが予想されますしね。
 少なくとも、うちの船を要求されることくらいは覚悟しないといけないでしょうから。
 しかしそれは、現状では、できない相談です。
 なにせうちの最大の強みの一つなのですから。
 真似されて村上に大挙して攻められればうちに勝ち目はありませんからね」

「そうなのですか、豊田さん」

「はい、空殿の云われる通りです。
 村上とうちとでは人数が違いすぎますから、船の差が無ければ話になりませんよ。
 それに、今の段階で村上を刺激したいと思う連中は一人もいません。
 近づかないのが一番ですね」

「そこで、博多から提案のあった船の相互往来はこちら側からは出さないことで話を進めますが、博多の商人たちの商売については、ある程度こちら側で管理していきたいので、先ほど言いました商館を作って、ここでだけの商売を認める方向で話しましょう」

 この後俺の大体の考えをここにいる全員に説明していった。
 紅梅屋は店を構えることを許したが、彼に博多の大使館のような役割をしてもらい、博多商人からの税の踏み倒しの監視とその責任を負ってもらう。
 要は、最悪紅梅屋に代わりに払ってもらうことにするのだ。

 博多の他の商人は船でここに来たら、博多から持ち込んだ商品はすべて商館にて商いをさせる。
 彼らがここでの買い物に関しては例外的にこの島にある数件の店からも買っても構わないが、基本商館での取引をしてもらう。
 その方が彼らの商いの内容がこちら側でも把握がしやすい。
 今現在、ここに店をかまえている能登屋をはじめいくつかの店については、今まで通りで構わないが商館にも窓口くらいは常設してもらう方向で話そう。

 これから増えそうな海外からの相手についても、全て商館だけとすればいらぬ混乱も避けれる。
 俺が、前に見た堺での南蛮人と堺の人達がもめていたようなことは、ここでは起こさない。
 肝心の税の徴収については、一律に取引額の2割くらいを徴収する方向で話をまとめよう。
 既に店を構えているところは年払いで構わないが、外から来る連中については毎回ここを去るときに徴収する。
 まあ、ここに大挙してくるのは、博多の連中くらいだから、払えないときには紅梅屋に代わりに取り立ててしまえばこちら側には損は出ない。
 同様に堺から何か言ってきたときには、博多と同じ条件で認めれば大丈夫だろう。

 とりあえず、思いついたことを説明したら、納得したのかこの案で行くことがその場で決まった。
 ついでに領内の商人達の管理についても閃いたので説明しておいた。

 古くからある座はそのままにしておくが、座の持つ独占権だけを取り上げ、新たに商売したい連中には、うちで作る組合に参加してもらい、ここと同じように取引額に応じて決められた税率の額だけを店の形態によって徴収する。
 大きな店なら年払いでも構わないが、行商や露店のような連中は町を去るたびに徴収する。
 その代わり、領内の関所はすべて廃止の方向で。
 これでどうだ。

「殿、大筋では殿のご意見に賛成ですが、領内の関所の廃止や今ある座については、今のご意見ではかなりの反対にあうことが予想されますが、強権で臨みますか。
 今なら、少々のことならどうにかなりそうですが、私としてはあまりお勧めはできそうにありません」

「大丈夫でしょ。
 強権で臨まなくとも、関所の廃止を通達して従わない所については、こちら側の恩恵も与えないという方向で進めれば、どんな村だって廃止せざるを得ないでしょ。
 前に貸し出した兵糧などについても、まだどこからも返してもらっていないでしょ。
 こちらの方針に従わないくせに、自分たちの権利だけを主張するなんて、そんな都合がよい事なんぞ許せるはずないでしょ。
 あ、そうだ。
 関所を廃止して、これからも我々に進んで協力してくれるのなら、前の貸し出しを免除したっていいね。
 それに、これからも飢饉などが起これば進んで援助を約束していく。
 当然、逆の立場なら、わかるよね。
 今のような生産性の低い時代なら簡単に飢饉は起こる。
 そういう場所はほっておけば自然と無くなるよ」

「確かにそうですね。
 それなら村が持つ関所などは廃止できますね。
 でも寺社仏閣についてはどうしましょうか。
 関所も、そういった寺社の持つものも多くありますが」

「同じだよ。
 政に布教の許可も含まれるのでしょ。
 関所を廃止しない、我々に協力的でない勢力には対抗して嫌がらせ作戦かな。
 例えば、同じ地区に協力的な宗派の寺社を建立させ、この勢力に地元住民を宗旨替えさせる。
 そうだな、年貢の量などで差を設ければ簡単に宗旨替えなどをするのでは。
 檀家のいなくなった寺など怖くないからね」

「確かに、これなら強権と言えなくもありませんが、心情的に一揆などの爆発は起こしにくいかと」

「とにかく、我々に協力的なところは仲間として遇していき、そうでないところは仮想敵として対応していけば、どうにかならない?」

「では、古くからある座についても同様に」

「そうだね。
 とにかく、座が我々のやり方に協力的なら今後もこちらで生み出す商品などで遇していくけど、そうでないところについては、嫌がらせの方向で」

「例えば如何様に」

「そうですね。
 あ、商いで嫌われている鐚銭についてだけれど、協力してくれるところはうちで良銭に両替していけばいい。
 ある一定の割合で割引をさせてもらうが、これなら商いも盛んになるよね」

「確かにそうですが、肝心の良銭については」

「それなら簡単だよ。
 博多との取引は全て良銭だけに限定して、それでも足りないのは伯さんに持ってきてもらうから。 
 それぐらい頼めるよね。
 なにせ高速船を一番に譲ったのだから。
 あの船なら明まで行っても時間を掛けずに帰ってこれる」

「となると、商館でしたっけ。
 それの開設を急ぎませんといけませんね」

「そうだね。
 これから三蔵村に行って、与作さんに今やっている作業を中断してもらい、最優先でこっちに商館の建設をしてもらうよ。
 問題は細かな運用などを決めていかないといけないよね。
 張さん。
 村での仕事を誰かに引き継いでこっちで協力してもらえませんか」

「学校の方は玄奘様の協力を得られますから大丈夫ですが」

「学校以外に何かあったっけ」

「細かなことですが、拠点が増えました村の管理がちょっと心配です。
 観音寺や熱田の店など」

「藤林さんに協力してもらわなければならないけど、ここで全体の管理もしていけるようにしていこう。
 とにかく情報さえ集まればどうにかなるよね」

「私たちはいつでも協力できますが。
 要は各地との繋ぎを作ればいいだけですよね」

「幸い、我々のほとんどが字を読めますから、手紙だけでもどうにかなるでしょ。
 それに何かあればここなら直ぐにでも船を出せますから、大事に至ることはないでしょ。
 大丈夫だよ。
 とにかくその方針で進めましょう」

 俺らは、今後について方針を固め。半兵衛さんを含め全員がそれぞれ抱えている問題などの対応をしていくことになった。

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